快楽。それは走りをデッサンすること。
ああ。夜なんて短いものだ。トイレで小便をすます。鈴鹿。サーキットか。よいしょ、布袋さんに電話。
『ああ、俺だ。今、起きた。バイクで迎え頼むわ』
『了解。哲夫君』
歯磨き。鏡の中の俺。疲れてるなぁ。俺がF1レーサーかよ。ここまで、来た。後は、前に走る奴等をぶち抜くのみ。容赦はしない。おふくろ。真佐子。親父。これが今の俺に出来ることだ。
布袋さんのバイクにまたがり、サーキットへ。パドックパスをゲートに通し、あっ、いきなり。アロンソ。
「テツオサン、ニホンジン。スズカ。ガンバッテェ」
「サイン、プリーズ。ありがとう。フェルナンド」
アロンソは気さくに、俺のチームウェアにサインしてくれた。マッキー、持ってて良かった。
フェルナンドのチャンピオンシップは邪魔にしない。マッキー、持ってて良かった。
タルキーニのピットへとぼとぼ、歩く。モーターホームで、レーシングスーツを身にまとう俺。
ああ、煙草が吸いたくなった。喫煙所で布袋さんと語る。
「ストレートスピード、うちはどうなの。やっぱり、マクラーレンやフェラーリ単位では遅いのかなぁ」
「そうだな。正直に言うと、0,9ほどは遅いかも。でも、フォードエンジンは前回のモンツァよりよく回ってるみたいだ」
「そうか。布袋さん、今まで、色々ごめんな。何か、俺、空気が読めない男だから」
「いや、それは、こっちの台詞だよ」
男二人。喫煙所で、語るはアイルトンセナ。アランプロスト。ミハエルシューマッハ。
「哲夫さーん」
「ピーコン。ありがとう、来てくれたんだ」
「はい。これ、お饅頭です。お母さん、大丈夫ですよ。応援するって伝えて。と言われてました」
「そうか。ありがとな。ピーコン。ピットで饅頭、食おう」
「はい」
ピーコンは笑顔を絶やさない。さすがは救世主だ。タルキーニの親父は嬉しそうに饅頭を食っている。ピーコンと談笑。走る幸せ。走る快楽。時計は11時をさした。
「哲夫君、Q1、よろしく」
布袋さんも笑顔。うなれよ、俺。コックピットに身を納め、出陣。クラッチ。軽いな。ヘルメットをかぶり、グローブを右手左手にはめる。右手を、上げる。エンジンがかかる。よし、鈴鹿に恩返しだ。
アクセルを踏み、ギアを1速に入れて、ピットを出る。無線。
『哲夫君、聴こえるか』
『ああ』
『タイヤ、エンジン、クルマに問題はないか』
『全くない。上手くまとめられそうだ』
『了解』
タイヤをあたためる。左右にマシンをふる。ステアリングのドリンクのボタンを押し、水分をとる。よし、シケイン。加速だ。アクセル、俺を前にやる。1234567。Q1如きで負けてたまるか。俺は俺に言い聞かせ、行く。




