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第33話:激怒

 2年目が始まって1ヶ月。

 2年目ということで後輩も出来、先輩として恥ずかしくないように……なんて殊勝な気持ちにはなれないが、それなりに先輩としての自覚を持ちながら毎日を過ごしていた。

 後輩との接点なんて課外活動の時くらいだし、あんまり先輩風を吹かせることも無いけれどね。


 そんなこんなで変わらない毎日を過ごしていたわけだ。

 まあそんな急激に学院生活が変わるわけではないしな。


 あ、そう言えば今度の休みにまたクリスと二人+αでゆっくりおしゃべりするんだー。

 フヒヒ! リア充でごめんね!


 ただまあ……こんなに毎日平和に過ごせていると、魔神だの真神だのといった争い事に巻き込まれるかもしれないなんて思いもよらない訳で……。

 いずれ復活するだろう魔神に協力というか、仲間になるというか……戦いに駆り出されるのか、と思うだけでちょっと憂鬱な気分になってしまうんだよな……。


 いつまでも学生でいたら駄目なんかね?

 皆と楽しく旅もしたいし。


 このまま平和でいられたらいいのになー。


 「――というわけでございまして、パトロスにて締結された”パトロス協定”によって東部連合と不可侵条約が結ばれました。これによってハルメニアと東部連合の境界線付近に、一定以上の軍事力を置くことが出来なくなったわけでございます。その際、両国間で関税の撤廃を行い、商人の往来を自由化させたことでも有名ですわね。あら? もう鐘が鳴りましたわ……では本日はここまでに致します。それではごきげんよう」


 鐘が鳴り響き、マダムの授業が終わりを告げた。

 2時限目の歴史の授業、マダムの話をボンヤリ聞きつつもしっかり内容はノートの書き写している。

 ビアンカに貰った本でなく、授業で使うノートは購買で買った安物のノートだ。

 授業内容はしっかりとっておかないと、学年末にある試験で落第点を取ってしまうからな。

 アールなんて半べそ掻きながら俺のノートを写してたっけ。


 「んかー……」


 それなのにアールったら、今日も寝ちゃってるんだから!

 ……うん、ホント、魔道具関係のこと以外には興味無いんだなコイツ。


 で、そんなアールを放っておいて、俺は次の授業の準備をしていた。

 次は確か……応用魔術学だったかな?

 2年になってからは魔法について勉強するらしいのだが、俺はそれが楽しみで堪らない。

 俺が使えるのは、雷属性の魔法と、無属性の初級魔法であるロケーション、後は召喚魔法……契約召喚くらいなものだ。


 他の属性魔法や、治療魔法、強化魔法など、他にも学びたいものはあるが、オークス先生の許では学びきれないままこの学院に来てしまった。

 だから、魔法もちゃんと学べるのか? なんて思っていたが、どうやらきちんと教えてくれるようで大変満足である。


 ……うん、よし。授業の準備も出来たし、後は紙でこよりを作って……と。


 「おいアール、いい加減に起きろ」

 「うわっ! うわぁああ! みみみ、耳に耳がー!」

 「何言ってんだお前?」


 寝ているアールの右耳をこよりでくすぐってやると、面白いリアクションをしてくれた。

 流石アール、リアクションに関しては天下一だな。


 「ってベル! その手に持ってるのなんだよ!?」

 「こより」

 「知ってるよそれは!」

 「じゃあ聞くなよ」

 「あんたねえっ!」

 「はは、悪い悪い」


 半べそで右耳を押さえながら怒鳴ってくるアール。

 別に本気で怒っているわけではないことは分かっていた。

 今もアールの口元が少し笑っているし、お互いこうやってふざけ合うのも楽しんでいるからな。


 「まったくもう、ビックリしたじゃないか……」


 なんて言いつつ、アールは次の授業の準備をし始めた。

 しかし丁度その時、教場の扉が開き、教授が入ってきた。

 だが教場に入ってきた教授は、いつも応用魔術を教えてくれていた教授ではなく、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる教授だ。


 いつもの教授はアレクシス教授と言って、30代でちょっとポッチャリ目だが非常にお茶目な人で、このクラスだけではなく、他のクラスの生徒からも人気が高い。

 3年の黄組の監督教授だそうだ。


 対して今入ってきた教授は40代くらいに見えた。

 痩せ形で黒くネットリテカテカしたおかっぱヘアーに、スラッと高い鼻で、髪型と嫌らしくニヤついた笑みをどうにかすれば割とイケメンになるんじゃないのか? と思える顔立ちをしている。

 なんだか毒キノコみたいだ。

 全体的におしい。


 「おはよう落ちこぼれ諸君。早速授業を始めるぞ」


 こんな教授、初めて見たなー。なんて思っていると、ソイツはいきなり俺達のことを落ちこぼれ呼ばわりしてきやがった。

 なんなんだコイツは……。


 「あのー……アレクシス教授はどうされたんですか?」


 いきなりやって来たわけの分からん教授に対し、前から2番目の列に座っていたクラスメイトが手を挙げて質問した。

 突然の暴言に少しざわつく教場内で、オズオズといった様子で質問してきた生徒に対し、その教授はどうでもいいように答える。


 「ああ、アレクシス教授か……彼は急な怪我とかでこれなくなってね。代わりに私がこの時間の教鞭を問うことになったのだよ。有り難く思いたまえ」

 「はぁ……」


 成程、怪我した教授の代わりにこのオッサンがやって来たのか……で、結局誰だよこのオッサン。


 「あの教授、2年の白組の監督教授じゃない? 確かメコーニ教授」

 「そうなのか?」


 隣のアールがボソッと教えてくれたが、それでも俺は思い出せなかった。

 いやだって、白組とか興味無いし。


 だがまあ、折角代わりに来てくれたんだし、多少の問題発言は我慢して授業に集中しよう。


 「本来ならば、貴族の生まれであるこの私が、下民である君達にものを教えるということはありえないことなのだ。そのあたり、よく理解して感謝してくれたまえ」


 なんてこった、ちょっとムカついてきたぞ!

 それが教育者の言うことか! って言ってやりたい。

 いや言えば何されるか分からんから言わんけど。


 「アレクシス教授から君達に、今日は魔法について教えてくれと頼まれたがねぇ……私はそんなこと教えても無駄だと思っているのだよ。どうせ魔法なんて使えるわけでもあるまい」


 無駄って……そりゃ魔法が使えるようになるなんてほんの一握りかもしれないけど、それでも頑張って練習すれば習得できるかもしれないだろ。


 実際俺が使えるんだし、皆も可能性は十分あるはずだ。

 それを無駄の一言で切って捨てるのはどうなんだろうか……。


 周りのクラスメイトも、憤懣やるかたなし。といった様子で教授の話を聞いていた。

 皆文句を言いたいのだろうが……白組の、それも貴族生まれと公言したメコーニに言えないでいるようだ。

 ま、貴族にアレコレと睨まれるのは嫌だろうしな。


 「教授」


 ただその中で一人、毅然と手を挙げて意見を言おうとしている奴がいた。

 というかバシルだ。

 アイツ、何を言うつもりだ?


 「なんだね君、名前は……ああ言わんでもいい、君達の名前なぞどうでもいいからな。用件はなんだ?」

 「さき程からご高説を賜っていたのですが、教授自身は魔法を使うことが出来るのですか?」


 ざわ……ざわ……。


 クラス中の視線がバシルに集まった。

 そりゃそうだ、「偉そうなこと言って、お前は出来んのか? ええオイ」って言っているようなもんだ。

 あの高慢ちきな教授に楯突くこと、普通は言わないだろ。

 不当に評価下げられるかもしれないのに……。


 勇気あるなコイツ……俺はちょっと見直したよ。

 ちょっとだけな。


 「ハンッ!」


 しかしメコーニは、バシルの質問を鼻で笑い飛ばした。

 その顔は、前世でも見たことのないくらいのドヤ顔だ。

 クラスの皆も、今度はメコーニに注目する。


 「貴族である私は、下民である君達と違い、魔法を使うことが出来るのだよ!」


 へー、そうなんだ。

 俺も使えるよ?

 雷属性魔法なら、上級魔法まで無詠唱で使えるよ?

 皆には言わないけど。


 「ああそう言えばさっきの時間……2時間目は赤組の生徒達にも教鞭をとったのだがね。その時に、なんと言ったかな? あれは確か……ハルトマンとかいう女生徒だったかな? 彼女曰く、『兄は短詠唱で魔法が使える』などと妄言を語っていたな」


 は? カーリナがそんなこと言ってたのか?

 あんまりそういうことは言いふらさないで欲しいんだけどな……。

 周りから視線を感じるけど、ちょっと知らんふりして――。


 「あまりにムキになって言ってくるもので、ついつい名前を覚えてしまったよ。いやはや、頭がイカレているのかね? 一度医者に診て――」

 「おい、今なんて言いやがりましたか?」


 カーリナのことを、”イカレてる”って言ったか? ええオイ。

 俺は思わず立ち上がり、メコーニを睨みつけながら言った。

 隣で座っているアールが、「ベルっ、落ち着けってっ」なんて言いながら俺の袖を引っ張っているが、俺は何のそのだ。


 ただ、メコーニは俺の無礼な態度に機嫌を損ねる様子もなく、むしろ何かを察したかのようにニヤリと笑うと、俺に顔を見据えて言ってきた。


 「ああ……”イカレた娘”だと言ったのだよ。あの女生徒は病気だ」

 「テメェエエエエ!!」

 「落ち着けベル! 落ち着けっ!」

 「ベルホルト落ちつけ!」


 ふざけんなぶん殴ってやる!

 カーリナを侮辱しやがって、絶対に赦さんぞ!


 拳を振り上げながら机に身を乗り上げ、メコーニへと突撃しようとしたが、アールや他のクラスメイトに止められ、その場でブンブンと手を振り回すことしか出来なかった。

 アール達どいて! そいつ殴れない!


 「おやぁ? 君はもしかして……あのイカレた娘の兄かね?」

 「また言いやがったな!」

 「そんな野蛮な言葉を使うとは。やはり兄妹は似るものだな」


 くそぉおおお! ニタニタと笑いやがって!

 俺のことはいいがカーリナのことをバカにするのだけは我慢できねえ!

 こうなれば力ずくでも……!


 「このぉ……『フォルトォ』!」

 「ちょっ、ベルっ!?」

 「うわっ! ベルホルトの奴強化魔術を使ったぞ!」

 「おい誰か強化魔術使えないのか!?」


 フォルトを使ってクラスメイトを振り払い、俺は机の上を跳びながら最短距離でメコーニに近づいてその胸倉を掴み上げた。

 そして力の限り拳を振り抜こうとしたのだが――。


 「こ、この私に手を出したらっ、お前も、お前の妹もこの学校にいられなくなるぞ!」


 「それでもいいのか!?」と流石に慌てたのか、必死に叫ぶメコーニの言葉にハッとなった。


 確かに、今ここで怒りに任せてコイツを殴ってしまえば俺はスッキリするだろう。

 だが、その後にコイツが何もしないとは限らない。

 寧ろコイツの言った通り、俺がこの学校にいられなくなるかもしれないし、最悪カーリナにも迷惑が掛かる。

 そうなれば今まで修行を付けてくれたオークス先生に申し訳立たないし、応援してくれたビクトルやビアンカ、アルフレッド、フェリクス達にも合わせる顔が無い。

 こんなことで、あの人達の期待を裏切っては駄目だ。


 そして何より、クリスの笑顔が脳裏に浮かんだ。

 このままコイツを殴れば、彼女との約束が果せなくなる。


 俺の怒気が段々と収まり、強化魔術が解けて力が抜けたのを感じたのか、メコーニは額に汗を流しながらも若干怯えたような、しかし勝ち誇った表情で口を開く。


 「立場を理解したのなら、この手を放してほしいのだが……それともこのまま退学になりたいのかね? んん?」

 「……っ!」


 コイツ……いけしゃあしゃあと言いやがって。

 理性では今すぐ手を離さないといけないって分かっているが、感情ではこのまま殴りたいと思っている。


 「教授を放せベルホルト」


 一瞬どうしようかと悩んだ。

 だが後ろから声と共に腕を掴まれ、ハッとなって振り返ると、そこにはバシルがいて俺の腕を掴んでいた。

 なんでコイツに止められているのかが分からない。

 バシルもカーリナのことを言われて腹が立っているだろうがに……俺の腕を掴んで制止してくるその表情は、無表情だった。


 なんでお前は、そんなに冷静でいられるんだ。


 「……分かったから放せよ……」


 一瞬の間の後、メコーニの胸倉を放し、バシルの手を振り解いた俺は教場の扉へと向かう。

 この時間はもう、授業を受ける気分にはなれなかった。

 今まで何事も投げ出さないようにと頑張ってきたが、今回だけはどうしても我慢できない。

 だから外に出てこの時間をサボろうと思い、ドアノブに手を掛けた。


 「フンっ! 暴力の次は授業の放棄か。どうしようもない落ちこぼれだな。評価は最低の物と思っておけ」


 メコーニが追い打ちをかけるように言葉を浴びせてきたが、俺は意に介すことなくそのまま教場を出ると、そのまま廊下を歩き出す。


 ……この時間どうしようかなー。

 勢いで出てきちゃったけど、冷静に考えるとやばいんじゃなかろうか?

 教授の胸倉を掴んで、謝らずに出てきたのは不味いかもしれない。

 でもアイツ、カーリナのことこき下ろしてきたからなー。

 そこは許さん。断じて許さん。


 そんなことを考えつつ、俺は中庭のベンチに座って空を仰ぐ。

 夏も終わり、過ごしやすい気温になってきた秋の空、雲がチラホラと流れていく様を見ているだけでなんだか心が落ち着いてくる。

 あ~……クリスに会いたくなってきた……。


 「おい」

 「ひょおおっ!」


 うわっビックリした! 誰だよ後ろから急に声を掛けてきやがって……。

 そう思って後ろを見ると、そこにはバーコードが立っていた。


 バーコードとはちょくちょく廊下ですれ違い、彼に睨まれては俺が端っこに縮こまるような間柄だ。

 正直この人苦手なんだよ……やたら睨んでくるし。


 「貴様、ハルトマンか? 一体この時間に何をしているんだ?」

 「あ、いや、その~……実は、教授と口論になりまして……」


 やっぱりそう言われるよな……。

 そりゃ生徒が授業時間中にこんなところでサボってたらそう聞くだろうさ。

 まあ、メコーニが俺の妹を侮辱したので殴りかけました。なんて言えないし、適当に誤魔化してどこかへ逃げよう。


 「……貴様は確か、青組だったな?」

 「はい、そうですけど……」


 いきなりなんだ? 青組だからって何か関係あるのか?

 それとも、バーコードもアイツみたいに白組以外は論外、みたいなこと言うのか?

 あーあ、いやだねぇまったく。


 「確かこの時間、アレクシス教授に代わってメコーニ教授が2年の青組に行っていたか……」


 バーコードは俺から視線を外し、右手を顎に添えて考え込むと再び俺に視線を戻した。


 「詳しいことはどうであれ、授業を放棄して飛び出してきたことは関心しないな。反省することだ」

 「……」


 それだけ言うとバーコードは、俺の反応を伺うことなく校舎の中へと歩いて行った。

 なんだよ、結局言いたいことはそういうことか。

 どうせ俺は逃げ出してきた落ちこぼれですよーだ。

 ……チクショウ。


 だがまあ、俺はメコーニのカーリナに対する侮辱に、具体的な反論や擁護をしてやれなかった。

 ただ怒り狂うばかりで、あれじゃあ俺が認めているようなものじゃないか……。

 何が一番腹が立ったかと言えば、そうやって冷静にメコーニを言い負かせられなかった自分自身に腹が立った。

 ……うん、反省しよう。



 _______________________________________________




 「最低だよねあの人!」


 昼食の時間、食堂でカーリナ達と食事をしつつ、メコーニの話になった時に彼女の口から出てきた一言だ。

 そもそも、食堂であった時からカーリナは不機嫌さを隠しきれていなかった。

 いつもの笑顔が少なかったし、歩く仕草や食べる仕草も少し雑になっていて気持ちに余裕がない感じだ。

 今も、モッシャモッシャとサラダを食べているし。


 「むぐ、むぐ、んく……お兄ちゃんは魔法師だ、って言ってもあの人、『貴族でもない者が魔法師を騙るとは、とんだ大ホラ吹きだ』って言ったんだよ!」

 「もうそんなに怒るなよ。言わせとけばいいだろ?」

 「お兄ちゃんのこと悪く言われたんだよ? 我慢できないよ!」


 フォークを持ったままバンバンと机を叩くカーリナに、俺は冷静になって諭そうとしたが、それでもカーリナの怒りは収まらない。

 まあ、カーリナのことを言われてブチ切れた俺も、人のことは言えんがね。


 それにしても、ここまで俺の為に怒ってくれるっていうのも、なんだか嬉しいもんだな。

 カラノスでなんかこう……ガキ大将みたいな三人組に……名前なんだっけ? なんか猿っぽい名前の……まあいいや、そいつらに俺がこき下ろされた時もカーリナはこうやって怒ってくれたよな。


 「そう言えば、ベルもカーリちゃんのこと悪く言われて怒ってたよね?」

 「あれ? そうなの?」

 「うん、強化魔術まで使ってメコーニ教授のこと殴ろうとしたんだよ」

 「そっか―……えへへ」


 俺の右隣で昼食を食べているアールがいつもの調子で言ってきた。

 それを聞いたカーリナが少し照れたように小さく笑う。現金な妹め。

 というかアール君、そう言うことは余り言わないで欲しいのだが……。


 「お兄さん……言ってることと、やってること……違う」

 「しょうがないだろリンマオ。あの時はついカッとなったんだよ……」


 カーリナの隣で食事をしていたリンマオに、俺がさっきカーリナに言ったことと授業中で仕出かしたことについて突っ込まれた。

 あの時のことを思い出すのは少し恥ずかしい。

 クラスの皆の前で醜態をさらしたし、カーリナのことを冷静に擁護出来なかったのが悔しかった。


 「あのメコーニ教授、女生徒からも煙たがられている見たいですわね。わたくしも嫌いですし」

 「へ~、そうなんだ。あの人のことが嫌いなの、僕達だけじゃないんだね」


 カーリナとリンマオに挟まれて座っているイリーナの発言だ。

 案外メコーニに対して厳しいことを言うんだな。


 「確かイリーナも貴族だっただろ? 何でそんなに辛辣なんだ?」

 「あの方、この学院内でもかなり男尊女卑の色が強い方ですわ。白組の友人から聞いた話ですけれど、『女は黙って男に従っていればいい』なんて考えで、貴族令嬢と言えどもあの方が嫌いという子は多いですのよベルホルト」


 成程な……そんなこと言われたら誰だって嫌いになるよな。

 この学院、女生徒の数が少ないのはメコーニみたいな奴がいるからそうなってるのかねぇ?

 もっと女の子の数を増やしてもいいと思うんだけど……。


 「そんなことより俺が気になるのは、だ。ベルホルトが魔法を使えるって話だ」

 「……何でお前が当たり前のように一緒に飯食ってんだよ……」


 俺の左隣にバシルがいたことを敢えて考えないようにしていたのだが、どうやらコイツ、俺にそれを聞くためにこうやって一緒に食事をしていたのか。


 「僕もそれ、気になってたんだ。ベルって本当に魔法師なの?」

 「わたくしも気になりますわ」

 「私も……」

 「……」


 どうしよう……話があのキノコ頭から俺の話に変わってる気がするんだが……。

 バシルの発言の所為で皆に注目されてるし。

 カーリナなんてワクワクした目で俺を見てくる。

 「お兄ちゃんの凄いところ、言っちゃって!」って感じだ。

 本当にどうしよう……。


 「確かに、カーリナのことを悪く言われたのは腹の立つことだ。ベルホルトが怒るのも無理はない。だがお前が本当に魔法が使えるのなら、あの教授の前で使えばよかっただろ? 窓から外に向かって使うとか」

 「まあ、そうかもしれないけどさ……」


 あんまり目立つようなことはしたくないんだよな……。

 目立った結果、学院内だけじゃなく真神の手下とかに目を付けられるかもしれない。

 だから大っぴらに打ち明けることが出来ないんだよな。


 でもま、普段世話になってる友人達くらいなら教えてもいいかな?

 遅かれ早かれ、学院内で噂になったりするだろうし。

 バシルに教えるのも癪だけど……。


 「……誰にも言うなよ? 雷属性なら上級魔法まで使える」

 「マジかよ……やっぱりベルって凄いんだね……」


 小声で言ってやると、アールは心底驚いたような表情になった。

 リンマオもイリーナもそれぞれ驚いた顔をしている。


 「フフーン! お兄ちゃん凄いでしょ!」

 「ああ、魔術の才能はあると思っていたが、まさかそこまでとはな……」


 自慢げに語るカーリナに、バシルは悔しそうに返した。

 というかバシルの奴が俺のことを褒めたぞ。なんか悪い物でも食ったのか?


 「カーリも魔法使えるだろ?」

 「何! 本当なのかカーリナ!?」

 「うん、私は初級魔法しか使えないけどね」

 「それでも、十分、凄い……」


 まだ全詠唱でしか使えないみたいだけどな。


 「というか本当に誰にも言うなよ? カーリもあんまり自慢しないでくれ」

 「え~……もっと言えばいいのに……」

 「えーじゃない」


 まったく……お兄ちゃんのこと自慢すればいいってもんじゃないんだからね!


 「俺はもったいないと思うがな。魔法が使えるならもっとアピールすればいいだろ。そうすればああいう教授に舐められずに済んだだろうに」

 「わたくしもそう思いますわ」

 「俺は目立ちたくないんだよ……」


 バシルとイリーナについてはもっと公言しろとうるさい。

 そんなこと言われても、俺には俺の事情があるんだよ。


 「私は……言わない」

 「僕も、ベルがそう言うなら言わないよ」


 リンマオやアールは黙ってくれるみたいだ。

 リンマオはいいが、アールは少し不安だな……。


 「リンマオはともかく、アールは心配だな」

 「なんでそんなに信用無いんスかねぇ?」


 冗談だけどね。


 まあ、そんなこんなとやり取りをしつつ、俺達は昼食を食べ終える。

 今回、無詠唱のことがバレなかっただけでも良かった。

 これだけはバレたら洒落にならん。

 まず殆どの人は信じないだろうけどね。


 取りあえず、午後からの授業は頑張ろうか。

次回は4月23日の投稿です。

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