第三話「脱力」
何を見ていたんだろう。
何を感じていたのだろう。
身体中から抜け落ちたものは、どうやらそうそう簡単に説明できるようなものではないみたいで。
不安に感じることもあれば、逆に心地よくも感じてしまって。
それが、一種の快感のようにも思えてしまって。
春の日差しに曝されているような
ぬるま湯に浸かっているような
そんな心地よさも感じてしまっていて。
そんな事を思っていても、僕は何を見ていたんだろう。何を感じていたんだろう。
親は、いつか仕事に行くよと言って家を出て、そして僕はこのまま。
部屋のカーテンも開けてない。
今が何時かもわからない。
朝か、昼か、夜か、わからない。
このまま時が過ぎ去ってしまうのか、永遠にこのときは変わらないのか。
わからない。
ただ、一つ言えることは、変わらないことは良いことだと思うんだ。
全て変わらない。
全て同じ。
渇きも、飢えも、何もない。
どんなに楽しい事だろうか。その世界は。
どんなに待ちわびた事だろうか。その世界は。
今が、ずっと続けばいいのに...
願っても、叶うことはない。
でも、人っていつもそういうものだと思う。
叶わない願いを願って。
届かない祈りに縋って。
そうしていつも、絶望していく。そういう生き物。
だからきっと明日も、その明日も、その明日だって、たとえ僕がいなくても日は昇るのだろう。
疑問を感じる余地さえない、そんな合理的に設計されているこの世界は、人の願いを悉く破り去っていく。
今日はすぐにでも過ぎ去って、明日がやってきて、そして明日が去って。
昨日に取り残されることだって出来ない。
永久に変わらなければ、永久に進まなければ、あるいは。
でも、現実は惨たらしく僕を引きずって進んでいく。
脚が千切れても、自分の脚で歩けと強要し、喉が潰れても、自分の声で伝えろと無理強いをする。
僕が、千切れた脚で歩いた距離はどうやらまったく進んでないようで。
僕が、潰れた喉で紡いだ言葉はどうやらまったく聞こえなかったようで。
涙を流せば、救われるのか。
文字を綴れば、伝わるのか。
いつだって思ってた。
僕の存在意義はあるのかって。
だって僕がいなくったって世界は廻る。
僕程度がいなくなったところで、悲しむ人はいない。
だから、僕なんて必要とされないんだ。
僕の存在は今一度なかったことになって、生まれ変わることも出来ない。
不完全で、不格好で、醜くて。
きっと、僕だけしかいない街で、僕は果てることも、生きることも出来ずに消えていくんだろう。
多分、僕さえもわからないうちに、そっと、風に浚われて消えていくんだろう。
残された、いや、選ばれたみんなはきっと、僕だけがいない街で幸せに暮らすんだろう。
僕なんかのことを忘れて、みんな、みんな幸せに。
あぁ、なんか考えることも疲れてきちゃったな。
こんな僕にも、もううんざり、かな。
また眠ろうか。いや、眠れるのかな。眠りたいけど。
眠ったら、明日は来てしまうのかな。
眠ったら、また今日が来るのかな。
もう、いいや。おやすみ。
なんでだろ...長く書けなくなってる...
なんでか知らないけど1000字位で完結しちゃう...