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第一話「とある高校生の日常」

 朝、けたたましい目覚ましの音と、母親の声で目が覚める。

 凍りついたかの様な手足を霧がかった脳で動かし、なんとか、学校へ行くための準備を始める。


 今日も、変わらない一日が始まるのかと思うと、自分の存在が不意にわからなくなる。


 そして、親に急かされ、まだ大して遅刻するような時間でもないのに家を出る。

 僕は通学のため自転車に乗って学校へと出発した。




 時季は春。

 新学期から少し経ち、桜の花びらが散る頃。

 僕は地元の中学から家に比較的近い高校へと進学した。


 高校に入れば、今までのうざったらしいガキ共と別れられると思っていた。


 比較的近い、その高校は確かに地元ではあるが、進学校を謳っており、狙い通りに中学までの地域の知り合いからは離れられた。

 だが、それと同時に僕に話しかける人間は居なくなり、僕は一人クラス内で孤立するようになった。


 ───時折感じる()()()()は、きっと間違いではないはずだ。


 僕は川沿いの道を走りながら、そんなことを考えていた。




 学校に着く。

 時刻は八時をまだ過ぎていない頃。始業時間が八時半からなので、まだ時間的には余裕がある。

 教室にはまばらに僕と同じ、家を早めに出た、若しくは追い出された人がいた。

 それぞれ、授業に向けての予習や、課題。図書室から借りた本だろうか、読書をしていた。

 僕もそれらに倣い、時間が来るまで教室後方の己の机へと向かい、読書をすることにした。




 ───始業十分前の鐘が鳴る。

 気づけば教室は人で溢れていて、俄に騒がしくなっていた。

 僕は読書をやめ、一限の用意を始める。

 その時、僕の座る机に衝撃が起こった。

 机に広げた学習道具は殆ど床に落ち、未だ新品同様の教科書には折り目がつく。


 驚いて目を机から上げると、そこにはクラスでの騒がしい人たちがいた。

 その人たちは、まるで机にぶつかったことも気づいていないかのように騒ぎ続ける。


 ───あ、あの...


 僕の声は、声によって掻き消され、その人たちには届かない。

 次第に、その人たちは落ちた教科書類の方へと移動していき、無惨にも、いや気づいていないからか、無慈悲にそれらを踏みつけた。

 するとそこでようやく足元の存在に気づいたのか、こちらを一瞥し、


「うわ、なんか冷めたわ」


 そして興味無さげに去っていく。


 僕は学習道具を拾い、付いた汚れを払い落とし、また机に広げる。



 そして、今日も一日が始まる。



 騒がしい、というものは、いい意味と悪い意味があるのだと思う。

 いい意味とは、どんなに辛いことがあっても、その「存在」とその「騒がしさ」で掻き消すこと。

 悪い意味とは、人の訴えを無関係の「騒がしさ」で掻き消し、届くはずの声を届かなくさせること。

 でも、こんなものはただの一般論にしか過ぎない。


 結局は、良い悪い等、ものの善し悪し等と言うものは人の都合で全てが決まるもの。

 その「騒がしさ」に欠片も触れない、触れられないものとしては、眺める事しか出来ない。

 良い悪いも、二つの分別も、ない。


 僕はいつも一人。独り。ひとり。

 友達なんてものは、そもそも接する事が出来ないんだから出来るわけがない。


「で、この式が判別式により───」


 横目で見る彼らは、授業中にも関わらず騒いでいて、あからさまな幼稚な雰囲気を漂わせている。

 時折受ける先生からの注意を軽く受け流し、何かの番組のコントだろうか、返して他の生徒を笑わせている。

 だけれども、まるで、それは太陽を思わせるようで、若干汗が滲み出る。


 でも、焦ったところで、何も変わらない。

 焦ったところで、ただの無駄。

 太陽には陰は見えるはずが無いんだから。見えない存在が焦ったところで何も影響なんて無いんだから。


 ───あぁ、ほら。今みたいに。


 時は一限が終わり、二限の体育の為に外へと出ていた。

 春といえど、終わりの太陽はもう夏のそれとさほど変わりは無く、じりじりと季節に慣れていない僕を焼く。

 彼らはそんな僕を傍目にも止めず、仲良くボールを蹴り地を駆けている。

 時たま跳ね上がるボールが太陽と重なる。

 そして、物理法則に従った動きをしつつ、向かってくる方向は


「え...?」


 その瞬間、視界がブラックアウトした。




 気がついたら、僕は見知らぬ天井を見ていた。

 身体は僅かに沈み、恐らくベッドの上である事がわかる。

 ベッドなんて高尚な物が置かれている所なんてものは限られていて、上半身を起こして辺りを見回し見ると、保健の養護教諭が机に向かっている姿が見えた。


「あの」


 声を出すと、養護教諭はこちらを向き、いかにも面倒そうな、うざったらしいものを見るかのような目で


「目が覚めたんならとっとと戻りな。私の仕事を増やさないでくれよ」


 そう言って再び机へと向いた。

 僕はベッドから静かに出て、


「ありがとう、ございました」


 自分の教室へと戻った。




 二限の体育からかなり倒れていたのか、もう四限が終了しかけていた。

 僕は授業中の教室の後ろのドアから自分の机を目指し、着替えを取り更衣室へと向かった。

 教室へ入ってから出る、その短い間、僕へ視線を向ける人は一人もいなかった。


 着替えが済んだときにはもう四限は終了していて、各々仲の良い友達だろうか、机を移動させ向かい合うなり、一つの机に椅子を並べるなりして楽しげに昼食を取っていた。

 そんな様子を眺めつつ、僕は教室へと入る。


 その時だった。全員が一斉に僕のほうを向いたのは。


 教室は静まり返り、まるで僕自身が異物であるかのような錯覚に襲われる。

 それ自体は一瞬で、既に皆は昼食に戻っていたが、僕のどうしようもない寒気は収まることはなかった。




 僕の昼食は、おおよそ十分ほどで終了する。

 周りの皆がまだ騒がしく弁当や、購買のものを仲良くつつきあっている間には既に胃袋の中に納まり、読書を始めている。

 なぜか、なぜそんなに早いのか、と問われれば「一緒に食べるような、喋るような仲の人はいないから」としか答えられないだろう。


 そして、何時の間にか昼休みは終了し、気付けば午後の授業へと移っていた。


 午後は、特に何も起こらないまま、触れられる事も無く、喋りかけられる事も無く過ぎていって、気付けば帰りのショートホームルームが終わっていた。

 そこからは掃除をして、家へと帰る用意をして、帰路につく。

 そして家に着いては、夕食を食べ、次の日の用意をして、就寝する。


 何一つ、変わらない。


 そして僕は泥に嵌まっていくかのように、眠りについた。


 今日という名の一日は、こうしていともあっさりと過ぎ去ったのであった。

以前軽く鬱だったときに戯れに書いていたものです。

完成度は低めなのでどうかご容赦を。

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