Side Act.10:私から見た、カーリの焦燥
活動報告におきまして、この作品の打ち切りの報告をさせていただきました。
突然のことで申し訳ありません。
「どうしよう……どうしよう! 私、お兄ちゃんに酷いこと言っちゃった! なんであんなこと!」
「カーリ……落ち着いて」
「そうよ、落ち着きなさいな。きっとベルホルトも気にしていないでしょうに」
「でも! でもお兄ちゃん戦場に行っちゃったんだよ!? もしかしたら、も、もう……」
お兄さんとバシルが、学院から出発してから……カーリは寮の部屋でずっと、床に座って泣いている。
さっきカーリが、『お兄ちゃんなんて大っ嫌い』って、言っていたから……。
一緒に行って、戦いたかったのに……それを拒絶された。
その悲しみは、なんとなく分かる。
楽しいことも、危険なことも……家族とならどこまでだって、一緒に行きたいものだから。
「いい加減になさいカーリナ! 大体ベルホルト達が出発したのもついさっきでしょう? 貴方がベルホルトの無事を信じないでどうするの!」
「それでもわたくしのライバルですの!?」なんてイリーナが叱責している。
驚いたカーリが、ハッとイリーナの顔を見上げた。
もう、鼻水や涙とかでグチャグチャだ……。
「そ、そうだよね……わ、私が信じないといけないよね」
「ええ。だから貴方は、実家のご両親の許へ帰って、安心させてあげなさいな」
「う、うん……そう、する……」
カーリが、ヨロヨロと立ち上がったけど……大丈夫、かな?
荷物を色々出して、背嚢に詰めて、それをまた繰り返してる。
かなり……危なっかしい。
「ところでリンマオ?」
「なに?」
「貴方はこれからどうするのかしら?」
「……どう、しようかな?」
考えていなかった。
私の故郷は、ここからずーっと東のカンセンという所だ。
森しかない所。
そこの|猫族(マオ族)の一つ、ユー一族の里まで帰らないといけない。
ラージャの更に向こう、だから。
帰るのにかなり時間が掛かる。
……帰るの、億劫だな……。
「……でしたら、貴方はカーリナの傍に居てあげられないかしら?」
そんなこと考えてると、イリーナが小声で言ってきた。
ヨロヨロと荷物をまとめるカーリを見ていると……確かに一緒にいてあげないと、って思う。
「……うん。一緒に、いる」
「えぇ、よろしく頼みましたわよ?」
「うん……」
カーリなら、嫌がることはないはず。
私も荷物をまとめよう。
それに、私も付いて行っていい? って聞かないと……。
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「そっかー……カーリちゃん、やっぱり落ち込んでるんだね」
「ええ、ですからアールは余計なことを言わないで下さいまし。いえ、むしろ黙っていなさい」
「酷くないっすか?」
しばらくしの後。
校門前、疎開の準備が出来た生徒達が、次々と学院から出て行っている傍で、私はイリーナや、アールと一緒にいた。
二人は、私とカーリがカラノスに行くのを……見送ってくれるらしい。
「そんなことより……さっき、アールが言ってたことって……本当?」
「え? あぁ、さっき言ったベルとクリスのこと? 本当だよ。本人から聞いたことだし」
「まさか、カーリナが半ば人質にされていたなんて……許しがたいことですわ!」
カーリを待っている間、アールが話していたことだ。
何でも、お兄さんとクリスの仲を裂きたかった国王様の罠で……カーリは戦場に送られようとしていた、らしい。
そんなことでカーリを危ない目に遭わせるなんて……許せない!
「このことは本人には言わないようにしましょう。特にアール! 貴方が一番気を付けなさい!」
「わ、分かってるよ……」
カーリがこのことを聞いたら、きっとまた、自分の所為にしてしまうから……。
このことは聞かせないでおこう。
そう、心に誓っていた時だ。
「ごめんねリンちゃん! お待たせ!」
「大丈夫……急いでいないから」
イリーナ達と話をしていると、カーリが駆け足でやってきた。
ちゃんと背嚢を背負って、準備も出来ている。
「カーリちゃん……ベル達、早く帰ってくるといいね」
「うん……お兄ちゃん達は絶対帰って来るから」
充血した目で力強く頷いているけど……本当は不安で泣き出したいのを我慢しているのを、私は知っている。
これでも、2年くらい一緒の部屋で、過ごしたから。
「カーリナ……色々不安ではあるでしょうけれど、自分を責めてはいけませんわ。いいですこと?」
「うん……ありがとう、イリーナ」
「リンマオ。貴方もカーリナのこと、よろしくお願いしますわよ?」
「うん……分かった」
イリーナは、優しい。
普段は礼儀がどうとか、うるさいけど……こういう時は親身になって人を励ましている。
アールもそう。
いつもはおバカだけど、仲良くなった人にはとことん優しい。
でも、今のカーリはそんな二人の優しさを噛みしめている余裕が……あんまりないようだ。
余裕のない顔で……泣きそうなのを我慢しながら、二人と別れを惜しんでいる。
そんなカーリの顔、あんまり見たくない。
いつもの笑顔が見たいな……。
だからお兄さんやバシルには、早く帰って来て欲しい。
「馬車に乗り遅れちゃいそうだから、早く行こ、リンちゃん」
「……うん」
「二人とも、体には気を付けなさいね!」
「僕達もパトロスに帰ったら、手紙書くよ!」
「うん……うん!」
「……また、ね」
イリーナとアールに見送られながら、私達は校門を出る。
イリーナは心配そうな顔で、アールは涙を零しながら手を振ってくれた。
カーリは我慢できなかったのか、涙をボロボロと流しながら、二人に手を振り返している。
私も、小さく手を振り返す。
不思議だったのが、皆、「さようなら」って言わなかった。
また、きっと会えるって信じているんだと思う。
だから私も、また六人で集まって……そして笑い合えるって信じよう。
……もともと信じていたけれど。
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ファラスから馬車に乗って2日……特に何もなくカーリとお兄さんの故郷、カラノスに着いた。
馬車の中では、カーリは泣くことはなかったけど、普段と比べて口数がかなり減っていた。
私には、それが心配で堪らない。
色々、溜め込んでいないといいけれど……。
「リンちゃん、こっち。付いて来て!」
「あっ……」
ただ、カーリは、そうやって心配する私の手を引っ張り、町の中を駆けていく。
早くお父さんやお母さんに会いたいのかな?
「着いた……お父さーん! お母さーん! アル―! ただいまー!」
「おじゃま……します……」
町中を迷いなく走り抜け、一軒の家に到着した。
立派な家……いいなー、私の家は木の上だし狭いし、兄妹が多いから……いつも誰かと蹴ったり蹴られたりしながら寝ていたな……。
じゃなくて……カーリは到着した実家の中へ入って行った。
勿論、私の手を引っ張りながら。
「カーリ? 帰ってきたのねカーリ! あぁ、よかった!」
「ただいま、お母さん……」
カーリのお母さんは、美人な人だ。
そんな美人な人が、カーリの姿を見て、涙を流しながらカーリを抱きしめ、無事を喜んでいる。
優しそうな人……。
お母さんに抱きしめられ、ようやく私の手を放したカーリもそっと抱きしめ返す。
そして、静かに涙を流していた。
ただ、お母さんはすぐにカーリを放して、今度は私に向き直る。
「あなたは、カーリのお友達? そう言えば、ベルは帰って来ていないの?」
「ユー・リンマオ、です……カーリとお兄さん……ベルの同級生、です……それで、ベルは……」
まずは簡単に自己紹介。
その後に、お兄さんのことを説明する為にカーリに視線を送る。
カーリは、とても辛そうな顔だった。
「……お兄ちゃんは、せ、戦場に、戦場に……」
「……そう……そう、ベルも戦場に行ってしまったのね……」
「『も』? 『も』ってどういうこと? あっ! まさかお父さんも?」
「……ええ、お父さんも戦場に行ってしまったわ……」
「そんな……」
「カーリ!」
お母さんが言うには、カーリ達のお父さんも戦場に行ったらしい。
それを聞いて、カーリはその場に崩れ落ち、私は慌ててカーリの体を支えた。
そんなカーリに、お母さんはまた優しく抱きしめる。
「大丈夫だから。きっと二人とも無事に帰って来るから……」
「おか、お母さん……おかあ……うぁ、うぁあああああ! わ、私、お兄ちゃんにひど、酷いこと言っちゃったぁ!」
「大丈夫よ……大丈夫……」
お母さんの胸の中で、カーリは声を上げて泣き始めた。
カーリの鳴き声を聞いているだけで、私も悲しくなってくる。
それだけ、カーリの鳴き声が……私の心に響いてくるのだと思う。
「リンマオちゃんも、ありがとうね。カーリのこと、ありがとうね」
「……」
泣きじゃくるカーリをあやしながら、お母さんは私の目を真っ直ぐと見て、お礼を言ってきた。
優しく微笑んでいるけれど、涙を流しながらだから……とても悲しそう。
私は、何もしていないし、ただついてきただけだ……。
どう返事をしていいのか分からなかったから、黙って頷くことしか出来なかった。
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「お母さん、姉ちゃんは?」
「寝ちゃったわ」
しばらく時間が経った。
私はカーリの家に上がらせてもらって、リビングでゆっくりさせてもらっている。
カーリは泣き疲れて、今は自分の部屋で寝てしまったみたい。
私も、お母さんと一緒にカーリの傍に居たかったけど、お母さんに、話を聞きたいから、って言われて私はリビングで待つことに。
それまでは、カーリとお兄さんの弟……アルがさっきまで私の相手を、してくれていた。
かわいい。
「それで、リンマオちゃん。早速だけれど、話を聞かせてもらってもいかしら?」
「うん……」
お母さんはサッとお茶を用意したかと思うと、それを机の上に置いて、私の前に差し出し、向かい側に座り込んだ。
アルはその隣に座っている。
何処から話をしようかな……。
なんて考えながら、私は知っていることをポツリポツリと話始めた。
戦争が始まったこと。
学院から生徒が徴用され、お兄さんやバシル、そしてカーリが選ばれたこと。
その後に、カーリが戦場に行かなくてよくなったこと。
でもカーリはお兄さんと一緒に行こうとしたこと。
最後に、お兄さんがカーリを打って、カーリがお兄さんに、『大っ嫌い』って言ったこと。とか。
一つ一つ、丁寧に。
でも、お兄さんがクリスと別れることを条件に、カーリを戦場へ送らないって取引をしていたことは……言わなかった。
これは……私には、言えなかった。
私は話をするのが、苦手だし、人族語もそんなにうまく喋れない。
今は亜人語で話をしているけれど……それでも大分ゆっくりになってしまう。
昼過ぎに帰ってきたのに、今ではすっかり夜だ。
それでもお母さんとアルは、静かに聞いていてくれたし、話をする度に頷いてくれた。
「それで、リンマオちゃんがカーリに付いていてくれたのね……あなたも大変なのに、カーリの傍にいてくれて、本当にありがとう」
「……私が、一緒にいたかった、だけだから……」
「ありがとう……いつまでもここにいてくれていいから。遠慮しないでね」
「うん……」
私のことも労ってくれる。
本当に優しいお母さんだ。
本来なら、私から居候をお願いしないといけないのに、こうして私を家に泊めてくれる。
私の実家の、母様はこんなに優しくない……。
母様なら、「甘えるな!」って言って、きっと私を外に放りだすはず……。
……うん、甘えちゃおうかな?
「でも、姉ちゃんも最初は選ばれてたんでしょ?」
「……うん」
「なら何で選ばれなくなっちゃったんだろ? リン姉ちゃん、何か知ってる?」
「…………」
鋭い子……。
私の話を聞いて、カーリが何で戦場に行かなくてもよくなったのか。
アルはそれが不思議に思えたらしい。
その純粋なアルの疑問に、私は反射的に顔を背けてしまった。
それがいけなかったらしい。
「……ねぇ、もしかして何か知っているのかしら?」
「わ、私は……その……」
「知っているのなら、それも聞かせてくれないかしら?」
お母さんが真っ直ぐ、私を見つめてくる。
どんな些細なことも知りたいようだ。
私はカーリが寝ている部屋の方に目を向け、耳を澄ませる。
そうして、カーリが起きていないことを確認した。
「わ、耳がぴくぴくしてる……」
私の獣族特有の耳を見たアルが、興味深々で耳を見てきた。
その反応が可愛いから、もっと耳を動かそう……と思ったけれど、今は大事な話を、しないと。
「……お兄さん、クリスと……クリスティアネ様とお付き合い、していたの。ハルメニアの、お姫様と……」
「あら、そうだったのね」
「……驚かないの?」
「一度帰ってきた時に、ベルの好きな人だ、って聞いていたけれど……まさか本当にお付き合いをするなんてね……」
知っていたんだ……。
アルも「へー」って言ってる。
「でも、ハルメニアの王様は、それを許さなかったみたいで……戦争になった時に、二人の仲を裂こうと、したの」
「だから兄ちゃん、戦争に行っちゃったの?」
「ううん……カーリを戦場に送るように、王様が、言ったらしいの」
「それってつまり……」
「……うん、カーリを戦場に送られたくなかったら、クリスと別れろ。っていうこと、だったらしい……」
「そんな……」
「酷い……何で姉ちゃんが!」
私も、アールから又聞きした話だ。
それでもお母さんとアルは、ショックを受けたみたいだった。
私も、ショックだったし、何より腹立たしい。
何でカーリがそんな目に――。
「ねぇ、リンちゃん。今の話、ほんと?」
「――っ! カーリ」
気が付けば、カーリが2階に続く階段から降りて来ていた。
今の話、聞かれていた?
「ねぇ……ねぇ! 今の話本当!? わ、わた、私の所為でお兄ちゃん、クリスとわか、別れちゃったの!? ねぇ!!」
「か、カーリ……」
カーリは私に駆け寄り、散々泣き腫らした目から、また大粒の涙を流し、私の両腕を掴んで来る。
どうしよう……! こんなこと、カーリに聞かせるつもりじゃ……。
「カーリ、落ち着いてカーリ。貴方の所為じゃないわ。悪いのは勝手なことを言う大人だけよ」
「でも! でもっ! 私がいなかったらお兄ちゃんは、クリスと別れることなんて……!」
「違うわ! そう言う風に国王がベルに迫っただけよ! 貴方は一つも責任を感じることなんてないのよ!」
「でも、でもぉ……」
「あぁカーリ……自分を責めてはいけないわ……」
私はまた、見ていることしか出来なかった。
自分の所為だと責めるカーリに、お母さんがまた抱きしめてあやす。
友達が、こんなにも傷ついているのに、何も出来ないなんて……。
そんな私が、私自身が嫌だ……。
結局、カーリは声が枯れるまで泣きじゃくっていた。
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あれから9日。
私は、カーリの家で居候をする傍ら、兵士であるカーリ達のお父さんが戦場に行ったので、力仕事なんかを引き受けていたり、アルに魔術や勉強を教えていた。
アルは素直でかわいい。
その間、カーリは……帰って来てからの2日間は殆ど泣いていた。
自分を責めては泣いて、お兄さんやお父さん、それにの安否を心配していては泣いていて……。
情緒不安定な感じだ。
3日経ってからは、一日中泣くことはなかった。
生気の無い顔で家のことをして、食事をしたりしていたけれど、ふとした拍子に突然泣き出してしまうことも……。
そんなカーリを、私やお母さん、アルと一緒に励ます毎日だった。
「東部連合の兵士、いっぱい来ちゃったね。リン姉ちゃん」
「うん……この町が酷いことにならなければ、いいけれど……」
今は……アルと一緒に、窓の外を見ている。
3日前に東部連合の兵士達がここに進駐してきた。
ハルメニアの兵士が一緒にいるから、きっとハルメニアからの救援要請を受けてのことだと思うけれど……。
時たま、カーリがその兵士達に話しかけている姿を見て、ドキッとすることがあった。
何を話していたんだろう?
カーリに聞いても、適当に流されるだけで、少し寂しかった……。
「アル、リンちゃん、ご飯出来たよ」
「さぁ、一緒に食べましょう」
「うん!」
「ありがとう、ございます……」
食事は大体、お母さんとカーリが作ってくれている。
アルもたまに手伝うようだけれど、私は何もしていない。
だって私、ご飯作れないから……。
そして、机に広がる料理にあり付こうと、椅子に座ろうとしたら……カーリが小声で話しかけてきた。
「リンちゃん……後でちょっといいかな?」
「うん?」
その時の顔が……何故か決意に満ちた様子なのが気になった……。
そんなはっきりしない何かを感じながら、私はお昼ご飯を食べることに。
食事の間は静かだ。
たまにアルが話をするくらいで、本当に静かだった。
お昼ご飯を食べ終えて、さっきカーリに言われた通りに、私達は二人っきりになって話をすることに。
場所はカーリの部屋だ。
「カーリ……どうしたの?」
「リンちゃん、今から言うこと、お母さん達には黙っていてくれる?」
「……うん、いいけれど……」
一体、何を言うんだろう……。
なんだか嫌な予感がする。
「私、お兄ちゃん達を迎えに行こうと思うの」
「……それって、戦場に行く、って言うこと?」
「うん。そこでお兄ちゃんや、お父さんやバシル君を探そうと思うの。リンちゃんは付いて来てくれる?」
「でも……」
それはお兄さんの厚意を無駄にするんじゃ……。
私はそう言おうとしたけれど、カーリは続けて言ってきた。
「私は嫌。お兄ちゃんとあんな別れ方をするなんて、私は嫌! だからお兄ちゃんを迎えに行って、今度は大好きって言うの」
「……」
どうしよう……カーリは本気だ。
この家に帰ってきた時の様な、弱々しいカーリじゃない。
私の知っている、こうと決めたらやり通すカーリだ。
でも、だからといって、カーリが危険な所に行くなんて……。
「大丈夫だよリンちゃん。私、危ない所に行くって分かっているから。危なくなったらちゃんと逃げるから。だからお願い、嫌だったら一緒に行ってくれなくてもいい。お兄ちゃん達を探しに行くのを許して!」
「カーリ……」
私の目を真っ直ぐに見つめてくるカーリの、その目は……真剣そのものだ。
これは、何を言っても止められそうにない。
……ごめん、イリーナ。
「……カーリがそこまで言うのなら……私も、一緒に行く」
「! ありがとうリンちゃん!」
私が一緒に行くことを言うと、カーリは私の手を握って嬉しそうに上下に振ってきた。
……なんだか、久しぶりにカーリの笑顔を、見た気がする。
「じゃぁ、明日朝、東部連合の兵士さん達がファラスに出発するみたいだから、私達もそれに紛れて一緒に行こ」
「……準備、いいね」
「うん、泣いてばかりじゃいられないし、このために色々してたんだ。兵士さんに色々話を聞いて、一緒に連れて行ってくれることも許してくれたの」
どうやら、カーリはお兄さん達の為に色々考えていたみたい。
その顔は、もう完全に、いつものカーリの顔になっている。
いつもの調子に戻ったようで、私も嬉しい反面、無理をしないかが心配だ。
焦って、失敗して、危険な目に遭ってしまわないように、私がちゃんと見ておかないと。
そんなことを胸に秘め、私達は密かに出発の準備をし、夜を迎え……そして朝が来た。
陽が完全に昇りきらないうちに、私達は荷物を持って部屋を出ると、静かに階段を下り、玄関へと向かう。
「あ! リンちゃん、ちょっと待ってて」
「カーリ?」
けど、その途中……カーリはリビングの机に向かうと、紙に何かを書き始めた。
そこには……。
『お兄ちゃんやお父さん、バシル君を探しに行って来ます。カーリナ』
と、書かれていた。
置手紙……かな?
「これでよし! じゃぁ行こっか、リンちゃん」
「うん」
置手紙を書いて満足したのか、カーリは一度頷くと、また玄関に向かい、今度こそ外へと出た。
そして、一度振り返ると――。
「行って来ます。お母さん、アル」
「行って、来ます」
決意に満ちた顔でそう言った。
私も釣られて、お母さん達の顔を思い浮かべながら挨拶の言葉を言う。
「行こ!」
「うん」
それから私達は、カラノスの外で出発準備をしているハズの、東部連合の兵士達の所へと、駆けていくことになった。
お兄さんやバシル、それに、まだ会ったことのないお父さんを迎えに。
一緒にいてあげることが、私に出来ることだから……。
お兄さん達の無事を……祈って。




