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出会ったあいつは『箱入り』なヤツでした。  作者: かえる
【 箱入り娘をかく語りき。~ほ~ 】
85/114

85 脱出①




 横たわる獅童さんに、ぷすり獅子王の切っ先を刺してみた。

 決して遊んでいる訳ではない。至極大真面目だ。


「駄目か……」


 ”アテラレ”としての手応えがなかった。どうやら、意識がない人間は操れないようだ。

 登城の爺さんを眠らせた後、獅童さんに駆け寄った俺は、そこに呼吸があるのを見て取り、ほっと胸を撫で下ろした。

 そこまでは良かった。ただ……その後どうして良いのかわからず、固まるしかなかった。


 今して思えば、ちゃんと聞いとけばと後悔するしかないが、以前学校で、応急手当の簡単な実習が行われたことがあった。

 その時のことで覚えているのが一つあって、倒れている人に意識がない場合、むやみやたらに動かすな、である。

 脳にダメージがある可能性かなんだかで、危ないからとかの理由だったような……。

 そんな訳だから、


「獅童さん、獅童さん」


 呼び掛けることしかできない。


「も、もしかして、これが昏睡状態とかってやつ……なのか」


 ただでさえ気絶した人を見るもの珍しいのに、俺なんかに判断できるとも思えない。けれど、考えは悪い方にばかり行ってしまう。

 服は汚れ腕は赤く染まっているが、普段の獅童さんと変わり……なくはないな。

 銀髪の頭が、知らない間に黒く染まっていた。

 なくべく気にしないようにしてはいたが、いきなり髪の色が変わるなんてやっぱおかしいよな。目を覚ましてくれないのは、これが原因なのか?


「若っ」


――ふおっ。


 突然のでかい声に、座った姿勢で飛び跳ねるという妙技を披露してしまう。

 イカつくゴツい黒服が二つ、猪のように突進してくる。

 気圧されながらも、よじれ転がり身構えた。

 そんな俺には目もくれず、黒服さんの一人が獅童さんを抱き抱えガクガクと揺さぶる。同じ顔のもう一人は、獅童さんの鼓膜を破る気なのか。距離感無視のボリュームで叫ぶ。


「ちょ、ちょっとそれやり過ぎ。獅童さん怪我してるんっスよ」


「若っ若っ目を開けて下さい」


「しっかりして下さい若っ」


 聞いちゃいねえ……。

 御子神家男衆のツインズ。俺がそう呼ぶ黒服らの声と動きが止まる。

 男の肩に、獅童さんの手が掛けられたからだ。


「もう獅童の名を継いだんだ。いい加減、その呼び名で呼ぶのはやめて欲しい」


「若ああ」


「すみません若ああ」


 でかい声足すでかい声の答えは、うるさいである。

 騒がしい視界に、ふわり白いワンピースが入ってきた。


「スバルの頭が、京弥になっているのだ」


「おま、なんで、待ってろって言ったのに」


「どーんっでぐらぐらだったので、スバルが心配になって来てみた。いけなかったか」


「いや……いけなくはねーよ、ただ」


 迎えに行くから待ってろよって言った手前、なんかカッコつかねえじゃねーか。


「ただ、なんなのだ」


「心配してくれて、ありがとうよ」


 俺の感謝に、うむうむと頷く桜子。

 さっきの雷が落ちたかのような爆発音と揺れで、お前のことが気がかりだったし、早くに安心できたこの気持ちはありがたいものだった。すこぶる癒やされたよ。

 桜子が側にいてくれて……。


「これでスバルと私は、また一緒なのだ」


 良かった。





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