第21話:そうだ、王都へ行こう!
第3章からは週一投稿となりますので、よろしくお願いいたします。
「おはようございます、オークス先生」
「おはようございます!」
「おお、二人とも来たか」
フェリシア達と別れてから早1ヶ月。
俺達はハルメニア王国の首都”ファラス”へ行くための準備をオークス先生の家でしていた。
目的は、王立魔術学院に入学することだ。
先生の家に入り簡単に挨拶を済ませると、早速先生と準備の確認を始める。
「入学資金と、学院は4年制で4年間の生活費、その他諸々の諸経費は儂が預かっているとして、後はお主らの勉強道具一式や、衣類に雑貨など、準備は整っておるかの?」
「はい。家にあったものをいくつか持ってきたのと、後は必要に応じて買いました」
「服はこんなのでもいいの?」
家から背嚢に詰めて持ってきた荷物を広げ、先生に確認を取ってもらった。
1ヶ月前から先生に言われて揃えたものだ。
それを先生はサッと確認すると、うむ、と一つ頷く。
「服はそれでよい。他の必要な物品も揃っておるな。まあもし必要になれば、王都で買い足せばよいからの」
この2年で冒険者としてそれなりに稼いだから、ある程度節約して生活すれば不自由はしないだろうと思う。
大雑把にどれくらい稼いだかと言うと、俺とカーリがそれぞれ4ビクトルくらい稼いだ。
1ビクトルは1年にビクトルが貰う年収。と言う意味。
「ねえ先生。私たちの防具って、学院に持って行っていいのかな?」
カーリナは自分で確認した荷物を再び背嚢に仕舞いながら、オークス先生に質問する。
今は俺もカーリナも防具を着けていない。
「持って行っても構わんが、使う機会が無いと思うぞ」
「そっかー……でも一応持っていこーっと」
「じゃあ俺も持って行くか」
使う機会が無いとはいえ折角買ったものだし持って行こう。
「ふむ。なら、学院には学生寮と言うものがあっての、そこの個人チェストに鍵を付けて入れておけばいいじゃろう」
「はーい!」
学生寮か。
まあ、俺達のように地方から来る学生にとっては、学生寮は有り難い存在だ。
ただ、寮のお家賃っていくら位万円必要なのだろうか?
いやまだ入学出来るとは決まっていないのだが。
「ま、そう言うことでの、準備は整って後は出発するだけなのじゃが、肝心の入学の受付は既に始まっておっての。試験が一月後と言うことを考えて来週には出発する予定じゃ」
「結構急ですね」
「儂も電話で確認してみたら、そう言われてのう。スマンがビクトル達との別れも済ませておけ」
「はい」
申し訳なさそうにオークス先生は説明してくれたが、成程、もうすでに入学の受付は始まっていたのか。
因みに、今はまだ俺達は14歳だが、学院は入学した年度に15歳になるのであれば入学を認めてくれるらしい。
「とまあ、王都に行く準備もこれまでにしておいて、この後は修行じゃな」
「はいっ!」
「うん!」
おし! 取りあえずの準備は終わったし、後は修行をして待っているか!
アルフレッドが午後から来るから、それまでは魔法の練習や、格闘の練習だ。
この1ヶ月の間にも何回かオークス先生の家で修行をしていたのだが、慣れ親しんだ場所で修行を受けると、なんだか帰って来たって気分になるものだから、やっぱりこの2年間は本当に濃い2年間だったんだな。
フェリシア達、今何しているんだろうな……。
_______________________________________________
「もう出発するのか……また寂しくなるな……」
「今度は4年ね……たまには帰って来てね」
「兄ちゃん……姉ちゃん……もう行っちゃうの?」
1週間後の朝、俺とカーリナは2年前の旅の始まりと同じように、お互いに別れを惜しんでいた。
ただ、2年前と違うのは、見ている景色が若干違うということだろうか。
12歳でビクトル達三人の前に立った時は、まだまだビクトルやビアンカを見上げなければいけなかったのだが、今ではビアンカより背が高くなったし、比較的長身なビクトルに対してそこまで見上げることもない。
カーリナも、ビアンカと同じくらいの身長だ。
「父さん、母さん、アル……行ってきます」
「アル、お父さんとお母さんのこと、またお願いね」
「うん、任せて!」
アルフレッドが力強く頷く。
2年前と比べて、何とも頼りになるものだ。
というか君、2年前は寝ぼけてなかったか?
「それではヤコブ先生、また二人をよろしく頼みます」
「またお世話になりますけど、二人をお願いします」
「うむ。任せておけ」
そして今回も、引率はオークス先生だ。
ビクトルやビアンカと固く握手すると、先生は背嚢を背負って愛用の杖を持ち、アルフレッドに向き直った。
「アルフレッドや、兄達の留守の間、しっかりと魔術の修行をしておくようにの」
「はいっ、先生!」
「うむ。では行こうかの」
アルフレッドへと短いやり取りを終えた先生に促され、俺達は自分の背嚢を背負い、先に歩き出していた先生の後ろに付いて行く。
勿論、見送ってくれている三人に対し、最後まで手を振って別れを惜しんだ。
「時々でいいから、電話や手紙を頂戴ね!」
「学院、頑張ってくるんだぞー!」
「兄ちゃん! 姉ちゃん! いってらっしゃい!」
「行ってきます!」
「いってきまーす!」
朝から大声を上げて近所迷惑だとは思うが、しかしこれから4年間家族と別れることになるんだ、少しは声を出させてほしい。
まあ、4年の内に何回かは帰ってこれるだろうけど、前世みたいに気軽に帰ってくることは出来ないだろう。
また、旅の途中で知ったことなのだが、この世界には電話屋なるものが存在している。
そこで電話を掛けさせてくれるのだが、一定時間あたりの通話料がかなり高い。
大体1分あたりの電話料金が東部連合の通貨でバルド銀貨一枚分だ。
因みにバルド銀貨で安い宿に一泊泊まれる。
だからまあ、電話してね! って言われたけれど、よっぽどのことが無い限り、使う機会はなさそうだ。
そうなると家族との繋がりは手紙が殆どになるだろう。
時間があったら書いて送りたいな。
「先生、この後はどうやって王都へ行くんですか?」
家族に見送られて出発し、お互いに姿が見えなくなった辺りで前を向き、オークス先生にこの後の予定を聞いた。
何故かこの一週間、王都へはどうやって行くのかを聞いてもはぐらかされていたのだ。
「……しゃ、じゃ……」
「え? 聞こえないんですけど……」
「あ……」
ごにょごにょと俺から目を逸らしながら喋るものだから、何を言ったのかが聞き取れなかった。
あ……、とちょっと反応したカーリナに目を向けると、露骨に顔を逸らされる。
え、なにこれ? ちょっと嫌な予感がするんですけど……。
するとオークス先生が、今度は唸るようにハッキリと喋った。
「王都へは、馬車で行く」
「……」
…………馬車か。
そう言えば、馬はフェリシア達が乗って行ったからもういないんだっけ。
俺の顔が今どんな表情になっているのか、鏡を見なくても分かる。
きっと能面みたいな顔をしているはずだ。
_______________________________________________
空は快晴。
道も草原を通る見晴らしのいい街道。
隣には最愛の妹が肩を寄せ、何とも心地いい。
夏真っ盛りな気温の中、幌馬車に揺られるのは何とも……。
「ぎもぢわでゅい……」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「すまんのう……」
まさかまたこの悪魔の乗り物に乗る羽目になるとは……。
これに二日も乗らなければならない。拷問か。
他の乗り合いの客も、俺のダムが決壊しそうになっているのを見て、少し離れた位置に座っている。
そのお陰でスペースを広く確保できているのが幸いだな。
でも気持ち悪いものは気持ち悪い。気を紛らわすために会話でもしておこうか……。
「……そう言えば先生、これから行く王都って、どんな街ですか?」
「あ、私も気になる!」
「うむ、王都ファラスはこのハルメニア王国で一番の都市じゃ。大きさ的にはラージャと同じ規模での、王都だけあって多くの人で賑わっておる」
「ラージャと同じくらいか……すっごく大きいんだね!」
「まあ、他の国の都市と比べればそれなりじゃな」
そこは一国の首都だしね。
「で、この国は貸金や換金、為替の取引や、帝国と東部連合間での商業の仲介で成り立っている国でのう。その為ファラスでは銀行というものがあっての、そこで金の貸し借りをしたり、外貨の取引をして利益を上げておるのじゃ」
詳しい仕組みは儂には分からんがの。とオークス先生に説明してもらい、それを俺とカーリナがふんふんと頷きながら聞いていた。
と言うかこの世界にも銀行なんてあったんだな。
知らんかった……。
「小さい国ならではの知恵と言うのかのう。大アレキサンドリア帝国や、東部連合の国々と上手く付き合いながら、この国は発展してきたのじゃ」
「そう言えば帝国って、昔はこの国を占領していたんじゃないの? なんで今は取引とかしているの?」
尤もな質問だ。
カーリナが聞いてくれたことは、俺も気になっていたことだ。
ハルメニアの西隣が大国、大アレキサンドリア帝国なのに、どうして帝国は攻めてこないのだろうか?
つづきは|ウェブで(オークス先生で)
「うむ、良い質問じゃ。それにはこの国の成り立ちから説明せねばならん」
そう言うと先生は、コホンと咳ばらいを一つして説明を始める。
「およそ150年前、エルメス様の尽力のお陰で旧ロクサネ王国領を取り戻したハルメニア一族が、その玉座に就いたのが始まりじゃ。
100年の長きにわたる戦争のおかげで、国内は殆ど疲弊しておっての。帝国と講和したばかりで何も出来なかったハルメニア王国は、手っ取り早く国内を安定させる為に、帝国と東部連合の商人の仲介をしたり、為替の取引を始めて利益を上げることが出来た。
そしてその利益を国内の生産の向上に充て、手早く戦後の復興を成し遂げたのじゃ」
はぁ~……当時の国王さんも大変だったんだな……。
日本も戦後は大変だったけど、復興が早かったらしい。それと同じような感じかね?
やっぱりそこには、エルメスの介入や入れ知恵なんかがあったんだろうな。
「で、膨れ上がった為替取引や市場の規模に、帝国、連合の商人がこぞって投資し始めての。気が付くと両陣営とも無視できない規模になり、下手に戦争を吹っ掛けると自分達が痛手を負う状況になったのじゃ。
それまでに帝国も、南方の冥府族との戦争が激化しておっての、とてもハルメニアに手出しする余裕が無かった。ま、時世の流れがハルメニア王国を大きくしたということじゃな」
成程、色んな条件が重なって今のハルメニアが出来たんだな。
帝国も、本当はハルメニアを再び占領したかったはずだ。
しかし魔神と言う強敵がいて、さらに違う所でも戦争をしていたお陰で手出しが出来なくなって、気が付けば経済大国になっていた。
そんな国なのか、ハルメニアは。
となると、仮想敵国の大アレキサンドリア帝国に対抗するために、東部連合とは密接な関係にあるのだろうか?
いくら経済的な打撃が大きいとは言え、その気になれば帝国も、ハルメニアに攻め入ることが出来るはずだ。
その時はやはり、東部連合に頼らないといけないのでは?
「政治的にはやっぱり、東部連合と仲がいんですか?」
「いや、今の王は、どちらかと言うと親帝国派じゃ」
「え? そうなんですか?」
「意外だねー」
全く、カーリナの言う通りだ。
てっきり親連合政権かと思っていたが……。
「色々あってのう。初代国王は東部連合と懇意にしておったようじゃが、時代と世代によって蝙蝠のように、連合派、帝国派と移り変わっていったのじゃ。ま、地理や立場的にしょうがなかったのは間違いないがの」
「へ~、大変なんだね!」
巨大な勢力に挟まれていたら、そらそうなるよな。
そんな中でスイスみたいに強かにやっていけるんだから、凄いよな、この国は。
「愛国心はともかく、少しはこの国のことを誇りに思ってもよいのじゃぞ」
見直しました。
見直すもクソも、全然この国のことなんて知らなかったんだけどね。
だけど実際、一歩間違えれば戦争になってもおかしくはないんだよな。
そうならないようにこの国の舵取りをしている国王や政治家の人達は偉いと思う。
そのままもっと頑張って欲しいものだ。
「先生、これから入学する学院のことを聞いていい?」
「ああ、よいぞ」
カーリナが、これから行く学院のことについて聞いていた。
と言うかカーリナよ、君はもう入学する気でいるのかね?
「王立魔術学院はその名の通り、王家が管理しておる学院での。国内全域から魔術の素質を持つ者が集まり、広い敷地内で様々な魔術を勉強し、研究しておるのじゃ。
国内だけでなく、ごく少数だけ国外からも生徒が来ることがあって、様々な交流が生まれておる」
へぇ……国外からも来ているのか。
そういうのは国内の人間だけしか入学出来ないのかと思っていたよ。
「勉強できる魔術の種類も豊富での、属性魔術は勿論、無属性魔術、強化魔術、治療魔術、召喚魔術など、儂が教えてやれなかった分野も学べるし、また勉強や研究だけではなく、課外活動として運動したり魔道具の研究をすることも出来るのじゃ」
要は部活のことだな。
話を聞いていると大学のようなイメージが湧いて出てくる。
まあ、学院って言うくらいだから、大学とそう変わらんのだろうけど。
「で、王家がそうやって教育を施す理由は、優秀な魔術師、或いは魔法師や魔導師を育て、国の防衛や魔術研究の発展などに起用することでの。実際、あの学院を優秀な成績で卒業した者は、魔術騎士団の幹部候補になったり、研究所の研究員になったりすることが多い」
「じゃあ、首席で卒業すれば、安定した職に就くことも出来るんですね?」
「うむ。その気になればの。首席でなくとも、学院を卒業したというだけで地方では重宝されるのじゃ」
所謂エリートコース、ってやつだな。
最低でも地方公務員。最高で国家公務員の幹部。
頑張れば頑張っただけ、より良い将来が待っているわけだ。
でもまあ、俺はそんな将来の職のことより、知らない技術とか技を身に着けたいな。
卒業したらまた、フェリシア達と一緒に旅にも出たいし。
取りあえず入学して、勉強できる分野はなるべく全部勉強していきたい。
「しかしのう、あそこは貴族のボンボン共も通う所での。そう言った連中が親の権力や金にものを言わせ、成績を不正に上げさせようとするし、気に入らない者には邪魔したりするから気を付けるのじゃぞ」
「うわ何それ! ひどい話だよね!」
「全くだ」
何処の世界にも金と権力の問題はあるんだな。
絡まれんように気を付けよう。
「ところでベルホルトや、お前さんもすっかり気分が良くなったようじゃの」
いやぁ~ははは! そりゃもう。
「気のせいですよぉえぇ……」
「お兄ちゃん、無理しちゃ駄目だよ?」
イカン……ちょっとでも気を抜くとこうだ。
幸いカーリナが背中を摩ってくれているから多少はマシだが。
「……ま、もうしばらくの辛抱じゃ」
……はぁ。なんかもう学院どころじゃない気分だ。
_______________________________________________
その後、幌馬車の乗り換えや一泊するために町に止まった以外で、俺達は馬車に揺られることさらに一日半。
目的の地、王都ファラスにやっと辿り着くことが出来た。
「お兄ちゃん見て見て! おっきい街! やっとファラスに着いたよ!」
「ん? ああ、そうだな……」
「ほれ、もうすぐ街に入るのじゃからシャキっとせんか」
そんなこと言ったって、もう俺のライフポイントはゼロよ。
顔を上げる気力も沸かねえよ……。
「いろんな色の屋根があっておもしろいね!」
カーリナが物珍しそうに見ているので、俺も気になって重い頭を上げ、幌馬車から王都の街並みを見た。
そこから見えた風景はカーリナの言ってた通り、カラフルな街並みで、赤や青、黄、緑、黒に白など、一軒一軒多彩な色で分かれている。
そして、それらの街並みを守る様にして立っている立派な城壁も目に付いた。
丁度馬車が城壁をくぐる瞬間だったので余り全体は見えなかったが、それでも立派な城壁だということが分かる。
街の中から見て見ると、城壁の上には大きな弓のような兵器や、武器輸送用なのかトロッコが置いてあり、中々便利な作りになっているようだ。
「ねぇ先生、何でいろんな屋根の色があるの?」
馬車が王都ファラスの中を走る中、カーリナが屋根の色について質問をしていた。
基本的には赤茶色の屋根が多いが、今馬車が走っている道の周りには色付きの屋根が集まっている。
「あれは色によって職の見分けがつくようになっておるのじゃ。赤は飲食店、青は雑貨店、黄色はこの前説明した銀行や為替の取引所、緑は薬屋、白は宿で黒は鍛冶屋と武器防具屋じゃ」
あー成程、と言うことは屋根の色が店の看板替わりになっているわけだ。
腹減ったし、あそこに赤い屋根があるからそこで飯食おうぜ。的なことになると。
いや~よく考えたな~。
「これから4年間、この中で暮らすのじゃから、そう言ったここの常識も少しずつ覚えておきなさい」
「は~い!」
「はい……」
4年もいれば買い物に出ることもあるだろうし、先生の言う通り、色々覚えていこう。
色だけに。
特にカーリナとお出かけするときのスポットとか。
そうこうしているうちに馬車は停留所に止まり、俺はやっとこの悪魔の兵器から逃れることが出来た。
時刻は夕暮れ、夕飯を近くにあった赤い屋根の店で食べた後、白い屋根の宿へと泊まることに。
入学試験まではあと3週間程待つ必要があるから、それまでこの宿に滞在しないといけない。
だが金銭的な問題は無い。
旅の間にたんまり儲けたからな。そんな心配はしていないのだよ。
今いる宿はファラスの外側に近い場所にある為、中心部にある学院とは少し遠い。
ま、ここから通う訳じゃないし、街の中心部にある宿は高いらしいからここで丁度いいと思う。
「明日は視察と受付を兼ねて、学院の方まで散策するかのう」
「どんなところか楽しみだね!」
「ああ。どんなところだろうな?」
と言うことで、明日は学院を見に行くことになった。
そうと決まれば明日の為に早く寝よう。
勿論、ベッドはオークス先生と俺、カーリナの二つに分けてだ。
今はうるさいペッタンコがいないからな。学院に入学するまではこのままになる。
やったぜ!
_______________________________________________
で、翌日。
朝食を食べた後すぐ街に繰り出し、色んな店などを外から覗きつつ、今は街の中心に向かっている。
途中で冒険者ギルドも発見した。屋根の色は紫色だ。
街行く人を観察していると、ファッションが俺達と違いファッショナブルな感じで、流石都会だなとしみじみ思った。
と言うか俺達がまるっきり、田舎から来たお上りさん、っていう格好だ。
まあ気にはしないが。
「着いたぞ。ここが、王立魔術学院じゃ」
「ここが……」
「おっきいね~」
どうやら目的地に到着したみたいだ。
オークス先生の隣で、俺とカーリナは仲良く目の前にある建物を見上げる。
青を基調とした壁に、深緑の屋根。
広い校庭に、いくつもの建物。
それらが学院の内外を区切る壁によって囲われている。
そして目の前の校門から正面に見えるのは、ひと際大きな建物だ。
なんかもうほんと、前世の大学みたいなところだな。
「入学試験の受付ですか?」
「ん? ああそうじゃ。この子達の試験にの」
ぼんやりと学院を見ていると、門番と言うか、守衛らしき人が話しかけてきた。
守衛はオークス先生の話を聞いて、成程。と納得し、校門の立派な門……の脇にある小さな扉を開けて俺達を中へと入れてくれた。
「この先、正面の建物で受付を行っておりますので、そちらの方へお進みください」
「うむ。ご苦労」
「ごくろー!」
「コラ」
「あたっ」
カーリナの頭を小突きつつ、俺達は守衛さんの案内通りに進む。
と言うかオークス先生が知っていたので、迷いなく進むことが出来た。
あの一際大きな建物内に入るとすぐに受付の係員がやって来る。
痩せぎすの爺さんだ。
ちょっとお洒落なローブを身に纏っている。
「ああ、おはようござ……おお! ヤコブ! 久しぶりだな! 元気にしておったか?」
「久しいのうジューダス。見ての通り、まだまだくたばらんわい」
おおなんだ、係員かと思ったら、先生の知り合いか。
見た目が先生と変わらない歳に見えるし、同級生とかそんなんだろ。
二人して肩を叩き合う姿を見ると、彼らが少し若返ったように感じた。
「で、この二人は? ここに来たってことは入学試験の受付に来たんだろうが……」
「うむ、弟子じゃ」
「弟子!? お前が?」
そんなにオークス先生に弟子がいることが不思議なのかね?
先生ならいっぱい弟子がいても不思議じゃないのだが……。
おっと、そう言えば自己紹介がまだだったな。
「先生の弟子の、ベルホルト・ハルトマンです。こっちが双子の妹の……」
「カーリナ・ハルトマンです! よろしくお願いします!」
「あ、ああ。ここで教授をしている、ジューダスだ。よろしくな」
教授か。益々大学っぽくなってきたな。
「ま、積る話もあるが、取りあえずこの子達の受付をしてやってはくれんかのう?」
「ああそうだな。二人共この用紙に名前と住所、年齢と親の名前を書いていてくれ」
「はい」
受付の爺さん……ジューダスに言われた通り、机の上にある用紙に必要なことを記入していく。
用紙には簡単な質問事項もあり、それも併せて書き込んでおいた。
「……で、お前が弟子を取るなんて、一体どういうことなんだ?」
「まあまあ、その話はまたにしよう。……今日の夜、予定は?」
「ない。と言うか今なくなった。今晩、月灯りの雫亭でどうだ?」
「うむ。お主の奢りならの」
「ぬかせ!」
なんかえらい楽しそうだな。
やっぱり二人は同級生なのかね?
「お二人はどういったご関係なんですか?」
なので、疑問に思ったことをそのまま聞いてみた。
「うむ。儂がこの学院にいた頃の学友での。一緒によくつるんでいたものじゃ」
「ああ、懐かしいな……」
ああ……なんか遠い目になっちゃった。
先生もそれなりの歳だし、随分昔のことを思いだしているんだろうな。
「ジューダスさん、書き終わったよ!」
「ん、だったらこの整理券を持って今日は帰りなさい。試験は20日後だ。特に持って来なければならんものは無いから、そのままで来なさい」
「はい」
「はーい!」
と言うことで、厚手の紙で出来た整理券を受け取り、無事に受付が終わった。
というか受付ってこんなんでいいのか? 碌にチェックされなかったぞ。
まあオークス先生の弟子、ってことで甘いのかもしれんな。
先生様様だ。
因みに、整理券に描いてある番号は、”502”だ。カーリナは”503”。
数だけ見たら受験者がかなり多い……ちょっと不安になって来た。
「なら行くかの……では、今晩」
「ああ、今晩」
先生とジューダスが拳を突き合わた。
そのまま外に向かい、さっきの守衛さんに挨拶をして宿へと帰ることに。
その途中で先生は色々と話してくれた。
ジューダスが学院で教授になって長いこと。
彼とはたまに会ってよく酒を呑んでいること。
本名を知っていても”ヤコブ”として付き合ってくれること。
彼がいてくれるからこそ、俺達を安心して入学させられるなど。
いつもより饒舌に話す先生は、旧友に会えたお陰か、とても嬉しそうだった。
俺もカーリナも、長く付き合える友人に出会えたらいいな……。
お互いに歳をとっても気軽に付き合える友人。
俺、前世ではそんな友達いなかったからな……。
ま、何はともあれ、まずは学院に入学しなきゃいけないからな。
20日後の試験に向けて、準備をしておきますか!
……試験がどんなものかは知らないけれど……。
次回は29日に投稿です。




