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第11話:旅の始まりとエルフの親子

第1章より引き続きの投稿となりました。

これからの10日間も、よろしくお願い致します。

 旅が始まり、迫りくる魔物や盗賊の数々を打ち倒し、危機に陥った村を助けて可愛い女の子に惚れられた俺は、泣く泣く村を出発して辛い別れを経験し、人間としても大きく成長したのだ!


 って思うだろ?


 「うぉおおえっ」

 「お兄ちゃん大丈夫? 治療魔術掛ける?」

 「いや゛、いい……」

 「やれやれ……先が思いやられるのう」


 今現在、乗り合いの荷馬車に乗っているのだが、この揺れが酷くて酷くて乗り物酔いが止まらない。

 都合のいい妄想ばかりしていたけど実際はこんなもんだよ……。


 「もう少しすれば目的のフィロータスに着くから、今しばらく辛抱せい」

 「っう、はい……」


 俺達の住んでいたカラノスの町を離れて約半日、手紙を出してきたフェリクス親子との待ち合わせ場所であるフィロータスにはどうやらあと少しで着くようだ。


 フィロータスという街はカラノスより大きいらしく、町の東側には広大な森林が、西側には大規模な農地が広がっていて、行商人や冒険者が行き交う町として栄えているらしい。

 ハルメニア東部の食糧庫と言ったところか。

 実際今見ている風景も地平線いっぱいまで農地が広がっている。


 カラノスから南へ馬車を使って半日で行けることから、そんなに離れた街ではない。

 ないのだが……。


 「お兄ちゃん顔真っ青だよ?」

 「うん……」


 俺はこんなにも乗り物に弱かったみたいだ。

 前世ではこんなに酔うことはなかったが、多分その時は快適な乗り物があってそれを知っているからこそ、この世界のサスペンションも何も付いていない乗り物に酔うのだろう。

 だからカーリナも先生も平気な顔しているのだ。

 きっとそうに違いない。


 いやそんなことよりも、何でもいいから早く町に着いてくれ!

 さっき食べた昼食がまた出てきそうだ!


 「あ! 見てお兄ちゃん! 見えてきたよ、多分あれがフィロータスの街だよ!」

 「んあ?」


 身を乗り上げたカーリナが指を指している方向を見てみると、その方向に壁のような物が見えてきた。

 カラノスには無かった立派な城壁だ。

 いやカラノスにもあったと言えばあったが、あれは城壁というよりちょっと立派な柵かなんかだった。

 やっぱり経済や人口の違いがあるのだろう。

 立派なもんだ。


 取りあえずこの馬車から降りられるならばなんでもいいけど。



 _______________________________________________




 「いや~、地面は良いですね~地面は! 今日は快晴だし、気分も爽快!」

 「体調も良くなってよかったねお兄ちゃん!」

 「おう!」

 「……」


 町の壁内に入り馬車という悪魔の乗り物から解放された俺は、目的地のフィロータスの地面を踏みしめ、戻った体調と共にテンションも大いに上がってきた。

 若干オークス先生が引いてる気がするが俺は気にしない!


 「うぉっほん。元気になったのは良いが、これからすることは分かっておるじゃろうな?」

 「えーっと、フェリクスさん達と合流して冒険者として登録して、今後の打ち合わせですか?」

 「そうじゃ、そういうことでさっそくじゃが、冒険者ギルドへ行くぞ」

 「はい」

 「はーい!」


 街に着いていきなりのことでもう少しゆっくりしたいと思ったが、どうやらそういう訳にもいかず、先生はどんどんと町の中を進んで行った。


 「わ~……凄いね、人がいっぱいいるよ」

 「うん、さっきの城壁といい、やっぱりこの街はカラノスより大きいってことがよくわかったよ」

 「この辺りは商業区での、街の内外から人が集まってくるもので、朝から晩まで混雑しておる。決してはぐれるではないぞ?」


 成程。と返事をしながら今一度街を見渡す。

 前世で大阪や東京に行ったことがあるので人の多さについてはそんなに驚くことはなかったが、昔テレビで見た台湾の市のような賑わいを見せるこの光景には面食らった。


 見たことのない衣装の人達が見たことのない物を売ったり買ったりし、或いは値段交渉をして、或いはどこそこの物価について話し合っていたりしている。

 その中には人族以外の種族も多く、犬耳の人、角の生えた人、羽の生えた人、尻尾の生えた人などよく見かけた。

 やはり東部連合との貿易も盛んなのだろう。

 カラノスでもある程度人族以外の人種を見たりしていたので、今さら驚きはしないが。


 先生の後について行きながらカーリナとあれこれ話をしていた。

 あれは何だろう? とか、これはどうするんだろう? とか、あんなの初めて見た! とか、他愛ない疑問をぶつけあって、時には先生に教えて貰いながら街の中を進む。


 進むにつれ、人の数が段々と減ってきた。

 いやそれでもそこそこ人がいるのだが、なんというかさっきの賑わいに比べたら大分落ち着いて来たみたいだ。

 人の質も変わっていて、さっきまでは商人って感じの人が大半だったが、ここは筋骨隆々な感じの人が多い。


 「ここら辺りからは歓楽街での。冒険者ギルドの役所もここにある」


 どうやら件のギルドはこの先にあるようだ。

 この区画の人達を見てみると、水商売の人が昼間から客を呼び込んでいたり、厳つい顔の人が睨みを利かせてきたリして少し怖い。


 「……ここはちょっと怖いね」

 「そうだな。離れるなよ?」


 横を並んで歩くカーリナも不安に思ったのか、俺の手を繋ぎながら小声で告げてきた。

 その手をしっかり握り返しつつしっかり前を向いて歩く。

 この街に来てから初めて見るものばかりで、俺もカーリナも少し不安になってきたみたいだ。

 こんな調子ではいかんな……・。


 その後もしばらく街の中を進んで行くと、ガラの悪そうな奴もちらほらと現れ、「見ろよ、子連れのジジイだぜ」 「ベビーシッターかありゃ?」なんて声も聞こえてくる程だった。

 よくよく考えると俺達はまだ12歳の子供だ。

 そりゃ目立つに決まっているよな……。


 ただそんな中でもオークス先生は何も気にした様子でもなく、まっすぐに前を進んでいくその姿はとても頼もしかった。


 「うむ、ここじゃな。着いたぞ」

 「おー……」


 どうやら到着したようだ。

 建物自体は周りとそんなに変わらない作りだが、他は朱色のレンガを主に使っているのに対し、この建物は青を基調とした作りで、入り口の上にデカデカと「冒険者ギルド」と看板を掛けてあった。


 先生を筆頭に俺達は冒険者ギルドの役所へと入る。

 中は西部劇で見かけるような酒場に雰囲気が似ていて、受付カウンターと飲食スペースがあり、飲食スペースの机にはそれなりに人が席に着いていた。

 みんな冒険者だろう。


 「さて、あ奴は居るかの?」


 なんて言いながら先生は役所内を見渡し、目的の親子を探していた。

 ここにいるのだろうか?

 でも先生、早くしてくれないと皆さん俺達のことをガン見してきてますよ?

 皆さん、とても怖いので僕もう帰りたいです。


 「ねえ先生、ここにフェリクスさんはいるの?」

 「うむ、ここにいるはずじゃが…・…。おらんのう」


 おらんのかーい。


 思わずガックリと肩を落としてしまった。

 そもそも自分から手紙を出してきて待ち合わせ場所を指定したのに、何故その本人がここにいないんだ?


 「呼びつけといて何でいないんですか?」

 「ま、四六時中ここにおるわけではないからのう。儂らを待つ間にもギルドの依頼をこなしておるんじゃろう」

 「あぁー、成程……」


 確かに、何もせずにここで待っているのも時間の無駄だし、その間にギルドの依頼とやらをこなしていた方が有意義だもんな。


 「じゃあどうするの? 私たちはここで待つの?」

 「いや、取りあえずお主らを冒険者ギルドの会員に登録しておこう。その後でゆっくり待つとしようかの」

 「おおー! いよいよ冒険者だね、お兄ちゃん!」

 「登録するだけだし、そんなにはしゃぐなよ」


 とは言いつつも、俺も内心ワクワクしている。

 なんかこう、車の免許を交付してもらう時の感覚ににていた。

 まあ前世ではペーパードライバーだったんだがね。


 やおら受付の方に進むオークス先生に、俺の方を見てニヘラと笑うカーリナとついて行く。

 受付の窓口は4つあり、銀行の窓口のように仕切り板で区切られていた。

 先生が立った窓口にはデキる感じのおっさんが座っていて、俺達三人の顔を一度づつ見てから先生に注視した。

 なんか事務的なおっさんだな。


 「この子達をギルド会員に登録したいのじゃが」

 「……お二人はお幾つでしょうか?」

 「俺もこの子も12歳です」


 おっさんは先生の言葉を受けて再度俺とカーリナの顔を見ると、機械的に質問をしてきたので有りのままに答えておいた。

 するとおっさんは手元に書類を取り寄せ、何かを記入しだした後に、では。と前置きをする。


 「12歳では保護者同伴でなければ登録できません。そちらの方が保護者であるのでしたらお名前と、ギルド会員証の提示をお願いします。ご本人様方にはこちらの書類に記入をお願いします。もし記入が出来ないようでしたら口頭で仰っていただければこちらで記入しますが、如何いたしましょう?」

 「いえ、自分で書けます」

 「ではこちらを」


 なんかすんごい捲くし立てられたんだけど……。

 取りあえずカーリナと一緒に用紙へ記入する。

 内容はだいたいの出生日にだいたいの住所、だいたいの健康状態など。殆どだいたいで記入するものなんだが、大丈夫なのか?

 まあこの世界には戸籍なんかなさそうだし、パソコンのデータベースからサクッと一発検索! なんてことはできないんだろうな。


 俺達が必要な事項を書き込んでいる間にも、オークス先生は受付のおっさんと必要なやり取りをしていて、俺達の記入が終わると同時に先生の手続きも終わった。

 因みに先生がギルドの会員証というものを提示した時にヤコブと名乗っていたので、どうやらこういう人が居る所ではヤコブ先生と呼んだ方がよさそうだ。

 魔神の弟子で、称号付だもんね。オークス先生は。


 「……はい、では確認しましたので、冒険者ギルド会員及び職員規則により諸注意事項を説明いたします」

 「……はい」


 書類を確認したおっさんが俺とカーリナに向かって何やら語り出した。

 なんか学校の先生に注意されるみたいでいやだなー。

 でも何故かカーリナはワクワク顔で聞いている。何故だ?


 「冒険者ギルド会員において、ご登録の際次の注意事項をお守りください。ギルド会員は窃盗、殺人、詐欺、強盗、強姦、放火などの犯罪行為は認められず、これを行った場合は即時にギルド会員証を剥奪します。次に、10歳未満の会員登録についても認められず、15歳未満は保護者の同伴による会員の登録とギルドからの依頼を受けることとなります。初回登録時の階級は五級から始まり、依頼の達成率やギルドへの貢献度により階級が上昇します。危険度の高い依頼については、15歳未満の方は場合によってはこちらから依頼の受注をお断りする場合もございますのでご了承ください。当支部で依頼を受注され、他の支部で依頼完了報告を申告することが出来ますが、その際には依頼を受注した支部でなければ申告を受け付けない依頼もございますのでご注意ください。今回お渡しする会員証はこちらで費用を負担させていただきますが、会員証を紛失、または破損した場合は最寄りの支部に申し出て頂き、再発行代をお支払いの上再発行してください。

 ――以上、何かご質問はございますか?」


 何言ってんだコイツ?


 長ったらしい説明を一気に捲くし立てられて、内容があんまり入ってこなかった。

 というか携帯電話の取説を口頭で説明されたような気分だ。


 見ろ、カーリナもポカーンとしてるじゃないか。

 詳しいことは後で先生に聞いておこう。


 「……ではご質問はなさそうですので、最後に血による認証を行いますのでお手を拝借いたします」

 「あ、はい」


 血による認証? 血を使って本人登録するってことか?

 そんなふうに疑問に思っていると、受付のおっさんは一度席を立ち、受付の奥からカードを持ってきて俺達の前に一枚づつ置いた。

 これが冒険者ギルドの会員証なのか?

 俺とカーリナは言われた通りおっさんに手を差し出した。


 「少し切りますので少々ご辛抱ください」

 「イテっ」

 「っ!」


 おっさんは受付に置いてあったナイフで俺達の指を小さく切り、血が出てきたことを確認すると、その指をカードに押し付けて血判を押した。

 どうやらそれだけで終わったらしく、治癒魔術で指を治してくれて中々サービスが利いて感心だ。


 「ありがとうございました。これで会員証への血による認証が完了致しましたので、ご確認の為に一度、会員証を手に持った状態で『本人確認』とハッキリと言ってみてください」

 「『本人確認』」


 説明を受けて会員証を手に持ち、ハッキリと発音する。

 すると、会員証が青く光り出した。


 「おおー、光ったよお兄ちゃん」

 「どうなってるんだろうな?」


 カーリナの方も青く光り出したのを見ると、どうやらこれが本人かどうかを確認なんだろう。

 受付のおっさんもそれを見て一つ頷くと。


 「問題なく確認出来ました。これにて冒険者ギルドの会員登録を終了致します」

 「ありがとうございました」


 取りあえずやっと終わったらしい。

 あ~疲れた。


 「これで冒険者だね!」

 「保護者同伴だけどな」


 15歳未満だから俺とカーリナだけで依頼を受けることは出来ないらしい。

 まあ俺も自分達だけで依頼を受けようなんて思わないけれど。


 というかオークス先生がいつのまにかいなくなってるんだけど?


 「終わったかの?」

 「あ、先生! 登録終わったよ!」

 「先生は何してたんですか?」

 「待っている間にお前さん達が受けられそうな依頼を見ておったのじゃ」


 早速依頼の話ですか。

 いきなり過ぎると思うけど、何でもやって慣れていくほうがいいんだろうな。


 「ま、焦ることもないし、フェリクス達との合流が先じゃから、今日はもうゆっくりしておこう」


 というわけで待ち人を待ちがてら、丸いテーブルが並んだ飲食スペースにたまたまテーブルが一つ開いていたのでそこに座り、軽く食べ物を注文して食べつつ、先生から冒険者についての注意ごとを聞いていた。


 驚いたのが、俺達が冒険者に登録したてのルーキーと知った他の屈強そうな冒険者達の何人かに、「頑張れよ」とか、「あまり無茶はするなよ」など、優しい言葉をかけてくれたことに驚いた。

 中にはニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべる奴もいたので、冒険者も色々いるんだなと思った。小並感。


 先生曰く、俺達は五級からスタートになるが、一つ上の階級の依頼までなら受けることが出来るようだ。

 俺達なら四級向けの依頼まで受けることが出来るということか。


 そんなこんなで、冒険者として登録された俺達は、これからは自分の身一つでお金を稼がないといけない。

 勿論オークス先生やフェリクスという人の許で修行をしながらになるので、大変な生活になるだろうな。

 これもひとえにカーリナ達を守れるようになる為だ。頑張ろう。

 カーリナもやる気満々だしね。


 なんてしみじみ思いながらサンドイッチを片手にビアンカから貰ったノートへ冒険者について書きつつ、役所の出入り口をぼーっと見ていると、一組の男女が入って来た。

 一人は金髪で自信に満ち溢れた表情の精悍な男。

 もう一人は銀髪のセミロングで、まだ幼い感じだが少し大人びた雰囲気の少女だ。


 その二人に共通するものがある。

 それは髪の毛がかなり綺麗できめ細かいこと、腰に剣を帯びていること、そして耳が、長く尖っていること。

 いわゆるエルフ耳だ。


 その男の方が何気ない様子で飲食スペースを見ていると、何かに気付き、笑顔になりながらこちらに向かってきた。

 因みに俺の後ろは壁で、カーリナはサンドイッチに気を取られ、先生は俺と向かい合っているので男に気付いていない。


 え? 何? 俺なんかした?

 なんて思う間にも、男はオークス先生の隣までやって来て顔を確認し、その隣に座りこむと亜人語で話はじめる。


 「よう! やっときたかこの野郎! 久しぶりだなオー……ヤコブ!」

 「おおフェリクス! 久しぶりじゃのう!」


 先生とエルフ耳の男が仲良さ気に話している。

 ということはだ、この人が例の――。


 「ベルホルト、カーリナ、紹介しよう。こやつがフェリクスじゃ。”剣皇”フェリクス・ファーランド」

 「あん? そういやてめえら誰だ?」


 ”剣皇”フェリクス・ファーランド。

 魔神エルメスの弟子で、剣術の達人か。

 というか他のテーブルの冒険者達は”剣皇”と聞いても反応しないな。

 周りもうるさいから聞こえないだけかもしれんが。


 「わ、私はカーリナ・ハルトマンです! よろしくお願いします!」


 勢いよく立ち上がって自己紹介するカーリナ。

 そんなカーリナを面白そうに見るフェリクスは一つ頷くと。


 「いい面した嬢ちゃんじゃねえか。オー……ヤコブの孫か?」

 「いや、近所の知り合いの子らで、儂の弟子じゃ」

 「ほー、お前が弟子ねえ……。こっちの坊主もか?」


 顎で指された俺は、そういえば自己紹介がまだだったと立ち上がった。


 「申し遅れました。俺はベルホルト・ハルトマンです。カーリナの双子の兄です。よろしくお願いします」

 「おう! 何で一緒に来たのか知らねえが、ま、よろしくな!」


 俺が挨拶をすると、フェリクスはカラカラと笑いながら答えてくれた。

 中々好感の持てる人だ。

 ただ、一つさっきから気になっているところがあるのだが……。


 「あの、フェリクスさん一つ聞いてもいい?」

 「あん? なんだ嬢ちゃん?」

 「フェリクスさんのその耳って……」

 「おう、なんだお前ら、エルフを見るのは初めてか?」

 「うん、初めて!」

 「エルフなんですか?」

 「おうよ!」


 エルフ耳かなと思ったら、やっぱりエルフだったでござる。

 これまで色んな種族に会ったり見たりしてきたが、流石にエルフは初めてだ!


 「フェリクスはエルフで、儂の兄弟子なのじゃ」

 「コイツは敬意も払わねえクソ弟弟子だけどな」

 「ほっほっほ」


 ……なんというか、言葉遣いやだらしなく座る姿を見ると、前世でのエルフのイメージが台無しだ。

 そして勝手に俺のサンドイッチ食べないでくれ。俺の貯金で買ったんだぞ。


 「お父さん、また私に依頼の報告を押し付けないでよ!」


 と、ここでフェリクスと一緒に役所内に入って来た少女がフェリクスの所へやって来た。

 どうやらさっきまで受付で依頼の報告をしていたみたいだ。


 「ああ、悪りぃ悪りぃ。お前に言ってた魔術のセンセーを見つけてよう。ついつい話し込んじまったぜ」

 「だからわたしは魔術なんて……」


 そこまで言って少女はオークス先生、カーリナ、俺と視線を移し、俺と目が合った途端――。


 「ふんっ!」


 と思いっきり顔を逸らされた。

 この子はあれだな、俺の中のエルフ像をそのまま再現したようなエルフっ子だ。

 セミロングの銀髪と緑色の瞳がよく似合っている。

 近くで見ると、かなり美人な子だ。

 カーリナは可愛い系だが、この子はまだ幼い感じがあるけど、キレイ系な美人だ。


 でもこの子、ペッタンコなんだよな……。

 誰だよ、エルフはデカいって言ったやつ。


 「コイツはフェリシアつって俺の娘だ。手紙にも書いたが、跳ねっ返りのじゃじゃ馬だからよ、悪りぃが手ぇ焼かせるわ」

 「元気があって良い子ではないか。よろしくの、フェリシア。儂は……ヤコブじゃ」

 「ヤコブ? オークスじゃなくて?」

 「人の居るところではヤコブと呼んでくれ」

 「ふーん……」


 なんか不遜な感じの子だな。このフェリシアって子。

 オークス先生に対してもツンとした態度だ。


 しかしオークス先生はヤコブで通しているが、フェリクスは別にいいのだろうか?


 「コラ、フェリ。ちゃんと挨拶しとけ」

 「……フェリシアよ。よろしく。でもわたし、魔術なんて強化魔術だけで十分だから」

 「ほっほっほ。確かに、これなら手を焼きそうじゃのう」

 「ふん!」


 先生もやれやれと言った感じになっているが、別段嫌そうにはしていない。

 むしろ、どう調教してやろうか。なんて気配さえ感じる。

 中々のSっ気だ。

 ただ、自分の師匠を(ないがし)ろにされるのは少しムッとするな。

 カーリナも同じらしく、眉間に少し皺を寄せて軽くフェリシアを睨んでいた。


 「で、この子たちは何?」

 「おうそうだ。この二人、ベルホルトとカーリナつったか? こいつらは何しに来たんだ?」


 カーリナの視線に気づいたフェリシアは、俺達を顎で指しながら聞いてきた。

 ちょっとムカつく。

 それに便乗する形でフェリクスも俺達が一緒に来た理由を聞いてくる。


 「うむ。儂がフェリシアに魔術を教える代わりに、フェリクスからこの二人に剣術を教えてやって欲しくて連れてきたのじゃ」

 「ほー、剣術をねえ……」

 「詳しくは後で話すが――」


 と前置きをしたオークス先生がフェリクスの腕を持って引き寄せ、耳元で何かを囁く。

 するとフェリクスは驚愕の表情で俺を凝視しする。


 「おいおい吹かし過ぎだろそりゃ! なんの冗談だ!?」


 ああ、なんとなく先生が言ったことが分かったよ。俺が無詠唱で魔術が使えることを言ったんだな。

 フェリクスが魔神の弟子だからオークス先生もサクッと言っちゃったけど、俺としてはちょっと心配だな。

 知る人間が増えれば増える程、秘密も漏れやすいからな。


 「冗談ではない。この子のは本物じゃ」

 「……嘘、ってわけじゃぁなさそうだな……」


 オークス先生の真剣な表情を見たフェリクスは、取りあえずは、といった感じで信じることにしたようだ。

 フェリクスの後ろではフェリシアが話についていけず、不満そうな顔で先生とフェリクスの顔を交互に見ていた。

 それを、話の内容を察したカーリナがドヤ顔で見つめている。


 「そういう訳で、この二人も一緒に連れて行きたいのじゃが?」

 「ま、さっきの話は一旦置いとくとして、こいつらが剣術を習いたいんなら一緒に連れてっても――」

 「わたしは嫌よ! きっと足手まといになるだけだわ!」


 話が纏まりかけたところで、フェリシアがごねだした。

 折角剣皇から剣術を習う許可を得られそうになっていたのに、どうしてそう反対してくるんだろうか。

 そもそもこいつは何でそんなに俺達のことを嫌ってるの? 思春期なの?


 「おいおいフェリ、なんでそんなに――」

 「なんでそんなに言うの!? 私たちが足手まといだってどうして決めつけるの!?」


 フェリシアの発言に余程腹を立てたのか机をバン! と叩きながら勢いよく立ち上がったカーリナが食って掛かった。


 「お前ら落ち着けって、カーリナの嬢ちゃんも――」

 「ふん! どうせあなた達何も出来ないんでしょ? 出来たとしても下手な魔術かチャンバラ程度じゃないの?」

 「そんなことないもん! 魔術も格闘も剣術もちゃんと習ってたもん! お兄ちゃんなんか魔法も使えるんだから!」

 「嘘ね」

 「嘘じゃない!」


 なんか収集の着かないことになってきたぞ。

 俺とオークス先生は二人のやり取りを、まるでテニスの試合を観戦するかのように見ていた。

 というか先生も止めて下さいよ。


 しかし次の瞬間、ドン! と何かを叩きつける音が響いた。

 その音に面食らいながらも、音を発した人物……フェリクスの方を見ると、彼は腰に帯びていた剣を鞘に納めたまま握りしめている。

 どうやら彼が剣で床を叩いたらしい。

 その音に驚き、キャットファイトしていた二人はフェリクスの方を注視する。


 「お前らいい加減にしろよ。このまま喧嘩するなら半殺しにするぞ」

 「ご、ごめんなさい……」


 ドスの利いた声で制止したフェリクスに対して即座に謝ったのがフェリシアだった。

 彼女はやはり自分の父親の怖さを知っているんだろう。

 ていうか半殺しはヤメテください、一人はうちの大事な妹ですよ?


 「ほら、カーリも」

 「う、うん。ごめんなさい……」

 「フンっ!」


 取りあえずカーリナにも謝らせといておいた。

 それでも怖い顔のままでいるフェリクスは、不機嫌そうに鼻を鳴らして踏ん反りかえる。


 「……そんなに揉めるのなら……」


 とここで、今まで黙ってことの成り行きを見ていたオークス先生が口を出す。

 というかさっきまで楽しんでいただろこのジジイ。

 ニヤって薄く笑ってたのを知ってるんだぞ!


 「実際に戦ってみてはどうかのう? ベルホルトとカーリナ対フェリシアでの」

 「おお! そりゃあいい! 俺もベルホルト達の実力ってのが見てみたいぜ!」


 で、なんかフェリシアを戦うことになった。

 まあ確かに、俺が無詠唱で魔術を使うことが出来るかどうかを知るいい機会なんだろう。フェリクスも先生の提案に賛成している。


 「いいわ。望む所よ!」

 「私、絶対負けないから!」


 提案を聞いて二人は既にヤル気満々だ。

 カーリナは初対面の相手に馬鹿にされて悔しかったんだろう。

 その表情は闘志に満ち溢れていた。

 二人がヤル気なら、俺もその気にならない理由は無いな。


 俺も、馬鹿にされっぱなしってのも癪だし、いい機会だ、これで人同士の戦い方を学ぶのもいいだろう。

 猿? ああ居たなそんな奴。


 「勝つぞ、カーリナ」

 「うん!」


 こいよフェリシア! 剣なんか捨ててかかって来い!


 「よし! そうと決まったら夕飯食って寝るぞ! 決闘は明日だ!」


 あ、明日にするのね。

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