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サア、ヤラマイカ。

朝、十時の名古屋駅。売店で、カロリーメイトを買う。藤本さんは、興奮気味。コーヒーを一口、飲み干す。さあ、鈴鹿だ。携帯がまた、鳴る。やっぱ、布袋さん。

「おはよう。哲夫君。俺、今、鈴鹿。今から、バイク、二台で、哲夫君と藤本君を迎えに行くからね。南口で待ってて。藤本君とお茶でもしておいて」

「了解。それにしても、あんた、マメだな」

「仕事だからさ。俺も人に思いを伝えるのは、ほんと、苦手なんだ」

「リカルドやメカさんたちは」

「クルマを仕上げてるよ。リカルドは、哲夫君と藤本君に、入賞を期待するってさ」

「笑わせるなよ。鈴鹿だぜ。俺が一番走りやすい場所だ。必ず、入賞してやるからな」


俺は、自販機でスポーツドリンクを飲む。スポーツか。F1は、れっきしとしたスポーツだ。夢の塊だ。藤本さんと喫茶店に入る。客はまばら。お冷を持ってきた、太ったおばちゃんに、こう、言われた。

「もしかして、お二人は、F1の坂口哲夫さんと藤本弘人さんですよね」

「はい、まあ」

「今日、サービスにトースト、三枚、焼くんで、サインしてもらっていいですか」

「いいよ、おばちゃん。なっ、藤本さん」

おばちゃんは、続ける。面白い。

「私が若い娘じゃなくて、ごめんね。やっぱり、おばちゃんより若い娘のほうがええんか」

「いや、いや、おばちゃん、充分にかわいいよ。愛くるしいというか」

藤本さんが笑顔でおばちゃんをからかった。そして、俺達はおばちゃんのエプロンにサインした。おばちゃんは続ける。

「この店にな、一回、セナが亡くなる一年前に来たことが、あるんや。あそこに飾ってある、セナのサイン。凄く、哀しい瞳が印象的やったわ」

「セナか。確かに、笑ってる時も目が哀しい男だったね。俺達の永遠の憧れだよ」


トーストをかじる。藤本さんの表情がなんだかこおばってきた。藤本さんは変わった。レースをどう理解し、長いスパンで考えられるようになった。尚更、フォーミュラ1。

「てっちゃん、イベントってサイン会だけだよな」

「うん。布袋さんからはそう聞いてるよ」

「楽に出来そうだね」

「そうだな。作り笑いはしなきゃいけないけどな」

「そ、そうだな。てっちゃん、俺、笑っちゃたよ。は、は、は、作り笑いね。はい、はい。4号車、了解しました」

「3号車も了解しました。俺、布袋さんにこの店に来てくれとメールしておくわ」

「なぁ、てっちゃん。布袋さんって、どんな人」

溜め息、一つが俺の口に現れる。俺は、マルボロに火を点けて。

「とにかく、仕事に対して、暑苦しいほどな男。電話ばかりかけてくるよ。無線でも、うるさいしな」

「へえ。まっ、レースにかける男には暑苦しいのが多いからな」

「全くもって、その通り」


藤本さんとチャンピオンシップに関して話す。オタクの中のオタクレーサー。

「アロンソ、有利だよな。かなり」

「でも、わからん。ライコネンがクルと、俺は思う。マッサが上手くサポートすると思うし。フェラーリは速くなってきたよ」

「まあ、俺達は、チャンピオンシップに関係ないから、前を走る奴をとことん、ぬいてやろうぜ」

「うん」


おふくろ。見ててくれ。必ず、おふくろを元気にしてあげるよ。

店の前にエンジン音。布袋さんと、チームのスタッフがご来店。さあ、走ろうか。

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