表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出会ったあいつは『箱入り』なヤツでした。  作者: かえる
【 箱入り娘をかく語りき。~に~ 】
58/114

58 ジン①




「スバルも食べるか」


 俺の首は、声に反応するばかりだ。

 側で桜子が、街でよく見かけるファストフード店のロゴの入った紙袋をごそごそ。

 わしゃっと包み紙を鳴らして丸い物体をほれ、と手渡してくる。

 案の定過ぎるくらいの感触だった。ハンバーガーで違いない。


「サンキュ……」


 桜子には悪いが、言葉だけのありがとうを返す。

 ほんのり香るハンバーガーの匂いの他に、俺の鼻は部屋の雰囲気を嗅ぎ分ける。

 いつか柳邸を探索した時には、こんな場所はなかった。俺が桜子ん家に居る訳ではないのか……。

 俺と桜子が座る床は、薄い緑色でつるつるしている。遠くの壁には、天井からぶら下がる白いスクリーン。その近くにプロジェクターらしき機材が見えた。

 学校にある視聴覚室を彷彿とさせる。


「……学校いや、それにしては」


 長机やら椅子がない。後、室内は明るいが窓は見当たらない。地下ってことなのか?

 目につくのは、グラサンボサボサ髪のおっさんが座る長いソファと、テーブル代わりにしている様子のでっかい木箱だった。側面に『火気厳禁』と注意書きが貼られている。


 たぶん、どこからか持ち込んだのだろう。元々この部屋に備え付けられた物にしては、ソファは『社長さんが使ってますよ』ってくらい、場違いな高級感を主張しているし、木箱は映画とかで『武器はここに隠してあるぜ』のような、輸出入用の荒くごつい物だ。

 どういうセンスなのか、組み合わせが悪い……と、どこかもわからない部屋の趣向を気にしている場合でもなく――コートのポケットから、何かを取り出す男を睨む。


「煙草かよ……と、それよりおっさん、誰だよ」


 まずはここからだ。

 桜子の態度と桜子の”あてられ”の制約が俺を多いに惑わせるが、危険性があるかどうか知ることを選択した。

 男の答えによっては、警戒態勢を可能な限り強めなくていけないし、俺がなぜこんな状況なのかもわかるはずだ。


「スバル、おっさんは駄目だと思う。おじさんと言わないと失礼なのだ」


 桜子さん、俺の心の空気を読んで下さい。


「ふう……。お前ら両方失礼だと思うけどな。最近のガキはまったくだぜ。いいか、お前らからすりゃ俺もそこらのおっさんと、大して変わらねえかもしれん。だがよ、俺はまだ二十八だ」


「私はもう少ししたら、十七歳だ」


 もうすぐ十七歳になるらしい桜子に自称二十八歳、グラサンのおじさんは、そうかそうかと声に煙を混ぜ応えていた。


「で、結局誰なんだよ」


 俺は一度、このグラサンおじさんと会っている。

 京華ちゃんに鏡眼を”移し”返してから一週間が経ち、体も全回復した日曜の昼間だった。家のインターフォンがずっと呼んでいたので、誰も家にいないのかよと、俺は渋々対応した。

 そしたら、玄関の扉を開けた先にこのグラおじさんが居た。そこまでの記憶はある。ただ、その後が……。気付いたら、今って訳だ。


「おいおい少年、そんなに睨むなよ。飯の後の一服は至福の一時ひとときなんだぜ」


「火気厳禁って書いてあるんだけど」


 焦りや怒りはマズい結果になりそうだ。聞いてもいない煙草のことで話をはぐらかそうとする男に、あえてノってやる。

 グラさんは、木箱の側面をのっそり面倒くさそうにのぞき込んで、ソファの背もたれへ身を投げ出した。


「ああ、これな。まったく世間はどこまでも俺達喫煙者に手厳しいぜ。嫌がらせだな」


 それだけ言うと、男は咥える煙草を一気に短くしては、ぷはーと煙を撒き。それを繰り返す。

 俺の火気厳禁の意味はそこじゃないから、とかツッコみはしない。義理もないし、気分じゃない。


「あんたリンネの仲間だろ」


「仲間か。そうだな、ボニーとクライドってヤツだ。つっても、少年は知らなさそうだけどな」


「それくらい知ってる。映画にもなってるし、有名な銀行強盗のことだろ」


「おお、そうかそうか珍しいな。まあ、リンネは俺の女じゃねえけどな。それに今回は誘拐なんだよな……何かと遠ざかってんなあ」


 誘拐。さらりと残念そうに男が言った。

 うう、なんか最悪だけど飲み込めてきた。俺や桜子が、その誘拐の誘拐されたがわなんじゃ……。だとしたら、マジかよ、なんてこったい。

 でも、ショックな情報だったが、一つ確信が持てた。自分を銀行強盗犯に例え、リンネの名前が通ったのだから、この男、やっぱりジンって野郎だ。


 なら逃げなければ。この一択しかない。

 幸い俺も桜子も身動きはとれる。けれども、出口が遠いな……あの向こうがどうなってるいるのかもわからない。桜子を……さ、桜子はフライドポテトを頬張ってるし。

 行動を起こすには、リスクが高いだろうか。


 しかし、リンネの姿が見えない今がチャンスなのは間違いない。

 どうする。ジンって野郎、座っているからはっきりわからないが、結構いいガタイの持ち主のように思える。

 おもいっきり蹴飛ばせばなんとかなるよな……ううん、ならないかも。


「少年忠告だ。妙な事を考えんなよ。体が硬くなってるぜ。一応言っとくが、なんで俺がお前らを縄で縛って拘束してねえか、そっちを考えな」


「……ここが逃げられないような場所にあるから……なのか」


「なんだ少年。お前さんは逃げる気だったのかよ。ははっこりゃまいったね」


 くそ、なんだろう。さっきからこのジンに、おちょくられている気がしてならない。


「いいか少年。俺はいつでも、この指をぱちんと鳴らすだけで、お前さんを夢の国へ送る事が出来る。ネズミさんいらっしゃいだ」


 見せつけられるジンの手は、中指と親指がくっついていた。


「”あてられ”つってな、お前さんは違うみてえだが、リンネが眷属共とつるんでるって言ってたし、わかんだろ?」


 ジンは吸っていた煙草を、木箱にぐりぐり押し付ける。

 ”アテラレ”使いってことね。知っていたさ。そして、体験したから理解が早い。

 俺の、玄関でジンと会った記憶がそこで途切れているのは、きっとジンの使う”アテラレ”で、眠らされたからなのだろう。

 ただ、眷属……。聞きなれない言葉だが、桜子達のことか。


「けどまあ、俺の『夢落とし』はあんま使いたくねえからよ。優しくさらわれた人質は、大人しくしとくってえのが、お互いの為だぜ」


 いかにも、遠回しの脅しだよな。こういうの俺嫌いなんだよね。違うな、理由うんぬんじゃなくて、このおっさんがなんか腹立だしい。


「目的はなんだよっ。てかここどこだよっ。なんで俺や桜子をさらった。桜子の”アテラレ”が目当てなのかっ」


「少年、質問は受け付けてねえよ。それにいろいろハズれだ。後よ、ちっとは隣の嬢ちゃんを見習え。男が女の前でぎゃーぎゃー騒ぎ立てるなんてのは。カッコ悪いぜ」


「別に俺は騒ぎ立ててるつもりはねえっ」


 立ち上がる俺の上着の袖を、くいっと桜子が引っ張る。


「スバル、お腹が空くと人は怒りんぼになる。ハンバーガーを食べるのだ」


「……俺は怒っちゃいねえ」


 けど、冷静になることは必要だな……。状況からして、俺達はヤバい立場になっているんだろうし。このジンって野郎、なんたってあのリンネの仲間だもんな。

 どんっとお尻を床に落とし、手にしていたハンバーガーをふがふが。テリヤキだ、こんちきしょうめ。


「嬢ちゃんはなかなかいい女だ。リンネには劣るが悪くない。少年、大切にしてやれよ。ははっ、お前さんのつらからすりゃ、大した玉の輿だしな」


 わかってきた。十分わかってきた。これがジンの手なんだ。俺を挑発したいだけなんだよな。だから落ち着け。俺の顔は関係ない。そもそも男は顔じゃねえっ、そう心意気だ。

 しかもあのリンネの方が、いい女みたいなこと言いやがった。ふざけんなよ、桜子の方が、断然いいに決まってんだろ。

 ごくっと一気に口の中の物を飲み込み、京華ちゃんばりの眼光をイメージ。


「ああっおっさんに言われるまでもねえ、大切にするさ。だからさ、桜子をどうするつもりかって聞いてんだよっ」


「だとよ、嬢ちゃん。良かったじゃねえか」


 ジンは、二本目の煙草を咥え、ライターをかちかちさせながら、顔を横に動かした。

 視線を俺から桜子に向けたようだ。

 それを追いかけるように、俺は桜子を見る。

 なんか指で、自分の髪の毛をくりくりしている桜子。


「私は、スバルは大切だけれど嬉しいけれど、あう、困るのだ」


「ん? 桜子――」


 桜子の仕草と言葉の意味が何を表すのか。はっとなって、かあっとなった。


「いやいやいや違う違う違う。今のはアレだアレだっ、売り言葉に買い言葉ってやつみたいなもんで、プロ、プロ、その違うんだよ。このおっさんにスカしてやろーってだなっ。アレなんだよ、アレなんだよっ」


 てか、俺達まだ付き合ってもねーからっ。


「若人の青春を邪魔してしまうのは、ちと気が引けるが、喧しいのは勘弁してもらいてえしな。少年。さっきも言ったがお前さんは、人の話を聞いていなかったのか。微妙に的外れなんだよ」


「おおおっさん何? 何」


 おっさん今俺、恥ずかしいやらで忙しいんだって。


「まだ二十代だ。おっさんじゃねえってつってんだろ。あのな少年。『俺や桜子』じゃねえんだよ。俺が人質としてさらったのはお前さんだけだ。そこの嬢ちゃんは、勝手に居やがったんだよ。ここに」


「へ?」


「間抜けな声出すんじゃねえよ。驚きたいのは俺の方だ。いいか、ここは人が簡単に出入り出来る場所じゃねえんだ。お陰でずっと目が離せねえ。要するに嬢ちゃんは関係ねえ、いや、関係なかっただな。今となっちゃ少年は用済みだしな。ははっミミズで鯛を釣るってやつだ」


 長々喋りニヤニヤと歯を見せるジンに、海老えびだろっとツッコんでしまった自分を悔しがって、平常心を取り戻した。

 しかしながら、考えさせられた。確かに誘拐されたからには、俺に人質の価値があるってことだよな……なんの? んで、用済みで桜子?

 以前不明瞭な部分は多いが、その中でも。


「桜子……」


 照れ臭さはどこへやら、俺は桜子を凝視した。頭の中を疑問符が埋め尽くす。

 気にはなっていたんだよな。ここがどこなのかは知らない。ただ、桜子ん家ではないみたいだ。だから。


「お前がここに居るのは、おかしくないか」


 だって俺ずっと眠らされていた訳だし、ゲートオブリンク《繋がる部屋》を使った覚えないぞ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ