第二話「兆し」
普段と比べてかなり短めでございまする。
ご了承ください。
『あぁ、よかった。そこの君、これを一年四組の竹内君まで届けてくれないか?』
僕は、休み時間中廊下を歩いていると、今まで会ったことのない教師に話しかけられた。そして渡されたのは、一枚のプリント。
内容は、ざっと要約すると成績と素行が悪いから気を付けろ、といったものだろうか。
なんにせよ、重要なプリントには代わりない。
教師が生徒に直々に渡すべきであろう、とも思ったが、その教師は既にいなかった。
仕方ない、何時もの事だ。
僕は自分の教室、一年四組へと向かい、そのプリントを渡そうとする。
教室のドアから見回し、目的の彼を探す。
彼はプリントに書いてある通り、少し素行が悪く、日常から似たような人たちとも絡んでいた。
だが、それでも彼は幼いときからこの瞬間までの唯一の知り合いとも言えて、彼はどうか知らないが僕は比較的楽に話しかけられるのでは、と思っていた。
彼は、僕が思っていた通り、普段から評判の悪い人達と教室の隅に陣取って雑談していた。
そこに、僕は近付く。
「あの、竹内君。」
何時ものように話しかける。
みんなは彼のことを悪く思っていても、ほんとは根はいい人なんだ、と確信を持って、僕は話す。
「これ、このプリント。
先生から竹内君に渡してって。受け取ってくれる?
あぁあの、僕だよ...その、えっと...」
僕は努めて普通に話そうとするが、どうも慣れてないせいか詰まってしまう。
すると、彼は僕の存在に気付いたのか、こちらを振り向き僕の手からプリントを雑に引ったくる。
彼は、僕を一瞥し、こう言った。
「は?お前なんて知らないから。話しかけないでくれる?」
彼は元に戻り、そして雑談を始める。
僕は、何を言われたのか理解出来なかった。
時折、周囲の取り巻き達が「誰だよあいつ。可哀想じゃねーかよ!」「呆然としてるぜあいつ」等と茶化す声が聞こえる。
可哀想。
誰だよ。
消えろ。
話しかけんな。
次第に頭の中で言葉が反響し、世界がそれ一色で染まる。
言葉は混ざって、曇って、刺さって、僕の体をぐちゃぐちゃに磨り潰していく。
やめて。やめて。やめて。
僕が、消える。消さないで。消えたくない。
死にたくない───
目覚ましの音。
朝一番のアラームは、悲しくも、熱くも、僕の頭に突き刺さり、そして目から流れていった。
何もする気が起きない。
何も力が入らない。
何も、動かない。
親の呼ぶ声。聞こえない。
扉を叩く音。届かない。
天井の色。見えもしない。
起きられない。動けない。何も出来ない。
拭うことも、閉じることも出来ない。
アラームと共に、止めどなく溢れてくる。
そのアラームさえも、止められない。
その日、僕は学校を休んだ。