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第1話:気が付くとそこは、異世界だった

プロローグに引き続いての投稿となります。

 微かな尿意を感じて意識が覚醒してきた。

 そろそろ起きなければ、と反射的に考えるあたり、社畜精神というか、バイト畜精神が強いようだ。

 今日は朝からバイトだったっけ?


 それにしても何故か心地良い。

 まるで暖かい揺り籠に揺られているような、こう……人に抱かれているような心地よさが……。


 「……」

 「□□□□□~……!!」

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


 なんか目が覚めたら知らん男に抱きかかえられてるんですけどー!?

 いやーー! 犯されるーー!!

 ちょっとおまわりさーん! すぐ来てー!


 ていうか本当に近いよお前。あっち行けよ。

 そう思いながら手で変態を押しのけようとするが全くびくともしない。

 そもそも体が満足に動かないし、俺の手が小さい。

 ……俺の手、こんなだったか?

 それともコイツがでかいだけか?

 とにかくあっち行けよお前!


 「□□□□! □□□□、□□□□□□□□□!」

 「□□□! □□□□□□□□~」


 うわ! なんか訳の分からん言葉で人を呼びやがった!

 何人だこいつら?!

 あ、今来た人かなり美人だ。

 男もよく見れば爽やか風なイケメンでイイ男だが……いやっ! 俺にはそっちの気は無いぞ!

 とにかく、この二人はカップルなのか? リア充なのかぁっ!?

 俺の部屋から出て行け!


 ……うん? よく部屋を見渡せば、知らない場所にいることに気づく。

 というか俺の部屋じゃない! 何処だここ!!


 いやまて、思い出したぞ!

 昨日? の夜、俺は漫画を押し入れに仕舞おうとして、机に思いっきり頭をぶつけたんだ。

 なんてこった! じゃあここは病院か? この外人二人は俺を助けてくれたのか?

 だったらちゃんとお礼を言わないとな。


 「ああいあおお……!?」


 何だ!? 「ありがとう!」って言おうとしたら、赤ん坊みたいな声が出てきた!

 まさか、頭をぶつけた後遺症でしゃべれなくなったんじゃ……。


 「□□、□□□□。□□□□□□」

 「□□、□□□□□□~」


 俺が現状を把握しきれていないのを知ってか知らずか、俺を抱いていたイケメンは隣に来た美女に俺を渡した。

 ていうかこの美女もデケェ。

 美女は軽々と俺を抱き上げる。

 俺は170cmくらい身長があったはずなんだが。


 「□□□□□□~」


 俺をあやすかのように、外国語で話しかけてくる美女だが、そろそろ日本語を話してほしい。

 すまねえ、ロシア語はさっぱりなんだ。


 そんなことを言おうとしたら、美女はおもむろに胸部を露出させてきた。

 いわゆる、おっぱいだ。


 「!!?!?」

 「□、□□□□□□□~」


 いやいやなにここ! そういう怪しい店か?!

 はっ! まさか俺が満足に動けないことをいいことに、あれやこれやとヤラシイサービスを押し付けては後で法外な料金ふんだくるつもりだな!

 そうはさせんぞ!


 ……いやでも、ちょっとくらいならいいかな~。

 なんか一生懸命口元に押し付けてくるから、しゃぶらせてもらおうかな~?


 なんて誘惑に負けそうになっていた時に、ふとある物が目についた。

 鏡だ。

 そんなに大きくなく、精々A4ノートくらいの大きさで、くすんでいて少し見にくかったがちゃんと鏡の役割を果たしている。


 いや鏡はいいんだ、別に。

 問題は鏡に映った俺の姿だ。

 イケメンが寄り添う美女に、俺は抱きかかえられているはずだ。

 美女がB地区を露出させているのはこの際おいておこう。

 そのB地区美女に抱かれている俺の姿は、なんといか……赤ん坊みたいだ。


 っていうか赤ん坊だ。


 左手を上下させてみる。

 鏡の俺も同じことをしている。

 そんな俺の様子を見て心配そうな顔をする美男美女ども。


 ……え? じゃあ俺、赤ん坊になったの?

 あれ? まじ?


 …………。


 「あああああああああああああああ!!」


 盛大にションベンをまき散らしてしまった……。



 _______________________________________________




 おしっこブッシャ―をやらかしてから一か月。

 なんとなく今の状況が分かってきた。


 どうやら俺は、生まれ変わったらしい。

 転生というやつだ。

 ラノベによくあるあれ。

 なんでそうなったのかは知らん。

 いや俺が頭ぶつけて死んだからだろうけど。


 神も仏も信じちゃいないが、実際赤ん坊になった自分の姿を見て認めない訳にはいかんだろう。

 なんかこう……凄いショックだ。


 ハイハイも満足に出来ない現状で必死に情報を集めていたが、ここが何処なのかが未だに分からない。

 この体になって初めて見たイケメンと美女は、まあ俺の親なんだけど、こいつらに関しては日本人ですらない。

 注意深く彼らの話を聞いてても、何語を話しているのか全く分からんときた。

 そのことから恐らく、ここは日本ではない外国なんだろう。


 でも何故か凄く違和感を感じる。

 というのも、この親二人の見た目は完全に白人な見た目をしていて、住んでいるところも欧米かどこかかと予想していたが、それにしては文明レベルが低い気がする。

 よくよく部屋を見渡しても、家電や電球はおろか、工場で生産したような加工物すらない。

 見えるのは全て、手作り感あふれた味のある逸品ばかりだ。

 窓ガラスも気泡入りまくりな質の悪いものを使っているし。


 なんだここ? 発展途上国か? と思ったがどうにもそういう訳でもなく、美人なマッマに抱かれて家の外に出るとそこは、どこか田舎町のような風景だが、なんとなく中世のヨーロッパを思い浮かべる景観だった。

 昔テレビで見たドイツの田舎町の風景に似ている。


 じゃあ東欧辺りのすんごい田舎町で、陸の孤島なんて言われているような場所なのか?

 と考えていたら、これまたすんごい物を見てしまった。

 物というか、人というか……。


 その人は、俺の新しいパッパを訪ねた時に見たのだが、頭から二本の角を付けてる緑髪のコスプレの人がいた。

 宗教か何かの装いだと思う。

 そのコスプレの人は、古い木の枝で出来たような角を付けていて、パッパに挨拶をすると、パッパに抱かれていた俺を撫でてきた。


 ビックリしたよ。

 いやそれよりもその角触らしてくださいよ。とばかりに角へ手を伸ばしたら、案外コスプレの人は触らせてくれたので、思いっきり引っ張ってやった。

 勿論パッパに軽く怒られたけど。

 でも取れなかったなー。どうやって付けてたんだろう?


 そんなこんなあった一か月だが、思う所はやっぱり日本に帰りたいということだ。

 まあ、こんな姿になった所で何ともしようがないいことだが……。

 向こうの両親も流石に悲しんでくれているだろうし、気になっていた漫画の続きも読みたいから、それが気がかりだ。

 え? 誰が漫画家になるって? し、知らんなあ……。


 で、一か月もここに居ればそれなりに分かってくることがある。

 具体的には名前とかだ。

 彼らの会話を聞いていたら人名は何とか拾えた。


 父親はイケメンリア充のあいつだ。

 あいつなんて失礼だな。父上か。


 父はビクトル。


 そこそこ背が高く、青みがかかった黒髪に、明るいブルーの瞳で20歳くらいのイケメンだ。

 さぞモテたんだろうな……クソ羨ましい!


 で、母親はビアンカ。


 金髪碧眼の可愛い人だ。

 ちょっと垂れ目なところがポイント高いな、うん。

 でも見た目が10代に見えるので本当に母親なのかよ、とたまに疑ってしまう。

 今は慣れてきたが、この人からオッパイを貰う時は本当にドキドキして興奮したもんだ。


 その両親の姓がハルトマン。

 何ともカッコよさげな名前で余は満足じゃ。

 その俺の新しい名前が、ベルホルトというらしい。


 ベルホルト・ハルトマン。


 これが俺の新しい名前だ。

 二人からは”ベル”なんて呼ばれたりもしている。

 よく挨拶らしき言葉とともに呼びかけてくれているからすぐに分かった。


 家族は両親と俺と、実はあともう一人いる。

 どうやら妹がいるらしい。多分双子の妹だ。

 二卵性双生児だろう。

 

 妹はカーリナ。


 俺がおしっこをまき散らした時も隣で寝ていたらしく。

 いつも隣り合わせで寝かされている。

 正直生まれ変わってから一番嬉しかったことだ!

 うひょひょーい! 妹が出来たぜ!

 日本にいた時は一人っ子だったから兄弟が欲しかったんだよな……。

 

 そんなカーリナちゃんは今も、隣でスヤスヤと寝ている。

 横を向いてじっと見ていたが普通の赤ん坊だ。

 お腹が空いたりウンチしてぐずることもある、普通の女の子だ。

 もしかしたら、俺と同じように転生したのかもしれないと思って様子を見ていたが、違ったらしい。


 しかしかわいいなー……。

 無意識に俺の手を握ってきて愛らしい。

 目に入れても痛くない。それほどかわいい。


 え? 日本? ……う~ん、帰れるかなぁ……。

 カーリナ連れて帰ったら駄目?



 _______________________________________________




 さらに一か月が経った。

 今は生後二か月か。


 ハイハイがまだ出来ないのが実に残念だが、母親のビアンカがよく俺を抱いて家の中や庭に出してくれることが多い。

 その背中にはカーリナを背負っていたりして、双子を持つ親も中々大変そうだ。

 逆のパターンもある。

 

 そんな感じで家の中を注意深く観察していると、いくつか家電を見つけた。


 一つ目は電話だ。

 見た目は懐かしい黒電話そのものだが細部がどことなく違っている。

 受話器のコードがクルクル巻きのあの状態じゃなく、紙? か何かを巻いたストレートなものだ。

 大きくなったら、日本に電話してみよう。通話料バカ高いだろうけど。


 二つ目はラジオ。

 これまた古めかしいデザインで、大きさがプレ○テ3くらいの四角い木の箱につまみが三つ、スピーカーとそれっぽいメーターが付いた、如何にもラジオ、って感じだ。

 ビクトルやビアンカもつまみを回して番組? を聞いたりしているのだが、お世辞にもその音質はよくなく、ハッキリ言って付けない方がマシだった。

 ただ、ビクトル達もたまに大きなノイズが入ったりして顔をしかめているが、それなりに満足して聞いているようだ。


 二つともデザインが古いだけじゃなく、かなり使い込んでいるみたいだ。

 家の様子から見てもそうなのだが、この町自体がかなり貧しいのではなかろうか?

 貧しいからこそ物を大切にしているんだろう。

 この二人を日本に連れて行ったら、きっと喜ぶだろうなー。

 

 なんて考えていたある日のことだ。

 隣で寝ているカーリナを観察していると急に雨が降りだし、慌てたビアンカが裸足のまま庭に干していた洗濯物を取り込む。

 しかしすでにびしょ濡れになっていたのか、それを見て一つ溜息をつき、簡素な暖炉の傍にヒモを張ってそこへ濡れた洗濯物を掛ける。


 季節は朝晩が肌寒い時期だ。

 二ヶ月前は暑かったことを考えると、今は秋かな?

 暖炉に火を入れるのはまだ早いと思いますよ母上。

 

 そんな風に心の中で意見を言っていると、ビアンカは暖炉の前にしゃがんで手のひらを薪の方へ向け、何やらぶつぶつと言い出す。


 「『□□□□□□□□□□□□□□□□ □□□□□□』」


 すると、手のひらから火が出た。


 ……え? なにあれ?

 丁度横から見ていたんだけど、どういうこと?

 手品?


 と困惑している俺の元へビアンカが来ると、起きている俺を寝かしつけようと抱きかかえて来た。

 取りあえず抱かれながらビアンカの右手をベタベタと触る。

 種も仕掛けも無さそうな、普通の手だ。


 どういうことだってばよ……。


 翌日。

 俺はビクトルに抱かれ、ビアンカがカーリナを抱いて家族のスキンシップを図っていた。

 折角ならビアンカに抱かれたかったのに……ビクトルめ。


 少しして、電話が鳴り響きビクトルが俺を抱えたままそれに対応する。

 勿論邪魔をしてはいけないので俺はだんまりだ。


 「□□、□□□□……□□……□□、□□□□□□。□□□□」


 相変わらず何を言っているのか分からん。

 高校での英語の成績はそこそこだが、卒業してからはそんなもんすぐに忘れたよ。

 まあ、それでもある程度の挨拶くらいは理解できるようになってきた。

 ただ、その挨拶にしても、何故か二言語あるみたいで、当初は本当に分からんかった。


 しばらく話をしていたビクトルだが、電話を切るなり真剣な表情で部屋の本棚に向かい、そこから一枚の紙を取り出した。

 俺を抱えたまま器用にその紙を机に広げると、ビクトルは食い入るようにそれを見る。

 つられて見てみると、それは地図だった。


 地図。

 確かに地図だ。

 でもなんかこう……、違うんだよな……。

 ユーラシア大陸みたいな形の大陸が中心にあるんだが、形的には蝶というか、サングラスみたいな形で、中東とシベリアがないような形だ。

 その東側には島国があるのだが、よく見てみると日本とは全く違う形をしている。


 決して正確な測量で作った地図ではないようだが、しかしいくら何でもこれは、俺の知っている世界地図と違いすぎる。

 満足に新しい家電を置けないようなド田舎でも、地図くらいなら正確な物を持っていてもいいはずだ。

 

 何か……何かを見落としている……。


 聞いたこともない言語……中世のような町……角のコスプレ……火を付ける手品……そしてこの地図……。


 ……もしかしてだけど、ここは異世界、なのか?

 いやいやそん馬鹿な……。

 流石にねーよ。

 ラノベじゃあるまいし。


 「□□□、□□□」


 そんなことはないと否定している俺をよそに、ビクトルは地図に手をかざして何やら呪文のようなものを唱えた。

 するとその紙に描かれていた地図が消え、再び違う地図が浮かび上がってどこかの町を表す。


 いやいやいや待てよ、なんだよ今のは!

 呪文を唱えたら地図が変わるって、まるで魔法のようじゃ……。


 ……ああそうか、あの時ビアンカやっていたのは手品じゃなくて、もしかして魔法だったのか?

 そう考えると納得できる。


 じゃあここは異世界なんだ、と。 


 自分でもすんなりこの事実を受け入れられた。

 受け入れてしまった。

 まあ、転生なんてあり得ないことを体験したんだ、ここが異世界だとしても不思議ではない。

 言語が知らないものだったのも当たり前だし、コスプレの人もあれは本物の角だったんだろう。

 多分……


 ビクトルは俺をベッドに寝かせると、何やら慌ただしい様子で家を出て行った。

 ビアンカが俺の隣にカーリナを寝かせて、それを見送る。


 そんな様子を見ながら考える。

 ここには、この世界には、日本も、帰る場所もない。

 俺は、この世界でたった一人の日本人なのかもしれない。

 体は異世界人でも、心が追い付かない。

 元に戻ったところで無為な日常が待っていたとしても、やっぱり俺は日本に戻りたかった。


 なんで、こんなことになったんだろうな……。

 こんな訳の分からない世界に転生して、俺は満足に生きていける自信がない。

 ああ……どうしようか……。


 「う~あ~うう~」


 不意に、カーリナが俺の右手を握った。

 右隣を見てみると、カーリナと目が合う。

 手を握って来たのは偶然だろうが、何故か励まされている気がしてならない。


 本当に転生者じゃないのか? と思ったが、涎を垂らして手足をパタパタと動かしている様を見ると、ただの無邪気な赤ん坊にしか見えない。


 ……そうだよな、誰だってこんなかわいい赤ん坊の時があったんだ。

 日本に帰れないからって、何も絶望することはない。

 この世界には魔法があるんだ、むしろそれがあることを喜ぼう。

 そして、この子と一緒に成長して、必死に生きて、そして幸せになればいい。



 せめて、こんなはずじゃなかった。ってならないように、頑張って生きていこう。

 前までの人生、何でもかんでも諦めて投げ出してばかりの人生だった。

 だったら今度は何も投げ出さずに、最後までやり切ってやる! 

出来れば、一話毎に活動報告の方も投稿していきたいと思いますので、そちらもご覧いただけると作者は嬉しさでむせび泣きます。

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