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第31話:帰省

 寒い冬が終わり、過ごしやすい春が過ぎて暑い夏が来たかと思うと、あっという間に1年目が終わった。

 最高学年の4年生は既に卒業し、1ヶ月に及ぶ長期の休みを終えれば、晴れて俺達は2年生だ。

 青組から留年する生徒が出なかったようで何よりだな。


 2年目には、2年に一度の魔導祭が行われるらしい。

 まあ魔術を使った体育祭のようなものだろうけど、俺としては中々楽しみな行事だ。


 「――というわけで、遠くの実家に帰る者は体調などにしっかり気を遣うように。あとは皆、ちゃんと帰って来いよ。賊に襲われたり、冒険者で依頼を受けて死んだりする、なんてことの無いようにな。以上だ」


 1年生最後のホームルーム。ジューダスが教壇に立ってこれから始まる長期の休み……通称、というかこの世界でもそのまんま、”夏休み”についての注意事項を説明し、「ゆっくり休めよー」と言いながら教場を後にした。


 これから約1ヶ月、授業の無い休み期間だ。

 ジューダスが去った後、クラスがすぐにザワつき、中のいい友人同士で夏休みは何をするかで話し合いだした。

 因みに俺はもう決まっている。カーリナと相談したからな。


 「ベルはカーリちゃんと一緒に実家へ帰るんだっけ?」

 「ああ。休みが長いから、実家へ帰ってゆっくりしようと思ってさ。アールも実家へ帰るんだっけか?」

 「うん、そう。イリーナと一緒にパトロスへ帰るんだ」


 童顔でモテそうな顔つきのアールは、この休みに実家へ帰るみたいだ。

 俺とカーリナも一緒にカラノスまで馬車を使い、2日掛けて帰る予定なのだが……正直馬車に乗ることを想像すると……ウエッ!


 「あれ? ベルどうしたの? ハッ! まさか、妊娠!?」

 「んなわけあるか」


 アールが心配そうに顔を覗き込んできたと思ったら、ハッっとした様子で変なことを言い出した。

 まあいつものことなので軽くツッコんで受け流すが。

 それにしても、アールとイリーナはいいよな。

 パトロスといえば、馬車で1日の距離だ。

 カラノスへは馬車で2日掛かることを考えると、その半分の時間だけで済むのだから羨ましい。


 「それで? 出発はいつにするの?」

 「俺達は明日の朝には出発するかな」


 善は急げ……とは言わないが、学院の寮で無駄に過ごすよりも、早く実家に帰った方がいいだろう。という判断だ。

 別に無理に実家に帰らず、寮で過ごしてもいいらしいが……1ヶ月もあるんだし、ビクトル達にも会いたいからな。

 折角だから早いうちから実家に帰ろう。ということになった。


 その後、アールと取り止めのない話をしながら寮に戻ることに。

 どうやら、アールが開発したカメラの小型が少し出来たらしい。

 といっても、電子レンジからゲームキュ○ブサイズになったくらいで、本人曰く、「これ以上は無理!」って言っていたが、俺としてはもっと頑張って欲しかった。

 もっと出来るはずだ。アールなら出来る!


 で、その後に馬術部……馬術競技会の練習にも参加し、それなりに上達した馬術に打ち込んだ。

 だがまだまだバシルには遠く及ばない気がするのは何故だろう?

 障害コースもしっかり走れるようになったし、初めの頃より上手くなったとは思うのだが……まだまだ精進が足りんのかねえ?


 馬に乗って一しきり掻いた汗をシャワーで流し、サッパリしたところで俺はいつもの(・・・・)場所へと赴いた。

 いつもの、お気に入りの場所へ。


 「クリス」

 「ベルホルトさん」


 学生寮裏の、人目に付かない木の下で、俺はクリスティアネと逢瀬を重ねていた。

 勿論、テレジアというセコ○、もとい、護衛付きだが。

 クリスティアネ……クリスも最近では3日に2日の割合で会いに来てくれているから、この半年はあっという間に時間が流れていった気がする。

 これも、”愛”というやつなのかね?


 「……明日から、ベルホルトさんとカーリちゃんはご実家の方へ帰られるのですよね?」

 「ああ……1ヶ月間、会えなくなるな」

 「……はい。寂しいです……」


 夏休みの間、会えなくなることを寂しく思ったのか、クリスは悲しそうな表情で俺の胸にそっと右手を当ててきた。

 俺はその手を、優しく握りしめる。


 あの日、一緒に旅をしようと約束した日から、クリスからのちょっとした体の接触が多くなった。

 大体はこうしてクリスからそっと触れてきたり、小さいテーブルで向かい合わせに座っている時に軽く手を握り合ったりだ。


 こんなに距離感が近いのに、俺は未だに気持ちを伝えられずにいた。

 クリスからこれだけ熱っぽい視線を受けているんだし、想いを伝えて断られることは無いと思うが……。

 まだ身分差とかを気にする自分がいるし、何よりクリス自身、俺の気持ちに応えたくても応えられないかもしれない。

 立場や周りの視線、それこそ身分の差のせいで……。

 そう考えただけで俺は、想いを告げられずにいた。


 どうやら俺は、結構な意気地なしのようだ。


 「……また、2年目が始まったら、またここに来ていっぱい話をしよう。カラノスに帰った時の話もするからさ」

 「はい。約束ですよ?」

 「ああ、約束だ」


 クリスとの距離がグッと近くなる。

 先ほどの悲しそうな表情から一遍し、優し気な微笑みで見上げてくるクリスと約束を交わした。

 また、約束してしまったな。


 この後はいつも通り、普段話しているような取り止めのない話をし、1年目最後の逢瀬を堪能して別れることになった。


 「ではベルホルトさん……また一月後」

 「ああ、また」


 お互いに手を振り合い、それぞれの学生寮へと戻ることに。

 クリスの後ろをテレジアが付いて行き、それを見送る。

 そう言えば、最近はテレジアもあーだこーだと言ってこなくなったな。

 俺がクリスの手を振れる度に、『離れろ!』とか、『馴れ馴れしい!』とか言ってきたのだが……。

 まいっか。うるさくない分には困らないしな。



 _______________________________________________




 翌朝、学生寮の自室で目が覚める。

 今日はカーリナと実家のカラノスへ帰省する日だ。


 「……チッ」

 「チッ」


 どうやらバシルも起きたみたいで、お互いに挨拶を済ませる。

 朝一で舌打ちしてくるなんて、何てヤローだ!

 人のことは言えんが。


 ベッドから起き上がり、着替えやベッドメイキング等の支度を済ませ、朝食を食べる為足早に部屋を出ようとした時だった。


 「おい、ベルホルト」

 「ああ? なんだよ……」


 呼び止められて振り返ると、どこか真剣な顔をしたバシルが立っていたので、少し居住まいを正して向かい合うことに。

 一体なんの用があるというのか……。


 「カーリナに何かあったら承知しないからな!」

 「うるせー! お前に言われたくねーよ!」


 真剣な顔してるから何事かと思えば、カーリナの心配か!

 まったく、余計なお世話だ。

 俺がカーリナを守らなくて誰が守るんだ?


 「むしろお前が、普段からカーリを傷つけてないか心配だっての……」

 「俺はカーリナを傷つけるようなことはしない!」


 くそぅ、なんでコイツはカーリナのことになるとこんなにカッコ言い放つのか……。

 まあ、それだけ愛しているんだろうけど。

 ……なんかムカつく。


 で、結局バシルの話はそれだけだったみたいで、言い終えて満足したバシルをほっといて俺は食堂へと向かったのだった。


 朝食をカーリナと食べ終え、今日の予定と段取りを確認してから校門に集合となった。

 自室に戻ってから持ってきた防具を着こみ、その上から旅用の薄い生地で出来た外套を羽織り、整理しておいた背嚢を背負って部屋を出ると校門へと向かう。

 因みに、バシルの奴は部屋にいなかった。

 至極どうでもいいが。


 待ち合わせの校門に着くと、そこには既にカーリナとリンマオ、イリーナ、そしてバシルの奴がいた。

 さてはあの野郎、ここで待ち合わせすると知ってたな。


 「あ、お兄ちゃん!」

 「お兄さん……おはよう」

 「あらベルホルト。おはようございますわ!」

 「お待たせカーリ。二人もおはよう。見送りに来てくれたのか?」


 女の子二人はカーリナの見送りに来てくれたのだろう。

 ええ。とイリーナが肯定し、隣のリンマオも首を縦に振って追随していた。

 カーリナの為にわざわざ来てくれるなんて、ありがたいことだ。


 「で、お前は何でここにいるんだ?」

 「俺もカーリナの見送りに来た」

 「帰れ」


 食堂にも部屋にもいないと思ったら、まさかここで出待ちしていたとは。

 ストーカーかコイツは。


 「お兄ちゃん、バシル君をそんなに邪険にしたら駄目だよ?」

 「……ああ」


 ここ最近で驚いたことの一つなのだが、何故かカーリナがこのストーカーを擁護することが多くなってきた。

 何故? と考えるまでもない。恐らく、カーリナとバシルがデートを重ねているうちに、カーリナにも気持ちの変化が現れたのだろう。


 丁度、俺とクリスが旅の約束をしたあの日からそう感じていた。

 確かあの日も、バシルはカーリナとデートに行ってたからな……。

 カーリナにその日のデートのことをそれとなく聞いてみたのだが、『バシル君と色んな所を周って、すごく楽しかった!』と言っていたから、カーリナも満更でなさそうだ。


 一度、バシルのことが好きなのか? と聞いてみたら、『う~ん……お兄ちゃんの方が好き!』って言ってくれたし、多分大丈夫だろうと思う。

 上手く誤魔化された感があるが。


 「じゃあ行こっかお兄ちゃん」

 「……そうだな。馬車に乗り遅れたら大変だしな」


 ま、実際にカーリナがどう思っているのかは分からんが、俺はカーリナの意思を尊重するつもりだ。

 そう思いつつ、俺はカーリナと共に校門を潜り、リンマオ達に別れを告げる為に振り返った。


 「じゃあそういうことで、また一か月後に!」

 「じゃあねーリンちゃん! イリーナ! バシル君!」


 手を振って別れを言うと、リンマオ達がそれぞれ手を振り返し、三者三様に応えてくれた。

 

 「うん……また」

 「気を付けていってらっしゃーい!」

 「アールによろしくな!」

 「ええ! 確かに伝えておきますわベルホルト!」

 「カーリナ! そいつに嫌気が差したら俺の所に来てもいいぞー!」

 「ふざけんなテメー!」


 バシルが余計なことを言ってきた。

 最後まで油断のならない奴だ、カーリナが俺に嫌気を差すわけないだろ!


 「あはは! そんなことは無いと思うよー!」


 ほら見ろ! カーリナもこう言っているだろう?

 流石は俺の天使だ!


 そんなこんなで、学友達と暫しの別れを惜しみつつ、俺とカーリナは一路、カラノスへ向かって歩き出した。



 _______________________________________________




 王都―ファラスから馬車に乗り、途中の街で乗り継ぎをしたり一泊したりしながらカラノスに向かうこと2日。

 夕陽が眩しくなってきた時間にカラノスの町が見えてくる。

 必死に吐き気と戦いつつ、俺達は馬車が町に入るのを待ち、到着した途端に速足で自宅へと向かった。


 実は今回、ビクトル達を驚かそうと思い、事前に電話などの連絡をせずにここまで来たのだ。

 本当なら連絡しなければいけないのだろうけどね。

 そして我が家に到着して玄関口に二人で立ち、お互いに顔を見合わせてニヤリと笑うと、俺は一気にドアを開け放った。


 「ただいまー!」

 「ただいま!」


 俺がドアを開け、カーリナが先に駆け込み、それに続く形で俺も家の中に駆け込んだ。

 家の中、居間では家族が3人、丁度夕食を食べている最中だった。


 青みが掛かった黒髪に、優しい顔つきの爽やかイケメンなビクトル。

 もう30代とはいえ、綺麗な金髪でスタイルも良く、若々しいビアンカ。

 黒地に金のメッシュを入れたような髪を持つイケメン弟のアルフレッド


 3人とも、突然の来訪者に驚いた様子で唖然としていた。

 フフフ! どうやらドッキリは成功のようだ。

 家族3人揃っているようだし、タイミングも良かったな。


 「カーリ、ベル! まぁ……いきなり帰ってくるなんて……それなら連絡くらいくれてもよかったのに……」


 とビアンカがいち早く現状を理解し、驚きの表情から一転、嬉しそうな顔で俺達をまとめて抱きしめてきた。


 「本当だぞ二人とも。ビックリしたじゃないか!」

 「兄ちゃん、姉ちゃん、久しぶり!」


 続いてビクトルが、俺達から離れたビアンカに代わって抱きしめてきた。

 その傍にはアルフレッドもいて、ビクトルから離れてアルフレッドとも3人で抱き合う。

 お、アルフレッドもこの1年でさらに身長が伸びたんじゃないのか?


 「えへへ! 皆を驚かせたくて!」

 「もう、本当に驚いたわ……」


 呆れたように言うビアンカだが、その表情は帰って来てくれたことへの安堵感と喜びでいっぱいだ。

 ……うん、帰って来てよかった。


 「カーリ」

 「うん」


 アルフレッドから離れた俺とカーリナは、お互いに示し合わせ、少し姿勢を正して言った。


 「じゃぁ改めて、ただいま」

 「ただいま!」

 「ああ……お帰り、ベル、カーリ」

 「二人ともお帰りなさい」

 「お帰り!」


 うん、やっぱり実家はいいな!

 なんと言いうか、安心感が違う。

 帰って来てよかった。


 前世では、実家に帰っても惨めなだけだった。

 碌な職に就かず、ただ無為な日々を過ごしていただけの俺に、実家での居場所なんて無かったから……。


 だけどここは違う。

 今の俺は、人生がそれなりに上手くいっているし、家族との関係も良好で、惨めに思うことなんて何一つない。

 そりゃぁ、魔神絡みで大変なことに巻き込まれつつあるが、概ね順風満帆な人生だ。


 じゃあ、前世もこんなに充実した人生だったら、実家に帰っても惨めな思いをしなくて済んだのだろうか?

 ……いや、考えても仕方ないな、そんなこと。

 今を、頑張って生きていこう。


 「ねえお母さん、私、お腹空いちゃった!」

 「あ、俺も」

 「はいはい。それじゃあ久しぶりに皆でご飯を食べましょ」


 取りあえずまあ、折角帰って来たんだし、ビアンカの手料理にあり付きますか!



 _______________________________________________




 「それで二人とも、学院での勉強はどうなんだい? 頑張っているかい?」

 「私も、気になるわ」

 「僕も! ねえ、学院のこと、教えてよ!」


 約一年振りに食べるビアンカの手料理を堪能しつつ、アレコレと家族の団欒を楽しんでいると、ビクトルが興味深そうに学院のことを聞いてきた。

 やっぱり家族としては気になるよねー。

 ビアンカもアルフレッドも食事の手を止め、俺とカーリナに注目し始めた。


 「勉強はとっても楽しいよ! 基本的な魔術の授業からちょっと難しいことまで教えてくれるし、行ってよかった!」

 「ヤコブ先生に教えてもらえなかったことも学院で勉強できるし、色んな教授が専門的に教えてくれるから、勉強も凄く捗るよ」

 「そうか……」

 「楽しそうで良かったわ」

 「いいなー……」

 「いいだろー? それでさ――」


 俺とカーリナがやや興奮気味に話すと、ビクトルやビアンカは嬉しそうに微笑み、アルフレッドは羨ましそうにしていた。

 そんな三人の反応を楽しみながらさらに学院での出来事や、課外活動のこと、ジューダスについて話したり、どの教授が変人であの教授がムカつく、なんてことも話していたが、不意にビアンカから質問が飛び出してくる。


 「二人には、お友達は出来たの?」


 と、聞かれた俺達は、お互いに顔を見合わせ、ニッと笑うと堰を切ったように話し始めた。


 「クラスの連中とは殆ど仲良くなったけど、俺はアールっていう奴といつもつるんでてさ。コイツが凄い奴なんだよ! 魔道具に関して凄い奴で、一から魔道具を開発してしまったんだよ!」

 「私はリンマオって獣人族の子と、イリーナっていう角竜族の子と仲良くなっちゃった! リンちゃんはお香とかが好きで、自分で作ったのをくれたりするの! イリーナは同じ格闘競技会の人で、雷神流格闘術がとっても強いんだよ!」


 自分でも少し興奮気味に話しているのが分かる。

 だって今世で同い年の親友だもん。

 そりゃ饒舌にもなりますよ。


 そんな感じでしゃべり倒す俺達に、ビアンカ達は優しく、うんうん、と相槌を打って静かに聞いてくれていた。

 アルフレッドも時には笑い、時には驚きながら話に夢中になっている様子だ。


 「それでね、この国のお姫様ともお友達になっちゃった!」


 あっ……!


 「へぇ! それは凄い! お姫様といえば、クリスティアネ王女殿下かい?」

 「うん、私達と同じ年で、一緒に入学したの! それでね……」


 この話の流れは不味い!

 と思いつつ、カーリナの話を聞いていると隣に座っていた彼女が俺の方を見てきたので、俺は小刻みに首を横に振ってこれ以上のことを話さないように制止しようとした。


 「お兄ちゃん、クリスのことが好きみたい!」

 「カーリィッ!」

 「てへ!」


 だが、爆弾は無慈悲にも投下されてしまったようだ……。

 おのれバシル、ゆ゛る゛さ゛ん゛!


 「あら! あらあらまあまあ!」

 「ベル……茨の道だね」


 ほれ見ろ! 大人二人が微笑ましい感じで視線を送ってくるじゃないか!

 アルフレッドなんか、おー!、って顔してるし。

 てへぺろしたってゆるさな……いや可愛いから許す!

 じゃなくて!


 「なんで言うんだよ!?」

 「だってお兄ちゃん、ここなら周りの目を気にしなくても話せるでしょ?」

 「ぐっ……!!」


 なんてこった、いつの間にかカーリナの術中に嵌ってしまったようだ……。

 確かに、ここなら変な噂とか立たないし、クリスに迷惑も掛からないか。

 いやいや待て待て、そう思わせることこそがカーリナの本当の目的じゃあ……。


 「で、どうなんだいベル?」

 「……どうって?」

 「王女様とは上手くいっているのかい?」

 「私も気になるわ!」

 「気にしないでくれよ……」


 クッ! このオッサン達は! ……いや見た目はまだまだ若いけど……。

 ビアンカも今まで以上に喰いつきがいいし。


 「兄ちゃん、その人と結婚して王様になるの!?」

 「ならねーよ……」


 アルフレッドに至っては気が早すぎるというかなんというか……。

 カーリナは俺の横でニコニコしているだけだ。


 くそぅ! 何とかこの状況から脱出できないのか!?

 どうすれば……あっ、そうだ。


 「……そう言えばカーリ。バシルとはどうなんだ?」

 「え? 誰だいそれ? どういう関係かな?」


 必殺、バシルバリアー! いや誰も死にはせんが。

 アイツの名前を出すのは癪だが、背に腹は代えられない。

 ビクトルも真顔になって引っ掛かってくれたし。

 パパよ、それ程娘の恋愛事情が気になるのか?


 というか、いい加減俺も気になっていたところだ。

 カーリナのバシルに対する気持ち、ここでハッキリと聞きたい。


 「バシル君? 友達だよ? この前、好きだーって言われたけど」

 「はぁあああああ!? あの野郎!」 「なんだってー!」

 「あら! カーリナも隅に置けないわね~。うふふ!」


 カーリナのさらなる爆弾発言に、俺とビクトルの順で立ち上がった。

 ビアンカは逆に、微笑ましい物を見る目でカーリナを見ているだけだ。


 というかあの野郎、いつの間にカーリナに告白したんだ?

 そんな素振りなんか無かったぞ!


 「それで姉ちゃん、その人とお付き合いしてるの?」

 「そうだ、僕もそれは気になる!」


 そうだそうだ! 俺達には知る権利があるんだ!

 最悪カラノスの住民を巻き込んでファラスまでデモ行進することも辞さないぞ!


 なんてことを想いながらカーリナの返事を待っていたのだが、以外にも彼女はケロッとした表情で答えた。


 「ううん、お付き合いしていないよ」


 【朗報】バシル振られやがった!

 ウケるー!


 「だって私、好きな人がいるんだもん」

 「ひっ」


 【悲報】カーリナに好きな人がいるらしい……。

 やべぇ……危うく心臓麻痺を起こしそうになった。

 いやだって、バシルを振ったのは朗報だが、しかし振った理由が、「好きな人がいる」だからな……。


 ……え? マジで?


 「それは学院にいるのかしら?」

 「……うん、学院にいる人」


 俺の中の何かが音を立てて崩れ落ちる……。

 恥ずかしそうにチラチラと俺を見ながらビアンカの質問に答えたカーリナは、まさに恋する乙女のそれだった。


 ああ……目の前が真っ暗になっていく。

 最後に一度、君に会いたかったよ、クリス……。



 _______________________________________________




 というのは冗談として。

 あの後さらに、息子たちの恋愛模様を根掘り葉掘りと聞こうとした両親に弄ばれたが、疲れたから風呂に入りたい。と言ったところ、すんなり解放してくれた。

 そして今は、カーリナとアルフレッドと三人で仲良くベッドに横たわり、蝋燭の明かりの中、寝る前に話をしている最中だ。


 「で、結局バシルの奴は、カーリのこと諦めていないのか?」

 「うん、『それでも君のことを好きでいたい』って言ってた」

 「そうか……」


 話しているといっても、夕食の時に聞きそびれたことを聞いているだけだが、以外にもカーリナは素直に答えてくれる。

 今まではぐらかされていたのが嘘みたいだ。


 というかアイツ、振られたのにまだカーリナに好意を寄せてるとか……メンタルつえーな。


 「それで、好きな人って誰なんだ?」

 「それは秘密!」


 口が滑らかな今なら教えてくれるかと思ったが、そこはやっぱり教えてくれなかったか。

 まあいいや、学院に戻ったらカーリナの様子をチェックしよう。

 きっとカーリナの好きな人とやらが分かるかもしれない!


 「ねえ兄ちゃん。兄ちゃんの好きなお姫様って、どんな人?」

 「ん? クリスのことか? んー……そうだなー――」


 カーリナの話を聞き終えると……いやまだ聞きたいことは山ほどあるが……俺とカーリナの間にいたアルフレッドがクリスのことを聞いてきた。

 確かに気になるだろうな。この国のお姫様なんだし。


 俺はなんとなく話す気分になったので話してあげることに。

 相手が実の弟だしね。


 「クリスは優しい子だよ。俺の話にも笑ってくれたり驚いてくれたりしてさ。それでやっぱり王族らしく上品で、何をしても丁寧っていうか、気品があるんだよ」

 「あ、それ分かる! なんていうか、歩いている時の雰囲気も全然違うよねー」


 俺の説明に、カーリナが自慢するように補足してくれる。

 カーリナにとっても友人なんだし、色々自慢したいのだろう。


 「へ―……本当に王族みたいだねー……」


 なんたって王族だからな。


 「じゃあさ、兄ちゃんはフェリ姉ちゃんとそのクリスさんのどっちが好き?」

 「…………」


 ……なんだろうか、この純粋な瞳で見つめてくる生き物は。

 純粋故に悪気はないのだろうが、出来ればそういう質問は勘弁して欲しい所だ。

 まあ、まだ10歳なんだし、そういった機敏は分からないだろうけど……。


 「……」


 うわっ、カーリナがアルフレッド越しにこっち見てる。

 それも真剣な顔で。

 そんなに気になるのかよ……。


 「……クリス、かな」


 どっち? って聞かれたら、やっぱりそう答えるな。


 フェリシアも、最初にあった時はスンゴイ少女だなーって思っていたが、一緒に旅をして、戦って、喧嘩して、一緒に過ごしているうちに、俺はフェリシアに家族のような親しみを感じるようになった。

 或いは、分かり合える仲間、とも。


 それは、恋愛、というより、親愛、といった方がいいだろう。

 もし、学院に入学せず、クリスとも出会わず、あのままフェリシア達と一緒に旅を続けていたら、或いはフェリシアに恋していたのかもしれない。


 だけど今は、クリスに出会って恋をした。

 だから俺は、クリスのほうが好きなんだ。


 「そっかー……」

 「……」


 俺の答えに、理解したのかしていないのかよく分からん様子で返したアルフレッドだが、彼の後ろで寝転がっていたカーリナはどこか諦めたような、或いは寂し気な様子で聞いていたのが少し気になった。


 カーリナのこの様子からすると、やっぱりフェリシアは俺のことを……いや、そんな己惚れたことを考えてもしょうがないよな。

 例えそうだったとしても、俺は今、クリスのことが好きなんだ。

 好かれたからといって、この気持ちが揺らいでは駄目だよな。うん。


 ……でも童貞としてはハーレムだとか酒池肉林だとかを考えてしまうわけですよ。

 虚しい男の性ですわ……。


 「……ねえお兄ちゃん、もっとアルに学院のことをお話ししよ?」

 「……ああそうだな」

 「うん、僕ももっと聞きたい!」

 「よし、じゃあどんな話をしようか――」


 俺とカーリナの間で流れた悪い雰囲気を払拭しようとしたのか、笑顔になったカーリナが話題を変えた。

 やっぱりカーリナは頭のいい子だな。場の雰囲気も読めるし、俺にとっては良い妹だよ。

 アルフレッドは結構純粋な子だ。決して愚鈍なわけでもなく、真っ直ぐに物事を見つめる素直な子だ。


 そんな自慢の妹達と、宵が深くなるまで学院のことを話した。

 夕食の時に話さなかったことや、話したことでもアルフレッドがもう一度聞きたがったことを。


 これからも兄妹三人、こうやって仲良く話していきたいな。



 _______________________________________________




 俺とカーリナが実家に帰って来てから1ヶ月が経った。

 その間、俺達は1年振りの実家ということで色んなことを楽しんだ。


 ビクトルと剣術の稽古をしたり、アルフレッドと一緒に魔術や格闘の訓練もした。

 カラノスにいないと分かっていたが、一応オークス先生の家に行って先生がいないかを確認したりもしたな。


 他にも、モテモテのアルフレッドに対して俺とカーリナでからかいに行ったり、近所の友達に挨拶したりと、中々充実した1ヶ月だった。

 旅から帰って来て学院に入学するまでの間は準備やら何やらで忙しく、あまりゆっくり出来なかったが、今回はゆっくりと出来て何よりだ。


 そして現在、家の外で家族5人、例によって別れを惜しんでいた。

 これからまた、王立魔術学院に戻らないといけないからだ。


 「じゃあファラスに行って来ます。来年にはまた帰ってくるよ」

 「ああ、行ってらっしゃい。道中は気を付けて行って来るんだよ?」


 流石に3度目の別れなので皆慣れたらしく、俺やカーリナ、ビクトルにビアンカにアルフレッドも寂し気な表情をしていなかった。

 さっき俺が言ったように、来年にはまた帰ってくるつもりだし、3人もそれが分かっているのだろう。

 俺としては、しんみりとした別れにならなくてよかったと思ってる。


 「僕も勉強とか頑張るから、兄ちゃん達も頑張ってね!」

 「うん! 私、学校で一番になっちゃうから!」

 「カーリならきっと、一番になれるわ」


 アルフレッドとビアンカが、カーリナと笑顔で言葉を交わしてい姿を見ていると何とも微笑ましい。

 この1年、手紙すら出さなかったからな……今年からはちょくちょく手紙を出していこうかな。


 そんなことを考えつつ、ビクトル達と別れのハグをしていざ出発となった。


 「それじゃあ、行って来ます!」

 「いってきまーす!」


 王都行の馬車が止まっている小屋へ歩き出しながら、再度3人に対して手を振る。


 「ベル、カーリ、行ってらっしゃい!」

 「体調には気を付けてねー!」

 「また来年、絶対に帰って来てねー!」


 対するビクトル達も、手を振りながら応えてくれた。

 ……うん、やっぱり帰ってくる家があるっていいな。

 家族が温かく迎えて、送り出してくれるんだ、来年も絶対に帰ってこよう。


 そうやってしばらく手を振りながら歩みを進め、しばらくすると前を向いて歩き出す。

 また、これから学院での生活だ。これはこれで待ち遠しい。

 ただその前に……。


 「また馬車か……」

 「お兄ちゃんそんなこと言わないの。ガマンして?」

 「ああ……」


 カーリナに窘められてしまったでござる。

 まあなんだかんだ言って、カーリナも俺のことをよく介抱してくれるからな。

 流石は俺の天使だ!


 しかし、また2日も馬車に乗らなきゃならんのか。

 いっそアールに車とかバイクを作ってもらうか?

 ……うん、いいな! 学院に着いたらアールに提案してみるか!

次回は4月9日に投稿となります。

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