クルマに乗る男達への賛歌。
朝。サイコロマートの池内さんが、レジにてロイヤルスマイルで背の高い、スキンヘッドの男へセブンスターを売っている、夢を見た。何故だろうか。俺は今日、ファイナル。決勝だ。それも鈴鹿。ドライバーズミーティングルームへと、とぼとぼ歩く。見てろよ、アイルトン。見てろよ、ミハエル。必ず、フェラーリを抜いてやる。
「哲夫君。おはよう。ミーティングルーム、僕も行くよ」
「ありがとな」
ミーティングが始まる。ぶつぶつと話し出した、スーツの男。聞き取れるのは、
「テツオサカグチペナルティ」
「なんで、俺がペナルティ、なんだよ。えっ。俺、何も悪いことなんてしていないよ。ふざけるな」
布袋さんが、スーツの男に俺の日本語を訳す。
「ユーペナルティ」
「だから、何が悪いんだよ」
笑い出す、アロンソやライコネン、F1ドライバー全員。布袋さんに訳してもらった。
『哲夫君が昨日の予選で追い越し禁止の白線を、またいだとのことで、予選タイム、全セクション取り消し。今日は悪いが最後尾スタートとする』
「俺が危険な行為をしたのか」
「哲夫君、こらえて。もう、決まったことなんだ」
「俺、ピットに帰るわ。おっさん。俺の決勝、きちんと見とけよ。老眼になるのはお前の勝手だ」
「テツオサカグチペナルティ」
とスーツのおっさんは笑う。クソ。また、最後尾かよ。昨日の予選、かなり、挑めたというのに。
ピットロードを歩き、イライラとする。サインを度々、頼まれるが、今の俺には出来ないこと。タルキーニの親父が、俺の肩を叩く。
「テツオ。オマエなら、決勝。。」
「サンキュー」
とだけ言い残し、モーターホームに閉じこもった。コーラを飲む。そうこうしていると、モーターホームの扉をノックする、音。何だよ。慰めなんていらない。みんな、嘘八百、なれあい、うわべ、。どうせ、俺なんて。
「佐藤です。哲夫君。ちょっとだけいいかな」
冷静冷静。琢磨さんか。扉を開けた。琢磨さんは笑顔であった。苦笑いかな。
「哲夫君。今日はそろって、最後尾スタートだね。この世界、日本人には冷たいから。これ、差し入れ。疲れただろう。アンパンだよ。甘いもの、食べりゃ少しは落ち着くかな」
「あ、ありがとう。琢磨さん。確かにね。F1は政治と金だから。ありがとうございます。いただきます。亜久里さんにくれぐれもよろしく」
「うん。わかった。僕もセッティングがあるから、じゃ、行くね」
「はい。本当にありがとう。琢磨さん」
俺にもセッティングが待っている。アンパン、食うか。やっぱり、こういう時はピーコンだ。噂をすれば。ピーコンのお出まし。藤本さんも来てくれた。
「藤本さん、ピーコン、俺、こんな時に。。」
藤本さんと笑顔で会話。ピーコンが日本茶、を二つ入れてくれた。
「てっちゃん。いいんだよ。てっちゃんなら、ごぼう抜き、とことん出来るよ。俺たちとことん、走ってるんだから。それに、てっちゃん、俺より速いし大丈夫。セッティング、手伝おうか」
「ありがとう。でも、いいよ。俺のクルマだから」
「そう言うと思ったよ」
ピーコン、藤本さん、俺。同志だ。F1に恋した同志。もうすぐ、行かなければ。
「ちょっと、ウィングを寝かせてくれ。フロント、リア、両方。タイヤは、ハード。カーズの最高速、布袋さん、マクラーレン、フェラーリと変わらないのか」
「そうだな。回転数、最速にセッティングするよ。哲夫君、乗ってみて」
「了解」
「イケそうか」
「俺はプロだ。何度も言わせるな。クラッチ、軽すぎるよ。ブレーキも軽い。昨日より乗りやすいね」
「じゃあ、グリッドへ行こうか」
「はいよ」




