この時を行くがまま。この道を行くがまま。
さて、最後尾。琢磨さんが勢いよく、隣の俺の20番グリッドへ来てくれた。
「哲夫君。お互い頑張ろう。力みすぎだよ。アンパン、美味しかったかな」
「はい。俺、甘党なんです。良いレースにしましょうね」
「哲夫君のクルマ、いいなぁ。昔さ、レッドブルのデザイン室を覗いたことがあるんだ。ニューウェイさん、考え方が凄すぎて。ずーっと、ミリ単位でクルマ、作ってたよ。しゃがんだり、立ったり、メジャー使って、、、もう凄すぎてさ」
「琢磨さん。興奮気味ですね」
「あ、ばれたか。そう。ここは特にね。鈴鹿。僕等にとってホームだね」
「はい。頑張りましょう。琢磨さん、握手してください」
「あ、うん。ありがとうね。哲夫君」
よっしゃ。行くか。グリッドは右列。布袋さんを通して、メカニックと話す。タイヤエンジニアリングとも使い方について、しつこく聞く。あっ。ピーコンと藤本さんがモーターホームで俺に手を振ってくれた。恥ずかしいけど、手を振る。二人とも笑顔で応えてくれた。
『テツオテツオテツオ』
今度はスタンドだ。俺の名前が刻まれた、日の丸応援団に手を振る。ちょっと照れるな。黒くカラーリングされた、タルキーニのF1マシン。夢だった。夢がいっつも、手招きしてた。F1という最大の夢。ジーンとクルものがある。レースだ。タイヤサイドでは、決勝51周の約半分25周で、BOX。ソフトに履き替えろ。だが、俺自身のオプションでスーパーソフトで行けるのならそれでいい。レース距離を考えて走れ。ということだ。カーズは、ホームストレート以外での使用はやめておけ、マシンが悲鳴をあげる。一コーナー、ヘアピン、130Rがオーバーテークポイントであるから、ある程度の距離をエンジンを壊さずに走れ。
それにしても、それもこれも布袋さんがメカさんやタイヤサイドのエンジニアの英語を全部、日本語に訳してくれた。
『皆さん、ご起立ください。ただいまより国家君が代の吹奏です』
ギターサウンドの君が代が、グリッドに流れる。日本国。美しく高鳴る国歌。今日は少し、難しいけど、勝ちに行く。ここまで来たんだ。
F1は焦るスポーツじゃない。ジョバンニ。どこかで見てるか。おふくろ。親父、真佐子。夢に出てきたサイコロマートの皆。俺はコックピットに潜り込む。ステアリングを装着し、マスクを装着し、藤本さんにプレゼントしてもらったヘルメットをかぶる。そして、黒いグローブ。俺は俺の船に乗る。そして、行く。右手を上げエンジンがかかる。さて、フォーメーションラップだ。
『どうだ、哲夫君。マシンの状態は』
『最後尾ってこと以外すべて、揃ってるよ。あんた、無線ばっかりだね』
『そう言うと思ったよ。カーナンバー3。魅せてくれよ』
『あいよ』
前を走る琢磨さんがタイヤを温める。俺もマシンを左右に振り、タイヤに熱を入れる。よっしゃ、かかってこい。F1ドライバー全員に告ぐ。打てるもんなら堂々と俺を打ってみろ。さて、51周。頑張るか。




