Side Act.5:テレジアの報告 その2
「近衛騎士団カノッサ隊、クリスティアネ王女殿下付き近衛騎士、テレジア・カポディストリアスです。国王陛下への報告に参りました」
「テレジアか、少し待て」
休日における国王陛下への報告。
そのためにまたこうして陛下の許へ参り、衛兵に取り次いでもらって入室しなければならない。
必要なこととはいえ、毎回こうして取り次いでもらわないといけないのは正直邪魔臭いと感じるところでもある。
しかし顔見知りだからといって簡単に通すわけにもいかず、これも仕方のないことなのだ。
「いいぞ、入れ」
「ハッ」
今日の衛兵二人の内、一人は私の所属する隊の隊長だ。
だから少しだけ話しやすい。
そんな隊長と事務的なやり取りをし、私は国王陛下の執務室へと入室すると、ピンと姿勢を伸ばして敬礼をする。
執務室には国王陛下……イグナティオス王が私を待ち構えていた。
「テレジア、定期報告に参りました」
「うむ、聞こう」
ゆっくりと頷き、私の報告を促す国王陛下。
その陛下に対し、私は更に姿勢を正し、静かにハッキリと報告を申し上げる。
「ハッ、報告します。クリスティアネ王女殿下の現在のご学業、ご体調に関しては良好。交友関係に関しても災禍無く概ね良好です。それと後ほど、殿下とご歓談される際に、殿下からお話されることと思いますが、メコーニ伯爵家の四男、アントニオ・メコーニの言動に問題があるかと」
メコーニ教授については、以前から姫様が主となり、その問題のある言動について報告しているのだが、どうも国王陛下の動きが鈍い。
だからこうして何度目かの報告をしているのだが……。
「そうか。アントニオ・メコーニのことについては、メコーニ家に任せる」
「……ハッ」
結局はこういう答えが返って来るだけで、なんの解決もなされない。
国王陛下もおざなりに対応されているが、それは仕方のないことだ。
学院で教授を雇用する際、ああいう能無しでも採用させなければ貴族と王族の関係が拗れてしまう。
だから私は元から期待していなかったが、姫様はどうしても、あの教授の言動をどうにかしたいとお考えのご様子だ。
特にあの男の妹、カーリナ・ハルトマンやあの男が侮辱された日から、姫様は更にその怒りを露わにされた。
姫様本人は否定されるであろうが、あの男が絡むと冷静さを欠くことがある。
それほどまでに、あの男のことを愛しているのだ。
……いずれは、辛い現実を受け入れてもらわなければならないのだが……。
「時に、貴族の子息以外でクリスティアネに好意を寄せる者がいると言ったな」
「ハッ……」
「その者はどうなっている?」
以前に報告したあの男のことか……。
国王陛下も、真っ直ぐ私の目を見てくるが、まさか二人の関係を耳にしたわけではあるまい。
さて、どう答えるか……。
「……ハッ、その者には、これ以上殿下に関わらないよう、忠告しておきました」
これは嘘ではない。
あの日、あの男が、『一緒に旅に出よう』などと出来もしない約束をした日に、私は直接言ってやったことがある。
だが実際には、あの日からさらに二人の距離が近くなってしまった。
「ふむ……ではその者はもうあの子に近づいていないのだな?」
「ハッ、もう付き纏うようなことはしておりません」
「ならばよい」
よくもまあ、咄嗟に嘘を付けたものだと自分でも感心してしまう。
付き纏う、とまではいかないでも、今では二人の逢瀬が頻繁になってきているというのに……。
もし、このことが国王陛下に知られれば、私にも何らかの処分が下るだろうな。
姫様の護衛が私一人でよかった……もし学院内にもう一人、こっそりと姫様の周辺を監視する者がいたなら……。
考えただけでもゾッとする話だ。
いや、いずれはそうやって監視役を付ける可能性もある。
気を付けねば……。
「報告は以上か?」
「はい、報告は以上です。引き続き、殿下の身辺警護及び、不埒者がいないか監視を行います」
「ああ、任せるぞ。下がれ」
「ハッ、失礼します」
いつも通りのやり取りを終え、書籍に目を移した国王陛下に対し敬礼をして退室する。
姫様の許へ戻る途中、私は悩んでいた。
どうすれば姫様とあの男を円満に別れされることが出来るのだろうか? と。
強引にことを成せば、姫様を傷つけてしまう。
あの男のことはどうでもいいが、姫様を傷つけることだけはしたくない。
出来れば、姫様にあの男への想いを断ち切って頂かねば、と思うのだが……。
さて、如何にするか……。




