表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/61

第37話:魔導祭前編

 今日は待ちに待った魔導祭本番1日目。

 朝、召喚魔術の教場に俺達青組総勢160人弱が集まり、最後の集会となった。


 「み、皆いいかい? きょ、今日がまま、魔導祭の本番で、えーっと……」

 「サマラス先輩緊張し過ぎですよ」

 「しょ、しょうがないじゃないか! 僕のが、ガラじゃないんだ!」


 その際、サマラス先輩がドーナツ状に集まった皆の中心に立って演説しうとしたが、どうやら人前に立つのは慣れていないようだ。

 1年生の後輩から鋭いツッコミを受けて慌てるサマラス。

 その姿を見て一同声を上げて笑った。


 皆、心は一つになっている。


 「こ、こういうのは、ベルホルト君に頼むよ……」

 「えっ? 俺ですか?」


 「ベルホルト君の方が頼りになるじゃないか」と恥ずかしそうにサマラスが言ってきたが、俺もそんなガラじゃないしな……。

 バシルにパスするか。


 「……バシル、頼んだ」

 「あ? 俺かよ……」


 しょうがねえな、なんて言いつつも、バシルは満更でもない感じで輪の中心に立ち、スッと真面目な顔になると、目力を込めて周囲を見渡した。


 「今日まで俺達には、色んな課題があった」


 淡々と、しかしハッキリと聞こえてくるその言葉に、俺も、皆も真剣な表情で聞き入る。


 「誰がどの競技をするのか、誰がどういう役割をするのか、どうすれば勝てるか、そして、皆の心が纏まるにはどうするのか。色々あったと思う。その中で様々な衝突や軋轢もあった」


 2ヶ月前まで、俺達は一つに纏まることすら出来なかった。

 しかし、切っ掛けは些細なものだったが、皆が優勝を目指して一丸となったお陰で、大きな希望になったと思う。

 ……ちょっと臭いことだが。


 「それらを全部乗り越えて、俺達は今日の本番に臨むことが出来た。

 最初は、俺達2年生やジューダス教授が白組に馬鹿にされたのが始まりだ。

 そこから白組に勝つために皆が集まり、そして優勝を目指すようになった。

 相手は白組だけじゃない。赤組も、緑組も、黄組にも勝たないといけない。

 だけど、今の俺達ならやれる! 優勝できる! そうだろ!?」


 おうっ!!


 バシルの熱い想いに、皆が応えた。

 この熱気が、気持ちが、やる気が青組を一つにしている。


 「だったら目指すは一つ! 優勝だ! やってやろうぜっ!!」


 おおおおおおっ!!


 教場内のボルテージも最大限に高まり、バシルが拳を天井に向かて突き出しながら叫ぶ。

 そして俺達もバシルに応じ、拳を天井に突き上げた。

 先輩後輩関係なく、隣りにいる仲間の肩を叩き合ったり、拳を突き合わせたりしていて、皆やる気に満ち溢れた様子だ。

 最初は大丈夫かよ、って思っていたが、こうして纏まってみれば何とも頼もしく感じるものなんだな……。


 うん、よし! 俺も、皆の胸を借りるつもりでブラウとの決闘に挑もう!


 俺、魔導祭が終わったらクリスに告白するんだ!


 「皆、俺達からも提案がある。一度注目してくれ!」


 輪の外で話を聞いていたジューダス……というか教授達だが、彼は俺達の注目を集めて宣言した。


 「もし、優勝したら飯を奢ってやろう! 勿論、酒付きだ!」

 「うおおおおおお!!」

 「教授の奢りだ!」

 「やったぁあああ!」

 「優勝するぞー!」


 どうやら優勝した暁には、教授達が奢ってくれるらしい!

 うひょーい! 俄然やる気出てきた!


 ……というか――。


 「バシル、お前の演説より盛り上がったな」

 「……うるさい、お前が言わなかったせいだろうが」

 「あ?」

 「は?」


 バシルめ、ああ言えばこう言いやがる……。

 売り言葉に買い言葉でメンチを切り合うが……。


 「ほらほら二人とも、今日ぐらいは仲良くしようよ」

 「うるせぇ、魔道具オタクは黙ってろ」

 「余計な口は挟むな」

 「あんたらほんと仲いいっスね……」


 俺としては何故アールが呆れているのかが分からん。

 あと誰がコイツと仲が良いって?


 「はいはい、そろそろ開会式が始まるぞ! 皆気合入れて校庭に行くぞ!」


 と、手を叩きながら外へと促すジューダスに、おう! と応えて俺達はグラウンドへと出て行った。


 さて、いよいよ本番だ。



 _______________________________________________




 『――というわけでありまして、えー、そもそも魔導祭というのは、初代ハルメニア国王であるフィリップ王が、この学院を創設するに当たり、かの”魔神”エルメスより助言を受けたことで――』


 長ぇ!

 学院長の話が長すぎる!

 一体どんだけ話せば気が済むんだよ!

 まったく、どの世界でも校長の話は長いんだな。


 開会式の最期に学院長の話を聞いているのだが、その余りの長さに皆苛立ちが募っている気がする。

 というかこの雰囲気を察しないのかねぇ?

 なんてボンヤリ考えていると、壇上で饒舌になっている学院長に、バーコードが何やら耳打ちをした。


 『あ~……つまるところ、私が言いたかったのは、諸君、今日と明日は存分に力を発揮して頂きたい。以上!』

 『一同、礼』


 どうやらバーコードがあの学院長に話を切り上げるように促したようだ。

 グッジョブバーコード!

 生徒達から礼を受けた学院長も、肥満体質なその体をゆすりながら壇から降りた。

 まだまだ言い足りない、って顔してるぞ……。


 『これをもって、開会式を終了とします。最初の競技開始は、鐘楼の鐘の合図で始めますので各組準備を始めて下さい』


 やがてバーコードがそう締めくくって無事に開会式が終わり、俺やアール、バシルと一緒に青組に割り当てられた応援席に向かっていたが、その途中でカーリナ達いつもの三人に出くわした。


 「お兄ちゃん!」

 「お、出たな赤組三人衆」

 「なんですの? その魔物が出たような言い方は?」

 「……がおー」

 「ガオー!」

 「リンマオもカーリナもノらないで下さいまし」


 別に魔物が出たみたいに言ったつもりはないけどな……。

 あと以外にリンマオもノリがいいな。

 カーリナと一緒に、手で引っ掻く仕草をしながら鳴いている姿が中々可愛らしい。

 でも襲われたい方を選ぶなら、勿論カーリナだな。


 「おはよう、いよいよ本番だね。いくらイリーナたちが相手だからって手加減はしないよ!」

 「あら、アールも言いますわね。言っておきますけれど、わたくし達もそう簡単に負ける気はありませんわよ?」


 アールとイリーナのこのやり取りも、見ていて楽しそうだ。

 お互いに不敵な笑みを浮かべて対峙する様は、流石は幼馴染の二人と言ったところか。


 それに比べてバシルの奴、さっきのカーリナの仕草で緩み切った顔になってるな。

 さっき演説してた時の顔はどこ行った?


 「バシル……お前気持ち悪い顔になってるぞ? あ悪ぃ、元からか」

 「んだとコラ」

 「あん? やんのかコラ?」

 「もう! 二人ともやめてよ! 今日は仲良くしなくちゃいけないでしょ!」


 カーリナに怒られてしまった……。

 バシルのせいで怒られてしまったじゃないか。

 どうしてくれよう。


 なんて、いつものメンバーでヤイヤイ騒いでいる時だった。

 俺達が話をしている横合いから7人程のグループが尊大な態度で近づいてくる。

 というかブラウ達だ。

 案の定、こっちの五人は嫌そうな顔になった。


 「おいおい、雑魚が揃いも揃ってギャアギャアと……。負ける準備は出来たかハルトマン?」


 ニヤリと笑いながらブラウがトラッシュトークをかまし、取り巻き達がゲラゲラと笑う。

 開口一発目からカッ飛ばしますねぇ。

 まあこれくらいは挨拶だもんな? 俺も挨拶を返してやろう。


 「悪い、勝つ準備しか出来てないんだわ」


 そう返してやると、ブラウとその愉快な仲間達は顔をしかめ、逆に俺達はフフンっと余裕の笑みを見せた。


 「……フン、その余裕がいつまでも続けばいいな。行くぞ!」


 どうやら挨拶はこれで終わりのようだ。

 ブラウは取り巻きを連れてあっさりと引き下がって行った。

 ただ、最後に意味深な笑みを浮かべていたのが気になるが、ここはひとまず……。


 「初戦は俺達の勝ちだな、ベルホルト」

 「ああ」


 バシルの言う通りさっきの短いやり取り、上手く返せて良かった。

 これでこっちは余計なストレスを抱えずに済む。

 やってやったぜ!


 「ほんと、嫌な手合いですわね」

 「……うざったい、人たち」


 イリーナもリンマオも口々にブラウ達をこき下ろしている。

 アイツ嫌われすぎだろ……。


 「お兄ちゃん、あの人達にだけは負けないでね!」

 「ああ、勿論だ!」


 今日と明日に限ってはカーリナと敵同士であるものの、それでもカーリナは俺のことを応援してくれるみたいだ。

 まあ、自分の兄がブラウみたいな奴に負けて欲しくないのだろうしな。

 心配しなくてもお兄ちゃんは勝つからね!


 「そろそろ最初の競技が始まりそうだね」

 「ああ、俺達も行こうぜ」


 アールがグラウンドの準備具合を見て呟き、バシルもそれを確認すると青組の応援席へと行こうとしたが――。


 「じゃ、じゃあなカーリナ。俺が競技しているところ、見ててくれ」

 「おい」


 バシルはカーリナへと振り向き、キリッとした顔で口説きやがった。

 俺の目の前で口説くとは……いい度胸だ!

 というかバシルも懲りないな。


 「あはは! うん、しっかり見ておくね!」


 ただ、カーリナもそんなバシルのアプローチに慣れたのか、余り気にした様子もなく、普通に返事をしていただけだ。

 ……カーリナには好きな奴がいるらしいからね、俺もこれを機にカーリナの想い人を探そう。

 カーリナが熱っぽい表情で応援してたら多分ソイツだ。

 見つけたら校舎裏に呼ぶか……。


 とまあ、そんな感じでカーリナ達とも別れて俺達は青組の応援席に向かい、競技が始まるのを待つことにした。

 ジューダスや、他の教授達は役員というか、魔導祭の運営に関わることをしているので滅多にここへ来れないそうだ。


 本当ならクリスにも挨拶をしたかったが、彼女は他の赤組の生徒に囲まれて話をしていたので、ちょっと声が掛けずらかった。

 ちょっとでもいいから、話したかったな……。


 で、魔導祭初日の最初の競技は、五人の代表からなる”氷像製作”だ。


 今グラウンドには各組五人の代表者がそれぞれの場所で集まり、待機している。

 やがて鐘楼から鐘の音が聞こえると、学院長の合図とともに最初の競技が始まった。


 この”氷像製作”という競技は、水属性魔術によって制限時間内に作られた氷像に審査員が点数を付け、その点の高さで順位を決める競技だ。

 氷像の作成は魔法陣によって制御され、魔法陣の描き方、文言、理論によって良し悪しが決まってくる。

 そのため、魔術よりも魔法陣の描き方が重要になってくるのだ。


 「お、やってるね~」

 「アールから見て他の組の魔法陣はどうだ?」


 競技の様子を見ていたアールに、青組以外の魔法陣について聞いてみた。


 「う~ん、ここからじゃ遠くて細かい所までは分からないけど、皆凄く高度な魔法陣だよ。黄組のなんて段階的に作ってるから、その都度細かい調整もできるしね」


 成程……やっぱり一筋縄にはいかないんだな。

 他にもアールの細かい解説を聞きつつ競技の進行具合を見ていると、各組魔術で粗方出来上がった氷像を手で削り出し、仕上げに掛かっている。

 そして時間が過ぎ、競技開始から20分程で終了した。


 出来た作品は各組様々で、青組が作ったのは水面から鳥の羽ばたく様子を模った作品だ。

 リハーサルで作った時に命名されたのが、『アルバトロス~水面より飛翔~』だった。

 ……ちょっと青組のネーミングセンスがおかしい気がする。


 「審査が始まるみたいだな」

 「なんか、こっちまでドキドキしてくるね……」


 それぞれの組に審査員が見て周り、出来上がった氷像をチェックし始めていた。

 因みに審査員は、王宮から派遣された偉い人だそうだ。

 氷像を作っている最中は外野もざわざわとうるさかったが、審査の最中は皆真剣な様子で見守っていて、その雰囲気に吞まれたのかアールも緊張した面持ちで審査の様子を見ている。


 やがて審査が終わり、マイクの音声で審査結果が発表され始めた。

 放送を担当するのは、普段から学院内で放送をしている生徒だ。


 『”氷像製作”の審査結果を発表します。1位、黄組、89ポイント。2位、白組、87ポイント。3位、青組、79ポイント。4位、赤組、77ポイント。5位、緑組、75ポイントでした』


 結果は黄組が1位で、青組は3位だ。

 放送を聞いた瞬間、黄組からは大きな歓声が聞こえ、逆に緑組からは落胆の声が聞こえてくる。


 「青組は3位かぁ……もっと上だと思ったんだけどな~……」


 最初の競技としては地味な競技だったが、やっぱり勝負事ということで皆かなり盛り上がったようだ。

 隣のアールも、青組の順位を聞いて少し悔しそうに呟いていた。


 青組が3位だったということで、得点は20点。

 まだまだ序盤だが、この結果がどう影響してくるだろうか……。

 やっべえ、俺も楽しくなってきた!


 とまあ、そんな感じで魔導祭のプログラムは進行していくようだ。

 次の競技は何だろうか? あ、次も代表競技か。

 ”氷像製作”で競技に出ていた生徒達が退場する入れ替わりで、次の競技の生徒達が入場してきた。


 というかあれ――。


 「あ、あれバシルとカーリちゃんじゃない?」

 「ん? どれどれ……お、ホントだ」


 カーリナが次の競技に出るみたいだな。

 あとバシルも。


 次の競技は各組8人の代表からなる、”強化魔術リレー”だ。

 その名の通り、強化魔術を使ってのリレーで、一人グラウンド内のトラックを2周しなければならない。

 トラック1週は大体500メートル位ある。


 選手がスタート位置で走者順に並び終えると、赤組の最後尾にいたカーリナが俺の方を向き、目が合った瞬間に大きく手を振ってきた。

 ブンブンとまるで犬のようだ。ふふ、かわいいな……。

 俺も手を振り返して……いや待て! 実は俺に手を振っていたんじゃなく、俺の後ろにいる誰かに手を振っていたんじゃないだろうな!?

 後ろには……うん、誰もカーリナに手を振り返していないな。よし、じゃあ俺も手を振り返そう!


 「君達兄妹って本当に仲いいね」

 「だろ?」


 アール君、なんだね? その温かい目は。

 嫉妬かね? カーリナはやらんぞ!


 何てしょうもないことを考えつつ、再びカーリナへと視線を向ける。

 走者順に並んで最後尾、ってことは、カーリナはアンカーなのか。

 これは赤組が脅威になるかもしれんな……。


 因みにバシルは第5走者だ。

 本当は俺も走った方がよかったのだが、青組には強化魔術を十分に使いこなせる先輩もいたし、俺は次の競技に出場するというのもあったので、今回は止めておいた。


 「よし! じゃあ俺も次の競技の集合場所に行ってくるかな」

 「ああうん。負けるなよベル!」

 「おう!」


 アールと拳同士を突き合わせ、俺は次の競技の待機所へと向かう。

 その途中、ハンドベルの合図で第1走者が一斉に走り出し、リレーが始まったようだ。

 スタートと共に周りは大盛り上がりで、立って腕を振る者、叫んで応援する者、他の組に対して野次を飛ばす者などでもううるさいぐらいだった。


 ただまあ、競技をしている生徒達を応援したいという気持ちはよく分かる。

 俺も今すぐカーリナと青組の応援に集中したいくらいだ。

 バシルはまあ……どうでもいいか。


 しかし、強化魔術を使っているだけあってか、走る速度が凄く早い。

 大体1周30秒弱だろうか。

 もう第2走者が走っている組もあるぞ。


 そうやってリレーを見つつ待機所に辿り着くと、リレーはそれなりに面白い展開になっていた。

 1位が白組で2位が青組。

 それも僅差での2位。これは期待できそうだ!

 その後も1位2位の順位が変わらず……むしろバシルのせいで少し白組との距離が空いた気がするが……第7走者が2週目に差し掛かった頃、アンカーがコースに入った。

 赤組は、カーリナだ。


 そして各組どんどんとアンカーにバトンが渡され、最後の2週を走り始めた。

 カーリナがバトンを渡された時、赤組はぶっちぎりではないが最後尾の状態だ。


 「こりゃぁ、1位は白組か青組だな」

 「いや緑組もどんどん追い上げてきているぞ!」

 「赤組の子は残念だったな……」


 俺の周りでは既に、赤組の1着は無いと予想している。


 だが俺の妹を甘く見るなよ!


 「あ……お、おい、赤組のアンカー、もの凄い追い上げだぞ!」

 「本当だ……2位、いや1位に……いやいやぶっちぎりじゃないか! あれ誰だ!?」


 ふふん、俺の妹だよ!

 カーリナにバトンが渡された瞬間、それまでとは比べ物にならない速さで追い上げ、他のクラスをあっさりと抜き去り、そしてグングンと2位以下との差を突き放してゴールした。

 圧倒的ではないか我が妹は!


 そもそもカーリナは、俺やフェリシアと一緒に強化魔術を鍛えたんだしな。

 スパルタ・オブ・フェリクスの許でね!


 そして結果は以下の通りになった。

 1位はカーリ……赤組。2位は白組。3位は青組。4位は緑組。5位は黄組だ。

 これで青組の総合得点は40点で、総合の暫定順位は黄組と同率の3位。

 まずまずだな。


 で、次はいよいよ俺の出番だ。

 次の競技、12人からなる代表競技の”ドッヂ()ール”だ。

 ドッヂ()ールじゃないぞ。

 ややこしい。


 ざっくり説明すると、ボーリングのピンをもう少し間隔を空けて立てたようなポールに、テニスボールサイズの球を当てて倒す競技だ。

 ドッヂボールよりむしろ、ルール的にはバスケットボールやサッカーに近いかな。


 勿論、魔術は召喚魔術等も含めてバンバン使ってもいいが、相手に直接危害を加えるような魔術は反則だ。

 ボールを手に持った状態で2歩までなら歩いてもいいらしく、あとは投げてパスするか魔術で飛ばさないといけない。


 「じゃあ皆、作戦通りにやっていこう」

 「ああ!」

 「頑張ろう!」

 「うし、やるか!」


 集まった青組のメンバーに、俺は一言声を掛けると頼もしい返事が返って来た。

 皆それぞれやる気満々だ。

 さっき俺が言った作戦というのは……まあ後でのお楽しみだな。


 で、俺達選手の入場だ。

 リレー用のトラックの内側にあるドッヂポールのコートがあり、その外で俺達は一旦待機となる。

 コートは1コートだけで、その中でトーナメントが行われるようだ。

 トーナメントもただのトーナメントではなく、勝ち抜きトーナメントで、現在の総合順位で1位と2位の組が1回戦目に対戦し、勝った方が次に3位の組と、それに勝てば4位と……という具合に進む。


 現在、青組は黄組と同率の3位なので、先にどちらが2回戦目に対戦するかをコイントスで決めることに。

 その結果、青組は3回戦目になり、2回戦目に勝利した組との対戦となった。

 やったね!


 『これより! ”ドッヂポール”1回戦目を始めます! 1回戦目、白組対赤組!』


 放送と共に三人の審判がコートに入り、それぞれ位置に着いた後に赤組と白組もコートに入った。

 両者戦略に沿った配置で12人が立ち、試合開始の合図を待っている。

 赤組は全員女の子だが、それでも怖気付くことなく相手を睨んでいた。

 対する白組は余裕の表情だ。


 「試合開始します!」


 ピィー、っと中央の主審が笛を吹き、試合が始まった。

 合図とともに両チームとも一斉に動き出し、早速魔術の応酬を繰り広げる。

 アトラクションやレパルションなどの無属性魔術や、風属性魔術を使ってボールを取り合い、ポールに当てていく。


 青組としては当然赤組に勝って欲しい。

 会場の声援も、白組以外の殆どが赤組を応援している。

 頑張れ赤組! 負けるな赤組!


 しかし、そんな会場の声援や俺の願いとは裏腹に、試合の流れは白組に傾いていた。

 白組は赤組からボールを奪い、次々とポールを倒していく。

 勿論、赤組も負けじとポールを倒していくが、試合の時間が経つにつれ、ポールの残り本数の差がどんどんと広がっていった。


 埋まらない差に赤組も段々と焦りはじめ、躍起になるもミスを連発してしまう。

 そして白組にさらにつけ入る隙を与え、ついには最後のポールまで倒されてしまい、そこで笛の音が鳴り響く。


 『1回戦目の勝者、白組!』


 勝ったのは、白組だ。

 そう放送された瞬間、白組の応援席から歓声が響き、赤組からは落胆の声が聞こえてくる。

 コート上にいる赤組の選手達も、落ち込んだ様子でコートから出て、そのまま係員に誘導されて退場していった。

 10-6で赤組も6本ポールを倒したんだけどな……。


 『2回戦目、白組対黄組!』


 続いて2回戦目が始まり、白組と黄組が試合をしたのだが……結果は白組の圧勝だった。

 なんだよ、10-2って。全然駄目じゃねえか、もっと頑張れよ。


 『続いて3回戦目、白組対青組!』

 「よし、行くぞ!」

 

 おう! っと俺の掛け声にチームの皆はしっかりと応えてくれた。

 そして、しょんぼりと肩を落としながら退場していく黄組を尻目に、俺達青組の選手達がコート上に立つ。

 ああ……なんかいいなこの高揚感。

 小学生の運動会を思い出すよ……。


 ただ、白組の連中が俺達を見てニヤニヤしているのが気になるな……。

 もしかしたら何か仕掛けてくるかもしれん。注意しよう。


 「それでは両者、準備はいいですね? 試合開始します!」


 審判が合図を出し、いざ試合が始まった。

 俺達は攻撃も防御もしやすいように、前衛4人、中衛4人、後衛4人の布陣だ。

 サッカーのポジションで例えるなら、FW-MF-DFがそれぞれ4-4-4か。

 因みに俺は、今回中衛で指揮を執ることになった。


 「『フォルト』!」


 試合開始と共に俺と前・中衛は強化魔術で身体を強化し、全面的に前に出る。

 最初のボールは白組からのスタートで、白組は5-4-3のやや攻撃的な布陣敷、ゆっくりと前線を圧迫してきた。

 何を考えているかは分からんが、取りあえず小手調べだ。


 「『オブテイン』!」


 相手がボールをパスしながら攻めてきている最中に、俺は召喚魔術でそのボールを手元に召喚した。

 当然、奪われた側は一瞬驚き、俺が召喚魔術で奪ったことを知ると、屈辱を受けた様子でこっちに向かって走ってくる。


 「ヤニス!」

 「はい先輩!  『アトラクション』!」


 白組の前衛5人が俺のいる後方へと入りこんでくると、俺は前衛の後輩を呼びつつボールを上に投げ飛ばした。

 後輩はすかさずそれを『アトラクション』で引き寄せると、敵のディフェンスを引き付け――。


 「『オブテイン』!」


 前衛でポールの前まで迫っていた先輩がボールを召喚し、白組のポールを1本倒した。

 どうやら俺達が先制点を挙げることが出来たみたいだ。


 「よぉおっし!」

 「やったー!」

 「やりましたね、先輩!」


 先制した瞬間、近くの仲間と共に喜びを分かち合った。

 青組の応援席からも、わぁあああー! っと大きな歓声が割れんばかりに響き、俺達を勇気付てくれる。

 召喚魔術を駆使してボールを瞬時に移動させる。

 作戦としては中々うまく嵌ってくれたようで、この日の為にジューダスの許で短詠唱の練習をしてもらったのだ。

 名付けて、”どんどん召喚しちゃおう作戦”。


 「ハハッ、やるなお前達」


 ただそれでも相手は余裕の表情を崩さず、落ち着いた様子で配置に戻って行った。

 ホント、何考えているか分かんねえな……。


 ふと、赤組の応援席を見ると、見覚えのある人物と目が合った気がした。

 クリスだ。

 『サイトセンス』で視力を強化して……いや、そうしなくても分かる……多分、俺のことを見てくれている気がする。

 手を組んで胸に抱いている様子が、なんだか俺の為に祈ってくれているような気がしてならない。

 そうだといいが……違ったら恥ずかしいな……。


 ピッ! っと笛の合図で正気に戻り、俺は再び試合に集中する。

 クリスのことを考えるのは勝ってからにしよう!


 で、また相手ボールでのスタートだが、次も俺は召喚魔術でボールを召喚して相手前衛を引き寄せる。


 「『オブテイン』!」

 「『――リザーブ』!」


 だがしかし、俺が召喚魔術を使おうとした瞬間、なんと白組の中衛が『リザーブ』で俺の魔術を封じてきた。

 俺が召喚魔術を使うタイミングを見越して全詠唱で合わせてきたか……。

 敵ながらあっぱれだ。


 なんて考えている間もなく、白組はどんどん青組のポールに近づいていく。


 「『オブテイン』!」

 「『――リザーブ』!」


 そして、また俺が召喚魔術を使おうとしたら、また『リザーブ』でレジストされた。

 よく見ると敵中衛の2人が俺に対していつでもレジスト出来るようにマークしていて、俺がいつ魔術を使ってもいいようにカバーし合っている。


 そうこうしているうちに、あっという間に俺達のポールが1本倒されてしまい、これで振り出しに戻ってしまった。

 こっちの前衛に召喚魔術を使ってもらおうかと思ったが、魔力の消費を気になって攻撃にしか使えず、止む終えず後衛に任せていたのだが……。

 う~ん……中々うまく守れないな。


 「スマン、ベルホルト!」

 「いや、気にするな。勝負はこれからだ」


 各人ポジションに戻る最中、クラスメイトの仲間が申し訳なさそうに謝ってきたが、俺としてはまだまだ気にする程のことではないと思っている。

 お互いに倒したポールは1本同士。

 相手のレジストさえ耐えれば何とかなりそうだ。

 うん、次からは前衛の先輩にもどんどん召喚魔術を使ってもらおう。


 全員がポジションに戻ったことを確認し、審判が再び笛の合図を出した。

 今度はこっち側のボールだ、ここは慎重に行こう。


 まずは前衛の先輩からボールをパスしてもらい、前衛4人を白組のポール前まで進ませる。

 その間にも、相手が魔術を使おうとしたらすかさず『リザーブ』で防ぎ、後衛とパスしながら後方へと下がり、敵の前・中衛を引き込む。

 基本的にボールは俺が保持している。


 「白組の連中、ポール前まで上がって来たな」

 「ああ、そろそろだ」


 近くにいたチームメイトが言った通り、白組が青組の前衛を警戒しながらも全体で前に上がって来たことを確認し、俺は右手を大きく上げて合図を出す。

 当然、相手は俺が何かするだろうと魔術をレジストする準備をしているが、次の瞬間、俺は白組の遥か後方、彼らのポールの前まで一瞬で移動し、手に持っていたボールを投げつけ、白組のポールを1本倒した。


 わあっ! っと青組の応援席から歓声が聞こえてくる中、白組の選手達は狐につままれた様子で俺を見ている。

 彼らからすれば、突然目の前からいなくなったように見えただろうな。


 フフン、気になるだろ?

 ま、種明かしをすると、俺は前衛の4人と契約召喚を使うために予め契約していたのだ!

 後は前衛の総魔力量次第でいくらでも瞬間移動が出来る、というわけだな。

 これぞ名付けて、”あっちこっち作戦”だ!


 これでまたリードが奪えた。

 この調子でどんどん相手のポールを倒していこう。


 仲間とハイタッチをしながらポジションに戻り、次の笛の合図を待つ。

 この調子でいけば勝てそうだし、負ける気がしない。

 相手にどんな手があるのか分からないが、俺達なら、勝てる!



 _______________________________________________




 ――そう、思ってた。


 結果は3-10で白組の勝ち。

 俺達は、負けてしまったのだ。


 では何があったか?

 俺達が2本目を倒した後に白組が取った戦略は、俺への徹底的なマークだった。

 相手の中衛二人が俺を常にマークし、俺が契約召喚でポール前まで呼び出されたら、今度は相手の後衛が俺を取り囲むようにしてディフェンスしてきたのだ。


 なら俺が囮になって仲間がポールを倒す、という手も使ってみたのだが、そんな俺達の動きにも白組は完全に対応してきた。

 俺は魔術の扱いがそれなりに上手いとは思っているが、流石に3、4人にマークされれば動き辛いし、俺以外のチームメイトについても、魔術や短詠唱を付け焼刃で練習したこともあってか、脆さを露呈してしまったのだ。

 試合後半でやっと3本目を倒したが、それで流れを変えることは出来なかった。


 どうやら完全に、白組のことを侮っていたようだ。

 彼らは別に、反則行為やラフプレーを連発していたわけではない。

 ただ単純に、魔術の扱いが上手いのだ。

 貴族という裕福な家庭で育ち、魔術やその他の教育を受けていれば、そりゃあ魔術の扱いも上手くなるだろうな。


 「あ、皆お帰り! 残念だったね……」

 「ああ……」


 グラウンドから応援席に帰って来た俺達を、アールや他の青組の生徒達が迎えてくれた。

 アールもやや悔しそうな顔ではあったが、それでも気にするなと言わんばかりの笑顔で迎えてくれるのは有り難いことだ。


 「ベルホルト」


 と、俺達の姿を見たバシルがやって来た。

 丁度今、白組と緑組が試合をしている最中で、白組がポールを早速倒したことで歓声が起こり、俺もバシルもコートの方を見る。


 「……白組と試合してどうだったんだ?」

 「ただ偉そうにしてるだけじゃないのは分かった。連中、かなり出来るぞ」


 真剣な眼差しで白組と緑組の試合を見ているバシルに、俺はそう答えた。

 白組の連中、結構魔術の使い方が上手い。

 どうやら一筋縄ではいかないようだ。


 「でも、アイツらに勝つために僕達も練習したでしょ? だったら自信もってやろうよ」

 「アール……」


 少し、深刻な気持ちで”ドッヂポール”の試合を見ていた俺とバシルに、後ろにいたアールからいつもの調子の声が聞こえてきた。

 俺もバシルも揃って振り返ると、やはりアールはいつも通り能天気な笑みを浮かべていたが……。


 「確かに白組は魔術の扱いが上手いかもしれないけど、そんなアイツらに勝つために色々話合ったじゃないか。だから僕達なら、勝てるよ」


 そう言い切ったアールの目は、なんというか、頼もしさを感じさせる目だ。

 たまにアールはこうやって、頼もしいことを言ってくる。

 ただ、頼もしいのはいいのだが――。


 「……なんかアールが良いこと言ってると、ムカつくな」

 「ああ、アールのくせにな」

 「アンタら酷くないっすかっ!?」


 どうしてもイジリたくなっちゃうんだよな~。

 なんでだろうな? 普段からイジッてるからか?

 ムカつく、ってさっき言ったけど、これもただの照れ隠しだ。

 多分バシルも同じだろう。


 で、そんなこんなと三人でヤイヤイと騒いでいるうちに”ドッヂポール”が終わり、結局白組が一番になった。

 これで白組は40点追加だ。


 その後も、様々な競技が行われ、俺達は良く戦った。

 2年生のみの競技である学年対抗競技では”棒倒し”をしたし、その他の全体競技や代表競技も滞りなく進んだ。

 俺もいくつか競技に出たし、出なかった時は声を出して応援もしていた。


 白組は、俺達青組が打倒白組を掲げているのを知ってか知らずか、徹底的に潰し掛かっているようにも感じたが、それもルールの範囲内でのことだ。

 しかし、やられているばかりの俺達ではない!

 やり返せるところはやり返したし、白組を押さえて1位になった競技もあった。

 あのブラウと個人的にやり合うことはなかったが、まあそれは最後のお楽しみというやつだ。


 そして、昼を周り、段々と陽が落ちてきた頃、学年、組問わず生徒の殆どが魔力を使いきり、かなり疲れた様子を見せていた。

 それは白組も例外ではなく、中には魔力切れで倒れる生徒まで現れ、医務室まで運ばれていく有様だ。

 そりゃ1日中魔術を使ってたらそうなるよ。


 ただ、白組の生徒は余裕のあるだった。

 というのも貴族の子息が殆どの彼らは、親兄弟からの差し入れで魔力増幅剤を貰っていたらしい。

 魔力が無くなってきた時にそれを飲むと、たちまち魔力が回復するのだとか。

 こういう所でも白組との差が出ている気がするな。


 しかしそんな中、白組以外では俺だけが割と平気だった。

 というか魔力の枯渇とか経験したことないしな……。

 むしろ皆なんでそんなに疲れてるの? っていう感じだ。

 まあ俺は小さい頃からオークス先生にシゴかれてきたからな。総魔力量にはちょっと自信がある。


 『これを持ちまして、魔導祭1日目の予定を終了します。お疲れさまでした』


 今日最後の競技も行われ、放送を聞いた生徒達は三々五々に解散して行った。

 それぞれ食堂なり風呂なりと疲れを取りに行ったようだ。

 俺はその場でくったりと座り込むアールを尻目に、校舎にデカデカと掲げられたスコアボードを見る。


 結局、1日目で10競技が終わった時点での順位は次の通りだ。

 1位白組270点。

 2位赤組220点。

 3位青組200点。

 4位緑組160点。

 5位黄組150点、となった。


 青組は3位で、2位の赤組と20点差、1位の白組とは70点差と少し離れている。

 が、十分に優勝を狙える位置だ。


 ただ、前回サマラスら青組の先輩達の心を折ったのも、今日白組がやったような徹底的な攻めや、マークが原因なんだろうな。

 相手に勝負をさせず、自分たちの有利な状況で戦う。

 戦略戦術としては当たり前でそれを上手にやれる相手なんだと、試合を通して理解できた。

 だが――。


 「明日からはそうはいくかよ」


 前回は知らないが、今回はやられっぱなしではなかったと思うし、今日の白組のやり方を見て、明日はもっと上手く立ち回れそうだとも思った。


 それに、明日は大事な戦いがある。

 ブラウとの決闘だ。

 カーリナの為にも……そしてクリスの為にも、明日は絶対に負けられない。

 俺は改めてそう決意したのだった。


 カーリナと言えば……。


 「結局カーリの好きな人のこと、見つけられなかったな……」


 カーリナの視線を追っていたハズだったんだけどな……いつの間にか魔導祭に集中してそれどころじゃなかった。

 ま、それだけ集中してた、ってことなんだろうけどさ。


 でも、カーリナのことを見ていると大体俺と目が合うんだよなー。

次回は5月21日の投稿です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ