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第2話:ベルホルト、大地に立つ!

 3歳になった。

 既に二足歩行をマスターし、さらにこの国の言葉をマスターした。

 やったぜ!


 この家の間取りも把握出来るほど、歩き回ったりもした。

 鏡で自分の容姿を確認して見たらあらビックリ。

 黒い髪に黒い瞳の幼児がいた。

 なんとも日本人を思わせる見た目だが、堀が深く、そこそこ将来が楽しみな整った顔立ちだ。

 自分で言うのもアレだがね。


 いやーしかし、言葉を覚えるのはマジで大変だった。

 というのも、この国は主に二言語を覚えないといけないから、必死になって勉強したよ。

 でもまあ、早いうちから覚えようと意識していたらか、割とすんなり頭に入ってくるもんだ。

 あれかね、やっぱり子供の脳みそって柔らかいのかねえ?


 でまあ、なんでこの国は二言語も覚えなきゃならんのか、と言うと、ちょいと話が長くなる。


 まずはこの国から説明しなきゃいけない。

 この国―ハルメニア王国についてだが、例のビクトルが見ていた地図をこっそり見ると、あのサングラスみたいな大陸、ガニメデ大陸というんだけど、それの真ん中に位置する小国だ。


 北には中央山脈といわれる大きな山脈がサングラスの東西を分断していて、南はイルマタル海が広がっている。

 中央山脈以西は”西部地域”、以東は”東部地域”となっている。

 で、ハルメニア王国の西側は”大アレキサンドリア帝国”という超大国があり、東側には”東部連合”っていう国同士の巨大な連合体、前世でいう所のEUみたいなのがある。


 それで大アレキサンドリア帝国には”人族”が支配していて、主に人族語を話している。

 一方、東部連合というのは、様々な種族がそれぞれ国家をなしていて、それが連合を組んでいる関係から、統一の言語として亜人語が使われている。


 お互いに宗教的、人種的に激しく対立しているらしく、戦争したりしなかったりらしい。

 そこらへんはあんまり知らないのでまた勉強しよう。

 言葉を覚えるのに大変だったからね。


 とまあ、そんな二つの勢力に挟まれた我が国はどちらからも虐げられている。という訳でもなく、むしろ独自の経済力で東西の二勢力を相手にしている関係上、国民は二言語覚えることが義務付けられている。

 そのお陰で俺は言葉を覚えるのに苦労したのか……。


 しかし実際、ビクトルやビアンカは人族語も亜人語も一緒に使ってくるし、外に出ると看板や案内板にもしっかりと二言語で書かれている。

 我が国は中々グローバルな国だ。


 「おにいちゃ、これなんてよむの?」

 「これは”世界”っていうんだよ」

 「せかい?」

 「うん、世界」


 そんなこんなで言葉を覚えたのだが、実はカーリナのお陰で早く覚えたというのもあるだろう。


 というのも、カーリナは割とお兄ちゃん子なようで、ハイハイが出来るようになった頃から俺についてきて、俺の真似をすることが多かった。

 立って言葉を覚えてきた今でも、こうやって隣に来ては俺の真似をしている。

 俺が遊べば遊ぶし、勉強すれば勉強するし、とにかく俺と一緒に居たがる。


 かわいいからいいんだけどね。

 かわいいは正義。


 「あらあら、また二人でお勉強? 偉いわね~」

 「うん。勉強は楽しいから」

 「たのしーから!」

 「うふふ! そう、相変わらず仲がいいわねぇ。でも、そろそろお昼ご飯だから、片づけていらっしゃい」

 「うん」

 「うん!」


 昼食の時間が来たようで、ビアンカが呼びに来てくれたみたいだ。

 取りあえず読んでいた本を片づけてご飯にしますか。

 ビアンカを待たせるのも悪いしね。


 ビアンカは、いわゆる専業主婦だ。

 ビクトルは朝早くから仕事に行き、それをビアンカが見送る。

 そこから彼女は掃除をしたり、洗濯をしたり、或いは俺達の世話をしたりして忙しい毎日だ。

 若いのに大変だね。歳はまだ知らんけど。


 ビクトルも朝から大変そうだ。

 俺もたまに早く起きて見送りしたりするんだが、未だに何の仕事をしているのか分からない。

 ただ、中世風のすごくカッコいい服を着て出勤するので、もしかしたら公務員かもしれない。

 職が安定していて羨ましい限りだ。


 「おにいちゃん、おにいちゃん。はやくごはんしよ?」

 「ああうん、そうだね。」


 おっと、ボケっと片づけていたらいつのまにか終わっていたのか。

 カーリナに袖を引っ張られれてついて行く。

 たまにこうやって行動力を見せてくることもあるのが俺の妹だ。


 ビアンカ譲りの金髪を、ピンクのリボンでポニーテールにして本当にかわいい。

 妹なんてうっとうしいだけ。なんて前世のインターネットでよく聞いた話だが、実際に妹が出来てみると中々どうして、愛おしいく思えてくるものがある。

 カーリナがお兄ちゃんっ子で素直ないい子なのか、それとも俺が前世の記憶を持っていて精神的にある程度大人だからなのだろうか? 本当に大人かどうかは別として。


 まあどうでもいいか。

 カーリナはこんなにもかわいいんだし。

 いや、こんな言い方してるとまるでシスコンみたいじゃないか。

 ……いや、いいか別に。


 もうシスコンでいいや。



 _______________________________________________




 「ごちそうさまでした」

 「でした!」

 「はい、お粗末様でした」


 食事を終えて一息。

 ふいー、腹一杯になったぜ!

 ビアンカが作ってくれる料理は結構美味い。

 割と薄味なのだが、俺は結構好きな味だ。

 ラノベとかではよく、異世界の食事は口に合わない、とか聞くが、少なくともビアンカの作る料理は美味しい。


 今日の昼食のメニューは根菜を複数のスパイスで煮込んだスパイススープだ。

 というか前世で言う、カレーだ。

 文化的にはヨーロッパのイメージが強いこの国だが、意外とインディーな料理も出てくる。

 ほかにも、肉じゃがや筑前煮のようなものも出てきた。

 どれも日本料理っぽい料理なので、俺としては嬉しい限りだ。

 だからビアンカの料理も美味いと感じるんだろう。


 なんでこんな馴染みのある料理が出てくるのかについては、そんなに疑問には感じなかった。

 異世界なんだし、そういうこともあるんだろう、くらいにしか思わないからだ。


 「おにいちゃん、おひるはどうするの?」

 「う~ん、朝は勉強したし、遊ぼうか」

 「うん! あそぼっ!」

 「ふふ。しっかり遊んでいらっしゃい」


 さて、腹も膨れたし、カーリナと遊ぶか!

 俺としてはもっと色んな知識を得たいのだが、カーリナとも遊んであげたい。

 これは、俺がシスコンだからという訳ではない。兄としての務めだ。決してシスコンだからという訳ではないぞ!

 まあやることは大体おままごとがほとんどだが。



 _______________________________________________




 夕方、遊び疲れたカーリナを昼寝させ、俺は前から気になっていた電話について調べてみることにした。

 年季の感じられるこの電話は一体どういう原理で動いているんだろうか?


 「ただいまー……っておや? 電話の前で何をやっているんだい?」


 どうやらビクトルが仕事から帰って来たようだ。


 「あ、お帰りなさいお父さん。電話ってどんな仕組みなのかな? と思って」

 「そうか、相変わらずベルは勉強熱心だね。見るのはいいけれど、壊さないでくれよ?」

 「うん」


 確かに、子供が大事な物をいじっていたら心配になるだろうな。

 ビクトルはそのまま服を着替えに寝室に向かう。


 肝心の電話なのだが、見た目がそのまんま黒電話のコイツは、この世界では高価な物品であることが分かった。 

 電話だけでなく、音割れの酷いラジオもそうだ。


 魔法……この世界では魔術が一般的らしくその魔術があるこの世界で、何でこんな家電があるのかと深く考えさせられた。

 だって、ロー○○ブザリ○グとかにも電話なんてなかったし、そういうのは魔術の方が便利そうだと思うじゃん?

 でも意外とこの電話やラジオは重宝されているみたいで、それなりに裕福な家庭では置いてあるらしい。


 しかし、町の中には電柱や電線なんかが見当たらず、どういう仕組みで機能しているのかも全く分からなかった。

 だからこうやって見ているのだが、そもそも電気で動いているのかすら怪しい。

 俺自身、電話の構造とか知らないので、何とも言えないのだがね。


 ただ、本体と受話器を繋ぐケーブルは、初めて見た時に確認した通り、クルクル巻じゃないやつだ。

 流石にこの部分はゴムで作ったわけではないようで、黒く塗った紙……よく見ると薄く引き伸ばした革を使って被覆? をしていた。

 本体について見ても、ネジで止めたようなところはなく、木を使って上手く組み立てているようだった。


 こうやって注意深く見ていると、あることに気付いた。

 それは本体から伸びているケーブルが、コンセントに刺さっていなかったからだ。

 異世界なんだからコンセントなんかなくて当たり前だろ! って思う所だが、じゃあどこから電気が来ているんだ? って話になってくる。

 そこでケーブルを手繰ってみると、それは大きめのダンボールくらいの箱に繋がっていた。

 何じゃこれ?


 「それは魔力を貯める”バッテリー”さ」

 「魔力を貯める……”バッテリー”?」


 後ろからいきなりビクトルに声を掛けられ、内心ビクっと驚きつつ振り向き、ビクトルの説明に耳を傾ける。


 「それは電話やラジオなんかを使うために必要な物なんだ。その容器に僕達が定期的に魔力を込めて、いつでも使えるようにしているんだ」


 はぁ~、バッテリーね……。

 しかも、魔力を貯めるバッテリーか。

 この世界の人も凄い発明をするもんだ。


 「じゃあ、これは魔力でしか動かないの?」

 「ん? 魔力以外では動かせないけど……まあ、そういうことだね」


 んん? 魔力以外では動かないってことは、この世界には電気の概念がないのか?

 それとも、概念はあるけど、それを電力として使うという発想がないのか?

 また疑問が増えたな。


 「それよりも、もうすぐ夕ご飯だからカーリを起こしてきなさい」

 「はーい」


 もうそんな時間か。

 我が家のお姫様を起こしに行こう。


 カーリナを起こすまでに、色々考える。

 この世界の家電、といっても電話やラジオくらいしか知らないが、それらを動かすのには魔力が必要で、さらにその魔力を貯める為のバッテリーなんてものもある。

 中世くらいの文明レベルだと思っていたが、明らかに近・現代の技術だ。

 それも魔術のあるこの世界に。


 魔術があるなら、魔術に関する技術が発達するもんだと思ったのだが、俺がファンタジー世界に夢を見ていたのかもしれないな。


 というか、俺も魔術を使いたい。

 この前、一度そういう感じで頼んでみたが、『ベルにはまだ早いわ』とやんわり断られてしまった。

 残念。


 因みに電灯の類が全くなく、照明には蝋燭やカンテラが使われているが、これは恐らく、消費する魔力が多すぎるのではないのかと思う。

 さっきもビクトルが言っていたが、魔力はビクトル達が補充しているというのなら、常にそれを消費する電灯などは、あったとしてもそう簡単に使えないのだろう。

 多分、俺の予想では電灯や懐中電灯みたいなのもあるだろうから、その内探してみたいな。


 「カーリ、ご飯だよ、起きて」

 「う~ん……おにいちゃん……?」


 小さく寝息を立てていたカーリナの肩をゆすって起こす。

 カーリナは起きるなり、すぐに俺の服の袖を握ってくる。

 イカン、鼻血が出そうだ。

 ニヤけるのを我慢するので必死になる。

 この世界、カメラがないのが本当に残念だ。

 いや探せばあるかもしれないけれど。

 これもそのうち探してみよう。


 「その時はいっぱい写真をとってあげるよ」

 「……んぅ? ごはん?」 


 取りあえずまあ、カーリナを連れて夕飯を食べに行かなければ。

 今日のご飯はなんだろうな。



 _______________________________________________




 色んな事に夢中になっていたら、時が経つのは早いものであっという間に2年の月日が経った。

 


 「誕生日、おめでとう!ベルホルト、カーリナ!」

 「おめでとう、二人とも!」


 今日は俺達の5歳の誕生日らしい。

 フフフ、今宵は楽しもうではないか!


 しかし、この言葉を聞く度に、何かを思い出すのだが……。

 まあいいか。

 そんなことよりも誕生日だ。

 

 「ありがとう! お父さん、お母さん!」

 「ありがとう!」


 俺も5歳児としてそこそこ成長した。

 カーリナもかわいさがグッと上がった。


 そして今四人で囲っている机の真ん中には、ちょっとした飾り付けのケーキがワンホール置いてある。

 この世界では誕生日に蝋燭の火を吹き消したりはしないようだが、ケーキを食べる習慣はあるみたいだ。

 砂糖や卵もきっとお高いのでしょう?

 なんて思ったりもしたが、そこそこ手頃な値段で売っているもので、ちょっと奮発すればケーキなんて物もすぐに作れてしまう。


 この世界では、生活に余裕がある家庭では毎年誕生日のプレゼントを贈る習慣がある。

 うちにはその余裕があるみたいで何よりだ。

 ちなみに去年まではお揃いの服だった。


 

 「僕からはこれをプレゼントだ!」


 で、ビクトルから蓋付の青く塗装された鉄製のペンを渡された。 

 ペンだ。

 デザインはシンプルだが、どこか気品の感じる逸品だ。

 蓋を取ってみると、万年筆だと分かる。


 「ペンはね、知識の象徴としてプレゼントすることがあるんだ。まだ5歳だし早いかなって思ったけれど、ベルは勉強熱心だからね。そのペンにしたんだ」


 繁々と万年筆を眺めていると、ビクトルが説明してくれた。

 なるほど、将来を期待しての贈り物ですか。

 確かに、俺は前世の記憶があるから四則演算も出来るし、少しでもこの世界の知識を身に着けようと意識しながら生きていたので、読み書きもかなり出来るようになった。

 これは結構気分がいいけど、調子に乗って異常な子供みたいに思われても嫌なので、少し自重しようと思っている。

 調子に乗り過ぎると碌なことがないだろうしね。


 「……ありがとう、大事にするね」


 しかし、万年筆か。

 前世ではいつ万年筆が生まれたのかは分からないが、この世界にはこんな物まであるのか。

 

 「おとうさん! わたしはー?」

 「ああごめんよ、はいカーリにはこれを」


 カーリナには本が渡された。

 表紙を見るに絵本だろう。

 

 「えーーっ! おにいちゃんといっしょがいい!」


 だがカーリナは俺と違うものを渡されて不満な様子だった。

 

 「カーリにもペンを贈ろうかと思ったけれど、まだ早いから、もうちょっと大きくなってから贈るね」

 「え~、でもぉ……」


 ビクトルに諭されてもカーリナが駄々をこねる。

 そんなに俺と一緒がよかったのかい? お兄ちゃん嬉しいぞ!

 そんなカーリナを今度はビアンカが諭す。


 「お兄ちゃんは勉強ができるからペンを贈ったの。だからカーリも、お兄ちゃんと同じくらい勉強ができるようになったら、その時はペンをあげるから。ね?」


 カーリナも結構頭の良いほうで、教えたことはすぐに憶える子だ。

 いつも俺の後をチョコチョコと付いてきて、俺が勉強をしていたら一緒になって勉強する。

 だから基本的な読み書きや会話は早い段階で出来るようになり、ご近所様からも、”天才兄妹”なんて呼ばれるようになった。

 実際、この世界は識字率が低く、近所に住む俺達と同年の子供達で文字の読み書きが出来る子はいない。

 だからこそ文字の読み書きが、それも二言語も出来る俺達が天才だと言われているようだ。

 前世の記憶を持っている俺としては、変な罪悪感みたいなのを感じてるんだけどね。


 「やだっ! お兄ちゃんといっしょがいい!」

 

 だがカーリナは天才と言われても精神的にはまだまだ年相応なようで、俺と同じ物が欲しいと駄々をこねている。

 そんなところもかわいいけどね!


 「カーリ、ちゃんとお礼は言わないといけないぞ」

 「うぅ~~~……おとうさん、ありがとう……」

 「はい、どういたしまして」


 ともあれ、お礼はちゃんと言わないといけないな。

 そう思ってカーリナにお礼を促すと、俺の言うことは聞いてくれるみたいで、涙目になりつつビクトルにお礼を言った。


 素直に言うことを聞けたら、今度は褒めてあげないとね。

 そんな自分の教育方針に従い、カーリナの頭を優しく撫でる。

 ああ……これがシルクの肌触りか……。


 「はいよく出来ました。いい子いい子」

 「えへへ~」

  

 可愛い。

 天使はここにいた。


 「あら、頼もしいお兄ちゃんね! そんなお兄ちゃんといい子のカーリにはこれをプレゼントします」


 ビアンカからもプレゼントを貰った。

 俺には厚手のちょっと大き目な本を、カーリナにはスケッチブックとクレヨンのような絵を描く道具が渡された。


 「ありがとう、お母さん!」

 「ありがとう!」

 「はい。大事に使ってね」

 

 とりあえず本の中を確認してみる。

 どのページをめくっても真っ白だった。


 「ベルもカーリと同じ物にしようか迷ったけれど、あなたは賢いから、そのノートに知ったこと、勉強したこと、憶えておきたいことを、お父さんから貰ったペンで記録して、もっと賢くなってね」


 要はもっと勉強しろ。ということか。

 いや俺としては望むところだが、前世のクソ生意気な子供なら発狂するところだぞ。

 P○Pじゃない! とか言ってフランスパンで殴られる事案だ。


 けど、今の俺としてはかなり嬉しい。

 前世では勉強は好きじゃなかったが、娯楽の少ないこの世界で知識に触れるというのはかなり楽しい。

 こんなに楽しいと思うのは、やっぱりここが異世界で、新しい人生を迎えたからだろうか?


 何にせよ、こんな俺に期待してくれるビクトルやビアンカには感謝しないとな。


 「うん、ありがとう。これでもっといろいろ……」


 ……いやちょっとまてよ。

 これを機に魔術を習うなんていうのもありなのでは?


 魔術を教えてほしいと言っても断られた日以来、何度もアタックを繰り返したが頑なに許可は貰えず、お預け状態が続いた。

 最近では、教えてもらうために家事の手伝いをしていい子アピールをしていたが、それでも教えてくれなかった。


 だが今なら、「もっと賢くなってね」といわれた今なら、あるいは、教えてくれるかもしれない。


 「……これで、お父さんとお母さんがくれたペンと本で、魔術の勉強したいです! 魔術を教えて下さい!」

 「ベル……」


 まっすぐにビアンカの目を見つめて頼み込む。

 しかしビアンカは困り顔で俺を見つめ返すだけだ。

 くっ、まだ駄目だというのか!


 「ビアンカ、教えてあげてもいいんじゃないかな? ベルは賢い、ちゃんと言い聞かせれば危険なことにはならないだろう?」

 

 おお! ここでビクトルからのナイスアシストが入った! いいぞーいいぞ~!

 というか魔術ってそんなに危険なことなの?


 「う~ん……そうねえ……うん、分かりました。それじゃいくつか約束を守れるかしら?」

 「うん、守る」

 「あらあら、まだ言っていないのに。ふふ! それじゃあ約束です。魔術だけじゃなく、他のことも学ぶことを怠らないこと。魔術を習ったからといって、無闇に使わないこと。特に弱いものいじめは絶対に駄目! 『持つ者は持たざる者を貶めるなかれ』よ」

 「『持つ者は持たざる者を貶めるなかれ』?」

 「そう。弱い人をいじめたり、威張ったりしちゃ駄目、っていう諺よ」


 つまりは調子に乗って人を傷つけるな、って言うことか。……うん、そうだよな、威張って人を傷つけることはしちゃいけないな。


 「うん……はい、約束、守ります!」

 「はい! じゃあ明日から早速教えます」


 よおっし! これで魔術を習うことができるぞ!


 「わたしもっ! わたしも魔術をおしえて!」

 「カーリ……あなたにはまだ早いわ」

 

 俺の真似をしたのか、カーリナが手を挙げながらビアンカに迫っていた。

 その様子から、「おにいちゃんだけズルイ!」といった感じがヒシヒシと伝わってくる。

 確かに、俺だけ教わって不公平な感じもする。

 カーリナは賢いから、ちゃんと教えたらそんな危険なことにはならないんじゃないか?

 俺がちゃんと見ていてあげればいいしね。

 なんて思ったので、ビアンカに向き直り--。

 

 「お母さん、カーリのことは僕が見ているから、カーリも一緒じゃ駄目?」


 と、ついついカーリナを甘やかすことを言ってしまう。

 カーリナがいてくれた方が、俺も魔術の勉強が捗ると思うしね。

 切磋琢磨ってやつだ。


 「そうねえ……。ベル、ちゃんとカーリのこと、見ていてくれる?」

 「はい、ちゃんとカーリのことを見ています。何かあっても、僕がカーリのことを守るから!」

 「あらあら、うふふ! じゃあ、しっかりカーリのことを守ってね」

 「ありがとう! おかあさん、お兄ちゃん!」

 

 うん、そうだ、俺がカーリナを守ってやらねば!


 「二人は本当に仲がいいね。お父さんは嬉しいよ」

 「本当に……。こんなにいい子達の母親になれて、幸せだわ……」


 ビクトルがビアンカの肩をそっと抱いて引き寄せる。

 イチャコラしてくれちゃってまあ。

 羨ましいこってっすなぁ。


 なにはともあれ、だ。

 俺はやっと、魔術を勉強できるようになるんだ!

 こんなに嬉しいことは無い。

 前世では何を始めても長続きしなかったが、今世で生きていく上で、そんな中途半端なことはしたくない。

 途中で投げ出さずにやり抜こう!

 

 しかしそうか、カーリナも一緒に習うんだ、危険がどうこう言うくらいなんだからちゃんと見てあげないと、カーリナ自身に危険が及ぶことがあるかも知れない。

 うん、ならちゃんと見て、守ってあげないとな。

 カーリナの平和は俺が守る!

 目指せ! 面倒見の良いお兄ちゃんだ!

 そしてゆくゆくは、「大人になったらお兄ちゃんと結婚するの!」なんて言われるようになるぞ!


 おお! そう思うと俄然やる気が出てきた! 明日が楽しみだ!

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