第7話:修行
「は~~~っち! きゅ~~~~ぅうっ! ごじゅうっ!!」
「はい終了。二人ともお疲れさん」
「はあっ、はあっ……やっと終わったー!」
「はあ……ふう……あ~疲れた!」
「休むなら、汗を拭いて体を冷やさんようにの。しばらく休んだら、中で食事にしよう」
午前の修業の締めに行っていた腕立て伏せが終わり、俺達はその場にへたり込む。
鬼教官のオークス先生は家の中へと入っていった。
きっと昼食の準備をしてくれているのだろう。
ところで俺達は何をしてるかって?
筋トレだよ……。
あれから5年の月日が流れた。
俺とカーリナは10歳になり、アルフレッドは5歳だ。
この5年間で覚えた魔術もだいぶ増えた。
属性魔術、治療魔術、無属性魔術はそれぞれ上級まで。
強化魔術はもう少し体が大きくなってからじゃないと、成長の妨げになるらしいので未だに教わっていなかった。
召喚魔術については、「あれは、中途半端に教えたくない……」 と言われたのでこれもまだ教わっていない。
遠い目をしていたので、何か嫌な思い出でもあるのだろう。
また、8歳を過ぎた頃から短詠唱での魔術の取り扱い方を習ったりもした。
短詠唱で魔術を使うと、全詠唱よりも魔力を消費するらしい。
らしいと言ったが、俺は相当総魔力量が多いようで、下級魔術を短詠唱で何回か使っていていたが疲れすら感じなかった。
ちなみに、今まで魔力切れを起こしたことはない。
先生も、俺のような奴は魔神以外で初めて見た。と言っていたな。
カーリナは短詠唱で魔術を使うと、いつもより早く魔力切れを起こす。
同年代でもカーリナはかなり総魔力量が多いらしいが、俺のそれは規格外だそうだ。
良いのやら悪いのやら。
一度、風属性の中級魔術、”ウィンドカノン”を短詠唱で使ったところ、オークス先生宅の林に20メートル程の大きなクレーターを作ってしまった。
威力だけは上級魔術以上、下級魔法に届くくらいはあるらしい。
風属性魔術なのに爆撃を受けたみたいな惨状を見て、「裏庭が散らかったのう」なんて冷ややかな目で見てくるもので、かなり心苦しかった。
俺だってびっくりしているってのに……。
ただ、そんな短詠唱の扱い方もこれまで習ってきた訓練のお陰で、今では自分で威力を調節できるようになった。
これは今まで全詠唱でやっていた魔術が、魔力の伝達効率を上げ、魔術を使っていたことによるイメージを想像しやすくなり、短詠唱でも十分にコントロールで出来るようになったかららしい。
初めてビアンカから魔術を教わった時に、その時の体調や環境で威力が変わると言っていたが、どうやらイメージがしっかり出来るか出来ないかに依るところが大きいみたいだ。
多分、体調や環境云々はそういうところに関係あるのだろう。
他にも全詠唱との違いを挙げるといくつか出てくる。
短詠唱で大まかなコントロールが出来ると言っても、その威力を一点に集中させたり、逆に拡散させることが出来ない。
やはりそういう細かな制御をしようとすると、全詠唱でないと無理だそうだ。
ただまあ、俺は無詠唱で魔術が使えるのでイメージだけで細かい制御も出来るかもしれない。
かもしれないというのは、魔神エルメスがそうしていたから、もしかしたら俺にも出来るのでは? と先生から言われたからだ。
しかし普段から無詠唱を練習する時間が少ないので、余り上達しているとは思えない。
でも無詠唱で練習するときは、いつも土属性魔術で椅子やコップなんかを作ったりしてちょっと楽しかった。
そんな感じで修行をしていたら、10歳の誕生日を迎えた頃にオークス先生に言われたのだ。
『お前さん達も10歳か……。ならば、体を鍛えて格闘や剣術なんかも教えようかの』
なんておっしゃいやがりました。
爺さん大丈夫かよ、格闘とか剣術なんて教えられるのかよ?
なんて思ったりもしたのだが……。
『っはあ……はあ……はあ……つよい……』
『こ、攻撃が、当たらねぇ……」
『ほっほっほ。まだお前さん達のような子供には負けんわい』
このジジイ、10歳とはいえ育ち盛りの子供二人を相手にして、キレっキレの動きで俺達の攻撃を捌き切った。
伝説の蛇みたいにだ。
前世から格闘技なんてしたことのなかった俺だが、数打てば当たるだろうなんて思って本気で殴り掛かるも、全然当たらない。
今思えば直線的なパンチやキックばかりだったのだろう。
素人の殴り方で掛かっていっても全て避けられる。
カーリナも一緒だ。
途中で「待った!」 をかけてカーリナと作戦会議をして、前後から挟み撃ちを仕掛けたり、砂かけや金的を狙ってみてもあっさり見破られた。
『優れた魔法師や魔導師などは、魔法や魔導だけでなく、剣術や格闘術なんかも使えるのじゃ』
とはオークス先生の談で、いざ魔術が使えない状態になった時に格闘や剣術を使えたほうが生き残れる可能性が上がる。らしい。
どこでそんな格闘術を覚えたのかを聞くと、ここでもやはり魔神エルメスが出てくる。
魔神流格闘術だ。
いつぞやの、魔神について書かれた本でも見た気がするが、どうやら魔神は格闘も剣術も使えるようで、その昔、先生も魔神から修行を受けていてある程度は使えるそうな。
で、今では午前中にオークス先生から筋トレと魔神流格闘術の訓練を受け、午後には魔術の修行を受けている。
剣術に関しては、実はビクトルから習っている。
ビクトルも小隊長としてある程度の剣術が使えるそうで、夜、風呂に入る前に一・二時間ほど剣術の手ほどきを受けていた。
ヤコブ先生から格闘と剣術を習う、と言ったらビクトルが、「なら剣術はお父さんが教える!」 と言い出したからだ。
もしかしたら父親か兵士としてのプライドもあったのかもしれない。
なんにしても有難いことだ。
剣術や格闘にしても、いざという時の自衛手段として有効かもしれないので、しっかりと身に付けておこうと思う。
ただ、ほぼ毎日自衛隊並みのトレーニングをするのはどうかと思う。
それこそ成長の妨げになるだろ。ってツッコミたい。
「お兄ちゃん、ちょっと組み手やってみない?」
と、ここでカーリナから組み手に誘われる。
午前の部のおさらいと言うわけか、よかろう、組み伏せてその可愛いお知りをお尻を揉みしだいてやる!
「いいよ、やろうか!」
俺の返事と共に二人で立ち上がり、2メーター程距離を取り構える。
左拳を顎の前に、右拳を相手に向けて軽く突き出し、少し半身に。
教わった構えだ。
教わった、といってもまだ二ヶ月だが、それでも基本的な戦い方は大体分かってきた。
ジッとカーリナを見据え、少し体を落とす。
「ハッ!!」
先手はカーリナだ。
右手から鋭い突きが飛んでくる。
「フッ!!」
それを左によけて左手で牽制打を放つ。
それを見て避けようとするカーリナの顎に目掛けて右からアッパーを出す。
勿論本気ではやらない。
ある程度の速さで振り抜く。
「っ!?」
カーリナは面食らいながらそれを両手で防ごうとするも失敗し、彼女は後ろに倒れる。
だがその際、倒れ際にカーリナの左足から蹴りが飛んできた。
俺は右拳を振り抜いた後なので対処が遅れ、体重の乗っていない蹴りをモロに受けてしまった。
どうやら両者痛み分けのようだ。
まあ初めて2ヶ月じゃあ、こんなもんだろ。
「いったたたた……まさかフェイントを掛けてくるなんて……」
「いやでも、あんな体勢で蹴りを入れるほうが凄いと思うぞ」
「えへへ! ただでは負けないもん!」
それにしても、カーリナは運動神経抜群のようだ。
俺だったら倒れ際に蹴りを入れるなんて出来ないかもしれない。
流石は俺の妹だな!
「お兄ちゃん、休も」
その場に上半身を起こしたカーリナが地面を叩く。
どうやら隣に座れということか。
遠慮する必要も無いので、隣に座り込む。
するとカーリナが体を寄せてくる。
ちらりと見ると、目が合った彼女がニコっと笑った。
……ああ可愛い!
仄かに香る、汗の香りがまた香ばしく……。
って変態か俺はっ!
だが実際、綺麗な金髪をポニーテールにして、そこから覗く汗でしっとりとしたうなじを見ると、ちょっとイケナイ気分になりそうだ。
イカンイカン! カーリナは妹なんだ、心を無に帰さねば!
「お兄ちゃんは将来、何になりたいの? やっぱり魔導師?」
「何って……そうだね、魔導師にはなりたいけれど……」
「じゃあ魔導師になったら何をしたいの?」
「……何って……なんだろう?」
なんだろう?
魔導師になっても、仕事をしなければ食っていけない。
このハルメニア王国では、農民とかでも試験をパスすれば兵士になれると聞いた。
実際、ビクトルも兵士になる前に冒険者として活動していた時期があったらしい。
もっとも、向いていなかったからすぐに辞めた、と言っていたが。
俺は別に兵士になりたいとは思わない、そもそも今こうやって色んな修行を受けているのは、カーリナ達や自分の身を守れるだけの力が欲しいからだ。
その上で魔神が復活して会わされた時に少しでも対等になれるように、或いは逃げ帰れるように強くなりたい。
だから今頑張っている。
じゃあ他に何をすればいいのだろうか?
分からん……。
「王都にある、学院に通ってはどうかの?」
「学院って何? ヤコブ先生」
一人で頭を捻っていると、オークス先生が会話に入ってきた。
「学院とはのう、この国が運営する魔術の学校じゃよカーリナ。王立魔術学院。魔術だけでなく、魔法や魔導の研究もしておる。そこに行って、色んなことに触れてみれば、やがて自分の進みたい道が見えてくるじゃろう」
因みにわしもその学院を卒業したぞ。とオークス先生が自慢げに言ってきた。
てことは、そこに入学すれば先生の後輩になるのか。
「へえ~……王立魔術学院か……どう? お兄ちゃん?」
「学院ねぇ……」
要は国立の学校だろう?
このカラノスの町にも、寺子屋みたいな学校がある。
週に三日通って、算術や読み書きの勉強をする所だ。
算術も読み書きも出来るので行っても退屈なだけだが、ビクトル達に行けと言われているので仕方なく行っている。
でも王都の学校なら行ってみる価値はあるんじゃないかな?
流石に王都にある学校なら、もっと色んな事を学べるかもしれない。
「先生、その学院には何歳から入学出来るんですか?」
「うん? 確か15歳からじゃったのう。通ってみたくなったのか?」
「はい。興味はあります」
「ほっほっほ! そうかそうか、興味あるのか。なら、入学出来るように鍛えてやるかの」
うげ……なんか変なスイッチ入れたかもしれん。藪蛇だったか。
というか、”興味ある”だから。入学するとは言ってないから。
「はいはいはいっ! お兄ちゃんが行くなら私も行く!」
一緒に行く! とカーリナも手を挙げてアピールしてきた。
お兄ちゃんとしては嬉しいんだけど、そんなに簡単に決めてしまってもいいのかい?
「まぁ、まだ5年もある。それまでゆっくり考えておきなさい」
「はい」
「はーい!」
確かに。あと5年も考える時間があるのだから、よく考えておこう。
まあでも、その学院とやらには入学してみたいかな……。
「ところで、食事の用意ができたのじゃが……いらんかの?」
「いりますっ!」
「お腹すいた!」
ヒャッハー!! 5年後のことなんかよりまずは飯だ!
さっきのブートキャンプで腹が減って仕方ない。
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「ご馳走様でした」
「ご馳走様でしたっ!」
「うむ。今日も良い食べっぷりじゃ」
いい感じに空腹も満たされ、今は一服中だ。
アルフレッドが生まれ、ビアンカの体力が戻ってきた頃からまたオークス先生の家で修行を受けるようになった。
先生は一人暮らしだからある程度の料理が作れるらしく、ビアンカから弁当を持たされる日以外にこうやってご馳走になっている。
割と美味しい料理が出てくるので本当にありがたい。
「こんにちは、せんせい!」
「こんにちは。いつも息子たちを見ていただいてありがとうございます、ヤコブ先生」
「なんのなんの。教え甲斐のある生徒を持てて、儂も嬉しくての」
食後にカーリナと駄弁っていると、アルフレッドとビアンカが扉を開けて入ってきた。
黒地に金色のメッシュが掛かったような髪で、右目の下に泣き黒子がある可愛らしい男の子がアルフレッドだ。
将来は女泣かせな美青年になるだろうな……。
そんなアルフレッドも、5歳になった頃からこうやって俺達と一緒に魔術の授業を受けに来ている。
ついでにアルフレッドも見てやろう。と、オークス先生が言ってくれたからだ。
人材発掘も兼ねているのだろうか? カーリナもそうだが、あまり魔神だの真神だのに巻き込まないで欲しいもんだ。
今度それとなく文句を言っておこう。
ちなみに、俺達は既にそこいらのチンピラに襲われても自力で撃退できる実力を持っているらしく、今はもうビクトル達から送り迎えをしてもらっていない。
そのお陰で、いつぞやのガキ大将……名前は忘れたが、猿達に絡まれている。
まあその度のらりくらりとやり過ごしてきた。
俺は未だにあの手のヤンチャな奴が恐い。
帰る時はアルフレッドと一緒だから、万が一猿達に絡まれても怪我させないように守ってあげないとな。
「にいちゃん。今日はなにするの?」
「アルも俺達も、いつも通りなんじゃないかな?」
「うん」
アルフレッドはカーリナとは違って、魔術の才能は普通らしい。
素直に一生懸命に取り組むのだが、俺やカーリナに比べてあまり上達が早くないらしい。
それでも頑張る姿を見ると、ついつい応援したくなってくる。
かわいい弟だからね。
「それじゃあ、三人とも頑張ってね」
「はい。お母さんも気をつけて帰ってね」
「あらあら、ありがとう」
いつも通りのやり取りをしてビアンカを見送る。
この後、しばらくしてから魔術の授業だ。
一息ついて皆で裏庭に出る。
いつも通り、軽く柔軟をして、手のひらを合わせて押し合ったり引いたりする訓練をする。
最早習慣化しており、アルフレッドも俺達と同じように準備運動をしていた。
オークス先生はいつもの愛用の杖を持って俺達の準備運動を待っていた。
外に出る時は大体持っているな。あの杖。
「……先生、前からずっと気になっていたんですけど、その杖ってどういう杖なんですか?」
「うん? これか? これはのう、儂の師匠から貰ったものじゃ。魔術や魔法を使う際に無駄な魔力の消費を抑え、その効果を最大限に高めてくれる魔杖じゃ」
「先生の師匠から……」
と言うことは、魔神か。
やっぱり魔神らしく、そういうアイテムをいくつか持っていたりするのかねえ?
「まあそんなことよりもじゃ、今日からベルホルトとカーリナには下級魔法を覚えてもらおうかの」
「魔法ですか!?」
「おぉ~~!」
なんと! 今日は魔法を教えてくれるとな!?
なんてこった! まさか10歳で教えてくれるとは思っていなかった。
まだ早いから魔法なんて教えません。なんて言われるのかと思ったが、これは嬉しいことだ!
「せんせい、僕は?」
「お主にはまだ早いからの。まだしばらくは基本じゃ。」
「えぇーーっ!?」
俺とカーリナは魔法を教えてくれることに喜んでいたが、アルフレッドは不満な様子だ。
そりゃあ、兄妹達には魔法を教えるのに、自分だけ基本訓練なのだから不満にもなるだろう。
「アル、基本も大事よ!」
「でもっ、おねえちゃんたちだけズルイ!!」
「俺もカーリも、アルくらいの時は同じことをしていたんだ。アルも今は基本を頑張らないと」
「でも……」
やっぱり、自分だけ違うことをしているのは、仲間はずれにされているみたいで嫌なのだろう。
俺やカーリナが諭しても納得してくれない。
「アルフレッドよ、ベルホルトもカーリナも、最初から魔法を使える程、魔術が出来るわけじゃなかった」
そこへ、オークス先生が腰を落とし、アルフレッドに目線を合わせて言い聞かせる。
「誰でもそうじゃ。最初から魔術の扱いが上手な者なぞおらん」
「……せんせいも?」
「そうじゃ。わしも、初めの頃は難儀しての。魔法を覚えるのには凄く時間が掛かった。
最初は誰でも苦労する。その苦労も知らん者が、いきなり魔法を使うことは出来ん。
じゃからお主も、今はよく苦労してからベルホルト達のように魔法を習いなさい。よいかの?」
「……うん」
……流石は先生。といったところか。
年の功で子供を上手く諭していた。
俺もこんな感じに上手く諭せるようになりたいものだ。
「うむ。では授業の開始じゃな」
授業が始まる。
今から魔法を習うんだ、気は抜けないな。
隣のカーリナを見ると、彼女もどこか緊張した面持ちで先生に注目していた。
「では、アルフレッドはいつも通りの訓練をしておいてくれ。ベルホルト達には今から下級魔法を見せるので、わしの後ろに下がるように」
言われた通りにオークス先生の後ろに控える。
先生は左手に持った杖をやや前方に向け、それを右手のひらで覆うようにかざした。
手を前に出すのは魔術でも魔法でも一緒らしく、特に決まったポーズはないらしい。
まあ恥ずかしくない程度にやりやすい形でやるのが一番いいのだとか。
というかあの杖いいなぁ……魔力を無駄に消費させない杖だもんな。
いいなー。俺もあんなの欲しい。
そんなことをボンヤリ考えていると、先生は目標となる林を見据えながら詠唱を始めた。
「『我が魔力を惜しみなく用いて、大いなる 雷の力を放出し、まとめ、圧縮し、圧縮し、圧縮を重ね―』」
詠唱を重ねていく毎に、差し出した右手から光の球体が形成されていく。
いくつもの紫電を纏いながら、それは光を増していく。
「『―やがて大きな力となりて、前方に映るものを雷の刃として薙ぎ払わん ランペッジャメント』!!」
詠唱し終えた直後、目の前が、あの雷特有のけたたましい轟音と共に真っ白になった。
思わず腕で目を覆い、まぶたをきつく閉じる。
というかなんてものを使うんだ!
カーリナとアルフレッドが失明したらどう責任を取ってくれる!?
謝罪と賠償を要求する!
と一人で憤慨していると、轟音はすぐに止んだ。
恐る恐る目を開けると、先ほどまで目の前にあった林が真っ黒に焼け焦げていた。
前方は大体30メートルほどだろうか、オークス先生を中心に、扇状にその効果が拡散しているのが分かる。
とんでもない威力だ。
環境破壊も甚だしい。
動物とか巻き込んだだろうに。
でも……。
「……すごい……」
カーリナの口から感嘆の声が漏れる。
ふと後ろを見ると、耳を塞いでポカンと口を開けたアルフレッドの姿があった。
確かにこれは凄い。
流石、”雷光”と呼ばれた魔導師だな。
しかしこれが下級とは言え、魔法の威力か……。
魔導とかになればどれだけ凄いのか……。
「ほっほっほ。これが雷属性の下級魔法、”ランペッジャメント”じゃ。もはや魔法の域になると、かなり派手になってくるからの。使うときはくれぐれも近所の迷惑に―――」
「ヤコブさんっ、今のは一体……ってなんですかこれは!? さてはまた魔法を使いましたねっ!?」
「あー、うむ。すまんのう、ジェームズ」
「すまんのう、じゃありませんよ! こんな町の近くで使うなとあれ程―――」
しばらく三人で唖然としていると、どうやら近所の人達が何事かと見に来たらしい。
町外れとはいえ、先生の家と近所の距離はそんなに離れていない。
そりゃあれだけ凄まじい音を響かせたら、ご近所さんもびっくりするわな。
近所の住民達に詰め寄られ、先生がしょんぼりとした表情で平謝りしていた。
そんな情けない先生を尻目に、俺達は顔を寄せて感想を言い合う。
「流石は先生だ。俺達にも出来るかな?」
「詠唱自体はそんなに難しくなかったよね?」
「すっごい音だった! みみがとれるかとおもった!」
「ああ、あの音は凄いよな……」
「でも使う場所を間違えたらご近所さんに迷惑だね」
「うん。すごくびっくりした!」
三人の中で一番興奮していたのはアルフレッドだった。
やっぱり年相応らしく、派手な魔術魔法には憧れるのだろうか?
まあ確かに、雷属性の魔法とかは中二っぽくて俺もかっこいいと思う。
”ランペッジャメント”なんて技名もいい。
「ふう。いちいち文句を言いよって……。胆の小さい連中じゃわい」
しばらくあれこれ言い合っていたら、オークス先生がご近所さんから解放されたらしく、ぼやきながら戻ってきた。
おいおい、それは言っちゃイカンだろ。
実際迷惑を掛けたのは事実なんだ、受け止めていこうぜ?
「さて、恐らく初めて見た魔法の感想は如何じゃったかの?」
「凄かった!」
「凄かった!!」
「すごかったっ!」
「……それは何よりじゃ」
先生は俺達の語彙力の無さに呆れ笑いを浮かべる。
だってそうとしか言いようがなかったしね。
「ともあれ、さっきも見て分かったじゃろうが、ここで下級魔法の練習をすると近所の五月蝿い連中が寄ってくるので、今日は魔法を発動させる前段階までを訓練する。アルフレッドは先ほども言うたが、いつも通り魔術の訓練じゃ」
「はぁい……」
魔法のインパクトで忘れていたのか、自分だけ別メニューだと気が付いたアルフレッドは、しょんぼりした様子で俺達から離れ、一人で魔術の修行を始めた。
「まずお主たちには、ランペッジャメントの詠唱を覚えながら、実際に魔法を放つ寸前までやってもらおうかの。それを儂が”リザーブ”で分解する」
いいかの? と聞かれてカーリナと頷く。
これから実践するみたいだ。
ちなみに、”リザーブ”とは無属性の上級魔術で、相手や自分の魔術を分解する魔術だ。
主に実戦で相手の魔術を封じたい時や、魔術の制御が出来なくなった場合に使うらしい。
これもかなり難しい魔術で、意識する魔力の量が多すぎると、その余波で自分も魔術が使えなくなる。
俺は習得したが、カーリナは未だに成功率が3割くらいだ。
「ではベルホルト、まずはお主からじゃ。あちらの林……だった所に手を向けて、儂の後に詠唱するのじゃ。『我が魔力を』はい続いて」
「『我が魔力を―』」
言われた通りに進める。
すぐ後ろにはオークス先生がいつでもリザーブを掛けれるように控えていた。
やがて手のひらに、先ほど見た光の球体が再現される。
再現された球体は段々と大きくなり、魔法が爆発せんばかりに凝縮されていった。
精製されたランペッジャメントはやがて、紫電を纏いながら眩しく光を放ち、それが完成の域に達したことをなんとなく理解した。
「『リザーブ』」
しかし、後ろから先生の声が聞こえてきたかと思うと、手のひらにあったランペッジャメントの球体があっというまに霧散していく。
どうやらこれでお終いらしい。
「ふむ。お主なら一発で出来るかもしれんとは思っとったが、まさか本当にやりおるとはのう。大したものじゃ」
「さすがお兄ちゃん!」
「にいちゃんいいなぁ~」
お褒めの言葉を頂いた。
しかしこれが下級魔法か……。
結構魔力を使った感覚があって、腕から魔力が出て行くと共にランペッジャメントが出来ていく様子が面白かった。
魔力としては上級魔術の三倍くらいの魔力を使っただろうか?
俺も規格外だなんだと言われていたが、一度にこれだけの魔力を放出するとめまいのようなものを感じた。
「体に異常は無いかの? 疲労感や眠気はどうじゃ?」
「一瞬めまいがしましたけど、特には」
「そうか……」
魔法の使用後の体調を聞かれて感じたことを話すが、オークス先生はなんとも驚いたような、困惑したような表情になる。
やはり俺みたいな子供が魔法を使ってもピンピンしているのはおかしいのだろうか?
その答えは先生が小声で教えてくれた。
「普通は、10歳の子供が下級魔法を使うと、訓練と総魔力量にもよるが、一度で気絶するかへたり込むのじゃが……。お主は、なんというか、やはり普通ではないのう」
普通じゃないらしい。
こうも変だと言われ続けると、自分が怖くなってくる。
才能、と一言で片付けるのは簡単だが、それが自分にも、周りにもどんな影響が出るのか分からない。
……うん。緊急事態にならない限りは、派手に魔法を使わないでおこう。
ましてや自慢なんてするもんじゃないな。
自重しておかないと、傲慢になって嫌われるだろうし。
「……先生は、さっき魔法を使ってなんとも無かったんですか?」
「ま、長年修行と訓練を重ねれば一度や二度はどうということは無い。体が馴れてくるのじゃ」
あそうですか。
頑張り次第では先生のようになれるのだろうか?
さっきも地味にしんどかった。
魔力はあっても、それを一度で大量に引き出すのに慣れと訓練が必要なのだろう。
「何はともあれ、魔法を使うことが出来ると分かったのじゃ。ベルホルトよ、お主は今から魔法師を名乗ってもよいぞ」
魔法師の認可を貰った。
一回魔法を使いかけたくらいで簡単に魔法師を名乗っても良いものなのだろうか?
いや、そんなことよりもこんな歳で魔法師を名乗ると、子供の戯言として笑われそうだし、何より変に目立ちたくないから、やっぱり名乗らないでおこう。
「……ありがとうございます。でも魔法師は名乗らないです」
「……ま、お主ならそう言うと思ったわい」
すみませんねぇ、折角認可していただいたのに……。
心の中でしみじみと謝っていたら、カーリナが前に出てきた。
「次! 次はわたしがやるっ!」
どうやら早く実践してみたいようだ。
「おおそうじゃのう。では次はカーリナが実践してみようかの」
「はい!」
カーリナは元気良く返事をして、俺と同じように構える。
やがて先生の後に続いて詠唱を始める。
おやおや? 先ほどから手が止まっていますよアル君。
いけませんなぁ、自分の訓練に集中しないと。
詠唱を進める毎に、カーリナの額から大粒の汗が滲み出てきた。
呼吸も速くなっている気がする。
おい、ヤバイんじゃないのか?
と考える暇もなく、オークス先生がリザーブを掛け、途中で中止させた。
「あれ? 魔法、消え……ちゃ……」
「カーリっ!」
「おねえちゃん!!」
カーリナが気を失った為に、慌てて抱きかかえる。
アルフレッドも駆け寄って来て心配そうに姉の顔を覗き込む。
呼吸が少し乱れていて、汗が凄い。
カーリナは今までにも何回か魔力が無くなって気を失ったりすることもあったが、流石に魔法を一回使おうとしただけで気を失うのは心配になる。
大丈夫なのか?
「うむ。途中で魔力が尽きたようじゃのう」
「先生っ!!」
「まあまあ、そう慌てるな。魔力を一回で使い果たすと気絶することもある。魔力を使い過ぎれば、普通はこうなる。命に関わる訳ではないので、そのままゆっくり寝かせておけ」
……どうやら心配は無いらしい。
ホッとしつつ、カーリナを抱えて木陰に寝かせておく。
汗を拭ってやり、べっとりと額に付いた金髪を目に掛からないようにしてやる。
しかし、どうやら一発では出来なかったようだ。
ランペッジャメントの球体も歪で不完全な形だった。
起きたら悔しがるだろうな……。
カーリナは結構負けず嫌いなところがあるから。
「ではベルホルト。お主はあと何回魔法が使えるか試してみるかの?」
「はい?」
オークス先生から鬼のような提案をされた。
いや、俺もどれだけ魔力総量があるのか気になるし、魔法の訓練にもなるからいいんだけどさ。
「ほれ、手が止まっておるぞアルフレッド。ではベルホルト、早速やってみよ!」
こうして夕暮れになるまでの間、オークスでブートなキャンプによるスパルタレッスンを受け、目を覚ましたカーリナとアルフレッドと共に家に帰るまでしごかれることとなった。
ちなみに10回以上ランペッジャメントを使ったが、魔力切れを起こすことはなく、むしろ眩暈すらしなくなった。
オークス先生の引きつった顔が忘れられない。
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「ただいまー」
「ただいまー!」
「ただいまー!!」
「あら、三人ともお帰りなさい」
陽が沈む前に帰って来た。
最近では、俺とカーリナでアルフレッドを守りながら帰ってくる。
10歳の子供の癖に守れるのか、なんて思わないでもないが、寄り道せず、大通りを歩いて帰ってくるので危険はないと思う。
たまに道中で猿や河童や豚に遭遇するが、その時は下手に出てやり過ごすか、見つかったら走って逃げているぐらいだ。
いつもパパン達がこの町の治安を守ってくれているし、それ以外は安全だよね?
「もうすぐご飯だからね。手を洗っていらっしゃい」
はーい。と三人で返事をしながら手を洗いにいく。
基本、返事や挨拶をする時はカーリナとアルフレッドが声を張り合うのでうるさい。
「お帰り。今日はどうだった?」
「ただいまっお父さん! ねえ聞いて! 今日はねえ、ヤコブ先生に魔法を教えてくれたんだよ!」
「本当かい? それはすごい! ちゃんと使えるようになったかい?」
「ううん、私は出来なかった……。でもっ、お兄ちゃんは使えるんだよ!」
カーリナは洗面所に現れたビクトルに、今日のことを話す。
俺が魔法を使えるようになったと聞いて、ビクトルは驚いた様子で聞いてきた。
「本当かいベル!? やったじゃないか! これは益々、魔導師に近づいたかな?」
わしゃわしゃと頭を撫でてくるものだから俺も照れてくる。
たまには頭を撫でられるのも悪くないな。
まるで子供になった気分だ。
まあ子供ですけど。
「とーさん……ぼくはもはやく、魔法をつかいたい」
「アル……そんなに焦らなくてもいいんだ。ゆっくりやりなさい」
「うん……」
やはりアルフレッドも魔法のことがまだ諦められないようだ。
そりゃあ、あれだけ目の前で魔法を見せられたら、自分も使いたくなるよな。
でもオークス先生にも言われたように、今は苦労をしないといけない時期なんだと思う。
「アル。先生も言っていただろ? 今は我慢して、いっぱい頑張らないと」
「うん」
俺の言葉を聞いて、一応は頷いてくれたけれど、まだ不満な様子も残っている。
今はまだ完全に理解してくれていないかもしれないが、そのうち分かるようになるだろう。
ま、先のことなんて分からんけどね。
「……うん。さすがはお兄ちゃんだな……よし、じゃあ夕ご飯を食べようか! お父さんもお腹ペコペコだ!」
「おー!」
ビクトルに言われてカーリナが返事をする。
その後を、俺はアルフレッドの手を握ってついていく。
当然、それを見たカーリナも反対側の手を握ってきた。
その顔は嬉しそうだ。
魔法を完全に習得できなかった時は悔しそうだったが、今はいつも通りだ。
カーリナは気持ちの切り替えが早い。
ただ、アルフレッドの方は少し元気がなくなったようだ。
兄としては頑張って欲しいけど、無茶はしないで欲しいな。
_______________________________________________
「それじゃあベル、カーリ、今日もお父さんの言うことをよく聞いて、怪我の無いようにね」
「はい」
「はーい!」
夕食を終え、一息ついたところで今度はビクトル師匠による剣術の指南にござる。
アルフレッドか? アルフレッドは今からビアンカと一緒にお風呂に入いるんだよ。
うらやまけしからん。
……で、剣術と言ってもどこそこ派の剣術とかじゃなくて、ハルメニア軍で基本的に教えられている軍隊式の剣術を教わっていた。
剣術にも様々な流派があるらしく、国や種族、地域ごとに様々な特徴を持った剣術が存在するらしい。
パルメニア軍の剣術は、サーベルのような片手で扱う剣を用いた剣術と、両手で扱う剣の剣術とで、二つのパターンがある。
俺達が今教わっているのは前者で、対人や護身用の剣術らしい。
後者は魔物や、戦争の時に使う剣術で、俺達にはまだ早い。
いつもはお互いに木剣を持って基本の動きや素振りをする。
高校の時に習った剣道の授業と全然違うのでびっくりした。
「ねえ、今日は何するの?」
「うん、今日も素振りから始めて、軽く応用の技をしようか。その後に打ち合いだ」
カーリナの問いに、いつも通りだ。とビクトルは答えた。
剣術のことになると、ビクトルは厳しくなる。
曰く、「中途半端な腕で剣振れば、自分を傷つける」だそうだ。
「準備はいいかい? それじゃあ、抜剣! 構え!」
準備が整い、ビクトルの号令で右手に木剣を持って構える。
まずは基本の素振りからだ。
「ではまず、上下左右素振り50本から始める。始めっ!」
「いちっ! にっ! さんっ! ―――」
「ベル、力み過ぎず柔軟に振れ! カーリ、もっと踏み込みを強く!」
カーリナと一緒に、数を数えながら木剣を上下左右に振る。
振ると同時に右足を踏み込み、またすぐに戻す。
時折ビクトルから注意されたりする。
いつもの爽やかな雰囲気とは違い、真剣な雰囲気だ。
ビクトルに言われて意識しながら振るが、それでも直っていない時は木剣で軽く叩かれる。
しかし、ビクトルもただ単に厳しくするだけじゃなく、こういう時はこうするんだ、と丁寧に教えてくれるし、分かりやすい。
「どうしたベル、集中できていないぞ!」
「はいっ!」
余計なことを考えていたら怒られてしまった。
イカンな、集中せねば。
「―――はちっ! きゅうっ! ごじゅう!」
「止めっ! 次は左手に持ち替えて50本、始めっ!」
「いちっ! にっ! ―――。」
こうして時折注意されつつ、基本の素振りや、相手の斬撃に対する受け流しなどの応用を一通り終える。
時間にして一時間くらいだ。
その後に少し休憩を入れて、今はビクトルと対峙している。
これから打ち合いの稽古だ。
「それじゃあベルから打ち込みをしようか。お父さんは基本的に受け止めるだけだけど、偶に隙を見てベルに打ち込むから、それを上手く避けるんだ。いいね?」
「はい!」
「よし、じゃあ構え! 始めっ!」
「ハッ!!」
これまで習ってきたことを意識しつつ、ビクトルに打ち込む。
当然ビクトルに防がれてしまうが、それでも何とか隙を探して打つ。
他の子供と違って、俺は前世の記憶と知識を持って転生してきた。
どこがいいか、何をしたら拙いのか、そういった考える能力を持っているのは大きなアドバンテージだ。
だから俺は、ビクトルを相手にしても上手く立ち回れるつもりでいたのだが……。
「ハアッ!」
「甘いっ!」
隙を突いたつもりで打ち込むも、ビクトルはそれを上へ受け流す。
そのまま俺の手から木剣が弾かれた。
「っ!?」
ビクトルの木剣が首元に突きつけられる。
どうやら甘く踏み込んだところを上手く返されてしまったようだ。
う~ん……、やっぱりまだビクトルには敵わないか……。
悔しいな。
「うん、大分上達したね。でも相手の隙に誘われて迂闊に打つのは良くない。もっとフェイントを入れたほうがいいね」
「はい、先生!」
「うんうん! 次も頑張ろう!」
ちなみに、ビクトルは剣の稽古中は自身のことを先生と呼ばせている。
いつぞやのビアンカの時も思ったが、この人達は教師に憧れていたのだろうか?
「よし、次はカーリ、前へ」
「はい!」
次はカーリナだ。
俺は邪魔にならないように離れたところで観戦する。
お互いに構え合い、カーリナが打ち込む。
素人目ではあるが、カーリナにも剣の才能があるみたいだ。
剣だけじゃない。
格闘にしても一生懸命取り組んでいるから上達も早く、才能を伸ばしている。
きっと運動神経や反射神経がいいのだろう。
俺も胡坐をかいてはいられない。
それでもしばらく打ち込んだところでビクトルに木剣を叩き落とされ、横っ腹に木剣を添えられる。
カーリナも結構工夫していたようだが、今回はその反射神経を利用されてフェイントに引っかかったようだ。
「カーリナは相手の剣を見過ぎているね。剣の動きに惑わされて、相手のフェイントに引っかかるんだ。しっかり相手の目と体全体を見ないと」
「はいっ先生っ!」
カーリナの打ち込みが終わり、ビクトルは俺達を見据えて言った。
「剣術を教えて2ヶ月だけど、二人とも筋がいいね。始めたばっかりでこんなに出来たら、お父さんなんてすぐに負けちゃうかもしれないな」
「本当!?」
「ああ本当だよ。カーリもベルもこのまま頑張っていけば、いつかは王国の騎士にも勝てるんじゃないかな?」
「うん! じゃあ私、もっと頑張るね!」
王国の騎士がどんなもんかは知らないが、それだけ才能があるらしい。
まあ、あまり実感はないけど。
なんにしても、才能があるのなら是非ともそれを伸ばしていきたい。
それに結構楽しいしね。
魔術にしても、格闘や剣術にしても、しっかりと教えてくれる人がいる。
自分の身は自分で守らないといけないような世界で、これほど恵まれたことはない。
なら、出来ることを精一杯やって、この人生を幸せに過ごそう。
何事もなければそれに越したことはないがね。
「先生、もう一度打ち込みお願いします!」
「私も! お願いします!」
「お、もう一度かい? よし、いいよ。掛かっておいで!」
取り敢えずの目標は、ビクトルに勝つことだ!
……ただこの後、俺もカーリナも稽古が終わるまで何回か挑んだが、それでもビクトルに勝つことが出来なかった。