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2/21

伝言。愛の領域。

ああ喉が渇く。デビュー戦、イタリアGPまで、後4日。モンツアのホテル。時計は朝の4時半。ここは、イタリアだ。エレベーターに乗り込み、1階の売店を目指す。目当ては、「マルボロ」。喫煙所にて、セナが乗っていた頃のマクラーレンホンダを思い出す。少し、寝酒を飲むか。ビールを購入。三十歳のF1デビューか。俺は遅く咲いた。携帯電話が鳴る。ジョバンニからだ。

『もしもし、哲夫。今、ドコあるか』

『モンツアのホテルだよ。少し、呑んでる』

『哲夫。二階のレストラン、来れるあるか。お友達の紹介あるよ』

『わかった。今すぐ、行く』

 お友達。ああ、ビールが美味い。マルボロも美味い。さてと、行きますか。再び、エレベーターに乗る。

「ジョバンニ。お疲れ様。友達って誰だ」

「おお哲夫。おはよう。世界一の男ね。後、2,3分でやって来るあるよ」

 も、もしかして。最後の皇帝か。

「おお、ジョバンニ、そのお友達って、赤が似合う人か」

「カンあるね」

 そうこうしているうちにやって来た、ミハエルシューマッハ。本物。

「オオ哲夫さん。僕、ミハエル。ピーコンから、日本語、教えてもらったからある程度は大丈夫。初めまして。ミハエルシューマッハです。よろしく、哲夫さん」

 ガチガチになった。憧れた男の一人だから。

「サ、サイン、もらってもいいですか」

「勿論よ。哲夫さん、フェラーリファン、ピーコンから、聴いた。応援ありがとう。哲夫さんの走りにアドバイスをと。ピーコンから聴いたある」

 ミハエルは、タルキーニのチームシャツにサインをほどこしてくれた。最良の日。俺にアドバイスとはどういうことだ。ジョバンニは笑っている。

「いいか。哲夫さん。あなた、速い。だけど、何か足りない。その理由、わかるあるかい」

「何か足りない。どういうことですか」

「あなた、哲夫さんは独身でしょ。好きな女性もいないだろう」

「ううむ。そうですね。それが、レースと何か、関係あるの。ミハエル」

「アイルトン、フェルナンド、キミ、セバスチャン、琢磨が速いのは愛する人が存在するからだ。愛の力、セックスだけじゃない。愛のある関係。ドライバーには、大事な人、愛する人、必ず必要ね。タイムも弾むよ。哲夫さん、恋、ラブをしなさい。すると、速くなれるあるよ。あなた、哲夫さん、愛する人を見つけなさい。今日は少し、一緒にお酒、呑むあるか。わかりやすく、シャンパン、おごるよ。モンツア、お互い、フェラーリもタルキーニも頑張ろう」

 好きな女性か。この何年かは、レースに夢中で、彼女を作ることも全くなかった。愛のある関係。ミハエルとジョバンニはくつろぐ。俺は考え込む。咄嗟に思った。F1を正々堂々とやりたい。ジョバンニに言う。

「ジョバンニ、今から、リカルドに電話してくれるか。フィオラノにマシンとメカニックを運んでくれと。それから、布袋さんにも連絡を取ってくれ」

「哲夫、相変わらず、セッカチね。今日はのんびりあるよ」

「イヤ、ダメだ。モンツアでポイントを稼ぎたい。そのためなら、なんだってする。今から走る」

 ジョバンニは煙たい顔を一瞬、見せたが、リカルドと布袋さんに電話をかけてくれた。

「哲夫さん、禁煙ね。体力、体力。F1レーサー。フィオラノ。テスト、頑張って」

ミハエルシューマッハは俺に笑顔で握手をしてくれた。そうだ。一度、ミハエルに聞いてみたいことがあった。

「ミハエル。ストラテジーでの勝ちには何が必要なの」

「ジャパニーズ、愛。ラブ、あるよ。哲夫さん。焦らずに」

「ありがとう。ミハエル。ピーコンに今日の話をするよ」

「おお、ピーコン、マイフレンド。哲夫さん。フォルザ」


 フィオラノに揃ったタルキーニの人々。ジョバンニはコーヒーを飲む。そして、俺に言う。

「哲夫。パニスの事故死のこと、知ってるあるよな」

「勿論。俺の相方になる予定だった男だろう」

「そう。哲夫と契約したその日に死んだあるよ。人間、ひとつだいじなものを失うとひとつ、だいじなものを得る。そうだよ。哲夫、事故らずにクルマを仕上げてくれあるよ。その前にメカニック達にアイサツするあるよ」

「サンキュージョバンニ。あっ、布袋さん」

「哲夫君。俺、本当に君と組んでいいか」

「どういう意味だよ」

「俺、F1ゲームを辞めたんだ。人間、食わなきゃ、生きていけないしさ。哲夫君のマネージャーとして、タルキーニで雇ってくれないか」

「俺は助かるけど、リカルドに尋ねてくれよ」

「もう、済ましたよ。俺、哲夫君と同じ、セッカチなんだ。さて、チーフメカのご紹介から始めるか」

「布袋さん、よろしくな。俺も嬉しいよ」

「哲夫。布袋さん。ワタシ。上手く出来る。きっと、勝てる」

 チーフメカのガブリエルが俺達、三人を快く迎えてくれた。23人のメカニック全員に堂々と挨拶出来た。これで、足りないものはない。ただ、ミハエルが言っていた、「愛」が気になる。布袋さんが言う。

「哲夫君。一旦、飯食おうよ。焦らずにな」

俺は笑うことを選んだ。パニスの想いを受け継ぎたい。モンツアでポイントを獲る。その意気込みを布袋さんと語る。

「どう、フォードエンジンは上手く回ってるの」

「ああ、思ったよりスムーズだよ。ステアリングも思ったより軽いしさ、タルキーニのクルマは乗りやすいよ。ギアもスムーズに変わってくれるよ」

「リカルドとは上手くやれそうか」

「そうくると思ったよ。いい親父だ。フランキーとは全く違う。中身も速さもあるチーム」

「そうか。哲夫君。死ぬなよ」

「わかってるよ。そろそろ、着替えるわ」

「グッドラック」

「こちらこそ、グッドラック」

マシンに座る。右手を上げる。エンジン音が俺を前にやる。アクセル。チームラジオのボタンを押す。

『こちら、哲夫。ジョバンニ。聴こえるか。布袋さん。聴こえるか』

『はい。こちら、ジョバンニ。聴こえるあるよ。カーナンバー3号車。フォルザ』

『哲夫君、こちら、布袋。リカルドから伝言だ。ソフトタイヤで20周、本気出せ。以上』

『了解。以上。それじゃあ、走ります』

 ピットアウト。さて、本気出しますか。ホームストレートにペットボトルが落ちてやがる。ゴミはゴミ箱へ。日本人もイタリア人もモラルを守りましょう。行くぜ。1234567。ギアがスムーズに変わる。サスペンションが少し、重い。一周、二周。げっ。ついてない、いきなりの雨かよ。チームラジオ、布袋さんの声。

『哲夫君。レインタイヤに交換せよ』

『OK。ピット入るわ』

 ゆるゆるとピットイン。マシンを降りる。リカルドがほくそ笑む。ジョバンニが屈託もない笑顔で俺に言う。

「哲夫。ワタシ、驚いた。雨のフィオラノ。あなたがイチバン時計。今から、大急ぎでレインセッティング行うあるよ。はい。プレゼント。あなたの好きなマルボロ。イップクして頂戴」

「サンキュージョバンニ」

 俺がフィオラノのイチバン時計か。しかし、安心など出来ない。俺より速い奴はこの世界、ごまんといる。マルボロに火を点けて。炭酸抜きコーラを飲み干す。電話だ。藤本さんからだった。

『もしもし。てっちゃん。今、どこなの』

『おお、藤本さん。フィオラノで雨の中、走ってるよ』

『凄いね。ピーコンもおばちゃんも元気だからね。安心して走ってよ』

『サンキュー。頑張るわ』















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