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第16話:称号付について

 俺達は今、小物集漂うクソ野郎ことエドワードを先頭に、宮殿とも言える程立派な建物の中を歩いていた。

 あのタージマハールみたいな宮殿の中だ。

 内装はいろんな石板や彫刻などが陳列していて、そのどれもがかなり価値のある物だと分かる。

 隣を歩くカーリナやフェリシアもしきりに、「凄い」だの、「綺麗」だのと感想を漏らしていた。

 まあこういう豪華な建物は初めてだろうし、海を見た時のように騒がないだけ少しは成長したということか。


 「こちらの部屋です。どうぞ中へ!」


 やがてエドワードが扉の前で止まり、開けると俺達を中へと招き入れた。

 中には向かい合わせの大きなソファーとその間に机があり、床には豪華な絨毯が敷かれているだけで、あとは窓も飾り気も無い簡素な部屋だった。

 多分ここは、密談をするのに最適な部屋なのだろう。


 「私は例の手紙を持ってまいりますので、お掛けになって待っていてください」

 「さっさとしろよ」


 始終ニヤニヤとしていたエドワードが一旦部屋を出ると、いきなりフェリクスがソファーに座ってくつろぎ始めた。


 「一体何の話かしら?」

 「気になるよね」


 それに続いてか、フェリシアとカーリナもソファーに座り込み、俺がカーリナの隣に、オークス先生がフェリクスの隣に同時に座り込んだ。


 「大事な話なんですか?」

 「さあの。ただ、ハルフォード卿……夜神様がわざわざ手紙を寄越してきたのじゃ、何かしらの知らせがあるのじゃろう」

 「夜神ブレッド・ハルフォードも確か、魔神エルメスの弟子というか、配下なんでしょう?」

 「ああ、今生きているうちじゃあ一番古い弟子だな」


 生きてるうちって、どんだけ生きてるんだ?

 少なくとも、エルフであるフェリクスより前には弟子になっていたということだから、人族とは考えられないな。

 長寿の種族なんだろう。


 「おお~! 夜神様から手紙が来ているんだ!」

 「そんな人から手紙が来るなんて……どういう内容なのかしら?」

 「ま、儂らエルメス様の弟子全員に宛てた手紙なのじゃろうからの。内容も何かしらの連絡じゃろう」


 夜神と聞いてカーリナとフェリシアのテンションが上がっている。

 でも聞いた話では夜神も魔神の弟子だから、手紙の内容も魔神絡みのことなんだろうな……。

 魔神絡みの手紙が来るということは、魔神と真神の戦いについての手紙だという可能性が高いだろう。

 その内容によっては、カーリナには聞かせたくない。

 カーリナも聞いてしまえば、きっと巻き込むかもしれないからだ。

 兄として、それは避けたい。


 そんなふうに意気込んでいると、手紙を持ってきたエドワードが扉を開けて中に入り、机の上に二つの手紙を置いた。


 「お待たせしました! こちらがハルフォード卿からの手紙になっております。あ、片方は私宛ですが、出来れば見ないでいただければ……」

 「どっちも貸せバカ野郎!」


 エドワードが置いた手紙をひったくる様に取ったフェリクスは、手紙を広げて内容を確認し始めた。

 もう片方はオークス先生が既に読んでいる。


 「そう言えばお弟子さん方にはまだ紹介をしていませんでしたね。私はエドワード・エムガーと申します。どうぞお見知りおきを!」

 「……フェリシアよ」

 「……カーリナです」


 ニヤニヤと女の子二人を嘗め回すようにして見ているエドワードのことを不気味に思ったのか、フェリシアもカーリナも素っ気ない挨拶だ。

 俺? 俺はもう名乗るまい。


 「おいオークス。そっちはなんて書いてあるんだ?」

 「うむ……あまり状況は芳しくないようじゃ……」

 「読ませてくれ…………おいおい、嘘だろ……?」


 さっきから手紙を熱心に読んでいた先生達が険しい顔になった所を見ると、どうやら内容は余り良くないようだ。

 内容を確認したフェリクスがパッと顔を上げ、エドワードに確認を取る。


 「おいエドワード、テンペランスとウィルヘルムがやられたって本当か?」

 「はい残念ながら。”暴風のテンペランス”様と”爆竜のウィルヘルム”様の死亡を確認しております。私としても無念の――」

 「うるせえ、黙れ」

 「そりゃないですよ旦那~」


 フェリクスに凄まれても尚、すり寄る姿勢はある意味感心するな。

 そもそもフェリクスからこれだけ嫌われているのも凄い。

 フェリクスは人を好き嫌いするような性格じゃなさそうなのにな。


 それよりも気になるのがさっきの話の内容だ。

 聞いた感じではオークス先生やフェリクスの仲間、或いは同じ魔神の弟子が誰かに殺された、って話だな。

 やはり相手は真神の手下か?


 「なんか物騒な話だよね……」

 「ああ、怖いよな……」


 何が一番怖いかって言えば、勿論カーリナがそういったことに巻き込まれることだ。

 先生達が狙われた時には、俺が守らないといけないな。


 「本当に恐ろしい話じゃない……。だって”暴風”や”爆竜”って言えば、お父さんやオークスさんと同じ、エルメス様の弟子よ。実力はお父さん達と同じ位だって聞いてたのに……信じられないわ」


 やはり魔神の弟子か……。

 しかしフェリシアの話によれば、先生達と同格の人がやられたことになる。

 と言うことは、真神側にもそれだけ強い奴がいるということだ。


 「……ベルホルト、カーリナ、フェリシアよ。やったのは、”戦神”じゃ」

 「戦神?」

 「左様。”戦神 レオナルド・ソロモン”じゃ」

 「あれ? でも戦神って、称号信仰の人でしょ? 魔神エルメスの仲間じゃないの?」


 カーリナの問いと同じ疑問を俺は抱いた。

 と言うか、今の今までそういった詳しい勢力や人員の話なんて聞いていなかったし、ましてや称号付と言うだけで魔神の仲間だと勘違いしていた。


 先生達に聞けばよかったんだろうが、いつのまにか知っている気になっていたのが間違いだ。

 こんなことじゃ駄目だな。もっとしっかり情報を得ておかないと、いつか取り返しのつかないことに……。

 反省しよう。


 「称号付は別に、称号信仰の信者やエルメス様の関係者だけがなるものじゃないわ。世界に影響のある人物が称号付になるのよ。そしてそれは、真神の配下にだってあり得るわ」


 成程、そう言うことか。

 信仰の対象になれば、敵であれ何であれ、称号付になるということだな。


 「エルメス様も封印される以前から、戦神には手を焼いていたご様子でしたからねぇ」


 エドワードが気の抜けた声でしみじみと言う姿がなんとなくムカつく。


 「……手を焼いていた、ってことはそれぐらい強いってことですか?」

 「強ぇ、なんてもんじゃねえ。俺も昔、お師匠様にくっ付いて奴と戦ったことがあったが、俺は足手まといにしかならなかった。テンペランスもウィルヘルムも一人の時を狙われたって書いてあるからな。もし一人の時に出会っちまったら、確実に死ぬぞ」


 フェリクスが真剣な眼差しで俺達を見つめながら答えてくれた。

 彼がそこまで言うんだ、戦神はそれほどヤバい奴なんだろうな……。


 「じゃあ、他の人はどうなの? 確か、夜神様はエルメス様の弟子なんでしょ?」

 「うむ、”神の称号”に関しては、夜神ブレッド・ハルフォードは確かにエルメス様の弟子じゃ。戦神は真神の配下で、残りの”鬼神”と”死神”はまあ……中立じゃのう」


 中立って曖昧だなぁ、と思うが、魔神と真神の戦いにわざわざ首を突っ込みたくないのだろう。

 神の称号、ってなんか厨二臭いが、そう呼ばれている人達が余計な争いをするとは思えない。

 俺の勝手なイメージだが、強い人ってドーンと構えて自分の意見を曲げない、って感じがする。


 「夜神や、他の神の称号ってどんな人なんですか?」


 魔神はなんとなく知っているからいいとして、他の神の称号はどんな人物か気になるな。

 

 「さっきフェリクスが言っていた戦神は人族での。噂によると、殺しても死なんらしい」


 殺してもしなねえってどういうことだよ……。

 チートじゃねえか。


 「ハルフォード卿……夜神様については、夜族と言う種族でな。ここにいるエドワードと同じ種族じゃ」


 オークス先生がちらりとエドワードを見る。

 奴は相変わらずニヤついた笑みを浮かべていた。

 しかしそうか、コイツは例の夜神と同じ種族だったのか。


 「夜族は他の種族とは違って、昼夜が逆転した生活をしているのですよ」

 「そういやぁてめえ、起きてていいのかよ? もう昼だぞ」

 「もうすぐしたら寝ますので」


 成程、昼夜が逆転しているということは朝から夕方まで寝て、夜に起きると。

 だからこんなに肌が白いのか?


 「夜族は、夜になると彼らにしか使えん魔術で戦うことが出来る。そして夜神様はその中でも一番の使い手での。だからこそ、”夜神”という神の称号を得たのじゃ」

 「成るほど……それってどういう魔術なんですか?」

 「自らを夜の闇と同化する魔術です。故に、我々は”夜族”と名乗っているのですよ」


 闇と同化する。って何とも抽象的な説明だが、なんとなく凄い魔術なんだな、ってのは分かった。

 カーリナとフェリシアもふんふんと頷いている。


 「あと我々の特徴としては、寿命が無いということですかね。殺されない限り、老いて死ぬことはありませんねぇ」


 マジかよ! 夜族って老けないのか……。

 でもそれはそれで長く生き過ぎると苦痛になりそうなんだが、そこんところはどうなんだろうか?


 「ま、そのせいで、ってだけじゃねえが、大アレキサンドリア帝国に攻め滅ぼされたからな」

 「あ、あーあーあー、ま、まあいいじゃないですか!」


 フェリクスはそういうなりチラリとエドワードを見る。

 視線を受けたエドワードが何故か挙動不審になりだしたあたり、何かしらのことをしでかしたんだろう。


 というか、さっくりとした説明しか聞いていないが、特殊な魔術を使う種族が攻め落とされたってのも凄い話だよな。

 だからこそ夜神は魔神の配下になったんだろうけど。


 俺が一人で納得していると、フェリクスが次の説明をしてくれた。


 「で、鬼神についてだが、鬼神ヒメジ・ゴウキは鬼族の男でよ。これまた強ぇ奴さ」

 「鬼族……ですか」


 本とかで見たことくらいはある。

 確か、額に一本乃至二本の角を持つ種族で、世界一好戦的な種族だという話だ。


 「ああ、鬼族っていうのは、東部地域の更に東にある、”フソウ”って島国に居る連中でな。角があって、体が大きくて、赤黒い髪の連中だ」


 フソウ。

 このガニメデ大陸の東側にある小さな島国、それがフソウだ。

 どうやらそのフソウに鬼族がすんでいるらしい。


 しかしフソウと聞くと、どうしても日本を思いだしてしまう。

 日本っぽい響きがそう思わせるんだろうけど、もしかして文化も日本に似ているのだろうか?

 だとしたら、一度行ってみたいな……。


 「言っとくが、鬼族の連中には関わらねえほうがいい。奴らは体が頑丈で強いからな。お陰で色んな伝説が残ってんだよ」


 そう前置きしたフェリクスは、鬼族がどんなに恐ろしい種族かを逸話と共に聞かせてくれた。

 某狙撃手のコピペを引用して要約すると、次のような感じである。


 ・鬼族がいる地域に進攻した部隊が一時間で全滅した。

 ・魔法師が攻撃すれば安全だろうと呼び寄せたら、魔法師が真っ先に殺された。

 ・わずか5人の鬼族なら大丈夫だろうと500人の騎兵を突撃させたら全滅させられた。

 ・鬼族と戦ったら殺される確率が150%。戦って殺される確率が100%なのと、余りの恐怖に戦う前から逃げ出しても殺される確率が50%の意味。


 うん。やっぱりフソウに行くのはやめよう。

 こいつらもチートじゃん。


 「昔から、『死にたければ鬼族に喧嘩を売れ』と言うくらいじゃからのう……」


 なんですかその格言。

 要は本当にヤバい連中だから、関わり合いになるのは止めておいた方がいい。と言う話か。

 これは覚えて置かないとな。

 鬼族、ヤバい。


 「ま、その鬼族の現首魁、鬼神ヒメジ・ゴウキもかなりヤバい」


 え、何? まだあんの? もう鬼族はお腹いっぱいだよ……。

 見ろよ、カーリナもフェリシアも引いてんじゃねえか。


 「なにせ、30年前に”雷神 イワン”を殺したからな」

 「あの時の話は未だに覚えていますよ。このラージャだけでなく、東部地域全体が衝撃に包まれましたからね」

 「それ、わたしも聞いたことあるわ。確か、決闘して雷神様が負けたのよね?」


 どうやらフェリシアは聞いたことがあるみたいだ。

 それほどの伝説になっているのだろう。

 カラノスにいた時は聞いたこと無かったな。


 「雷神イワンって確か、雷神流格闘術を作った人だよね? そんな人が負けちゃったの?」

 「そうらしいわ……」


 雷神流格闘術。

 俺達が教わっているのは魔神流格闘術だ。

 雷神流を生み出した雷神イワンは、魔神に負けず劣らずの格闘の使い手だと聞いたことがある。

 その雷神イワンを倒したのが鬼神ヒメジ・ゴウキか……。


 この世界、俺の思っていた以上に怖い世界なんだな。って今さら気付いたよ……。


 「そういうことじゃ。鬼族を見たら、真っ先に逃げるのじゃぞ」

 「はい」


 当たり前です。命がいくつあっても足りません。


 「それで先生、”死神”さんはどんな人なの? 名前も分からない、って聞いたけど……」

 「うむ……なんと言えばいいのか難しいのじゃが……。死神に会った者は必ず死ぬ。と言われておる」

 「……なんかそんな人ばっかりですね……」


 なんだよそれ、じゃあ何で死神の話は広まってるんだよ。矛盾してるじゃーか。


 「まあ、それも噂の一つだ。俺が聞いた話だと、女にもなれるし子供にもなれるって聞いたぜ」

 「私が聞いたのは、手も触れずに相手を死に至らしめると聞きました。いやはや恐ろしいですな!」


 フェリクスとエドワードもそれぞれ死神について知っていることを話す。

 どれも信憑性の無い噂話と言うことか。

 それらをまとめると、”死神”は噂だけで称号付になったように思えるのだが、じゃあここの街の人は噂だけで称号を与えたのか?

 そんなちょっとした疑問をエドワードにぶつけてみることにした。


 「そんな居るかどうかも分からない人に称号を与えたんですか?」

 「そうですなぁ……、確かにその存在は未確認ですが、しかしそれだけ広く恐れられていると、信仰の対象となるのには十分ですよ」

 「ん? じゃあ称号付だからと言って、必ずしも存在するわけではないんですか?」

 「その通りです! いやぁ~流石はお二人のお弟子さん! 頭の良い子ですね~!」


 なんか妙な持ち上げ方をするな……。アンタに褒められても嬉しくないんだが。


 まあしかし、称号付とはそういうことなんだな。

 有名な都市伝説が住民登録されるようなものなんだろう。

 と言うことは、”死神”というのは噂が独り歩きした存在で、称号信仰の信者が生み出した架空の存在だということか。


 そう結論付けたところで、「まあ」とフェリクスが補足を付け足してきた。


 「お師匠様は知ってるような口ぶりだったな」


 また魔神か。

 というか魔神が知っているってことは、やっぱり実在しているのかねえ?


 「なんにしても、戦神にせよ鬼神にせよ死神にせよ、そうそう出会うことが無いからの。そこまで怖がる必要もない」

 「もし出会ったらどうするんですか?」

 「……その時は運が無かったと諦めるのじゃ」


 ゑ? なんですかそれ?

 交通事故みたいなもんなんですか先生?


 まるで他人事のように言うオークス先生をよそに、今まであまり口出ししなかったフェリシアが身を乗り出してきた。

 どうもさっきからウズウズしていた様子ではあるが……。


 「ねえそんなことよりも!」

 「そんなことよりもって」

 「ハルフォード様からの手紙、なんて書いてあるの? わたしにも見せてよ!」

 「それ私も気になってた! みせてみせてー!」


 成程、気になっていたのは夜神からの手紙か。

 カーリナも便乗して読みたがっているが、本当に読ませていいのだろうか?

 どうするのかと思って先生達の方を見ると、二人は少し悩んだ様子で目を合わせていた。


 「どうするよ? 見せていいもんかこれ?」

 「……知っていて損ではないはずじゃ。それにこの三人なら信頼できるじゃろう」

 「だな。ほらよ」

 「ありがとう!」


 結論が出たみたいで、フェリクスは2枚の手紙をまとめてカーリナに渡した。

 そんなに簡単に渡してもいいのかよ。と思ったが、俺も気になっていたのは事実だ。

 それにカーリナが手紙の内容を知ったとしても、それを口外させなければいいんだし、俺が注意していれば大丈夫だろう。

 そう自分に言い訳しながら、受け取ったカーリナの両脇から俺とフェリシアがのぞき込む。


 「凄く達筆ねこれ」


 フェリシアの言葉通り、夜神からの手紙はかなり達筆だった。

 筆記体と言うのだろうか? 少し難解なところもあるのだが、丁寧に書かれているので読みやすかった。

 その内容を読んでみる。


 『エルメス様の弟子、配下、同志各員に通達する。


 最早知っている者もいるであろうが、2年前に”暴風のテンペランス”が、昨年”爆竜のウィルヘルム”が死亡した。

 打ち取ったのはあのレオナルド・ソロモンだ。

 恐らく、両名とも一人の時に襲撃を受けたものと思われる。


 最近のイルマタル海の魔力量が上昇していることに関連しているのか、真神共の動きも活発になって来ている。

 私自身、ソロモンの動向を注視していたのだが、どうにも奴の動きが不規則且つ読めないものになってきた。

 幾度か奴と仕合うも、知っての通り奴はしぶとく、取り逃がすこととなった。

 ソロモンの目的、真神の目的は恐らく、復活するエルメス様を打倒せんと画策しての蠢動(しゅんどう)であろう。

 そのために同志各員を狙うことがあると思われるので注意されたし。


 又、前述の通りエルメス様の復活も間近となってきた。

 恐らく、2~3年内にはそれを巡ってイルマタル海で大規模な海戦が行われるものと思われる。

 因って、東部地域南部、アーラシュ王国のバム軍港を拠点とし、情報の管理と収集に努めることにする。

 もし時が来れば、ラジオにて同志各員の招集を行う。


 これを読んだ同志は、無理にとは言わないが、出来るだけ他の同志に伝達されたし。

 以後、諸君の武運を祈る。


 ブレッド・ハルフォードより』


 ……これって凄く重要な内容じゃなかろうか?

 どこで活動しているとか書いてあるし、どういう連絡手段を使うとかも書かれている。

 オークス先生もフェリクスも俺達のことを信頼しているからこそ見せてくれたのだろうけど、こんな重要な手紙、俺達みたいな子供にホイホイ見せるものじゃないだろうに……。


 「もう一枚は? なんて書いてあるの?」

 「あ、待って、今見るから」

 「あ~、出来ればそれは見て欲しくは……」

 「あまり内容は多くないな」


 エドワードが何か言っていたような気がするが、気にしない。

 こちらはなんて書いてあるんだ? なんかさっきの手紙より走り書き感がすごいけど……。


 『親愛なるエムガーのゴミ屑へ。


 エルメス様の弟子、配下、同志へと宛てた手紙を同封しておくので、もしラージャに彼らが来たらしっかり見せるように。

 貴様に宛てたこの手紙もな。

 エルメス様が貴様を重用していようとも、私は貴様を信用しない。

 くれぐれも、連絡を怠らないように。


 追伸。連絡の内容が真神側に漏れていた場合、貴様を追い詰めて殺す。確実に殺す。


 ハルフォード』


 なんだよこれ、ヘイト溜まりまくりじゃねーか!

 どんだけ嫌われてるんだ。


 「……」


 手紙を持ったカーリナと一緒に、俺もフェリシアもエドワードの方を見る。

 多分俺達三人共、憐れむような顔をしているだろう。


 「いや~あはは! あの方にも困ったもので! あははは……」


 注目を集めたエドワードが場都合の悪そうな顔でごまかしていた。

 あまり同情する気はないが、コイツも苦労しているんだな。

 これだけ嫌われているんだから、それなりのことをしたんだろうけど。

 深くは聞くまい。


 それに本当ならこんな手紙は見せたくないのだろうが、夜神自身が見せておけ。と書いているから、仕方なく見せたんだろうな。

 多分夜神としては、コイツは信用できないぞ! と言うことをアピールしたかったんだろう。


 「あんまりおもしろい内容じゃないね」

 「コラっカーリ! そんなこと思っても口にしちゃ駄目だろ!」


 なんてこと言うんだ俺の妹は!

 見ろ! エドワードの口がひくついているじゃないか!


 「そういうことだ。エドワードのことはいいとして、連絡内容のことは誰にも言うなよ?」

 「うん!」

 「言わないわ」


 言えねーよな……、言ったら誰に何されるか分からないし、言えるわけがない。

 やっぱりカーリナには見せるべきじゃなかった。


 まあ見てしまったものは仕方ないから、俺が守っていかないといけないな。

 これからもっと頑張ろう。


 「して、要件はこれだけかのう?」

 「ええ、お伝えしないといけないことはお伝えしました!」

 「ふむ。ではもうここにおる必要もないし、そろそろ行くかの」

 「そうだな。昼飯もまだだし、早く行こうぜ」


 カーリナから手紙を受け取ってそそくさと懐に直すエドワードをしり目に、俺達はソファーから立ち上がって部屋を出ることにした。

 しかし、ドアノブに手を掛けたフェリクスがふと動きを止め、エドワードに振り返った。


 「そう言えばよ、その手紙、俺達以外で誰に読ませた?」

 「あっはい! 旦那達の前に、アイラ・ヘス様が来られましたので、お見せしました」

 「なんじゃ、あ奴も来ておったのか」


 アイラ・ヘス? えーっと確か、その人も称号付だったよな?


 「ねえフェリ。アイラ・ヘスって”煉獄のアイラ・ヘス”だよね?」

 「ええそうよ。冥府族の人ね」


 冥府族。

 確か魔術に長けた種族らしいな。


 「……アイツ、内容理解したのか?」

 「ええ、まあ……。三回くらい説明しましたが……」

 「本当に大丈夫かよ……」


 ああ、うん。冥府族全体がそうかは知らないが、アイラ・ヘスという人はオツムが少し残念な人なんだな……。


 「あ奴が他の者にちゃんと連絡出来るか怪しいからのう。引き続き、エドワードには手紙の内容を他の弟子達に伝えるように」

 「はいもちろんです! 任せて下さい!」

 「お前が一番信用出来ねえんだよ……」

 「そんなこと言わないでくださいよ~」


 本当に、どこまでも小物臭い奴だなコイツ。


 そんなこんなで、重要な話を終えてこの宮殿から出た俺達は、昼飯の前にもう一度称号の石碑を見ることになった。

 宮殿から出る間際までエドワードが見送りに出てきて、「それでは皆さん、道中お気をつけて!」とニヤついた笑顔で送り出したが、オークス先生とフェリクスは無視を決め込み、そんな先生達の様子を見て俺達三人はどう返していいのか分からなかったので、適当に会釈して出てきた。


 こんなに人望の無い人も中々いないぞ……。


 で、もう一度人込みの中で見た石碑には、やはり”暴風”と”爆竜”の称号は無かった。

 どうやら死んだ人の名前と称号は削られるみたいだ。


 石碑を見終えた俺達は、そのまま中央区から出る為に壁へと向かって行く。


 「そう言えば先生、エドワードさんってここで何をしているんですか?」


 なんとなく本人に絡みたくなかったので、気になっていたことを今オークス先生に聞いてみることにした。

 神官っぽい服を着ていたし、何かしらの神事には携わっているんだろうとは思うが。


 「ああ、あ奴はこのラージャで”称号認官”をしておるのじゃ」

 「称号認官?」

 「うむ。称号信仰の神職での、主に、誰に称号を与えるか、どういった称号を付けるか、などを決めておる」

 「へ~……」


 ちゃんと仕事してたんだな。

 ただの事務のおっさんだと思っていたよ。


 「あと、これは称号信仰とはあまり関係ないのじゃが、エルメス様へ情報を流しておったのじゃ。普段から副業として情報屋もしておる」


 成程、だから手紙の中で魔神に重宝されているみたいなことが掛かれていたのか。

 なんて関心していると、横で聞いていたカーリナがオークス先生に質問をする。


 「ん? じゃあ何で真神教の人達はあの人を狙わないの?」


 確かに、カーリナの疑問も尤もだ。

 それだけ魔神に情報を流していたら真神の配下、特に戦神とかがエドワードを狙おうとするんじゃなかろうか?

 あのひと、特に強くなさそうだしな……。


 「何度か襲われたらしい。が、その都度上手く逃げるので、今ではもうあまり狙われていないようじゃ」

 「……なんというか、逃げ足の速い人なのね」


 黙って聞いていたフェリシアがポツリと漏らした。

 結局のところはその一言に尽きるな。

 悪運が強いのか、持ち前の情報網を駆使しているのかは分からないが、上手いこと生き延びているみたいだ。


 「それにしても、誰もアイツのことを助けようとはしねぇがな」


 ……ほんと、何したんだろうあの人……。

 と言うかここまで嫌悪感丸出しのフェリクスも初めて見るな。


 ぐ~……。

 と少し間の開いた瞬間に、どこからか腹の音が聞こえてきた。

 あ、フェリシアか。

 お腹を押さえて少し恥ずかしそうにしているからなんとなく分かった。


 「フェリがお腹へったって言ってるんで早くご飯にしましょう」

 「な、何も言ってないわよ!!」


 ペッタンコが何か言っているが気にしない。

 何故なら俺も腹がへったからだ!


 「そうじゃの。さっさと中央区から出るかのう」

 「うん、私もお腹へったー」

 「おう! 早く行こうぜ!」


 と言うことで、食事をする為に中央区から出ることになった。

 ここじゃ飲食店が無いらしいからな。

 不便極まりない。


 しかし、この半日はかなり濃い半日になった。

 他の称号付の人について知ったり、魔神陣営の重要な情報を共有したりと大変な半日だ。

 また後で本に書いて覚えておこう。


 午後からの予定は特に聞いていなかったし何をしようかな?

 カーリナと二人でデートでもしようかな……。

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