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第22話:入学試験と合否発表

 今日は入学試験当日。

 この日の為に俺達は、20日間毎日試験内容の予習をしていた。

 オークス先生の旧友で学院の教授であるジューダスが、今年の試験内容を教えてくれたお陰だ。


 前世じゃそういう試験内容の漏えいなんて言語道断なことなのだが、この世界ではそんな倫理観なんてお構いなしなようで、コネと賄賂でバンバン情報が洩れているらしい。

 一応国も取り締まっているようだが、積極的に取り締まっているとは言い難く、バレなければ問題にしない、という黙認のルールが蔓延しているようだ。


 まあそれはそれで、俺もカーリナも楽できるから別にいいけどね。問題も簡単だし。


 それらは全て、20日前に受付をしたあの晩、オークス先生がジューダスと呑みに行った時に聞いたことらしい。

 その他にも色々聞いてくれていたらしく、朝帰りしてきた先生が語ってくれた。


 例えば、学院の一番大きな行事である、”魔導祭”とやらが2年に一回あるらしく、残念ながら来年度、俺達が入学した年度には行われず、再来年度に開催されるらしい。

 他には、高齢だった誰それ教授が亡くなったとか、王都周辺の魔物の数が多くなっているから、生徒に駆除させるとかだ。

 あと、今年はこの国の姫が入学するらしい。

 名前はクリ……ク……クリス……何とか姫だ。


 『お姫様だって! 凄いねお兄ちゃん! お姫様と同級生だよ!』


 それを聞いたカーリナのテンションも上がっていたな。

 お姫様に憧れるのか? って聞いたら――。


 『ううん。でもどんな人なのか気になる!』


 と言うことだ。

 まあ俺も気になるのは同じだし、実際、オークス先生に聞いてみたら結構な美少女らしい。

 それを聞いて俄然気になってきた!

 でも現実はどうか分からんよな。身分が違いすぎるし。

 何より性格がキツかったら目も当てられない。

 すんげー高飛車な女だったら嫌だな……。

 そうなったら俺とカーリナのイメージが崩れそうだ。


 ……うん、まあ、そう考えると、姫様とやらのことは実際に会うまで頭の片隅に置いておこう。

 そう言う子も入学するんだな。という具合に。

 

 そんな与太話が混じりつつも、しっかり情報を持って帰ってくれたオークス先生に感謝しながら、俺達は試験に向けて準備をしていたわけだ。


 「二人とも、準備は良いかの?」

 「はい」

 「うん、いつでも!」


 朝食を終えた俺達は、防具などを外してラフな格好で先生の前に立つ。

 試験は特に持ち物を必要としないから手ぶらだ。

 あ、でも整理券は必需品だったな。


 「うむ。では行くとするかの」

 「いよいよだね……!」

 「ああ!」


 で、宿を出て学院の方へと向かうことになった。

 オークス先生に付いて行きながら道中歩いていると、俺達と同じ歳くらいの少年達がちらほらと多くなっていることに気付く。

 親同伴で、或いは一人で同じ方向へ歩いて行く姿を見ると、皆目的地はやっぱり一緒なんだろうなと思う。

 中にはオッサンやオバサンの姿もいるが、ひょっとしてこの中の何人かは試験を受けるのだろうか?

 まあ、最低年齢が15だけど最高年齢は聞いていないからな。

 何歳になっても入学出来るんだろう。


 とボンヤリ周りを眺めていると、道の前方から人ごみを掻き分け、逆走してくる奴がいた。

 なんかすんごい慌てているな。


 「うわぁぁあああああ! 整理券忘れたぁあああああああぁぁぁ……」

 「うぁ! ビックリした……」

 「なんだったんだ今の?」


 整理券忘れたって言ってたな。

 忘れるなよ、んなもん。


 「ま、たまにああいう奴がおるらしいからの。お主達はちゃんと整理券を持っているじゃろうな?」

 「はい、ちゃんと持ってますよ」

 「これが無いと試験を受けられないもんね!」


 ポケットから整理券を取り出す。

 しっかりと番号が記載された整理券だ。

 よし、ちゃんと持っているな。


 そんなこんなで学院の正門に到着。

 すると、オークス先生は俺達の背中をそっと押した。


 「この先は、お主達自身が頑張るところじゃ。しっかり試験に臨むように。儂は先に帰って待っておるぞ」


 と声援を送ってくれた。

 どうやら見送りはここまでのようだ。


 先生と別れ、20日前にもいた守衛さんに整理券を見せて入場する。

 係員っぽい人に誘導されて試験会場に入ると、そこには俺達と同世代の少年少女が千人程ひしめき合っていた。

 中には大人や年寄りもいるが、ざっと見ると主な年齢層は15~20くらいの青少年だ。

 数が多いが、どうやら皆受付に並んでいるみたいで、俺達もそこら辺の列に並ぶことにした。


 「人がいっぱいいるね……皆試験を受けに来たのかな?」

 「そうだろうな……オー……ヤコブ先生は200人くらいしか入学出来ない。って言ってたから、大体5分の1しか合格出来ないな」

 「そっかー……じゃあ頑張ろうね!」

 「ああ!」


 倍率は5倍だが、俺達は称号付の魔導師の下で厳しい修業を受けて来たんだ。

 それなりにいい成績で合格する自信がある! ……と思う。

 いやだって、上には上がいるって言うし、油断は出来ないからな……。

 気合入れてがんばろう。


 あ、あとうっかり無詠唱で魔術を使わないようにしないとな。

 もし無詠唱で魔術を使ってしまったら、多分試験どころじゃなくなるだろう。

 不正を疑われるし、下手すると研究員に捕まってアレコレ体をいじくられるかもしれない……。

 ……うん、自分で想像して少し怖くなってきた。


 「あ、お兄ちゃん、もう私たちの番みたいだよ!」

 「お、ホントだ。早いな」


 アレコレ恐ろしい妄想をしていると、いつの間にか俺達に順番が回って来たみたいだ。

 どこかの聖地とは違い、回ってくるのが早くて素晴らしい!

 取りあえず俺から受付だ。


 「おはようございます。整理券とお名前をお願いします」

 「おはようございます、ベルホルト・ハルトマンです」

 「502番……ベルホルト・ハルトマンさんですね。確認いたしましたので、整理券を持って第一会場へ向かってください」


 整理券を受付のおばちゃんに渡し、本人であると確認してもらうと、カーリナを待って列の脇に逸れた。

 成程、本人確認だけだからそこまで時間も掛からなかったのか。

 少ししてカーリナの受付も終わり、言われた通りに第一会場とやらに向かうことにする。


 「それにしても、殆ど人族ばっかりだな。たまに人族以外の人も見るけれど」

 「そうだねー。私たちみたいな混血の人もいるかもしれないけど、殆ど人族みたいだね」


 受付から少し歩いた所にある、広いグラウンドに設けられた第一会場とやらに到着し、ざっと周りを見渡した。

 その中で人族の割合は全体の9割くらいだ。

 だからか、話している言語も皆人族語で、亜人語は聞こえてこない。

 ハルメニアの東部では、人族とそれ以外の種族、竜族や獣族なども住んでいて他民族化が進んでいたが、やはり王都や全国規模で見ればそうでもないらしいな。


 そんなふうに周りを見渡しつつ、試験開始までカーリナと世間話をして待っていると、どこからともなく拡声器のような物を持ったオッサンがグラウンドの壇上に立った。

 というかジューダスだ。

 そもそも拡声器なんてあるのかこの世界。 

 どうせまた魔神が作ったんだろうな。


 『あーあー、諸君、おはようございます。私はこの王立魔術学院の教授をしているジューダスだ。受付お終えた諸君にはこれから入学のための試験を行ってもらう。』


 そう言ってジューダスは指を3本立てて説明を始める。

 さっきまでざわざわしていた会場が、ジューダスへ注目し、そして静かになった。


 『試験内容は3つだ。最初はこの第一会場で、総魔力量の測定と魔力の伝達効率の測定をしてもらう』


 説明するジューダスの後ろでは、係員が器具のような物を運んで準備をしている。

 よく見るとジューダスの前に20台程机が並んでいて、そこに器具を並べているようだ。

 多分、あれが総魔力量や伝達効率を測る測定器なのだろう。


 『2つ目は筆記試験だ。校内にある第二会場へと誘導するので、番号順に並んで筆記試験を受けてもらう』


 2つ目は筆記試験だ。

 オークス先生曰く、ペンなどは全て学院側が用意してくれるようで、それを使って試験を受けるらしい。

 筆記試験なんて久しぶりだな。


 『3つ目は実技試験だ。再びこの第一会場に来てもらい、それぞれ試験官の指示する魔術を使ってもらう』


 最後は実技のようだ。

 気合入れてやるのはいいが、あまりやり過ぎて変な注目をされるのも面倒なので、そこは上手く加減してやっていこう。


 『以上が試験内容だ。それでは早速試験を受けてもらうので、諸君らは整理番号順に50人に分かれてもらい、それぞれ最初の試験、総魔力量と魔力の伝達効率の測定してもらう。まず1番から50番の人はいま手を挙げている教授の所へ集まってくれ。次に51番から100番の――』


 どうやら50人単位でグループ化して試験を行うようだ。

 となると、俺とカーリナは502番と503番だから……おお、あそこで試験を受けるのか。

 カーリナと一緒に試験を受けられるから、心細い想いをしなくても良いな。


 そんな感じでジューダスの誘導もあり、俺達は501番から550番のグループと一緒に壮年の教授と、若い係員が二人ほど待ち構えている机に向かう。

 若い係員は、紺色の制服のようなローブを着ていた。

 結構カッコいいデザインだ。

 机に着くなり壮年の教授がパンパンと手を叩き、俺達の注目を集める。


 「はいはいちゅうも~く。今から君らの人数と名前を確認するのでしっかり返事をするように。501番テオドール・ロックストン」

 「はい!」

 「502番ベルホルト・ハルトマン」

 「はい」

 「503番カーリナ・ハルトマン」

 「はーい!」

 「元気があってよろしい。次504番――」


 名簿を確認しながら次々と名前を読み上げる壮年の教授は、時折元気のいい返事をする受験生に対し、カーリナにしたようなコメントを出していた。


 「以上か。全員いるようだし、簡単にこの試験の説明をするからよく聞くように」


 と、50人全員の名簿を確認した教授は、俺達を見渡しながら最初の試験の説明を始める。

 その際、妙な器具とケーブルで繋がったバレーボールサイズの水晶玉を、皆に見えるようにして持ち上げた。

 確か、あんなのも使うってオークス先生も言ってたな。


 「あーまず、501番の受験者からこの球を持ってもらって、魔力を目いっぱい注いでもらう。見本として今から彼がやってくれるので注目するように」

 「今から実施しますので、皆さん、よく見える位置に来てください。そこの君、もうちょっとこっちへ……そうそう。いいですか? この測定器をこのように両手でしっかり持ってください。すると教授が測定器を起動してくれます。後はこちらで数値を読み取りますので皆さんは測定器を持っているだけで十分です」


 教授から球体を受け取った若い男性、と言うか俺達とそこまで変わらないから多分在学生なんだろうけど、その彼が球体を両手で挟むようにしっかり持ち、説明し始めた。

 どういう原理かは知らんが、あれで総魔力量と伝達効率を測るみたいだ。


 「では今から実施します。教授、お願いします」

 「ああ、『測定開始』」


 係員の持った球体に、教授が手をかざして測定器を起動させると、半透明だった球体が紫いろに染まり、ケーブルで繋がっていた器具のメーターが動きだす。

 メーターは二つあり、片方には”総魔力量”と表記されていて、もう片方には”伝達効率”と表記されていた。

 それぞれのメーターの限度は100までが最高値で、この人の測定記録はそれぞれ、89と75を指している。

 単位付きで言えば、総魔力量が89Mpで、魔力の伝達効率が75k/sだ。

 こんな単位は初めて見た。


 目盛りから見るに、この人は結構凄い人なんだな。

 ちょっとドヤ顔なのがうざいけど。

 流石魔術学院だ。


 「このように、測定結果がこちらの計器に出ますので、これを二回測定してもらいます」

 「はいごくろーさん。合格基準は30Mpと15k/hだからなー。そういうことで早速君らにもやってもらうかね。501番」

 「は、はい!」


 合格基準は30Mpと15k/sか。

 俺はどうなんだろうな……。魔法とかバンバン使えるし、総魔力量は自身があるけれど、伝達効率はどうなるか……。


 「二回目、50Mpと42k/sです」

 「はいつぎー。502番」

 「あ、はい」


 502番だから二番目に俺の番が回ってくる。

 試験が早く出来るし、中々いい番号だな。


 「はいこれ」


 さっき測定していた受験者から球体を受け取る。

 オークス先生から聞いた話では、この測定器は本人の意思にかかわらず、勝手に魔力量と伝達効率を測る代物らしい。

 もしメーターが振り切れても、たまにそういう奴がいるらしいから心配するな。とのことだ。

 まあ気楽にやればいいか。

 

 なんて思いつつ、球体を受け取った時からちょっとドキドキして見たり……。

 先生は、俺ならメーターが振り切れるだろう。的なことを言っていたが……はてさて。


 「『測定開始』」


 教授が測定器を起動させた途端、腕から魔力がドッと流れ出していく感覚を感じた。

 多分今、手に持っている球体に流れていってるのだろう。

 測定結果のほどは?


 「え? あ、い、一回目、どちらも目盛りが振り切れてます……」


 もう一人の女の係員がエライもん見た! って顔しながら報告している……。

 ざわ……ざわ……。

 いや、うん、なんか周りの目が痛いんですけど……。


 「流石お兄ちゃん! この中じゃきっと一番だね!」


 周りが驚愕の表情で、或いは懐疑的表情で俺を見つめる中、何故かカーリナだけがドヤ顔で胸を張っていた。

 す、素直に喜べねぇ……。


 「……も一度行くぞ。『測定開始』」


 二回目の測定。

 あー、やっぱり目盛りが振り切れてるよ……。


 「……に、二回目も振り切れてます」

 「502番……ベルホルト・ハルトマンか……たまにいるんだよなー、こういう奴。次」

 「はい!」


 教授に名簿と顔を確認され、なんか名前を憶えられてしまったようだ……。

 勘弁して欲しい。


 カーリナに球体を渡して横にずれると、周りの人にヒソヒソと注目されているような気がしてならない。

 自意識過剰なだけかもしれないが。


 あ、係員の彼と目が合った。

 なんか驚愕の表情で俺を見つめてくる。


 「二回目、89Ⅿp、76k/s」

 「う~ん……これって高いのかな?」

 「高いんじゃないのか?」


 どうやらカーリナも二回目が終わったようだ。

 カーリナとしてはあまり納得いっていないようだったが、十分高い数値じゃなかろうか?

 係員の彼が、今度はカーリナに驚きの目を向けているくらいだ。

 カーリナと彼の記録はどっこいどっこいだし、むしろカーリナが伝達効率で1ポイント上まっているからな。


 まあそりゃあ、5歳の時からオークス先生の下で魔術の修行を受けていたんだし、そんじょそこらの奴には負けないはずだ!

 何せ俺の妹だからな。

 かわいくて才能もある俺の天使だ。


 「ハルトマンっつったか? お前達は兄妹なのか……」

 「はい、この子は俺の妹です」

 「兄妹揃ってか……凄いもんだねえ。はい次」


 教授殿の憶えもめでたいことで。

 俺としてはそっとして欲しいけれど、これから色んな意味で目を付けられるんだろうな……。


 そんなふうにひっそりと溜息をついていると、隣にいたカーリナと目が合った。

 彼女は俺と目が合うと、二パッ! っと笑みを向けてくる。


 「これで合格できるよね?」

 「ん。まあこの試験に限っては合格だろ」

 「うん!」


 幸先は良好だ。

 少し変な注目を集めた感はあるが、それでも「アイツすげえな」程度に収まってくれたと思うから良しとしよう。

 オークス先生の言っていた通り、そこまで不安になることも無いようだ。


 取りあえず、カーリナを伴って後ろに下がり、試験の進行をボンヤリと、或いはカーリナとおしゃべりをしながら眺める。

 試験は滞りなく進んでいき、このグループ最後の受験者の測定が終わった。

 これまでに不合格者は1人だけで、その人はショックで茫然としながらも、フラフラとこの会場を後にした。


 「さて、一通り測定は終わったと思うが、この中でまだ測定していない、っていう人はいるか? ……よし、どうやらいないみたいだな。じゃあ、この試験を合格した皆は次の第二会場へ行ってもらうから、彼に付いて行くように」

 「皆さん、案内しますので付いて来て下さい!」


 お、どうやら移動みたいだ。

 次は確か、校内で筆記試験だとか言ってたな。


 「先生に教えてもらったこと、ちゃんと書けるかな?」

 「慌てないでゆっくり考えていけば出来るから、心配しなくても大丈夫だ」

 「……うん、そうだね!」


 何やらカーリナが不安がっている。

 彼女は基本的に、体を動かすことが好きだし、小さい頃は俺と勉強する以外ではそこまで自分から勉強をすることも無かった。

 だからか、カーリナは俺と比べて、自分は勉強が出来ないんじゃないのか? と考えている節がある。


 しかし実際はそうでもないと思う。

 この20日間で練習としてオークス先生から出題された問題にもちゃんと答えていたし、文字の読み書きは勿論、俺が教えた四則演算もスラスラと解ける。

 そこまで出来て何故不安なのかがいまいち分からない。


 ま、カーリナは結構度胸のある子だから、本番ではしっかりと問題を解くだろうと思っている。

 頑張れカーリナ!


 「ここが第二会場です。それぞれ机に番号札が置いてありますので、自分の番号の所に座って待っていてください」


 と、どうやら試験会場に到着したみたいだ。

 第二会場は校舎内の教室というか、大学の教場のような部屋で、扇形で階段状に机が並んでいる教場を見ると、前世の大学を思い起こす。

 大学なんて通ったことも無いけどね。


 「おお~、広い部屋だね」

 「入学したら、ここで勉強するんだぞ」

 「本当?」

 「ああ」


 200人くらい入るだろうか、それだけの広さがある教場を目の当たりにして、カーリナは目を輝かせていた。

 他にも少人数用の教場もあるかもしれないが、ここでも授業を受けられるのだろう。


 係員の指示に従い、俺達は自分の整理券と同じ番号を探してそこに座る。

 机の上にはペンが置いてあり、どうやらこれで問題の答えを書くみたいだ。

 因みにこの教場には既に100人程の受験者が座って待っていた。


 「ねえねえお兄ちゃん」

 「ん?」


 番号的に俺の後ろに座ることになったカーリナが、身を乗り出して俺に話しかけてくる。

 とても興奮した様子だ。

 鼻がフンス! って言ってるぞ。


 「私、ここで勉強したい!」

 「そっか……だったら、試験頑張らないとな!」

 「うん! 私、頑張る!」


 ここに座って、より一層この学院に入学したいという気持ちが強くなったんだな。

 カーリナにとってはそれだけ、新鮮で初めて見る光景だったんだろう。

 ……うん、俺も頑張ろう。


 「皆さん、お待たせ致しました。これより筆記試験を開始致します!」


 教場の前方、真っ黒い板……と言うか黒板だな。その横の扉から入ってきたのは上品な感じのマダムだ。

 多分あの人もここの教授で、今回の試験官なんだろうな。

 そのマダムが俺達の前で筆記試験の注意事項を説明し始めた。


 「皆さんにこれから試験用紙をお配りいたしますので、裏を向けたまま後ろに回してください。その後、私が開始の合図をしますので、皆さんは試験用紙を表に向け、氏名と整理番号を記載して問題を解いてください。なお時間につきましては、こちらに砂時計を用意しておりますので、およそ一時間半で終了とさせていただきます。何かご質問等はございますか? ……結構! では用紙をお配り致します!」


 マダムの言葉を受けて若い係員が6人ほど動き出し、用紙を配り出した。

 恐らくあれが試験用紙なのだろう。

 お、早速回って来た!

 一枚取り出してからカーリナに渡して、っと。

 あ、また来た。


 「用紙は2枚! 問題用紙と回答用紙になります……よろしいですか? それでは、試験中に何かあれば、静かに手を挙げて係りの者をお呼び下さい! では、始め!」


 マダムが大きな砂時計をひっくり返し、試験が始まった。

 問題用紙と回答用紙、それぞれを表向けて内容をサッと確認し、回答用紙に氏名と整理番号の記述欄があったのでそこへ書き込む。

 用紙は活版印刷で刷られた物らしく、文字が規則正しく羅列していた。

 今さらどうでもいいことだが、この試験、文字の読み書きが出来ない人はどうなるんだろうな?


 まあ、そんなことは置いといて。

 今は目の前の試験だ。

 どれどれ……。

 おお、62問もあるのか。


 Q1:自身の放出魔力40Mpに対し最大伝達効率が20k/sの場合、何秒で魔力を放出しきることが出来るか。


 成程、まずは簡単な計算問題からか。

 え~っと、40Mpの魔力を使いたいけど伝達効率が1秒間に20Mpしか通さないから、答えは2秒間か。

 ここ進研オークスで出たところだ!


 Q2:総魔力量90Mpの人が魔力を30秒で放出しきった。この時の魔力の伝達効率を答えよ。


 どうやらこんな調子の問題が続くようだ。

 なんてことはない。ただの算数の問題だな。

 因みに、この答えは3k/sだ。


 前世で嫌になるほど学校で勉強したことが、今になって役に立つとは思いもしなかった。

 事前にオークス先生からどういう問題が出てくるのかを聞いた時は、こんなに簡単でいいのか? と思ったくらいだ。


 ただ、チラリと一瞬だけ回りの受験者の顔を見ると、彼らは東大の難問を解いているような表情で問題用紙と睨めっこしていた。

 教育水準がまだまだ低いこの世界では、やはりこれくらいの問題でも苦戦するのだろうか?

 やっぱり前世の義務教育は凄いんだな。


 Q24:魔神 エルメスが発明した甲式魔力蓄積バッテリーについて、この道具の3つの特性と、世界に与えた影響を答えなさい。


 問題を順調に解き進めていると、今度は魔神のことについての問題が出て来た。

 勿論、これもオークス先生からこういう問題も出るからと、しっかり勉強済みだ。


 ただ、魔術学院と言うだけあって、魔神関係の問題もちらほらと出てくる。

 それだけ魔神の影響力が大きいということか。


 ま、いずれにせよ、どの問題も少し考えれば解けるものばかりだから、そんなに苦労はしないな。



 _______________________________________________




 「はい時間です! 皆さん、ペンを置いて答案用紙を裏向けて下さい!」


 試験が終わり、マダムの指示に従いつつ受験生たちはガヤガヤと騒ぎ始めた。

 中には全然解けずに泣きわめく者や、「勉強してなかったけど解けたわー」みたいな感じでドヤ顔する奴がいて悲喜こもごもな感じだ。


 「お兄ちゃん! 私結構出来たよ!」

 「よかったじゃないか! これも先生のお陰だな」

 「うん! お兄ちゃんはどうだったの?」

 「俺か? 俺はまあ、取りあえず全問答えたし、ミスが無かったらそれなりに良い点数だと思うぞ」

 「流石だね!」


 ま、伊達に前世で義務教育を受けてないからな。

 それよりも、カーリナが結構出来たというのが良かった。

 試験前は少し不安がっていたが、この様子だと心配はいらなさそうだ。


 後ろのカーリナとあれこれ答え合わせをしつつ、係員が2枚の用紙を回収していくのを待つ。

 回収が終わったのを確認したマダムは騒がしくなった会場内でパンパンと手を鳴らし、再び注目を集めた。


 「では皆さん、これにて筆記試験は終了となります。お疲れ様でした! これから係りの者が第一会場へと再度誘導致しますので、最後の試験、頑張って下さいね!」

 「いよいよ最後の試験だね……お兄ちゃん、頑張ろうね!」

 「ああ」


 最後の試験は確か、実技試験だったか。

 係員に誘導され、最初の第一会場へと向かう最中、カーリナはとてもやる気に満ちた様子だった。

 両手で拳を作り、自分なら出来る、と言い聞かせるかのように何度も頷いている。

 なんだっけあの人、もっと、熱くなれよ! の人。

 あんな感じに自分を鼓舞している。かわいい。


 と、そんなふうにカーリナで和みつつ再び第一会場へと戻って来たのだが、さっきいた時とは違い、灰色の布でいくつものスぺースに間仕切りされていた。

 スペースは大体テニスコート半分くらいで、あの中で実技試験を行うのだろうか?

 やがて係員はグラウンドを見渡せる観客席に俺達を誘導し、説明を始める。


 「はい、皆さん。最後の試験ですが、あそこにある各スペースの中で実技試験をしてもらいます。中央の放送から整理番号と名前を呼ばれ、どのスペースで試験を受けるかを誘導しますので、皆さんはここでお待ちして放送をよくお聞きください」


 ほうほう、成程。

 ここなら他の受験者がどういう魔術を使っているのかが丸見えだし、色々参考にも出来そうだ。

 ま、俺としては下手に目立たないように注意すればそれでいいんだけど。


 「試験が終わりましたら、ここへ戻って来て他の受験者の様子を見るなり、帰宅するなり、後の行動はお任せ致します。それでは、最初に各スペースに入って頂く人を言います。1番――」


 どうやらこれが終わったら後は流れ解散になるわけか。

 最初の試験のパターンからして、番号的に早く終われそうかな?


 「見てお兄ちゃん、始まるよ!」

 「ん? ああ、ホントだ。始まってる」


 少しして、各スペースで受験者達が魔術を使い始めたようだ。

 それぞれ初級の属性魔術を何回か使い、試験官に何か言われた受験者が中級、上級魔術を使いだした。

 初めは基本的な魔術を使わせて、十分出来ていたら得意な魔術を使わせているんだろう。

 というかあの間仕切りの布、燃えたりせずによく残っているものだな。


 『502番、ベルホルト・ハルトマン。Fスペースへ』

 「お、呼ばれたからちょっと行って来る」

 「頑張ってね!」

 「ああ」


 かなり早く呼ばれたな。

 まあ早く終われていいけれど。


 係員に誘導されながら会場に入り、目的のFスペースの前までやって来た。

 仕切りがさている灰色の布は、よく見ると魔法陣のような物が描かれていて、多分これが魔術をアレコレして他所に被害が出ないようにしているんだろうな。

 クァールの皮膚みたいなものか……チョー欲しい!


 「失礼します」

 「ああ、よく来てくれたな、ベルホルト君」

 「ジューダスさん?」


 スペースの中に入ると、そこにはオークス先生の旧友、ジューダスが座って待っていた。

 最後はこの爺さんか。

 まあ知り合いだし、気軽に出来ていいけど。


 「最後の試験は俺が見る。そのためにちょいと仕組ませてもらってな。オークスから話を聞いて、君達の魔術や、魔法が見たくなった」


 仕組んだのか……。

 オークス先生から話を、ってことは、どこまで聞いているのだろうか?

 気になるところだが、迂闊なことを聞いて藪蛇になるのも嫌だな。特に無詠唱のこととか。

 うん。流石に先生も、旧友だからと言って無詠唱のことをペラペラ喋らないだろう。

 と言うかそう願いたい。


 「俺の魔法なんか見ても面白くないですよ?」

 「なんの、アイツの弟子と言いうだけで興味がある。アイツ、魔導師なのに弟子を一切取らない男だったからな」

 「へぇ……」


 知らなかった。

 ビクトルやフェリクスがオークス先生に簡単に話を付けてたから、てっきり何人も弟子がいるものだと……。

 俺達の実力が低かったら、弟子入りさせないつもりだったのかもしれないが、今となってはどうでもいいことだな。


 「そういうことで取りあえず、君の魔術を見せてもらおうか……。まずは初級魔術。下級雷属性魔術だ。はいどうぞ」

 「はい」


 なんかいきなり始まったな。

 さっきの話も気になるが、今は試験に集中しよう。

 取りあえずサンダーバレットだな、よし!


 「『サンダーバレット』!」


 取りあえず手加減無しで下級雷属性魔術、サンダーバレットを空に向けて放った。短詠唱でね。

 この魔術、本当は小指サイズの雷の球が、人でも避けられる速度で飛んで行くものだ。

 だが俺が短詠唱で手加減せずに使うと、頭2~3個分の雷の球がとんでもない速度で飛んで行く。

 それを見たジューダスが感嘆しきりな表情で口を開いた。


 「……流石はオークスの弟子だな。測定器のメーターが振り切れたのも頷ける」

 「昔から、先生に厳しく指導されてきましたからね」


 と言っても、そこまでスパルタではなかったが。

 厳しくも優しく、って感じだ。

 本当にいい指導者だと思う。


 「そうか……ま、アイツの話は入学してからゆっくり聞かせてくれ」

 「はい」

 「じゃあ次は……もう下級魔術はいいか。君の得意な魔術か、いや、是非魔法を見せてくれ」

 「……見せなきゃダメですか?」

 「まあ、そう言わずに」


 あんまり目立ちたくないが……そう言えば、さっき調子に乗って強烈なサンダーバレットを使ったよな……。

 そう考えると今さら何を、って感じがする。


 「分かりました。じゃあとっておきのやつを」


 周りに被害が出ないように空に手を向け、オークス先生から教わった中で、俺が一番得意とする魔法を使うことにした。


 「『ランペッジャメント』!」


 雷属性の下級魔法、ランペッジャメント。

 別にヴァジュランダでもエヌムクラウでもよかったが、俺としては最初に習ったこの魔法を選んだ。

 勿論、今では無詠唱で使えるが、人目もあるということで短詠唱での行使だ。

 全詠唱と違って、短詠唱だとタイムロス無く使えるのがいいね。


 そう言えば先生から終ぞ他の属性の魔法を教えてもらえなかったな。

 こんど暇があったら教えてもらおうかな。

 なんて思いつつ、試験官であるジューダスの顔を伺う。

 彼はどこか、納得したような表情だった。


 「魔法も短詠唱で使うか……この調子なら、魔導も使えるのか?」

 「いえ、魔導はまだ教えてもらってません。教えるにはまだ早い、って言われまして」

 「まだ早い、っていうことは、それだけの実力があるってことか……」


 実力、と言われても、ただやれることをやっただけなんだけどな……。

 でも普通は魔導なんて簡単に使えるものじゃないんだろうか?


 「ジューダスさん、魔導ってやっぱり難しいんですか?」

 「難しいもなにも、魔導が使える奴なんてほんの一握りだぞ。魔導を同時に乱発出来る魔神様は別として、オークスや他の称号付の方も、魔導に至るまでかなり修行したと聞いたな。魔導師になりたくても、普通はなれん。俺でも上級魔法で精一杯だ」


 な、成程……。それを俺は早く教えろとせがんでいたのか。

 や、別にそこまでせがんでいたわけじゃないけれど、普通は魔導を使うことが出来ないのに、それを教えてくれと言っていたわけだ。

 そして安定の魔神だな。

 なんだよ魔導を同時に乱発するって、おかしいだろ。


 ……でもいずれ教えてくれるってことは、オークス先生は俺に期待してくれているのかねぇ?

 だったら嬉しいけれど……。


 「アイツが君達のことを自慢するのも納得だな」

 「……先生は俺達のことをなんと?」

 「最高の弟子に出会えた。と」


 嬉しいこと言ってくれるねぇ!

 後でカーリナにも言ってやろーっと。


 「そういうことで、君の試験は終わりだ。お疲れさん。後は一か月後の合否発表を待っていてくれ。ま、君達なら心配はいらんだろうけどね」

 「はい、楽しみにしておきます!」


 どうやら試験は終わりのようだ。

 ジューダスの口ぶりから察するに、これは合格したも同然かもしれんな。

 一か月後が楽しみだ。


 ま、当確ってところだし、安心はできないけどね。


 ありがとうございました。とジューダスに礼を告げ、俺は試験スペースから出て観客席へと戻ることに。

 戻る途中、放送で呼ばれたカーリナが俺と同じスペースに向かっていて、彼女はすれ違い様に、「お兄ちゃんの魔法、皆驚いてたよ!」と興奮気味に教えてくれた。

 ゲンナリしながらも生返事を返しつつ、頑張れよ、とカーリナに声援を送って観客席に辿り着く。


 「うわ……なんか皆こっち見てる気がする……」


 思わず呟いてしまうほど、観客席で待機していた受験生達が俺のことを注視していた。

 なんだこれ、恥ずかしい……。


 中には、「あいつ測定器壊したらしいぜ」とか、「魔法で試験官を脅したのよ」なんて声が聞こえてくる。

 ちょっとヤメテ欲しい。

 測定器壊してないし、試験官も脅してません。

 勘違いです。


 なんて声に出して訂正する勇気もなく、心の中でツッコみながら、俺はカーリナの様子を見ることにした。

 カーリナは今、下級魔術を使ったところで、ジューダスと何やら話し込んでいる。

 お、カーリナが空に手をかざしたぞ。

 見る間にも紫電を纏った球体が生成され、やがて空に放出された。


 カーリナもランペッジャメントを使ったのか。

 ランペッジャメントなら全詠唱で使えるようになったし、試験で使うのは丁度いいのだろう。


 そんなカーリナの魔法を見た周りの受験者達も、皆一様に感嘆の声を上げていた。

 凄いだろう? 俺の妹なんだぜ!


 そしてカーリナも試験が終わったようで、スペースから出るとすぐにこちらへ戻って来た。


 「ただいま! 魔法も上手く出来たよ!」

 「お疲れさま。見てたよ。ランペッジャメントも上手に使えるようになったな」

 「えへへ! お兄ちゃんにはまだまだ敵わないけどね」


 帰って来たカーリナが笑顔で報告してくれた。

 チクチクと周りの目が気になるが構うこたぁねぇ、俺はカーリナを褒める!


 「じゃあ試験も終わったし、取りあえず先生の所へ帰ろうか」

 「うん!」


 という訳で、俺達の入学試験はすんなりと終わり、先生が待ってくれているであろう俺達の宿に帰ることに。

 道中、俺達はお互いにアレコレと話し合いたいのを我慢しながら、一直線に、速足で宿に向かい、部屋のドアを開けると、オークス先生は優しく微笑みながら俺達を迎えてくれた。


 「おお、お帰り二人とも。試験はどうじゃったかな?」


 その問いに、俺達は思わずお互いの顔を見合わせ、再びオークス先生を見た。

 多分、満面の笑みを浮かべていたと思う。


 「とても上手く出来ました!」

 「先生のお陰で、私たち、合格できそう!」

 「うむ。それは何よりじゃ」


 当然、と言った様子で、しかし満足そうな表情で先生は頷く。

 心配されていない、と言うよりも、信頼していた、と言った感じだ。

 何はともあれ、あの感触だと合格はほぼ間違いないだろう。


 「今日は疲れたじゃろう。さっそく食事をしに行くとしようかの」

 「はい!」

 「今日は先生のおごり?」

 「ふむ、仕方ないのう、今日は特別じゃぞ?」

 「わーい! ありがとうございます!」

 「わーーい! やったー! ありがとう!」


 先生の奢りだ! 今日はいっぱい食べるぞ!

 合格発表は一か月後と聞いたし、それまではゆっくりと過ごすかね。

 合格したら、まずはビクトル達に電話で報告だな。


 と一か月後を楽しみにしつつ、俺とカーリナはオークス先生に連れられて夕方の繁華街に繰り出して行った。



 _______________________________________________




 1か月後、学院内の特設掲示板に今年の合格者の番号が表示され、俺達の番号はしっかりと表示されていた。


 このことを電話で実家に報告すると、ビクトルは勿論、ビアンカやアルフレッドもしっかりと喜んでくれて、本当によかったと思う。


 俺達は、王立魔術学院に入学することになった!

次回は2月の5日に投稿となります。

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