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第23話:異世界でも入学式は面倒なもの

 「いよいよ明日は入学式じゃのう。二人とも、用意はいいか?」

 「はい、準備は既に出来ています」

 「ノート、ペン、着替えにタオル。必要なのは全部オッケーだね!」


 入学試験より1か月後、無事に合格した俺達は、さらに2週間後の明日に入学を控えていた。

 この2週間に必要な物は全て揃え、後は夕飯を食べて明日を待つだけだ。


 あとついでに言うと、俺達は先々週に15歳の誕生日をささやかに祝った。

 これで、世間一般では成人だ。


 「これから4年間、お主達は基本から魔術を習い直すことになる。時には儂が教えたこととは違ったことを言われるかもしれんが、それは教授のそういう考え方があるものだと思って受け入れなさい。そうやって色んな考え方を見に付け、魔術師、魔法師としてさらに向上せねばならん」


 明日の入学式を控え、オークス先生の熱の籠った講義が始まった。

 一言一言を重く受け止め、明日から始まる学院生活の中で実践していかなければならない。


 「お主達はまだ若い。若いが故に失敗することも多いじゃろう。時には信じていたものに裏切られることもあるじゃろう。しかしそれらを乗り越えてこそ、お主達は大きく成長するのじゃ。4年後にはどのように成長しておるか分からんが、失敗したからといって、裏切られたからといって、決して腐ってはならんぞ」


 尚も先生の熱弁は続く。

 だがしかし、俺達はこの素晴らしい講義に今一つ集中し切れないでいる。

 何故か? それは今現在の状況を考えてくれれば分かるだろう。

 飲食店の中、香ばしい匂い、時折鳴く腹の音。


 一言言いたい。

 腹減った。と。


 「未来ではお主達がどのように活躍するのか、儂も楽しみではあるがそれを決めるのは他ならぬ――」

 「先生! 話長い!」

 「コラッカーリ! 思っていても口に出しちゃいけません!」

 「これこれお主ら、年寄りの話は真面目に聞かんか」


 無理だ。だって目の前にご飯があってお預け状態で待たされていれば、そりゃあ先生の話も右から左ですよ。

 カーリナが思わず口を挟んでしまったようだが、内心ホッとしている。

 そうじゃなければいつまで話を聞かなければならなかったのか。


 「というか先生、わざと話を長くしたでしょ?」

 「ほっほっほ!」


 やっぱりか。

 この人はこういう人だ。

 そうやって俺達のことをおちょくってくる。

 これだから大人と言う奴は!


 「ま、結局のところ、儂が言いたかったのはじゃな……入学おめでとう、明日から4年間頑張るのじゃぞ」


 そうやってオークス先生は、優しい笑みを湛えながら俺達の入学を祝ってくれた。

 先生の言葉を受けて、俺とカーリナはお互い顔を合わせて頷き合うと、先生に向き直り、深く頭を下げる。

 精一杯感謝の気持ちを込めて。


 「今までありがとうございました!」


 二人でお礼を、オークス先生に言った。


 「……これ、今生の別れのように言うでない。お主らが卒業したら、また一緒に旅に出るのじゃろう?」

 「そうですけど、これまでの節目と言うことで」

 「4年後にまたお世話になるかもしれないけれど、さっきのはこれまでのお礼、ってことだよ」

 「そうか……うむ、ならその気持ち、ありがたく受け取っておくかのう」


 そう言って俺達はお互いに微笑み合う。

 照れる気持ち半分、嬉しい気持ち半分といったところだ。


 「あーそうそう。お主達が明日、学院へ入学する際、儂も旅立つからの」

 「どちらへ向かわれるんですか?」

 「うむ。あの二人の所じゃ」

 「あの二人って、フェリの所?」

 「そうじゃ」


 フェリシア達の所、っていうと、バム軍港か。

 実は以前から、オークス先生が俺達の許を去るというのは聞いていた。

 ここで言わないのは、余計な連中に聞かれないためだそうだ。


 そりゃあ俺達とは違って、先生は学院に入学するわけじゃないし、いつまでもこのファラスに留まっているわけにもいかないからな。


 しかしバム軍港か……夜神が待機しているところだったよな……。

 やっぱり先生も、魔神の弟子として危険な戦いに赴くのだろうか……?

 だとしたら心配だな。

 いらん心配かもしれんが。


 「ま、あの二人にはよろしく言うておくからの」

 「はい、お願いします」


 何はともあれ、フェリシア達にも俺達が無事に入学出来たことを報告してもらわないとな。

 頼みますぜ、先生!


 「と言うことで、お待ちかねじゃ。いい加減に食事にしようかの」

 「頂きます!」

 「いただきまーす!」


 神速の頂ますだ。

 新レコードを叩き出したかもしれない。

 さっきまでのいい雰囲気は何だったのかと言うくらいの早さで俺達は夕食にあり付いた。

 これには先生も、呆れた表情をしている。

 ……ちょっと微笑んでいるようにも見えるが。


 食べつつ、喋りつつ、呑みつつ、夜が深くなっても俺達は楽しい時間を過ごしていた。


 調子に乗って酒を呑むカーリナが酒に吞まれ、俺の膝に乗って、「お兄ちゃん抱っこ~」なんて甘えて来た時は本当にどうしようかと思いましたよ。

 と言うかあれだな、カーリナは酒を呑むと幼児退行するんだな。


 でね、カーリナに抱き着かれるとね、あの~ホラ、俺のムスコ的なのがね、勝手にキャンプ始めちゃってね。あれですよ、テントなんかおっ建てちゃって大変ですよ。

 俺自身もかなり呑んじゃたから、カーリナのあどけないながらも色っぽくなってきた色香に、過敏になっちゃうわけなんです。


 でもまあ、実の妹だし? 手を出したらイケないからと、お尻的なのを触りそうなっても我慢したんですけどね。

 それに、カーリナがしてる青いリボンを見てると、不思議とフェリシアの顔が浮かんできて、ハッとさせられるんですよ。

 あー辛い。

 ソロプレイの時も気を使わないといけないし、大変だ。


 「……ベルホルトや」

 「はい、何ですか?」


 と一人で悶々としていると、不意にオークス先生に声を掛けられた。

 少し真面目な声だ。

 因みにカーリナは可愛い寝息を立てて眠ってしまった。

 抱っこしたままな!


 「お主に指輪を貸しておるじゃろ。必要な時、あれを指に嵌めておけ」

 「必要な時……ですか?」

 「うむ」


 指輪って、あれだよな。5歳の時に貰ったのか借りたのか分からんやつ。

 確か……指に嵌めていると死を回避できるとかなんとか……。


 首に掛けている指輪を取り出し、じっと見つめる。

 銀の指輪に四つの宝石。内二つは透明でもう二つは青く輝いている。

 5歳の時には流石に大きすぎて嵌められなかったが、14歳になった今では指に嵌められそうだ。


 まじまじと指輪を見つめていると、オークス先生が俺にしか聞こえない声量で話し始めた。


 「これまではお前さんを守ってやれたが、これからはそうもいかん。特にこの数年、丁度お主達が学院で学んでいる時、エルメス様も復活する可能性が非常に高い」

 「確か、夜神の手紙にもそう書いてありましたよね?」

 「ああ、それにこの王都で聞いた情報によれば、帝国の海軍も既に、イルマタル海へ派遣しているとのことじゃ。これからは連合と帝国の小競り合いに始まり、やがて大規模な海戦へと発展するじゃろう。それも、エルメス様の復活を巡ってじゃ」


 つまり、魔神の復活を手助けしたい連合……さらに言えば魔神の弟子達と、それを阻止し、或いは再度封印したい大アレキサンドリア帝国と真神。

 それらが、魔神が封印されているイルマタル海でぶつかる。

 とても、穏やかじゃない話だな。


 しかしそれが俺達にどう影響するんだ?

 復活を阻止したい真神と魔神を助けたい弟子達。オークス先生ら弟子達が魔神を復活させたとして、その後どうなるか……。


 ああ、そうか、魔神に復活されたら真神としてはその脅威を排除したいわけだ。

 と言うことはつまり……。


 「もし魔神が復活したら、真神側の行動が活発になるかもしれないんですね」

 「……そうじゃ」


 俺の答えに先生は一瞬何かを言いそうになったが、それを呑み込み、真剣な表情で肯定してくれた。

 なんだろう、少し気になるが、多分それも細かい訂正だったのかもしれないな。


 「ま、そう言うことでの、学院で生活する際、危険を感じたらすぐに指輪を嵌めなさい」


 そう言うとオークス先生は更に顔を近づけ、さっと周りを見渡すと、さらに小さい声で俺に囁き掛けて来た。


 「お主は無詠唱で魔術が使えるのじゃ。しかしそれは、そのことを知っている者以外には絶対に知られてはいかんぞ」

 「……はい」


 そう、だよな……これが知られれば、きっと真神の配下がやってくるだろう。

 そうなって巻き込まれるのはカーリナだ。

 戦神のような称号付に襲われたら一溜りもない。

 今のままじゃ勝つことは出来ないだろう。

 なら、俺の秘密は絶対に守らなくちゃいけない。

 それが、カーリナを守ることにもなるんだ。

 責任重大だな。


 「んぅ……おにいちゃ……」

 「ん? どうしたカーリ……カーリ?」


 おっと、カーリナが起きたのかと思ったが、ただの寝言か。

 しっかり寝息を立てていらっしゃる。

 かわいい。


 「……まあ、なんじゃ、カーリナのこともしっかり守ってやるのじゃぞ」

 「そんなの当たり前じゃないですか」

 「……そうか」


 何言ってるんだこの爺さんは。

 カーリナを守るのなんて当たり前のことですよ?


 とは言え、そのカーリナにもちゃんと、無詠唱のことを口止めしておかないとな。


 「なら、取りあえずここをお暇するかの」

 「ですね。カーリもちゃんと寝かせてあげたいですし……よっこいしょ、っと」


 席を立って勘定を払いに行ったオークス先生に続き、カーリナを抱きかかえたまま俺も立ち上がると、彼女を背中に背負い直して店を出る。

 宵も深くなった空を見上げると、星空が綺麗だった。


 「明日から入学式か……がんばろう」


 頑張ることが増えたが、多分、何とかなるだろう。

 取りあえず、カーリナだけは、守り通さねば。



 _______________________________________________




 入学式当日、俺とカーリナ、そしてオークス先生はそれぞれ荷物を持って学院へと歩いていた。

 俺も二人も無言だ。

 話すことが見つからないというかなんというか。

 いつもは明るく元気なカーリナも、今は大人しい。


 そんなふうに無言で歩き続けると、やがて学院の正門が見え、あっという間に辿り着いてしまった。

 俺達よりやや前を歩いていたオークス先生が正門の前で立ち止まり、俺達の方へ振り返える。


 「ここで、しばらくのお別れじゃな」

 「はい」

 「うん……」


 ここでお別れのようだ。

 先生は誇らし気な表情だが、カーリナは既に泣いていた。

 俺は……自然と涙は出てこなかった。


 「これこれ、泣くでないカーリナよ。卒業したらまた会えるではないか」

 「うん……でも、寂しいよ……」

 「それも一時じゃ」


 カーリナに優しく言葉をかけたオークス先生は、皺だらけの手でカーリナの頭を撫でる。

 まるでお爺ちゃんと孫だな。

 カーリナの頭から手を下ろし、今度は俺と向かい合う。


 「では、しっかりの。ベルホルトよ」

 「はい。先生もお達者で」

 「うむ」


 俺達の挨拶は、これで十分だ。

 もっと話もしたいし、寂しくない訳じゃない。

 ただ、俺とオークス先生の間にある信頼感が、これ以上の会話を必要としなかっただけだ。


 満足したのか、先生は俺達の間を通り抜けて数歩歩き、再び振り返った。


 「4年後にまた、迎えに来るからの。それまで頑張るのじゃぞ」

 「ありがとうございました!」

 「あ、ありがとう、ございましたっ!」


 そしてまた、俺達に背を向けて歩き出したオークス先生に、俺とカーリナは深く頭を下げて感謝の気持ちを口にする。

 先生は、今度は振り返らなずに手をヒラヒラさせただけだ。

 背嚢を背負い、愛用の杖をついて歩くその姿を、俺達は最後まで見送った。


 「……行こう、カーリ」

 「……うん」


 未だに小さく嗚咽を上げるカーリナを促し、俺達は王立魔術学院の正門を潜り、中へと入っていく。

 今度会った時に先生が驚いてくれるよう、これから頑張らないとな。



 _______________________________________________




 「合格されたベルホルト・ハルトマンさんと、カーリナ・ハルトマンさんですね。ベルホルトさんはこの大講堂に入って右側、男性の列に。カーリナさんは入って左側の女性の列に並んでください。荷物は我々が学生寮へ運び入れますのでここでお預かりします」


 係員……と言うかお手伝いの在校生っぽい人に誘導されつつ、荷物を一旦預けて俺達は大講堂と呼ばれる大きな建物に入る。

 一応、荷物の中から盗まれて困る物は抜いておいた。


 「じゃ、そう言うことでまたな、カーリ」

 「うん、じゃあまた後でね!」


 大講堂の玄関口で笑顔ながらも目元が腫れたカーリナと別れ、扉の前で男子新入生が並んでいたので、そこの係員に誘導されつつ列に加わった。

 既にいっぱい集まっているな。

 ざっと見て160人くらいだろうか?


 列に並んで少しすると、若い教授っぽい人が俺達の前に立った。


 「はい新入生の皆注目! これから講堂へ入ってもらって、自分の名前が書いてあるプレートがあるからそこへ座ってくれ! そうしたらすぐに入学式が始まるから」


 そう言いながら若教授は扉に手を掛けつつ、さらに説明してくれた。


 「式の段取りは簡単だ。起立って言われたら立つ。座れって言われたら座る。礼って言われたら胸に右手のひらを当てて頭を下げる。以上だ。特に難しいことはしないからゆっくり学院長の話でも聞いててくれ」


 おいおい、随分あっさりとした入学式なんだな。

 立って座って礼するだけかよ。

 なんかこう、入学式なんだからもっと面倒なのかと思ってた。

 まあ面倒が無いなら別にいいけど。

 あでも、軍隊式以外の礼の仕方は初めて知ったな。憶えとこう。


 「何か質問ある? 無し! じゃあ行くぞ!」


 若教授が笑顔で扉を開けた。

 質問に答える気ないだろ。


 なんてツッコミつつ、開かれた扉を列の先頭から進み、中に入っていく。

 それに続いて俺も中へと入った。


 ……成程、大講堂と言われるだけあってとても広い講堂だ。

 壁の豪華な彫刻、国会議事堂を思わせるようないくつもの机、赤い絨毯、壇上と高価そうな紫の幕。

 700人以上は入れそうな立派な講堂で、前世の大学とかでも中々ないだろう。

 他の新入生達もこの講堂内を見渡し、感嘆の声を上げていた。


 また、講堂内の両脇4列程はこの学院の関係者や教授、一部の在校生、貴族っぽい人達が既に座っていて、俺達のことを興味深そうに、或いは品定めをしているかのように見てくる。

 あ、左側の前の方にジューダスがいた。


 それにしても、凄い金が掛かってんだろうな……。

 なんてボンヤリ考えながら若教授に誘導され、自分の名前の入ったプレートを見つけるとそこへ座った。

 他の人も次々に座っていき、後は待機するだけだ。

 女子のグループも中に入って来て、男子グループの左側に座っていた。


 カーリナはいるかな……お、発見! と言うか既に隣の子と仲良くなってる……。

 え? 何? もう友達出来たの? 俺も隣の奴と話したほうがいいの?


 『諸君、静粛に』


 席に着いてから少しすると、何とも偉そうな教授が壇上に上がってマイク越し……と言うかマイクなんて物があるんだな……それで話し始めた。

 なんか頭が残念な人だ。よし、この教授はバーコードと呼ぼう。


 『これより、入学式を始めます。新入生並びに会場の皆さま、ご起立下さい……国旗に、礼! ……ご着席下さい』


 なんかこのやり取り、日本みたいだな。

 国旗に礼をする所とか。

 いや、前世の外国のやり方がどんなものかなんて知らないけれど、酷く既視感を覚えるやり取りだ。


 そう思いつつ、大人しく入学式に身を投じていたが、式は本当に退屈なものだった。

 偉い人が壇上に上がったら立って礼して座る。

 この繰り返しだ。

 今もどこぞの貴族様の、ためになる話を聞かせてもらっているのだが、正直飽きた。

 なんだよ、紅角シャーマン鹿のエサの話って。どうでもいいよ。


 しかしどうして偉いさんの話ってこんなに長いのかねえ?

 ちょっと眠くなってきた。

 昨日は遅くまで先生達と呑んでいたし、今起きてるのもちょっと辛い。

 ……このオッサンの話が終わるまで一瞬だけ寝てようかな……。

 大丈夫、一瞬だけだから。

 一瞬だけ……。

 ……。



 _______________________________________________




 『以上。新入生代表、クリスティアネ・フィオレンザ・グローリア・ハルメニアン』

 「んがっ!? ふぁ~ぁ、よく寝た……」


 んあ~……さっきのおっさんの話終わったのか?

 皆拍手喝采だけど、そんなにいい話だったの?

 まあ興味無いけど。

 あ~、まだ目がボンヤリする……。


 『以上で、入学式を終わります。新入生起立! 退場!』

 「ぶっ!?」


 むせそうになった。

 目なんか擦ってる場合じゃねえ! いつの間に式が終わったんだ!?

 ……じゃなくて、俺が寝過ぎてたのか?

 ヤベェ……皆が真面目に式に参加している中で俺だけ爆睡してたのか……。

 と言うか周りの人も起こしてくれよ……。


 バーコードの号令通り、新入生と一緒に講堂の外へ出る。

 出る瞬間、チラッと壇上を見ると、バーコードが俺を睨んでいた。

 ああ……入学そうそうやっちまったな……。


 講堂の外では若教授が俺達を誘導し、大講堂を後にして今度は各教室へと連れて行ってくれた。

 バカでかい校舎がいくつも並んでいて、その中の一つ、第5校舎に俺達は入ることに。


 男子は160人程いる為、4クラスに分かれるみたいだ。

 女子は40人弱だから一つの教室になるのだとか。

 そしてどうやら俺は青組らしい。

 白、緑、黄、青の4クラスの一つだ。

 因みに女子は赤組となっている。


 発表されたクラス分けの通り、俺は青組の教場に入り、適当な席に着いて教授を待つことにした。

 中段の窓際だ。

 机の上には青い花の形をしたバッチが置いてあり、どうやらこれを右胸に付けなければならないらしい。

 前の黒板にそう書いてた。


 バッチを付けつつ、教場を見渡す。

 筆記試験の時に入った教場より小さい教場のようで、他の生徒も皆席に着くと少し手狭な気がしてくる。

 1クラス40人程だしね。


 白く塗られた壁に、少し痛んだ机と椅子、黒板も付いているが、前世のように深緑ではなく真っ黒だ。

 蛍光灯の類は当然なく、必要な時に魔導具を使って灯りを付けるみたいだな。


 と、席に着いてしばらくすると、黒板の脇にある扉から教授が入って来て教壇に立った。

 と言うかジューダスだ。


 「こんにちは諸君、そして入学おめでとう。俺が君達青組の監督教授となったジューダスだ。よろしくな」


 監督教授と言うことは所謂、担任の先生と言うことか。いや教授だけど。

 そもそも俺のいるクラスにジューダスが監督となったということは、やっぱりジューダスが希望したってことなのか?


 そしてそのまま、ホームルームが始まった。

 ホームルームって言うのかは知らんが。


 「これから4年間、君達は共に魔術を並び、共に生活をしてもらう。時には喧嘩もすることもあるだろうが、上手く付き合いながら卒業していってくれ。じゃあまずは、本人がちゃんといるか確認するから、名前を呼ばれたら返事をしてくれ。アール・ベイル」

 「はい!」


 ジューダスが名簿を読み上げ、生徒が返事をしていく。

 俺の名前は20人目くらいで呼ばれた。

 そして最後まで読み上げると、ジューダスは俺達生徒を見渡し、簡単な注意事項を説明し始める。


 「校内での基本的な注意事項だが、窃盗や強盗、殺人、強姦なんかの犯罪は勿論、女子寮への立ち入りも禁止だ。詳しいことは校舎や学生寮にある”学生の心得”を読んどけ」


 随分適当だな。

 取りあえず悪いことはするなってことか。

 後で学生の心得ってやつを読んでおこう。


 「後は何だったかな……あそうそう、授業後に働くのは別に構わん。単位が落ちない程度ならばな。冒険者だった者は休日に依頼を受けても構わんが、授業にはちゃんと出てくるように。それと、君達新入生の着るローブは、学生寮に置いてあるからそれを着ておけ。以上だ」


 ほう、働いてもいいのか。

 入学金は昨日支払ったが、貯金にはまだまだ余裕はあるし、しばらくは働かなくてもいいかな。

 でも必要になれば仕事でも探すか。


 ローブ……制服かな? これが寮に置かれているらしい。

 今は私服だけど、次からはそれを着なければならんのか。


 「次に授業についての説明だが、通常科目の他に、選択科目というのがあってな。これは5つの科目の中から好きなのを二つ選んで授業を受けることが出来る。今からその5つを説明するからよく考えて選ぶように」


 そう言いつつ、ジューダスは黒板にチョークで選択で来る科目名を書いていった。

 選択科目か。

 自分の好きなこと、得意なことを伸ばすことが出来るし、新しいことにも挑戦できるのがいいよな。

 しかも二つ選べるらしい。

 俺は何にしようか……。


 なんとなくワクワクしながら待っていると、ジューダスは5つの科目を書き終えてチョークを置き、それぞれの説明を始めた。


 「通常の科目に”基礎魔術学”、”応用魔術学”、”歴史”、”魔法陣学”、”校庭運動”の5つと、次の5つが選択科目だ。

 1つ目、”魔道具学”。これは魔法陣学の応用で、様々な魔法陣や魔術式を組み合わせて魔道具を作る科目だ」


 ほほう、つまるところ前世で言う図工のようなものか。

 これはこれで面白そうだ。


 「2つ目は”軍事学”だ。軍事学は将来、この国の兵士、”魔術兵”になりたい者が採ることが多いな。魔術兵というのはこの国の兵士の中で、魔術や魔法に特化した兵士のことだ。そのため、軍事学は魔術を用いた戦い方について学ぶ科目だ」


 これはあんまりやりたいと思わないな。

 別に将来兵士になりたいわけじゃないし。


 「3つ目は”召喚魔術”だ。これは知っての通り、魔物や物、契約した相手なんかを呼び出す魔術で、あまり一般的でないこの魔術を基礎から教える科目だ」


 おお! これは良いな! オークス先生は終ぞ教えてくれなかったが、召喚魔術は俺も習ってみたかったんだよな。

 後の2つにもよるが、もう俺の中では召喚魔術を習うことで決まりだ。


 「4つ目、”強化魔術”。これも皆知っているだろうから簡単に説明するが、強化魔術は体や物を強化する魔術で、それを中心に勉強してもらう」


 これは旅の中で、フェリクスやオークス先生にしこたましごかれたのでもういいかな。


 「5つ目は”治療魔術”で、これは基礎魔術学や応用魔術学でも習う治療魔術を、より専門的に学ぶ科目だ」


 最後は治療魔術か……。

 治療魔術は程度出来るが、出来れば高度な治療魔術も習いたい。

 ……うん、ならこの授業も受けてみようかな。


 「因みに、これらの中から二つだけ受け続けなければならない。ということはないぞ。その都度好きな科目、気になる授業に出席しても構わん。ただ選択科目の中から、最低一科目は単位を取得することが条件だ」


 別にそれを選びっぱなしという訳じゃないのか。

 じゃあ主に召喚魔術の授業を受けつつ、余裕があれば他の授業を受けてもいいと。

 まあそれでも軍事学はいらんけどね。

 

 その後、ジューダスは授業の説明や学食の利用の仕方、寮でのマナーや生活等の説明をして最初のホームルームが終わり、午後は各自の準備の為、自由時間となった。

 生徒達は三々五々に教室を出ていき、それぞれ思い思いの行動をしに行ったみたいだ。

 それじゃ俺も、飯食って学生寮とやらに行きますかね。

 そして教場を出ようとした瞬間、ジューダスに呼び止められた。


 「ベルホルト」

 「なんですか?」

 「お前さん、入学式で寝とっただろ」


 ぐッ……! やっぱり見られてたか……。

 ニヤリと笑うジューダスに、俺は謝ることしか出来なかった。


 「す、すみません……」

 「ま、俺は別に咎める気はないが、は……ターナー教頭がエライ怒っとったぞ」


 あのバーコード、ターナーって言うのか。しかも教頭だし。

 と言うかさっきバーコードのことを禿げって言いそうになっただろ。


 「いきなり目を付けられただろうが、悪い人ではないからな……まあ頑張れよ。俺は期待してるぞ」

 「はい、ありがとうございます……」


 「それじゃあ飯でも食って来い」とジューダスに言われ、俺はそそくさと教場を後にする。

 どうやら要件はそれだけだったみたいだ。

 もっとこう、オークス先生のこととかを聞かれるものかと思ったが、そうでもなかった。

 まあ、これから4年間、ジューダスと色々話をする機会があるだろうし、その時に聞きたいこととかこっちから聞いてみるのもいいな。


 それにしても、これからの学院生活でどんな授業を受けられるのだろうか。

 そう考えると今からでもワクワクしてくる。


 ただ、やるからには本気でやりきろう。

 前世のように中途半端なことは駄目だ。

 何事も最後まで頑張ろう。

次回は2月12日に投稿となります。

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