第5話:称号と真神
この世界にもいくつか宗教が存在する。
その中でも大きな勢力を持つ宗教が二つ。
一つは真神教。
もう一つは称号信仰。
真神教は、大昔の聖人サン・ユリアスを唯一絶対神と崇めたのが始まりで、1000年以上前に興った宗教だ。
主に大アレキサンドリア帝国の国教で、人族以外の種族の排斥を主張している。
現在の大アレキサンドリア帝国は真神暦を使用し、今は真神暦1029年とのことだ。
そして、真神は現在も生存していて、帝国の実質的支配者とも言われている。
それが本当ならすげえ長生きだ。
ちなみに、このハルメニアでは、大アレキサンドリア帝国に近い西部に浸透している。
称号信仰は、東部連合のある地方に存在する”称号の聖地”において、世界に多大な影響を与えた人物や、人智を超えた実力者に称号を与え、信仰の対象としてきた。
東部連合では、称号を持つ者を”称号付き”と呼んで敬ったり、あるいは恐れられたりしていて、その影響力は大きい。
称号の中で最高位とされているのが、”神”の名が付く称号で、神の如き実力と影響力を持った、それこそ神のように崇められる人達だ。
現在では5人が”神”の称号を持っている
魔神エルメス
死神
鬼神ヒメジ・ゴウキ
夜神ブレッド・ハルフォード
戦神レオナルド・ソロモン
魔神エルメスは特に有名で、約400年前、当時中央を越えて侵攻していた帝国に対抗するため、仲の悪かったドラグライヒとジラント王国の仲を取り持ち、その他の亜人族国家と共に東部連合を創設した。
そのため、東部地域では彼が一番有名で、人気のある人物であった。
又、現在のハルメニア王国の建国を助けたことでも有名である。
魔神エルメスは、真神に強い殺意を抱いており、幾度か真神を追い詰めようと単身で、或いは仲間を引き連れて帝都に攻撃を仕掛けるも、真神を倒すことが叶わず、24年前、ついに魔神は封印されてしまう。
そして今は、中央部の海、イルマタル海に沈められている。
封印された今でも、称号信仰の信者は魔神エルメスを未だに信仰の対象とし、復活を待ち望んでいる。
逆に真神教では最大の敵とされ、今でも魔神が復活しないかを監視し、いずれ復活したときに備えているらしい。
「と、いう訳じゃ」
と、いう訳らしい。
なんか最初に、魔神の弟子だ、と暴露されたときは、もう駄目だお終いだぁ! とか思っていたが、別に魔神は全人類の敵という訳ではないらしい。
むしろ東部地域では英雄的な扱いで、今でも人気があるのだとか。
それでも、少しオシッコをちびったのは内緒にしたい。
「そんなエルメス様と同じように無詠唱で魔術を使えると知られれば、必ず真神教の連中がお主を捕まえて宗教裁判で処刑するじゃろう」
こわっ!
何それ!
なんで見ず知らずの人と一緒のことが出来るからって、殺されなきゃいかんのだ?
無詠唱で魔術を使えるのは便利だが、ある意味迷惑な能力だな、無詠唱ってのは。
「じゃあ、東部連合だとどういう扱いになるんですか?」
西部地域では蛇蝎のごとく嫌われている魔神でも、東部では英雄なんだから、殺される、ってことはないだろう。多分。
「そうじゃのう……。東部地域でも、無詠唱で使えることが分かれば、色々と政争や東部連合内の政権争いに利用されるじゃろうな。結局は、黙っておいたほうが良い」
「……」
どう転んでも厄介なことにしかならないということなんですね? 分かります。
だが、未だに分からないことがある。
「あなた自身は、僕をどうするつもりなんですか?」
この男、ヤコブ改めオークスが俺をどうするかだ。
いくら魔神の弟子だからといって
はいそうですか、と見逃してくれるわけではあるまい。
何かしら利用してくるはずだ。
ましてや相手は5歳児。
俺なら利用しようとするだろう。
今の俺にとって、そこが一番重要だ。
正直魔神なんてどうでもいい。
「……5歳児にしては早熟じゃのう。普通なら年相応に慌てたりするじゃろうが……」
すまんね。
何しろ中身は前世から数えて30過ぎのオッサンだからな。
「まあ良い。お主、儂の弟子にならんか?」
「弟子……ですか?」
「そうじゃ、今のお主を放っておくとその内無詠唱のことがバレて、いつ誰に何をされるか分からん。であるからこそ、お前さんを鍛えて、お前さん自身が自分の身を守れるようにならなければならん」
つまりは、俺の為に鍛えてくれる訳か?
なんか嘘癖ぇ……。
俺が子供だからって、舐めてんじゃねえのか? 難しく言ったりしてさ。
「それはつまり、僕の為ですか?」
「うむ。そうじゃ」
「魔神エルメスの為じゃなくて?」
「っ!」
俺の指摘にオークスの顔が驚愕に染まる。
図星か……。まさか5歳児に指摘されるなんて思ってもみなかった。って様子だ。
「……お主はどうやら、そこいらの子供とは違うようじゃな……。もしかして、カーリナも賢いのか?」
「さあ……僕子供だから分かりません」
「……ぬかしよる」
オークスは不敵な笑みを湛えてこそいるが、冷や汗が額から流れている。
ちょっと言い過ぎたかもしれないが、今は強気でいかないと何をさせられるか分からない。
「もし、儂がお主に、将来エルメス様の力になって欲しいと言ったら? あの方の弟子となり、共に戦って欲しいといったら? お主はどうする?」
嫌だよ。
真神を倒すのを手伝え、ってことだろ?
前世で言ったら、アメリカに喧嘩を売れ、ってことだ。
死んでも嫌だね。
なんでそんなことに首を突っ込まなきゃならんのだ?
勝手にやってくれよ。
なんて思ったりするが、口には出さない。
言えば怒られそうだしね。
怒られるだけならまだいいけど。
しかし困った。
無詠唱で魔術が使えることは、周囲には黙っていればいいと思うが、そのうちポロっとバレてしまうことがあるかもしれない。
そうでなくともこの爺さん、魔神エルメスが復活した時に報告するだろうから、向こうから接触してくるかもしれん。
復活すればの話だけど。
「……魔神エルメスは復活するんですか?」
「エルメス様は復活する。必ずな。恐らくもう数年での」
魔神の復活については、確信を持って答えた。
そういう兆候があるんだろう。
ということは、確実に魔神側から目を付けられるわけか。
この状態で、もし仮に、真神教の傘下に入ったとしたら、真っ先に狙われる可能性が大で、さりとて魔神側についても真神教と戦わされるわけで……。
あれ? 俺の人生詰んでね?
「……魔神エルメスの弟子になったら、真神教と戦うってことですよね?」
「そうなるな」
「命を狙われる危険が多くなるんですよね?」
「その時に自分で何とか出来るように、儂がお主を鍛えてやる」
「……」
どうすればいいだろうか……。
そんな命のやり取りに積極的に参加するなんて、性根が平和ボケした日本人の俺には出来ない。
決めたことは最後まで投げないで、それで魔導師にでもなれたらいいな、っていう程度に考えていたのに……。
どうしてこうなった……。
「……もし、ここでお主が拒絶すれば、儂は引っ張ってでもお主をエルメス様の下に連れて行かなければならん。そうなれば、お主には選択する権利すらなくなる」
悩む俺に業を煮やしたのか、オークスは鋭い口調でこの状況を説明した。
その目を見ると、最早子供を相手にしている目ではなかった。
「じゃが、お主が素直についてくるなら、儂も、そして恐らくエルメス様も、お主に生きる術を与え、どこにも縛られん自由な人生を得られるじゃろう」
エルメス様と共に戦わねばならんがのう。と付け足した上で、オークスはどこか懇願するかのような表情になって説得してきた。
よっぽど俺を弟子に、或いは魔神の傘下にしたいようだ。
しかし保証がない。
俺が魔神の傘下に入れば、真神側と戦うことになる。
戦っていれば、いずれ無詠唱のこともバレるだろう。
そうなれば俺の命だけでなく、カーリナやビクトル、ビアンカの命だって狙われるかもしれない。
今の俺には、他人はおろか、自分の命すら……。
「……ああ、そうか」
だからこそ、強くなればいいのか。
せっかく、強くしてくれる、って言ってくれる人がいるんだ。
どこまで信じれるかは分からないけれど、この人の下で強くなって、俺が家族を守ればいい。
そんな考えに至ると、何かストンと落ちるモノがあった。
俺は、ビクトル達のことをまだどこかで、本当の家族として見ていない部分があった。
でもビクトル達は俺のことを、本当の家族として見てくれている。
転生してきた、中身の歪な俺のことをだ。
そんなビクトル達のことを、俺は守りたい。
家族として接してくれる皆に、報いたい。
義務感とか責任感とかじゃなくこれは願望だ。
前世では何もできなかったし、親に何も返せないまま死んだ。
多分きっと、それを後悔しているんだと思う。
だから、俺は変わりたい。
何もしなかった自分から、家族を守れる自分に。
中途半端な覚悟では出来ないことだ。
家族の命を守るなら、生半可な努力では駄目だろう。
前世の俺のように、途中で投げ出すことも出来ない。
それはとても辛いことだと思う。
でも、どうせ命を狙われるかもしれないこの人生だ。
ならばせめて、何かを失って後悔しないようにしよう。
そうしなければ俺はいつまで経っても、何もできない俺のままだ。
「……分かりました。……僕を、弟子にしてください」
「……そうか……弟子になってくれるか……」
どこか、ホッとした様にオークスは言葉を漏らした。
彼自身にも、何か思い悩むところがあったんだろう。
一つ溜息をついたオークスは、指にいくつか嵌めていた指輪の内の一つを外すと、俺に差し出してきた。
「この指輪をお主に貸す。持っておきなさい」
その指輪を受け取って見てみる。
薄っすら青みが掛かった銀色で、なにやら模様や細かい文字のようなものがびっしりと書かれている。
装飾は、ダイヤのような宝石が四つ並んでいて、二つは青く輝いているが、残りの二つは透明だ。
「それはエルメス様に貰ったものじゃ。それを持っている者は、死を回避してくれる。しかし、4回使えたが2度使ってしまっての。あと2回しか使えんので気をつけるのじゃ」
成程、だから四つの内二つは透明なのか。
しかし本当にそんな効果があるのかよ? なんか嘘臭いな……。
そんなチートアイテム、普通はこんなガキに貸さないぞ。
「……そんな大切な物、僕が持っていていいんですか?」
「うむ。それはお主の身を守る為の物じゃ。危険な目に遭わせんように儂も気を付けるが、その指輪はいざという時のお守りじゃ」
一応は俺のことを考えてくれているようだ。
なら、これはオークスが言った通りお守りとして持っておこう。
「……ありがとうございます」
「うむ、後でチェーンも渡すが、絶対に失すでないぞ」
「はい」
取りあえずポケットに入れておくか。
「ところで、僕は先生の弟子になりましたけれど、カーリナも弟子にしてくれるんですか?」
「そうじゃな……。あの子にも才能があるからのう、ついでと言ってはなんじゃが、あの子も儂が鍛えてやるかのう」
「ありがとうございます。ではカーリナと一緒によろしくお願いします」
「ああ、今日からビシバシやるからの」
「……お手柔らかに、お願いします……」
どうやら今から本格的に鍛えられるらしい。
ごめんねカーリナ、これから厳しくなると思うけど、一緒に頑張ろうね!
「あーそうそう。お主にもう一つ言いたいのじゃが……。無詠唱のことは当然黙っておくにしても、儂の本名や称号のことについても黙っていておくれ。もちろん、カーリナや家族にもじゃ」
「……魔神の弟子だ、ってバレたらマズイからですか?」
「そういうことじゃ。言うときは儂から話すからの」
「分かりました」
まあこの国にも真神教がいるだろうから、バレたら面倒なことになるんだろう。
そのせいで俺や家族にも被害が及ぶかもしれないと思うと、おいそれと話すことは出来ない。
「取りあえず話はこれくらいにして、そろそろ戻ろうかの」
「はい。カーリナも心配してますし」
「そうじゃな」
話も纏まり、カーリナの所へ戻る。
戻るなりカーリナは俺に抱きついてきた。
どうやら心配と寂しさで我慢できなかったらしい。
ああ、ごめんよ! お兄ちゃん、もう心配させたりしないからね!
その後しばらくは、カーリナはオークスのことを警戒していたようだった。
だが、夕方まで魔術について基本的なことを、ビアンカに教わったことと似たようなことを教わっていたら徐々に警戒を解いていったようで、、ビクトルが迎えに来るころにはここへ来たときと変わらない態度で接していた。
帰りには俺と一緒に手を振って別れたくらいだ。
帰り際にオークスから……これからはオークス先生か、一冊の広辞苑みたいな本を渡された。
タイトルは”魔神エルメスの伝説”なんてベタなタイトルの本だ。
これを読んで魔神のことについて知って欲しいらしい。
ビアンカは魔神の本を見つけられなかったみたいだが、まあ宗教的な問題もあって出回っている数も少ないんだろう。
取り敢えずはこの本で魔神について勉強しておくか。
「そういえばお父さん、この町にも真神教の影響ってあるの? 教徒はいたりする?」
帰りの際、俺とカーリナの手を引くビクトルに気になったことを聞いてみる。
ビクトルは意外そうな顔をして答えてくれた。
「ああ、この町にも真神教徒は何人かいるよ。帝国の教会にいるような狂信的な教徒じゃないけれどね。真神教が気になるのかい?」
「うん、真神教徒になる気はないけど。お父さんは真神教なの?」
「いや、お父さんは称号信仰だよ。知ってるかい? 称号信仰。昔は僕も称号を貰えるように、って頑張ってはいたんだよ。でもベルやカーリほど才能はなかったみたいでね……。だから二人には頑張って欲しいな」
ビクトルは自分のことを才能がない、と言っていたが、その顔はとても誇らしげであった。
自分の息子娘が夢を受け継いでくれるかもしれない。
そんなことを思っているのだろうか。
「でも僕は称号なんていらないです」
「え? どうしてだい? ベルならきっと凄い称号を貰えると思うけどなぁ……」
「魔導師にはなりたいけれど、そこまで目立ちたくないから」
「そうかぁ……」
あ、がっかりしてらっしゃる。
すまんねえ、無詠唱のことがバレたら面倒なことになるのでね。
「ねえ、しょうごうって何? しんじん教って?」
「ああそれはだね―――」
宗教の名前が出て気になったのか、カーリナがビクトルに聞いていた。
それをビクトルが説明していく。
そんな光景を傍目に、俺は今日のことを思い返す。
結局、俺は魔神側の陣営に付くことになった。
魔神対真神。
右も左も分からないこの世界で、何が正しいのか、どちらが正しいのかも分からず、ただ巻き込まれただけに過ぎない俺に何が出来るのかが分からないが、せめて何も失わないように、家族を守れるようになろう。
ただただ、そう決意した。
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さて、改めて決意したはいいものの、まずは情報だ。
みんなが寝静まった中、カーリナを起こさないようにベッドから降りる。
いいだろう?いつも可愛い妹と一緒のベッドで寝ているんだぜ!
……今はそんなこと置いとくとして、本を出して部屋の椅子に座る。
今日借りた”魔神エルメスの伝説”だ。貸し出し期限は知らん。
別に家族に隠すつもりはないが、なんとなく隠れて読んでしまう。
というか夜遅くまで起きているとビアンカがうるさいんだよ……。
蝋燭に火をつけ、表紙をめくる。
あ、27年前の本か。
「なになに……『ここに、我々称号信仰信徒団が調べ上げた魔神エルメスについてを書き記す。~製作 称号信仰信徒団~』」
―魔神エルメスは505年前、真神暦では497年に大陸中央部の国、ハルメニア王国の前身であるロクサネ王国の西部に人族として生まれる。
一説では捨て子であったとされるが詳細は不明。
幼少期から魔導師に至る程の才能を有し、様々な魔術の教育を受ける。
また少年時代には魔術だけでなく、剣術や格闘術の厳しい教育を受け、10を超える頃には国の騎士団員をも下す程に強くなったと言われている。
青年時代には冒険者として世界を回りながら自身の魔術の修練に励んだ。
あるときロクサネ王国の王宮魔術師として召抱えられ不老長寿の研究を始めたとされており、当時の国王、ニコラオス三世から莫大な資金援助を受けていた。(一説には冒険者時代からすでに始めていたとも)
それから10年程で”不老の法”を完成させ、ニコラオス三世に献上し、自身も不老の法を使って不老となり様々な研究を開始した。
77年後、不老となったニコラオス三世が精神に異状を負い、国を恐怖政治で支配しようとしたが、反乱が起きた為に権威は失墜する。
その隙を突く形で大アレキサンドリア帝国が侵攻、瞬く間に王国を制圧する。
その際の戦闘にて当時のエルメスは、一度の戦闘で数千人数万人を殺害したと伝わっている。
この頃から彼は、”魔神”の称号を得ることになる。
368年前、真神暦では634年に東部連合の設立に深く関わる。
当時、ロクサネ王国を併合しさらに東部へ侵攻していた帝国の脅威に対抗するために、或いはこの当時からすでに強い敵意を真神教に抱いていたエルメスが、大陸の東部中を駆け巡ってこれを設立させたといわれている。
同時期、エルメスは当時存在していた”雷神イワン”と親交を深め、共に格闘術の研究に励む。
そうして生まれたのが”魔神流格闘術”と”雷神流格闘術”であった。
それから100年程攻防を繰り返し、ついに旧ロクサネ王国領を取り戻した際、現在のハルメニア王国を建国させる。
その間には当時ガニメデ大陸の中央部、旧ロクサネ王国では破壊神が猛威を振るっており、激闘の末これを打ち破ったと言われているが、このことについてエルメスは明言を避けているため、ハッキリとしたことは分かっていない。
それからは研究開発と真神教との戦いの日々であった。
その研究の成果として様々な魔導具の開発に成功する。
代表的なのが”電話”、”ラジオ”、”バッテリー”や”魔力増幅剤”等、様々な魔導具を創り、東部連合の発展を助けた。(しかし、これらの発明については真神教が創ったと主張している)
また、彼には多くの弟子がいたことで有名でもある。
”夜神ブレッド・ハルフォード”、”煉獄のアイラ・ヘス”、”剣皇フェリクス・ファーランド”、”雷光のオークス”、”鉄拳のボリス・アシモフ”等が現在では有名である。
特に”夜神ブレッド・ハルフォード”は有名で、東部連合設立時には既にエルメスの弟子、或いは配下として活動していたことが記録されている。
魔神エルメスの、真神に対する怒りはどういった経緯でなるものなのかは諸説ある。
家族が殺害されたとする説、妻子が殺されたとする説、国を滅ぼされたとする説と、多岐に亘る。
いずれにしても、彼が真神教そのものを相手にしているのは強い怒りと憎しみによるものである。
そして、魔神エルメスは今も、真神教の敵として活動を続けている。
「……で、今は封印されている、と。なるほどね。というかオークス先生のことも書いてるな……。まあ魔導師だもんなあの人」
しかし、同じ”神”の称号を持っている夜神が弟子とは、エルメスって人は凄いんだな。
魔神、っていうからちょっと勘違いしていたな。
それに魔神が開発した物も気になる。
電話やラジオとかも魔神が作ったのか。
魔力増幅剤ってのも気になる。
実は俺と同じように転生者だったりして。
……だとしたら、少し会ってみたくなったな。
まだどんな人かは分からないし、恐ろしい奴かもしれないけれど、案外話しの分かる人かもしれない。
まあそのうちオークス先生が半強制的に引き合わせるだろうから、それまでにちょっとでも舐められないように強くなろう。
取りあえず、本にまとめておくか。
「あふぁあぁ~……起きすぎた、いい加減もう寝よう……」
本を読むことに夢中になってしまった。
あ、イカン。もう限界かもしれん。
隣からごめんねカーリナ。お兄ちゃんも一緒に寝るからね。
……しかし、毎日妹と一緒のベッドに寝ているとこう……クるものがあるな。
いや駄目なことなんだけどね? ほらあれだ、光源氏的なことを意識したりするのよ。
しかし5歳児で妹だぞ? 妹として愛していても、恋愛対象として見ては駄目だ! と自分に言い聞かせている。
ただ、たまに本当の兄弟じゃなければなぁ……。なんて思ってしまうわけで……。
……あーうん。ちょっとヤバイ思考に走りかけている。
カーリナは大事な妹だ。それでFA。
うん、よし、寝よう!
明日、もオークス先生のところに行くんだ。
少しでも疲れをとらないとな。
でも最後にカーリナの頭だけでも撫でよう。
……ああ、幸せだな……。