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出会ったあいつは『箱入り』なヤツでした。  作者: かえる
【 箱入り娘をかく語りき。~い~ 】
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5 こうして学校 ④



「俺、初めて屋上とか来ましたよ」


 感想を漏らすしつつ、屋上に設置されてあるフェンスの方へ、てくてく歩いて行く登城先輩の後ろ姿を追いかける。

 俺の右手首に、あの綺麗な手の温もりはすでになく、とても寂しい。


「ほら、見て下さいスバルさん、良い眺めですぅ」


 まずは、俺の複雑な心境にも目を向けて頂きたいものだが、先輩に愚痴っても男が廃るだけ。言われるまま、屋上から景色を望むことする。


「確かに……。結構見えますね」


 一望とまではいかないにしろ、視界を遮る高層建築物がないのでかなり良好な景観を見ることができる。

 眼下に広がるみやと市は、畑や田園を目にすることができる上、御子神ミコガミ神社などの歴史ある建物が点在しており、田舎の風情が満載の土地柄である。とは言ってもコンビニはあるし、大きなショッピングモールがあったりと、そこそこ都会的な場所もあるぞ。


「早速ですが、桜子ちゃんの裸をのぞいた時のお話を伺ってもよろしいですか。あ、桜子ちゃんはスバルさんがのぞいた、女の子のお名前ですぅ。あれ? これは一度お伝えしましたね」


 ほんと、早速である。俺はまだ見渡す光景を堪能しきれていないのですが。

 それに、先輩はのぞいたのぞいたと連呼するけれど……くっ。どちらにせよ、まずはその辺りを確認しないことには始まらない。


「ええと、話の前にですね……。その、サクラコチャンとやらは先輩の妹さんとかですかね?」


「ごめんなさい、桜子ちゃんの紹介がまだでしたね。……そうですね、彼女は遠い親戚になりますぅ」


 居ない人を紹介されても困るのですが……。どうやら聞き方が悪かったみたいだ。


「違うんですよ。いや違わないんですけれど。俺としては、なんで先輩が……のぞいた奴を探しているのかな、と思ってですね」


 断じてのぞいてなんかいないが、便宜上涙を飲むのである。


「それなのですが、桜子ちゃんには事情があるのですぅ」


 俺が悪いのだろうか、どうも求めている答えと微妙に違うものが返ってくる。


「……ええと、そしたらですね。先輩はなぜ俺に女の子をのぞいた、とか言うんでしょうか」


「それはですね。……はい――これですが、今朝こんな顔の人に裸を見られたと桜子ちゃんから預かった物なのですぅ」


 先輩はまたもやスケッチブックを開き説明してれる。俺はこれを今すぐにでも燃やしたい衝動に駆られるが、そこはぐっと堪え、事実を受け入れることに専念した。


「それをもとに、俺を……のぞいた奴って断定したんですね……」


「はい。どう見ても、スバルさんにそっくりですぅ。この髪が跳ねてるところでこの人だと確信しました」


 彼女は、寝癖でそうなっているであろう髪型を指してにんまり。そこですかっ、と俺に指摘する気力はなく、代りに質問を続ける。


「ええと、先輩はその絵に描かれてある男が同じ学校の生徒だって、どうしてわかったんでしょうか」


「それはですね、桜子ちゃんが教えてくれました。フフ、ヒントは制服ですぅ」


「……納得です。ここの制服は特徴がありますからね……」


 登城先輩、ヒントどころか正解そのものですよ。

 恐らく玄関少女は、制服から俺の所在を割り出したのだろう……スケッチブックの絵といい、大した観察力の持ち主である。


「はい。デザインは桜子ちゃん達と一緒に楽しくさせて頂きました。男性は背広にする予定だったのですが、あえての詰め襟ですぅ」


 さっきのマスターキー然り、この話もそうだが登城先輩、あなたは何者なのでしょう。


「はあ、わかりました」


 俺はため息を吐き、今朝の出来事をこの人に話そうと心に決める。本音はわかりたくない――いや、信じられないのだが、どうやら、玄関少女と桜子ちゃんとやらは同一人物のようだ。それに、男子たるもの潔くありたいものである。


「……信じてもらえないと思いますが」、


 登城先輩は、有名な『桜の樹』の話をご存知だろうか……。ジョージ・ワシントン少年が、大切な桜の枝を切り落としてしまうのだけれども、そのことを正直に話したら許されたって逸話だ。俺はスバル・ワシントンになるべく重い口を開く。

 だから先輩。


――通報するのだけは勘弁して下さい。




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