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第10話:旅立ちと暫しの別れ

 「ふぅーーははははは! この破壊神様の力に、恐れ戦きひれ伏すがいい!」

 「キャー! 助けてー! 誰か助けて―!」

 「無駄無駄無駄ァ! 我を打ち破るものなど、誰もおらんのだぁ!」


 高らかな声を上げ、か弱き女子(おなご)の手を引っ張るは、世の中のありとあらゆる物を破壊せんとする破壊神なり!

強大な力を使い、今日も破壊の限りを尽くす!


 「そこまでだ!」

 「何奴!?」 

 「わが名は魔神エルメス! はかいしんよ、お前をうちたおしてくれる!」


 しかし! そこへ現れたるは魔導の権化、魔神エルメスなり!

 魔神は破壊神を倒すため、日夜修行に励んでいたのだ!


 「出たな魔神エルメス! ここで会ったが百年目、貴様を返り討ちにしてくれるわ!」

 「気を付けてエルメス様! 破壊神は”破壊の槌”を持っているわ!」


 破壊神は”破壊の槌”と呼ばれる強力な武器を持っていた!

 だが、魔神エルメスも負けじと一振りの剣を取り出した!


 「あんしんしたまえ! こんなこともあろうかと魔剣……えと……」

 「レーヴァテイン」

 「れ、レーヴァテイン? を作ってきたのだ!」


 ……魔神エルメスが”魔剣レーヴァテイン”を高らかに掲げる!

 それは神々しい光を放ち、破壊神を圧倒した!


 「そ、それは! 翼竜族に伝わる伝説の宝石、”玉紅龍石”の輝き! これでは思うように力が出ぬ!」

 「エルメス様! 破壊神の力が出ない今がチャンスです!」

 「わかった! とう!」


 ここで魔神エルメスが切りかかる!

 しかし力が弱くなったとはいえ、破壊神の力は強い!

 魔神エルメスの剣戟を容易く受け止める!


 「猪口才な! やあっ! たあっ!」

 「はっ! やっ、とおっ!」

 「っつぁーーーーー!!」

 「あ! ご、ごめん兄ちゃん!」

 「お兄ちゃん! 大丈夫!?」


 ア、アルフレッドが振った木剣が左肘のファニーボーンに直撃してマジで痛い!

 肘を抱えてその場にうずくまる。


 ……因みに、今まで何をやっていたかというと、魔神対破壊神ごっこだ。

 魔神エルメス役がアルフレッド。

 捕らわれた姫役がカーリナ。

 そして破壊神役が俺だ。


 この遊びはもともと童話や絵本の話で、2、3年前のアルフレッドの誕生日に買ってもらっていたものだ。

 内容としては、ある日町や物などを破壊して回る男が現れ、何人もの称号付の猛者達が挑むも敗北し、ついには”破壊神”の称号を得るまでに至った。

 誰もが破壊神による破壊を止めることが出来ずに諦めかけていたその時、魔神エルメスが魔剣をこさえて破壊神に立ち向かい、これを見事に打ち倒す。

 というストーリーだ。

 よくある王道な感じの勧善懲悪もので、実際に270年程前に起きた史実を元に作られた話らしい。


 アルフレッドはこういった感じの話が好きで、よくこうしたごっこ遊びに付き合わされている。

 ビクトルが称号信仰なので、その影響で称号付や魔神エルメスなんかに憧れているらしい。

 俺とカーリナが行く旅に、剣皇フェリクスが同行すると聞いた時は本当に羨ましそうにしていた。


 「……ぐあ~~! やーらーれーたー! 魔神エルメス、見事なり―!」


 と、肘の痛みが消えてきたところで、わざとらしくその場に倒れこむ。

 俺を心配していたカーリナとアルフレッドは、一瞬顔を合わせた後、思い出したかのように演技を続けた。


 「……や、やったぞ! ついにかのはかいしんをうちたおしたりー!」

 「キャー素敵! 流石エルメス様ですわ!」


 こうして悪は去った! これからは魔神エルメスの時代である!

 ……ってもういいか。

 この遊びの主人公であるアルフレッドも満足したようで何よりだ。


 「三人ともー、お昼ご飯が出来たわよー」

 「はーい」

 「ご飯!」

 「ごはんだ!」


 ご飯と聞いて体を起こす。破壊神は復活したのだ!


 今日は朝から三人で遊んでいたのだが、やっぱり兄妹で遊ぶのは中々楽しい。

 前世では兄弟がいなかったので、今こうして遊んでいると、童心に帰った気がする。いや今まさに子供なんだけどさ。


 そんなことを思いつつ、ドタドタと食卓へ向かう妹達に続いてテーブルに着く。

 既にビアンカも含め、カーリナとアルフレッドが席に着いて待っていた。

 テーブルには美味しそうな料理が並んでいる。


 「それじゃあ、いただきましょうか」

 「いただきます!」

 「いただきまーす!」

 「いただきます」


 ビアンカの音頭で料理に手を付ける。

 アルフレッドとカーリナは凄い食べっぷりだ。そんなに慌てなくてもいいのに。と思うぐらいの早さだ。

 ビアンカはビアンカで、「落ち着いて食べなさい」と二人を見て苦笑している。

 俺はそんな三人をボーっと眺めながらフォークで料理をつつき、こんな光景を見るのは、今後しばらくないだろうな。と考えていた。


 なんたって、旅の出発は明日だからね。

 そのための準備は既に整っている。

 だからこそ昨日と今日の二日は家族で過ごすようにとオークス先生に言われ、修業も何にもなく家で過ごしていた。

 今日が終われば、しばらく家族で過ごすことはないだろう。

 べ、別に寂しくはないんだからね!


 「どうしたのベル? お腹空いてないの?」

 「ううん、大丈夫。ちょっと明日のことを考えていただけ」

 「そうねぇ……・ベル達は、明日出発だものね……」


 そういってビアンカは少し、寂しそうな顔をする。

 旅に出ることを許してくれたけれど、なんだかんだ言って俺達のことが心配で堪らないみたいだ。

 実際、準備を始めてからの一か月、あれやこれやといつも以上に世話を焼いてくれたように思う。

 なんにせよ、ありがたいことだ。

 これだけ心配してくれているんだ、無事に帰ってこなくちゃ! と、俺にとっても励みになる。


 思えば、ビアンカにはいつも世話になっていた気がするな。

 生まれた時から優しく、時には厳しく育ててくれた彼女には頭の下がる思いだ。

 そんなビアンカに、なるべく手の掛からないようにと気を使う時もあったが、しかしそんなことをしなくても自然体でいさせてくれる優しさが、彼女にはあった。


 「兄ちゃんたち、帰ってきたら話きかせてね!」

 「任せて! 面白い話をうんと聞かせてあげるから!」

 「うん!」


 アルフレッドは、最近ちょっと変わって来たと思う。

 一か月前までは我儘を言ったり、駄々をこねることが多かったが、一か月前のあの日以来、それが少し鳴りを潜めたように感じたからだ。

 この一か月間、旅の準備でオークス先生の修行を受ける時間が減ったが、三人で魔術の修行をしていてもアルフレッドはより一層一生懸命に取り組んでいたし、最近になって始めた剣の修行も、ビクトルに指導されながら着実に基礎を身に着けていた。


 今では自信が付いたのか、俺やカーリナのことを、兄ちゃん、姉ちゃん、なんて呼ぶようになった。

 俺としてはそう呼ばれるほうが好きだな。


 ただ、兄として一つ許せないことがある。

 それは、アルフレッドがモテる、ということだ。


 近所の女の子達に囲まれて一緒に遊んでいたり、アルフレッドを巡って取り合いになっていることもしばしば。

 その時の満更でもなさそうな弟の顔を見る度に、言い知れぬ敗北感を感じるのだ。

 これは決して、アルフレッドのことが羨ましいとか、嫉妬しているとかでは、断じてない。

 もう一度言う、断じてない。


 しかし、どうしてそんなにモテるのかねえ?

 青みがかった黒髪には金のメッシュが入っていてカッコいい感じだし、右目の下に泣き黒子があるのもチャームポイントなのだろう。

 女の子受けする甘いマスクというやつですかねえ?


 「お兄ちゃん、ちゃんとご飯食べないと後でお腹すくよ?」

 「ああうん。大丈夫、ちゃんと食べるから」


 カーリナはどうだろうか? 何か変わっただろうか?

 だいたいいつも一緒に行動しているので、特にこれが変わった、とかは分からないな。

 俺にベッタリなところもあるので、将来独り立ち出来るかが心配だ。

 あ、いや、しなくても別にいいけど!


 何が心配かっていうと、いきなり男を連れてくることだ。

 そんなことになってみろ、ビクトルより先にキレる自信があるぞ。

 まあ、百歩譲って、称号付より強くて経済力もあって、優しくてカーリナのことを一途に想ってくれるような奴なら、考えてやってもいいが。

 まあそんな奴はいないか。


 そういうふうに考えているくらい、カーリナはいい子なのだ。

 人懐っこくて、優しくて、でも活発的なところもあって頭も良い。

 俺が他所の子なら絶対に放っておかないな。うん。


 あ、でも最近なんだかいつもよりくっ付いてくることが多くなった気がするのだが……。

 なんだろう? 弄ばれているのかな?


 「……うん、おいしい!」


 何はともあれ、こうして兄妹達と一緒に食べる機会もしばらくなくなるんだし、楽しんで食べますか!



 _______________________________________________




 「準備はいいかい? ベル、カーリ」

 「はい、いつでも!」


 家の庭で俺とカーリナは、二人そろってビクトルの前で木剣を構えている。

 時刻は日没直後、食事を済ませて最後の稽古の最中だ。

 別にこれ以降ビクトルの指導を受けることはないわけではないが、明日から旅に出て剣皇と呼ばれている人から指導を受けるんだから、ビクトルからこうして剣術を教わるのは最後になるかもしれない。


 そして最後の稽古ということで、アルフレッドと三人で一緒に素振りをした後、俺とカーリナが二人掛かりでビクトルに挑むことになった。

 カーリナとそれなりに作戦を考えているので、上手くいくことを願おう。

 因に、アルフレッドは離れたところでじっと見ているし、今日ついてはビアンカも観戦している。


 俺とカーリナは2メートル程離れた所で並んで構えている。

 俺は基本通りに中段に構え、右にいるカーリナはやや右に担ぎ気味に構える。

 対するビクトルは剣先をほぼ真上に立て、右手を顎の近くに引き寄せた構えだ。

 剣についてはまだまだな俺から見ると、ビクトルの構えには隙が無いように見える。


 これから勝負だ。二人掛かりとは言え、本気で掛からなければ勝てない。

 でも、何が何でも勝つ! という気持ちで挑まなければ勝たせてくれないだろう。


 「……よし。じゃあ、こい!」

 「やあっ!」


 ビクトルの合図を聞いてカーリナはすぐに横薙ぎの一線を繰り出す。

 俺はすぐには動かない。


 「甘い!」


 胴を目掛けて振るったカーリナの剣を後ろに一歩引いて躱し、上段の構えを取るとすぐに振り下ろした。


 「くぅ!」


 すんでの所でそれを受け止めるカーリナ。

 その顔は若干苦しそうだ。

 しかし俺はまだ動かない。

 きっとこのタイミングで仕掛けてもビクトルに返されておしまいだ。

 

 「はっ!」


 次の瞬間、ビクトルは力の向きを変え、カーリナのバランスを崩して次の一撃を繰り出そうとする。

 ここだ!


 「はあっ!」


 ビクトルが斬撃の為に振りかぶったタイミングを狙い、中段から彼の脇腹目掛けて突きを繰り出した。

 これならいける、勝てるぞ! と、一瞬思ったのもつかの間。

 俺が腕を伸ばし、右足で踏み込んだ瞬間、ビクトルが消えた。

 いや、消えたんじゃない! 突かれる直前に回転して避けたんだ!


 「ふっ!」

 「このっ!」


 ビクトルは一瞬消えたように錯覚するほど早く回転したが、反応出来ないほどではない。

 だが返し技を木剣で受け止めるも、かなり無茶な体勢で受け止めてしまって次の技が出せない!

 そのままつば競り合いになるが、ビクトルと俺ではまだまだ体格差があるので当然押し負ける。


 「はあっ!」

 「うわっ!?」

 

 しまった! 完全に押し負けて、倒された!

 ――と、ここまでは作戦通りだ。


 「やあああっ!」

 「なっ!?」


 ビクトルからしてみれば、俺が倒れたその後ろからカーリナが突然迫って来たように見えただろう。

 既に十分な踏み込みを終えて横薙ぎの一線を繰り出していたカーリナに、俺に止めの一撃を繰り出そうとしたビクトルは一瞬の隙をつかれて――。


 「……参った、負けたよ」

 「やったー!」


 ビクトルの右脇腹に木剣を添えたカーリナが諸手を挙げて喜んだ。

 俺も立ち上がってカーリナとハイタッチをする。

 おお、いいなこういうの! なんかバスケ漫画にこういうシーンがあったぞ。


 「やったな! カーリ!」

 「うん! 作戦通りだね!」


 今回ビクトルと戦うに当たって考えた作戦はこうだ。

 最初にカーリナがビクトルと打ち合い、その中でカーリナがやられそうになったところを、如何にも隙をついたっぽく俺が攻撃を仕掛ける。

 当然、ビクトルは俺に集中するので、あとは適当にやられそうになったところを、俺を目暗ましにしたカーリナが止めを刺す。


 正直言って最初は上手くいくとは思わなかったが、結果的には勝てたので良かった。

 ……いやでも冷静になって考えると、こんなにあっさり勝てたのはなんかおかしい気がする。

 あれかな、最後だし俺達に花を持たせてやろう。的な感じで勝たせてくれたのかな?

 ……ま、深くは考えないで、素直に結果を喜ぼう。


 「強くなったね、二人とも。でも、打ち込んだ後の体勢が良くなかったから、二本目、三本目と次の技を出せるように踏み込もう」

 「はい!」


 ビクトルの指摘に、二人揃って返事をする。

 確かに、俺もカーリナも、一撃一撃に集中しすぎてその次の技が疎かになっていたように思う。

 もしビクトルが連続で何本も打ち込んで来たら、きっと俺達はなす術もなく負けていただろう。

 ということはやっぱり、今回はビクトルが勝たせてくれただけなんだろうな……。

 

 と、ちょっとテンションが下がってきたところでパチパチと拍手が聞こえてくる。

 音のする方を見ると、さっきまで観戦していたビアンカとアルフレッドが拍手をしていた。


 「凄いわ二人とも、普段の練習の成果が出たのね!」

 「お父さんに勝つなんて、すごい!」


 アルフレッドは月並みな感想だが、興奮している様子がよく分かる。

 俺自身、凄いと言われるような内容ではないと思っていたから、なんか少し照れてしまうな。


 「そう言ってくれるのはいいけど、俺達のいない間にアルもちゃんと強くならないといけないぞ?」

 「う、うん。がんばる!」

 「任せておいてくれ、二人がいない間にうんと鍛えておくよ」

 「それじゃあ、私たちも負けないように頑張ろうねお兄ちゃん!」

 「ああ!」


 そうだよな、俺達も楽しい旅をするわけじゃないんだ。楽な旅をして帰って来た時に何も成長してなかったらアルフレッドにも申し訳ないし、そもそも旅に出る意味もない。

 だからアルフレッドの為にも頑張ってこないとな。


 「あなた、今日はもうこれくらいにして、汗を流しましょ。明日は早いんだから」

 「ああそうだね……。名残惜しいけれど、今日はお終いにしようか。三人とも、お風呂に入ってきなさい」

 「はーい!」


 ビアンカの一言で剣術の稽古が終わり、風呂に入るようビクトルに促されたカーリナとアルフレッドは、いつも通り仲良く返事をして家の中へと入って行った。

 それに付いていこうとしたところ。


 「ベル」


 ビクトルに呼び止められた。

 なんだろうと思って振り返ると、ビクトルが真剣な、だけどどこか微笑むような表情で俺を見据えていた。


 「カーリナのこと、頼むよ。お兄ちゃんとしてちゃんとあの子を守ってあげてくれ」


 どうやら、俺にカーリナを託したかったようだ。

 いつものように”カーリ”と言わなかった辺り、かなり真剣に言っていることが伝わってくる。

 チラッとビアンカの方を見ると、彼女はいつもの優しい微笑みを浮かべていた。


 「……言われなくても、妹や弟を守るのがお兄ちゃんの役目だから。任せといて!」


 どう言おうか迷ったが、自信満々に答えておいた。

 俺自身家族云々の悩みを抱えつつも、やっぱり妹達のことが可愛いから守りたいという気持ちが沸いて出てくる。

 こいつらだけは守りたいって気持ちが、沸いてくる。


 「そうか……うん、流石はお兄ちゃんだね! ベルなら安心して任せられるよ」

 「うん」


 それじゃあ。と二人を残して風呂場に向かう。


 どういう気持ちでビクトルはああ言ったのかは分からないが、少なくとも父親として惜しみない愛情をくれているのは間違いないだろう。

 普段の行動から、言葉から、仕草からそれが感じられる。


 じゃあ俺はビクトルのことをどう思っているのだろうか?

 この人生での父親であることには間違いないのだが、前世の記憶があるせいで素直にその事実を受け入れられない。

 ビアンカのこともそうだが、受け入れてしまったら前世の両親に申し訳ないと思う反面、今さらそんなことをうだうだと考えていても仕方ないことだとも思っている。

 こんなに悩むのは、可笑しなことだろうか?


 ただ、単純にビクトルのことが好きか? と聞かれたら、好きだ。と答えられるだろう。

 父親としても最高の父親だと思う。

 この悩みも、いつかは解決できればいいな。


 「お兄ちゃん! 早くお風呂に入ろ!」

 「兄ちゃん、早く早く!」

 「はいはい、そう慌てんなって」


 ま、取りあえずお風呂に入って稽古の疲れを癒そう。

 ただ、まだ7歳のアルフレッドは良いとして、12歳になる妹と一緒お風呂に入るのもどうかと思うのだが……。

 カーリナとは昔から一緒にお風呂に入っているが、この年にもなって裸の付き合いとなると流石に抵抗感が出てくる。

 特に段々女性らしくなってくるカーリナの体を間近で見ると、俺の男の部分がジャイアントでビッグな感じになりそうでヤバい。


 カーリナも最近では俺の視線が気になってきたのか、腕で大事な所を隠して恥じらうようになってきたみたいだ。

 恥ずかしいのなら別々でお風呂に入ろうか? と一度聞いたことがあるのだが、どうやらそういう訳でもないらしくそのままずっと三人でお風呂に入っている。

 何やら複雑なお年頃なのかね?


 ……まいっか! これもカーリナやアルフレッドを守るために必要な付き合いなんだ。

 きっとそうだ。そうに違いない。文句のある奴は表に出ろ。

 さてさて、今日も妹達の背中を流そうかね。デュフフ!

 


 _______________________________________________




 「二人とも、準備は万端かの?」

 「はい、いつでも出発できます」

 「準備は出来てるよ」


 朝日の昇り切らない時間、家の前でオークス先生とカーリナで最終点検をしていた。

 ビクトルから貰ったペン、ビアンカから貰った本、オークス先生から借り受けている指輪。

 その他にも必要な物品は全て背嚢の中に納まっている。

 ビクトルに買ってもらった革の防具も既に装着済みだ。


 今日はいよいよ出発の日だ、ここで忘れ物はあってはならない。

 確認は念入りにだ。


 「兄ちゃん、姉ちゃん……」


 朝早くに出発するため、アルフレッドはビクトルの袖を握りしめながら眠気眼を擦っている。

 というかほとんど寝てるぞこいつ。


 「先生、二人のこと、よろしくお願いします」

 「うむ。任せておけ、ビクトルよ」

 「二人とも、先生の言うことはちゃんと聞くのよ?」

 「うん」


 ビクトルとオークス先生が挨拶を交わし、ビアンカからは先生の言うことを聞くようにと注意された。

 そんなに心配かねえ?


 「ベル、カーリ、何があっても、自分の命だけは守りなさい。いざとなったら、先生達に頼りなさい」

 「うん」

 「うん!」

 「うん……じゃあ、行ってらっしゃい」

 「行ってらっしゃい、気を付けてね」

 「行ってきます。母さん、父さん」

 「行ってきます!」


 ビクトル達と別れの挨拶を交わし、最後にとアルフレッドの方に向き直る。

 というかお前もうちょっとシャキッと目を覚ませよ。


 「アル、行ってくるよ。……アル? おいアルフレッド起きろ!」

 「んあ!?」


 こいつ、立ったまま寝てやがった!


 「アル、私たち頑張ってくるから、アルも頑張ってね」

 「……うん」


 カーリナが優しく言うと、アルフレッドは目を半開きにさせたままコクンと頷いた。

 多分、分かってくれているはずだ。

 今日までに散々話し合ったから、俺達がいない間もアルフレッドはビクトルの許で努力してくれるだろう。


 「……では、行くとしようかの」

 「頑張ってね!」

 「強くなるんだぞ!」


 オークス先生に連れられ、ビクトル達に背を向けて俺達は歩き出した。

 後ろから声を掛けてくれる二人に、俺達は振り向きつつ手を振ってこたえる。


 「兄ちゃん! 姉ちゃん! 行ってらっしゃい!」

 「行ってきまーす!」


 最後には、アルフレッドが声を上げて見送ってくれた。

 まだまだ眠たそうな顔だが、元気よく手を振ってくれる姿を見ると、こっちまで元気が出てくるな。

 

 「これから約2年、しっかりついてくるのじゃぞ」

 「はい!」

 「うん!」


 先頭を行く先生を追いながら、気持ちを新たに俺達は歩く。

 最初の目的地は、カラノスから南に位置するフィロータスの街だ

 これからどんな旅になるのか分からないし不安もあるが、体験した事のない出来事を楽しむ旅にしよう。

 なんて、カッコいいことを言っているが、朝日が目に染みるようではこの先が思いやられるな。


これにて第1章は終わりとなりました。

次は第2章・・・ですが、その前に以前から申し上げていた+αの方を、19時に投稿いたします。

引き続きよろしくお願いします。

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