真夜中のサーカスパニック
図書館でレベッカと別行動をするハルは、大きな色あざやかなテントの前へとやって来た。人々が皆、テントへと入りきると、ピエロが鐘を鳴らした。
「ここで締め切らせてもらいまーす。」
そうピエロが言うと、ハルはピエロへと駆け寄った。
「俺もサーカスを見たいんだけど。入ってもいい?」
ピエロは考え込みながら応えた。
「席は満席だから、立って見てもらう事になるけど、それでもいいかい?」
嬉しそうにハルは頷いた。ハルはテントの中へと入って行くと、周りは薄暗く、観客は今か今かと始まるのを待ちわびていた。
すると、ライトが会場の中心を照らし出す。そこへと現れたのは、サーカス団を率いる団長だった。
「お待ちのお客様、来ていただき、誠にありがとうございます。大変長らくお待たせいたしました。これからお見せしますは、魔法の様な素晴らしいエンターテイメントです!どうぞ、楽しんで見て頂きます!」
そう言うと、ライトが消え、またライトが照らすと、ピエロが現れた。ピエロはトランポリンも無いのに、高く飛び上がり、観客へと手を振る。ピエロが話し出す。
「これからお見せする少女は、水を操り、皆さんを魅了させる世界を作り出す。その少女の名は、セリーヌ・ウインディーネ!」
そうピエロが紹介すると、中央へと青い衣装を着た、女の子、セリーヌが現れた。ピエロは深々と頭を下げながら、うしろへと下がって行った。
そこへ、おっとりとした音楽が流れ始める。すると、少女は両手から水を出し出すと、優雅にその場で回転した。水が彼女をおおっている様に見えた。観客は拍手を鳴り響かせると、彼女はそれに応えるかのように、口から大きな泡を一つ出すと、その泡が天高く上がって行き、弾け割れると、小さな泡が観客達へと舞い降りた。
観客達もハルも魅了された。音楽は止まり、彼女は頭を下げた。そして、またライトが消える。
そこへ、またライトがつくと、三つの頭の象ぐらいの大きな犬が現れた。観客は驚きの声を上げた。
その後、楽しい時間はあっと言うまに過ぎ、サーカスは終わった。夕日が辺りを照らす中、ハルは急いで図書館へと戻った。
戻ってみると、図書館の外でレベッカと、あの男が一緒にハルの事を待っていた。ハルは慌ててレベッカの元へと駆け寄る。レベッカは腕を組みながら、ハルへと言う。
「外で暇つぶしててとは言ったけど、何時間もふらふらしてて、どこ行ってたのよ!」
ハルは慌てながら訳を説明した。すると、男が割って入って来た。
「あのサーカス団か!確かに人々にピエロが宣伝してたな。」
ハルは男の事を睨みつける。男はハルへと言う。
「まあ、お前にどう思われようが、どうでもいいけど、レベッカちゃんを困らせるのは、俺は許さないからな!」
ハルと男は睨み合うと、レベッカはハルへと言う。
「落ち着いてよハル…。この人は、エルフ族のアナベルだよ。一緒に精霊について、調べてくれたの。それに、宿代も出してくれるみたいだよ。」
アナベルはイラだちながらも、二人を宿へと案内をする。
小さな宿へと着くと、アナベルは宿代をレベッカへと渡した。
「じゃあ、また明日、来るからね。レベッカちゃん。」
そうアナベルは言って去って行った。とりあえず、二人は宿へと入り、宿主に金を支払い、部屋へと入って行った。
入るなり、レベッカはベッドの上へと座る。ハルは声を荒あげて言った。
「なんで、あんな奴を信用するんだよ!ただのナンパ野郎じゃないか‼︎」
レベッカはため息を吐くと、図書館で調べた事をハルへと話しだす。
「アナベルは直ぐに、精霊に関しての本を持って来てくれたの。その本には、精霊は数多く存在していると、書いてあって…。精霊は人と契約をし、契約者の力になるんだって。まとめると、精霊はハルだけじゃない。それに、ハルも人と契約が出来るって事。」
ハルは首を傾げた。
「よくは分からないけど…。いろんな精霊がいるんだな。でも…契約ってなんだ?どうやってするんだ?」
そうハルが聞くと、レベッカは首を振って言う。
「私も、どう契約をするのかは、分からないの…。」
そう話しをしている中、ハルの腹が鳴った。そこで、二人は夕飯を食べ、その後、部屋で眠りにつこうとしていた。
ベッドで横になるレベッカに、ハルはずっと言えずにいた事を話す。
「レベッカ…あのさ、俺…親を亡くしているんだ…。突然、こんな事を言い出すのはおかしいと思うんだけど……。辛いのなら、一緒に乗り越えたいなぁ〜、なんて……。」
レベッカはハルの顔を見ずに、ただ横になっていた。
ハルはレベッカが眠りについていると考え、ハルもベッドで横になった。
それから二時間後、突如と外から大きな音が鳴り響く。レベッカとハルは、その音で飛び起きた。
急いで宿から外へと飛び出ると、人々の悲鳴が聞こえてきた。大きな音のした方へと、二人は向かった。
そこには、崩れた民家と、暴れている大きな犬。ハルは慌てた。
「なんで…サーカスにいた犬が、暴れているんだ……。」
そう驚くハル。すると、レベッカはある事に気づき、突然と走り出した。ハルはレベッカを追う。
「そこに居ると、危ない‼︎」
そう大きな声で、誰かに叫ぶレベッカ。ハルはレベッカの向く方へと向いてみた。そして、ハルは目を疑う。血だらけになっている、セリーヌが居た。レベッカがセリーヌの元へと行こうとした時、セリーヌが話しかけて来た。
「あなた達こそ、危ないわよ…。ここに居たら、殺されるから…。それとも、殺されたい⁉︎」
何を言っているのか意味がよく分からない、レベッカとハル。そこへ、もう一人、女がやって来た。
「なに?どうしたの?セリーヌ。ここら辺の住人は、死んだ⁉︎」
その女が、二人へと気づく。女はニヤけながら、セリーヌへと二人を殺すように命令をした。レベッカは状況が分かったのか、身構えていた。セリーヌは水を操り、レベッカを水の勢いで、跳ね飛ばした。レベッカは直ぐにセリーヌの正体を見破る。
「…あんた…精霊ね…。なんで、こんな事…。」
そう言ったレベッカは、苦しそうに立ち上がった。セリーヌの隣に居た女が言う。
「なぜって、ただエルフとか必要ないから、この街ものとも、壊しちゃおうってなったのよ。それよりも、精霊を知っているあなた…なんか面倒くさそうね。」
レベッカは剣を宿へと置いて来ている事を、知っているハルはレベッカの前へと立つ。
「精霊なら、精霊同士が戦った方がいいだろ。」
ハルは自信はなかったが、レベッカを心配させない為に、そう言った。ハルは勇気を振りしぼり、暗い夜の中、右手に炎を灯し出した。