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第44話:防衛戦~第二城壁~

二話同時です。

本当にごめんなさい!

 「おい起きろ貴様ら!」

 「がッ!?」


 突然、頭に痛みが走る。

 誰かに蹴られたのか?


 ハッとなって怒鳴り声のする方に顔を向ける。

 するとそこには、オッサン騎士とは違う騎士のおっさんがいた。

 誰だアンタ? というか空暗いな……。


 ……いや、どうやら俺達は、いつの間にか寝ていたようだ。

 どうりで空が暗いわけだ。


 「起きたか! ならさっさと立て! 貴様らは居住区側の第二城壁を守れ!」


 やがてその騎士は、俺を無理やり立たせるとそれだけを言って他の兵士の所へ去って行った。

 何だったんだ、アイツ? というかオッサン騎士の姿が見えないな……どうしたんだろうか?


 「い、っつつ……何も蹴らなくてもいいじゃない……」

 「まったくだ。ちょっとくらい寝させてくれてもいいだろうが」


 俺と同じように蹴られたのだろうか、フェリシアとバシルも起きたようで、その場に立ち上がった。


 「……うっかり寝ちゃったけど、まだこの城塞は陥落していないようだな」


 じゃなけりゃ、城壁を守れなんて言わないだろうからな。


 「そうね。外がやけに静かだけど……」

 「敵の攻撃が、一時的に止まったんだろう」


 フェリシアに言われ、そう言えばと耳を澄ませると、聞こえるのは第二城壁内にいる兵士達の喧騒だけだった。

 バシルの見解では、戦闘が一時中断になっているかもしれないらしい。

 どういうことだ?


 「何で敵は攻めてこないんだ?」

 「戦力を入れ替えるついでに、再度降伏を促してるんだろうな」


 そうか……敵もかなり消耗しただろうからな。

 ここで傷ついた兵士を、部隊ごと入れ替えて有利に戦おう、てことか。


 「それよりも、言われた通りにしましょ」

 「ああ」

 「そうだな」


 フェリシアに促され、俺とバシルがそれぞれ返事をする。

 そしてそのまま、俺達は第二城壁を登り、言われた場所で待機することに。


 一度寝たからか、さっきまでの憂鬱で不快なあの感情が、少しだが、マシになったようだ。


 言われた場所に着くと、そこには既に、他の兵士が2千人程の兵士が待機していた。

 皆満身創痍で、体のあちこちに包帯を巻いている。

 その中にビクトルやフェリクスの姿は……ないのか。


 心配だ……二人とも無事ならいいが……。


 「よう! 疲れは取れたか?」

 「ってうおっ! フェリクスさん!」

 「何をそんなに驚いてやがんだ?」


 だっていきなり背後から声を掛けてくるんだもん。

 そりゃ驚くでしょ。


 「無事だったのね、お父さん……」

 「あたぼーよ! 俺が簡単にくたばってたまるか!」


 父親の姿を無事が確認できて安堵したのか、フェリシアはホッとした様子でフェリクスに話しかけ、それをフェリクスが笑って応えた。

 彼の体には細かい傷はあれど、剣や槍による切り傷の類は全く無い。

 流石は称号付と言ったところか……。


 「剣皇さん、状況はどうなってるんですか?」

 「おうバシル。状況は……芳しくねぇな。こっちはもう2万人も残ってねぇ上に、皆疲れてる。それに比べて、敵もかなり消耗しただろうが、温存していた兵力と入れ替えるくらい余裕があるからな……参ったぜ! はっはっは!」


 バシルの質問にあっけらかんと答えるフェリクス。

 いや笑ってる場合じゃないだろ……。

 4分の3も減ってんじゃねぇか。

 普通降伏するだろ……。


 「……それで結局、戦神はいたんですか?」

 「……いや、奴はいなかった……どうやらベルホルトが言ったみたいに、ここにも来ていないみたいだな」


 フェリクスは戦神と戦っていないみたいだ。

 ま、いたらいたで、フェリクスもこんなに余裕がなかっただろうしな。

 一先ず、フェリクスが無事でよかった。


 「これからどうなるのかしら……」


 ふと、フェリシアが不安げに呟いた。

 多分それは、俺達や他の兵士達が皆思っていることだろう。

 これだけの劣勢の中、どうすれば勝ち目が……いや、生き残れるのか。

 そんなことばかり考えてしまいそうだ。


 「どうなるだろうな……さっきまた降伏を呼び掛けて来たが、どうもここの将軍はやる気みたいだ。メノンはもう落ちたらしいし、どうなるかね……」

 「ちょっと待ってください」

 「あん? なんだバシル?」

 「メノンは落ちたのですか!?」


 フェリクスは頭をボリボリと掻きながら言っていたが、その際バシルが驚愕の表情でフェリクスに詰め寄った。


 「ああ落ちた、って聞いたぜ。もうこの砦を放棄するから後は頼む。みたいなことを電話で言われたらしくてな、残存兵力は王都に向かっているんだと」

 「まさか……あそこには夜神がいたハズでは?」

 「確かにブレットさんがあそこにいるはずだが、あの人は夜族だからな。昼間じゃ本来の力が出ねぇんだろ。それに、あの人一人でどうにか出来る戦力差じゃないだろうしな」

 「そう、ですか……」


 あっさりとフェリクスに言われ、バシルは意気消沈する。

 夜神って、神の称号を持っているのに……そんな人でも数の暴力には勝てないのか。

 昼間だったから、って言うのもあるだろうけど……。


 「じゃ、そういうことで俺はまた官庁舎に戻って偉ぇ奴らと話をしてくるわ」

 「気を付けてね、お父さん!」

 「おう! お前らも死ぬなよ!」


 やがて言いたいことは言った、という感じでフェリクスは俺達に背を向け、手をヒラヒラさせながら官庁舎へと向かった。

 俺はそんな彼の背中を見送りつつ、そう言えばビクトルのことを聞かなければ、と思い出したのでフェリクスに聞いてみることに。


 「フェリクスさん!」

 「ああ? なんだベルホルト?」

 「父さんを見ていないですか?」

 「ビクトルか? あー……悪い、見てねぇな」

 「そうですか……」


 俺の問いかけにフェリクスは一旦立ち止まり、俺の方に顔を向けたが、しかし心当たりが無かったのだろう。彼は申し訳なさそうに謝った。

 ……そうか、見ていないのか。


 「見かけたら無理すんな、ってお前が言ってたって伝えとくぜ」

 「……別にいいですけど」


 だが彼はすぐにニッと笑い、再び官庁舎へ向かって歩き出す。

 そんな後ろ姿に頼もしさを感じながらも、やはり思う所はビクトルのことだ。

 フェリクスの話では、こちらの兵力は2万人を切っているらしい。

 その戦死者の中に、ビクトルが入っているわけじゃ……。


 「大丈夫よベル。おじさまは絶対に無事よ」

 「フェリ……」


 どうやらフェリシアに心配されたみたいだ。

 彼女は俺の肩に手を置くと、優しく微笑んでくれた。


 ……ああヤバイ。ちょっと今のはグッときたな……。

 カーリナやクリスと別れて、寂しかったのかもしれない。

 或いは、戦いに疲れてるのかもな。


 「取りあえず、状況が動くまでここで待機していましょ」

 「ああそうだな」


 フェリクスも行っちゃったし、後は戦闘が再開されるのを待つだけだ。

 待ちたくないけど。

 フェリシアに促され、俺はその場座ろうとしたのだが……。


 「悪い、ちょっと付き合えベルホルト」

 「あ? なんだよ急に……」

 「いいから。アレだ、ツレションだ」

 「あ~、はいはい」

 「え? あ……もう! すぐに戻って来なさいよね!」

 「悪いなフェリシア。すぐに戻る」


 ということで、何故かバシルとツレションに行くことに。

 何故か、フェリシアが腰に手を当ててプリプリと怒っていたが、気にしないでおこう。多分フェリシアは一人にされて寂しいのだろう。


 で、居住区側から商業区側へと城壁を伝って歩き、少し離れた所で壁の外側に向かい、二人して放尿を開始する。

 他にも兵士達がいたが、俺達が立小便をしていても最早誰も文句を言ってこなかった。それだけ疲れていたのだろう。


 ダムの放水を開始してから少しすると、バシルが俺にしか聞こえない声で話しかけて来た。


 「……お前さ……もしかして、無詠唱で魔術使えたりするのか?」

 「……は?」


 どういうこと? なんでそれを?


 「お前さっきの戦いで俺を庇った時、無詠唱でリザーブを使っていなかったか?」

 「…………あっ!!」


 もしかしてあの時か!? 敵の魔術師と魔術の撃ち合いをしていたあの時!

 確かに、あの時は咄嗟にバシルを守ったが……。

 言われてみれば、確かに無詠唱で魔術を使った気がする……!

 し、しまった!


 「その『あっ!』って言うのはなんだ? お前もしかして本当に……」

 「……使えるよ」


 無詠唱で。魔術とか魔法を。

 ここで隠したって、無駄だろうな。


 「……このことは、黙っておいた方がいいのか?」

 「ああ……頼む」

 「フェリシアやカーリナにもか?」

 「いや、二人とも知ってる」

 「そうか……後で詳しく聞かせろよ?」

 「分かった」


 しまったな……下手こいたな。

 いくらバシルを守る為とは言え、無詠唱で魔術を使うとは……。

 いやでも、あれはバシルを守る為に仕方なかったんだ。

 そのお陰で、バシルはこうして生きているんだしな。

 本人は複雑な表情をしているが……。


 ……いやいや待て待て! そう言えばあの時、敵の魔術師はもう一人生きていたよな?

 仕留める前に俺達が退いたから、多分まだ生きているハズ……あれ? これやばくね?

 これ、敵に露見したんじゃ……。


 「ところでお前、フェリシアのことどう思ってるんだ?」

 「ファッ!? なな、何でいきなり? は、話変わり過ぎだろ!」

 「お前は何でそんなに動揺してるんだよ……」


 なんなんだ藪から棒に。

 お陰で出るもんも引っ込んじまったじゃねぇか。

 というかコイツ、カーリナというものがありながら……。


 「まさかお前、俺のカーリを捨ててフェリに――」

 「ちげぇよ! フェリシアがお前のこと好きなんじゃないのか。って言いたいんだよ!」

 「えっ! あぁ……うん」


 そう言うことか。フェリシアが俺のことをね。

 ……いや、うん。薄っすら、と言うか、なんとなくそうじゃないかなー? っていうくらいには思ってたんだよ?


 「だから、お前はあの子のことをどう思っているんだよ? って聞いたんだ」

 「あ~……」


 ま、色々思う所はあるが……。

 と、どう言おうか迷いつつ、モノを仕舞うバシルを横目で見る。

 仕舞い終えたバシルは、かなり興味深そうな様子で俺をジッと見つめ返してきた。

 そんなに気になるのか。


 「……クリスのことがあって、そんなに日も経っていないだろ?」

 「ああ、3日くらいしか経ってないな」

 「だろ? なのに、こんな簡単にフェリになびくのも、なんか違う気がしたんだよ」

 「クリスティアネ殿下に遠慮しているのか?」

 「有体に言えば、そうかな……」


 遠慮、しているんだろうな。

 というか、俺がただ未練がましいだけなんだろうけど。

 心の底では、まだクリスのことが好きなんだろうなぁ……。

 やさしくて、可愛くて、お淑やかで、俺のドストライクな子だったもんな。


 そんな風に涙がホロリと零れそうになるのを我慢していたが、バシルはフッと笑みを湛えると、フェリシアの所に向かって歩き出した。


 「でも、いつかはフェリシアの気持ちに応えてやれよ? じゃないといつか愛想つかされるぞ?」


 なんて言いながら。

 おのれ、バシルめ!


 「うるせー! そんなこと分かってるっての!」

 「ハハハ!」


 笑いながら歩くバシルに、俺はその後を追う。

 まったく……いつになってもムカつく奴だ。


 ただ、そんなバシルのお陰か、気持ちが大分楽になってきた気がする。

 戦闘は、これからもまだまだ続くが、それでも、フェリシアやバシルと一緒なら乗り越えていけそうだ。


 ……絶対に、生きて帰ろう。


 フェリシアの許に戻ると、彼女は一瞬顔を綻ばせるも、またいつも通りのツンデレを発揮下させた。


 「ふ、ふん! すぐに済ませてこないから逃げたのかと思ったわ。 べ、別に寂しかったわけじゃないんだからね!」

 「何も言ってないんだけどな……」


 そうやってすぐに本音が出ちゃうところも相変わらずだ。

 というか寂しかったんだな。ごめんよー。


 「ま、取りあえず、だ。ここにいる兵士達の怪我を何とかしてやろうぜ」

 「ああ、そうだな」


 帰ってくるなり、バシルが周りにいた兵士達の姿を見て言った。

 確かに、ここの兵士達の殆どが怪我をしている。


 「余り魔力を使い過ぎないでね?」

 「やれるところまでやるよ」


 フェリシアに心配されたが、俺はそんなに魔力を消耗したっていう感覚が無い。

 多分バシルの方がヤバイだろうけど、魔力増幅剤っていうエナジードリンクみたいなのがどこかにあったはずだし、それを飲めばコイツも大丈夫だろう。


 そう言うことで、近くにいた兵士に治療魔術を掛けようとした時だ。


 「いてっ!? なんだ! 敵襲か?!」


 突然、上から何かが俺に覆いかぶさり、慌てて払いのけると、腰の剣を抜きつついでも魔術が撃てるように構えた。

 第二城壁の外の方を見てみると、どうやらそこかしこから何かが飛び込んできているようだ。


 敵か!?


 「ベル、これ……」

 「どうした、フェリ?」

 「おい、これって!」


 フェリシアがその飛び込んできた何かをワナワナと震えながら指差す。

 その先にあるものに、バシルは気付いたようだ。


 それは……死体だった。

 裸に剥かれ、生々しい傷跡がそのままにされた……死体だ。

 それがあちこちから……恐らく敵がレパルションでも使ったのだろう……投げ込まれ、あちこちでグチャリと音を立てている。


 死体が、仲間やこの街の住人だったのだろう彼ら(・・)が次々に投げ込まれるのを見た兵士達は、怒号や悲鳴を上げ、城壁の上や官庁区内は混乱に陥った。

 中には必要以上に暴行を受けたモノや、穴と言う穴を使われた(・・・・)女性の死体も紛れている。


 どれも皆、苦痛に満ちた死に顔だ。


 「おいベルホルト。この人……」

 「あ?」


 茫然とその場に立ち尽くしてい俺は、バシルに呼ばれるがままに振り向くと、バシルは顔面蒼白になってある死体を見ていた。

 俺も釣られてソレをみる。


 「この人って、まさか……!」


 その死体はオッサン騎士だった。

 裸に剥かれ、頭の半分が削ぎ落ちていて、中身も……。


 「う゛っ! うげっ、え゛え゛ぇ゛っ!!」

 「ベル! ベルッ!!」


 ああああああああっ!

 何なんだよチクショウ! さっきまでこんな嫌な気持ちを上手く誤魔化せていたのに!!

 何で……。


 「何でこんな……」


 クソっ……涙が止まらない。

 フェリシアが背中を摩ってくれなかったら、今頃大声で泣いていただろうな。


 あんまり話とかしていなかったのに、知り合いのオッサン騎士でこれだ。

 もしこの死体の中に、ビクトルがいたら……。

 ああ駄目だ……体の力が……。


 「敵襲-! 敵が攻めて来たぞー!!」

 「敵? このタイミングで来るの?!」

 「このタイミングだからだろ。ああクソっ! 連中やりやがったな!」


 なんかもう、訳が分からん。

 なんだよ、このタイミングで敵が来るのか?

 ああ、クソッ! やるしかないのか?


 「ベル、ベル! 敵が来るわ、立って! 立ち上がって!」

 「だ、大丈夫……もう、大丈夫、だから」


 辺りで敵襲を知らせるラッパが鳴り響き、混乱していた兵士達が敵に備えていく中、俺はフェリシアに腕を引っ張られていた。


 泣いて、蹲っていたら、フェリシアやバシルに迷惑を掛けてしまう。

 ここは、踏ん張らなければ……。


 「来たぞ!」


 やがて暗がりの中、城壁を登って来る敵を視認したバシルが叫び、剣を抜いて敵を迎え討つ。

 フェリシアも俺の前に立って剣を構え、迫りくる敵を次々と切り伏せていった。


 俺も、戦わないと。


 「『サンダーボルト』! 『サンダーショット』!」

 「がぁっ!」

 「ぐがっ!?」


 ふらつく足で必死に立ち、バシルに迫っていた敵を、或いはフェリシアが逃した敵を俺が魔術で撃つ。

 周りの兵士達も、満身創痍なのに上手く敵を押しとどめている。

 さっきまで混乱していたのがうそのようだ。


 だがそれでも、敵の数は減らない。

 止めどなく出てくる、湧き水みたいに。


 「ベルホルト! 魔法で一掃してくれ!」

 「分かった、『ランペッジャメント』!」


 敵の集団に魔法を放つ。

 また大勢を殺してしまった。

 でも、もう何も感じない。


 「『ランペッジャメント』」


 また敵が来る。

 また魔法を使う。

 また人を殺す。

 まるでそういう工場か何かだ。


 「……『ランペッジャメント』『ランペッジャメント』」

 「ベル……」


 なんかもう、作業をしている気分になってきた。

 淡々と魔法を撃って敵を殺す。そんな単純作業だ。


 なんかフェリシアに引かれてる気がするけど……俺、壊れたのかな?

 というか、もうこれ勝てないだろ。

 こんなになるまで戦うなんて馬鹿じゃねーの?


 「『ランペッジャメント』」

 「り、『リザーブ』!」


 ボーっと魔法を使っていたら、敵に止められた。

 そりゃそうだ、これだけボンボン魔法を使ってたら対処されるだろうさ。


 「ベル!」


 あぁ、悪いフェリシア。こっちに敵が殺到してきちゃったな。

 さっきから魔法ばかり使っていた俺に、いつの間にか敵が迫っていた。

 駄目だ、なんかもう、フェリシアに守られてばっかりだ。

 今もこうして彼女が守ってくれなかったらやられてたかもしれない。

 だってもう、立つのもやっとだから……。


 「バカ野郎ベルホルト! 避けろぉっ!!」

 「え?」


 すると突然、バシルが俺を突き飛ばしてきた。

 痛い、何で? 何が起きた?

 バシルに突き飛ばされて尻餅をつき、何が起きたのかと混乱していたら、当のバシルも俺に覆いかぶさるように倒れてくる。


 「は? おいバシル、どうしたんだよ? なんでいきなり……」


 倒れたバシル揺さぶって声を掛けるが、あることに気が付いた。

 バシルの背中には、何故か、3本の棒が刺さっている。

 ……え?


 「覚悟ぉお!!」

 「ぅ、ぁああ!」


 直後、三人の敵が腰の剣を抜いて俺に斬りかかって来る。

 咄嗟にまた、無詠唱でランペッジャメントを撃つと、その三人は電撃を喰らってその場に倒れた。


 「ハァ……ハァ……あっ、バシルっ!!」


 敵を倒し、ハッとなってバシルを見る。

 よくよく見て見ると、バシルの背中に刺さっていたのは敵が使う槍だった。

 それが、胸の辺りを貫通して……。


 「バシル! おいバシル!!」

 「……うぅ……ぁぁ……が……」

 「待ってろ! 今治療魔術を掛けてやるから!」


 ど、どうすればいい? どうすればバシルは助かる!?

 ま、まずは背中の槍を抜いて、それから治療魔術で……。


 おい待てよ! なんでそんなに血吐いてんだよ!?

 そ、そんな悲しそうな目で見るなよ……。


 「このぉお! 二人に近づくなっ!」


 フェリシアが敵から守ってくれている今しかない!


 「バシル、痛いけど我慢してくれよ? 槍を抜くから……な、なんだ? 何を言ってんだ?」

 「……! ……っ! ……」


 ガクガクと震え、俺を真っ直ぐに見つめるバシルは、何かを伝えようと必死に口を動かしていたが、最早言葉が出ていない……何を言ってるのかハッキリ言ってくれないと、分からないだろ!

 頼むから持ち堪えてくれ!


 「……ぁ、ぅ……ぅぅ――」


 ただ、そんな俺の想いも虚しく槍を引き抜こうとした瞬間、バシルの目は焦点を失い、息を吐いたかと思うと、そのまま動かなくなってしまった……。


 「バシル? バシル! バシルっ!!」


 どれだけ揺さぶっても、バシルは何の反応も見せてこない。

 目は虚ろに地面を見ているだけでピクリともしなかった。


 ……待てよ……待ってくれよ! なんでこんなことに!


 「おい、冗談はやめろよ! 帰ったらカーリに告白するんじゃなかったのかよ!? おいこっち見ろよバシル! ……クソっ! 『グランドヒール』! 『グランドヒール』!」


 俺は動かなくなったバシルに、何度もグランドヒールを掛けた。

 何度も、何度も。

 目の前が涙で霞み、周りの喧騒も聞こえてこない。

 俺はただ、バシルに治療魔術を掛け続けた。


 「退却! 退却ーー! 将軍の首が打ち取られたぞー! 各自王都まで落ち延びろー!」


 誰かの声が聞こえた気がする。

 うるさい! 俺はバシルを置いて逃げられるか!


 「ベル! 逃げるわよ! お願い、ベル!」


 フェリシアが戦いながら何かを言っている気がするが、俺は気に掛けることもなく治療魔術を使う。

 もう詠唱するのも馬鹿らしくなって、途中から無詠唱で使っていた。


 それでも、バシルは起き上がらない……。


 だが次の瞬間、誰かに胸倉を掴まれて力ずくで引っ張られ、その勢いで振り向くと左頬を何かで殴られた。


 「お父さん!!」

 「フェリ! ここはもう駄目だ! 逃げるぞ!!」

 「で、でもどこへ!?」

 「ファラスに決まってるだろ!」


 俺を殴ったのはフェリクスだ。

 彼は右手で俺を殴りつけると、迫りくる敵をフェリシアと共に切り伏せていく。

 なんでフェリクスがここに……あっ、さっき退却するって誰かが叫んでたな……。

 じゃぁさっきここに来たのか。


 「テメェいつまでへたり込んでんだ!? 強化魔術を使って敵を振り切るぞ!」

 「え、でも、バシルが……」

 「バシルは死んだんだろうが!」


 尚も戦い続けるフェリクスの怒声が俺に事実を突きつけた。


 そうだ……バシルはもう、死んだんだ。


 俺はやっと、息絶えたバシルに目をやりながらそれ(・・)を理解した。


 「ベル」

 「……フェリ」


 フェリシアがそっと俺の肩に手を置く。

 その表情は、どこか悲しげだった。


 そしてフェリクスを先頭に、強化魔術を使った俺はフェリシアと城壁の上を走った。

 先頭のフェリクスが敵を斬り、俺とフェリシアが魔術と剣でそれをサポートする。

 やがて商業区側まで走って来ると、フェリクス達はそのまま城壁を飛び降り、東の門に向かって一目散に走って行く。


 俺もそれに続こうと足を踏み出そうとしたが、その前に一度バシルのいる方へ振り向いた。


 「ごめん、バシル」


 何のつもりでそう言ったのかは、俺自身分かっていない。

 ただそれだけ言うと、俺もフェリクス達の後を追って城壁から飛び降りた。


 いくら強化魔術を使っているからと言って、20メートルくらいの高さから飛び降りるのはかなり勇気のいることだが、敵も強化魔術で追撃してきていることを考えると怖がっている場合じゃない。


 ただ、上手く着地できずに転んでしまったが、またすぐに立ち上がって走り出す。

 少し走っていると、城門に辿り着き、他に退却してきていた兵士達と合流して門を開け、外に出た。


 外では既に、敵が包囲せんと敵兵が城壁の外側から迫って来ていたが、俺達は目の前の森林へ駆け込み、そのままひたすら走り続ける。

 それは他の兵士達も一緒で、ある者は馬に乗り、ある者は強化魔術もせずに走っていた。

 俺がざっと見たところ、仲間は千人もいなかったと思う。


 ただ、夜の闇に紛れて、俺達は走り続けた。

次回は7月16日の投稿です。

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