〆 ここまでの箱入り 〆
【~ここまでの「箱入り」】
平々凡々と高校生活を送る池上スバルは自らを箱入り娘と称する少女、柳桜子と出遭う。
この出逢いにより、スバルは”あてられ”と呼ばれる摩訶不思議な力の存在を知ることになるであるが、”あてられ”はその力を宿す者に制約を与えた。
”あてられ”である桜子は空間を操る力の”枷”として、邸宅内での生活を余儀なくされており、建物の外に出られない体質こそが、桜子を箱入り少女とたらしめる理由であった。
しかし桜子の”枷”は、スバルを介すことで変化を見せた。
日々の生活の中、少女と少年の繋がりは登城ユイや御子神京華を始め、次第に周囲へと広がり、スバルの意志とは無関係にスバルのハイスクールライフを翻弄していく。
そして、スバルの日常に於いて唐突だった。
ある日スバルは、ジンなる”あてられ”使いに誘拐されてしまう。
この誘拐事件は桜子を巻き込みつつ、スバルの運命を”あてられ”に関わる人々と街の秘密に向かって押し進めるのであった――――
彼の地、彼の国の鬼王。名は壬夜兎。
血よりも紅き眼を持ち、その姿たるやまさに異形の者。
スバルは”あてられ”を語るるに避けては通れない名を知り、”あてられ”の本質を知る。
スバルの街”みやと”には、滅すること叶わず鬼の力と名を別けることで封じた壬夜兎を見守り続ける三家の存在があった。
御子神、柳、登城。古くより名家として街に携わり壬夜兎の眷属たる三家の意義は、壬夜兎の復活を阻止することと今も尚、街に影響を与える壬夜兎の力の片鱗、すなわち”あてられ”を管理することであった。
”あてられ”は街の何処かに封じられし鬼の力。
それは壬夜兎の人への呪いなのか。宿す者をいずれ兎鬼と呼ばれる人外の者へと変える。
スバルが街の影を知る最中、スバルの誘拐事件は三家の一つ登城家当主宗司の介入より混乱を極めた。
誘拐犯ジンが生命を散らし、味方であるはずの登城家が敵対する。その時スバルや桜子の元へ懇意にしていた御子神獅童が姿を現す。
獅童は”あてられ”獅子王を持つ絶対的強者であり、スバルは現状に解決の兆しを見るのであるが……。
三家が一堂に会する中、局面は互いの思惑がぶつかり合う登城、御子神両家の対立へと姿を変える。
戦いは、”あてられ”同士による人の域を超えたものとなり、”あてられ”を本来の力に近づける”怨鬼”を使う宗司の前に獅童は倒れてしまう。
しかし、獅子王を手にしたスバルが登城宗司を討つことで、戦いはスバル達の勝利で終わりを迎えるのであった。
だが、休む間もなく更なる危機がスバル達を襲う。
戦いの舞台となった施設が爆発炎上し、火の手がスバル達を追い立てたのだ。
命からがら逃げおおせるスバル達であるが、そこに問題があった。桜子である。
桜子は”あてられ”の”枷”により施設からの脱出が出来ない。
そして、事態は悪化する。
退避する場所でスバル達が桜子の問題と向き合う中、大量の煙が迫りスバル達を飲み込んだ。
これを機に桜子は自身の”あてられ”の”枷”によって建物内部へ転移されてしまう。
スバルは桜子を助け出そうと獅童の力を仰ぐが、獅童並びに御子神家はそれを拒む答えを示す。
理由は壬夜兎の眷属たる三家の使命にあった。
人の身に宿りし”あてられ”は、宿主の死によって、”百捌石”へ還る。
三家が代々受け継ぐ”あてられ”は壬夜兎の核とも呼べる特別なものであり、三家はそれらを命をもって、”百捌石”へ還らぬようつとめてきた。
しかし今、そのつとめに綻びが生じている。仮に桜子が命を落とせばその特別な”あてられ”が還ってしまうからだ。
ならば尚更とスバルは桜子を助ける道理を主張するが、獅童の考えは違った。
登城宗司の件で講じていた”身社”を鑑み、桜子を見捨てると言うのだ。
”身社”とは”あてられ”が”百捌石”へ還るのを防ぐ儀式であり器である。
”身社”とされる者が居ることで”あてられ”はその者へ還る。ただし、人の器では”あてられ”は一つしか宿せない。
獅童は桜子の救出に際し、獅子王とそれに関わる者達の命を天秤にかけた。
桜子を救うには人の力では不可能であると思える状況。だからこそスバルの求めたものも獅子王にある。
だが、獅子王もまた還してはならぬ”あてられ”。
御子神獅童としては、桜子と獅子王双方の”あてられ”が還ることはなんとしてでも避けたかった。より確実な事態を望んだ。
御子神家の決断に反発するスバルは叫び獅童へ乞うが、その決定が覆ることはなく、自分だけでも桜子を助けに行こうとするものの、獅童の獅子王によって拘束され抗うことができないでいた。
助けに行けない、助けられない。
刻一刻と迫る桜子の運命に、スバルは自分の力の無さを悔やみその心は絶望していく。
その時であった。何者かの手によってスバルは体の自由を取り戻す。
スバルは獅童の手からこぼれた獅子王を奪い、その返す刃で獅童達を切り伏せた。
恐らくこの場に於いてスバルは独りである。
獅童の決断は御子神家のそれであり、自分の思いに正直であれば、彼らが障害になることをスバルは理解していた。
覚悟がそうさせるのか。獅子王をかざすスバルが堂に入った構えを見せる。
その切っ先は、今や敵とみなした御子神家の者へ向けられるのであった。
【そして、これからの「箱入り」へ】




