第六話「行く末」
「ふん!
私に逆らうからこうなるのよ!」
少女は、ある意味誇らしげに胸を張って宣言した。
目の前に倒れ伏す、薄汚れた少女に。
彼女は、倒れ伏した少女に近付き、何度も、何度も、足蹴にした。
「このっ、このっ、このっ、このっ!」
彼女はやがて満足したのか、その足を退かし、少女を仰向けにして、どうだ思い知ったか、とばかりに馬乗りになり頬を叩く。
そんな状況を、別の視点から観察するものがいる。
クラスメイト、先生、そして、私
幾度となく叩かれたその頬は、赤く腫れ上がり
幾度となく足蹴にされたその体には、青く靴の跡
私は、彼女を、叩かれている彼女を見つめる。
何処か懐かしさのある様相がある。
それは顔面の腫れを取り除いて見た場合のみには当てはまらず、総合して、何処か懐かしさを感じた。
その時、周りから私に向かって呼びかけられた。
か細い声で、震える声で、ひっそり、気付かれないような声で。
「やめなよ」って。
彼女は、その声に反応して辺りを見回し、声の方向へと目を向ける。
それは幼い声で、そして彼女に取り巻きともいえる少女の一人から発せられたものだった。
「何を言ってるの?
何で止めなきゃいけないの?私は何もしてないじゃない!ふざけた事を言わないでくれるかな!」
彼女は、その少女へと怒鳴る。
少女は怯えて、縮こまる。
辺りは、やがてそんな騒ぎを聞きつけたのだろうか。多くの人たちが集まり始めていた。
多くは、その光景を傍観していた。
彼女は、集まった野次を睨みつけ、気に入らないかの如く叫ぶ。
「何見てるのよ!」
彼女の叫びに呼応するかの如く、人々の中から声があがる。
「犯罪者が出たって聞いたんで見に来ました~」
茶化すような声が、様々なところから、しかし鮮明な声で彼女の耳を突き破る。
「犯罪者ってなによ!悪いのはこいつよ!反抗的な目を私に向けてきたのよ!?
こうなって然るべき、当然の結果よ!」
彼女は、既に反射運動すらも起こしえない少女を指差し、非を擦り付ける。
こいつが、こいつが、とヒステリックに騒ぎ立てながら、襟首を掴み、身体を激しく揺さぶる。
それを見て、再び人々から声が上がる。
「あいつ、もう死んでるんじゃね?」
「あー、動いてないし、あんな風にされたらねぇ」
「もしかしてこれって事件ってやつ?」
「殺人事件?」
「じゃあ、あいつが人殺しの犯人だ!!」
彼女は、騒ぎ立てる声に負けないくらいに叫んだ。
なにようるさいわね、だまりなさいよ、と。
けれどもその声はかき消され、彼女は、飲み込まれてしまった。
『ひーとごーろし!ひーとごーろし!』
『人殺しだー!事件だー!』
『え、あれ本当に死んでない?』
私は、動かなくなった少女の目を見て、次に彼女の目を見た。
どこか、私が懐かしさを覚えた理由がわかった気がする。
「次の、次の場所を探さないと...」