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出会ったあいつは『箱入り』なヤツでした。  作者: かえる
【 箱入り娘をかく語りき。~は~ 】区切り(バトル)
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45 御子神②


「ご名答。鏡眼が教えてくれたみたいだね。それでもいいリアクションだったよ。なかなかこのドッキリをやれる相手がいなくてね~。あはは。スバルくんありがとう」


「兄様っ、獅子王を使ってのお戯れは控えて下さい。獅子王は、代々御子神家に伝わる由緒正しき宝刀なのですよ」


 京華ちゃんが見るに見かねた様子で、割って入ってきた。


「相変わらず、京姫はお堅いね~。どうしたものかな……。実は獅子王、私の代で改名しようと思っているのだけれど。あはは、候補が二つあってね、『ライオンキング』にするか、『アウストラル』にするか悩んでいるところなんだ。いや~悩む」


「兄様っ」


「冗談だよ冗談。そんな顔しなさんな、折角の美人さんが台無しだよ。でも名前は、昔の京弥の方が良かったよね。なんたって京弥とは二十年らいの付き合いだし。それに比べて獅童は、まだ五年だからね」


「うぐ、私の顔の事はともかく、獅童の名も、獅子王と同じく代々受け継がれてきた大切な名ですっ。誰もが襲名できるものではないのですよ」


「わかっていますとも。だから、獅童をレオンに改名しようと」


「兄様っ」


 妹の要望を意に介さない兄。京華ちゃんと獅童さんとのやり取りは続いていた。

 兄様と呼ぶ京華ちゃんの言葉からするに、彼は彼女のお兄さんになるのだろう。

 兄妹揃って、将来、モデルにでもなりそうな勢いの容姿である。


 獅童さんとは今初めて会ったので、この人がどういう人物なのかはまだわからない。ただ、俺の持っている御子神の名前の印象とは違った。一言。軽い感じの人である。

 更に獅童さんは、俺が大いに気なる言葉を口にしていた。


――アウストラルとレオンである。


 アウストラルは言うまでもなく、あのアウストラル戦記に出てくる武器の名だ。それから、レオン。

 獅童さんは、間違いなくあの映画を知っている。そして、レオンと言う名前にしたい気持ちもわかった。


 レオン・ハーデンス。彼は、劇中にて孤高の英雄として描かれている。結婚し妻子がある身だが、彼は孤高であり、孤独だった。人に過ぎる力は、時として人を人でない者へと変えてしまうのだ。

 そして、彼はその生命と力を、戦場とヴァリクト帝国に捧げた。


 アウストラルを手にするレオンは、帝国に住まう全ての民の思いをすくい上げようとした。故に彼は、ヴァリクトで語り継がれる神話、その物語に登場する救世主の名を冠し、『ツァラトゥストラテ《世界の声を知る者》の英雄』と呼ばれる。


 しかしながら、神は――英雄の運命、歯車をいびつに回す。

 レオン・ハーデンスは、彼が守り、救おうとしたヴァリクト帝国、その宰相らの謀略によって命を落とすことになる。


 レオンは命が尽きる時、アウストラルを一人の少年に託した。


 敵であるエル・バレルの少年ネオに。

 レオン、彼が想い貫き通したした信念は、この時の少年ネオにはとても重く、大きく、理解できるものではなかった。それでも、ネオは後に剣を、アウストラルを振るうことになる。


 俺の中で『アウストラル戦記』を話たい、語りたいぞ、と言う気持ちが加速する。

 だから、きっかけは銀髪でいいと思う。

 あのレオンも、銀髪なのだから。


「あの、獅童さん」


 そう口にし、片方は笑顔、片方はしかめっ面の兄妹の会話に潜りこもうとした。

 俺の体が起き上がる。つかつかと、京華ちゃんの方へ俺の足が歩いて行く。右腕が上がる。


 ”俺の右手”が京華ちゃんの胸に触れていた。


 柔らかい――とか、感想なんてのは後回しだっ。緊急事態だ! このままでは京華ちゃんに切られかねんっ。


「違うっ違う京華ちゃんっ。違うんです。俺じゃない、断じて俺じゃないっ。アレなんです、俺の手だけれど、俺じゃないんですっ」


 必死だ。

 自分の意志とは関係なく動く右手が、やらかしてしまったことを弁解する俺。原因はわかるが、訳がわからん。

 京華ちゃんは鋭い目つきで、胸に触れる”俺の右手”をぱしっと払った。

 やばっ。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ほんとごめんなさい。俺じゃないけれど、いや俺の右手がしでかしてますけど、ごめんなさい」


 納得はいかない。だが、謝るしかない。命の危機なのだから。


「兄様っ!」


「あはは、ごめんごめん。ちょっとしたスキンシップだよ。それよりも、どうだいスバルくん。我が愛しの京姫の感想は」


 答えられる訳がない。

 獅童さんへ向けられ、回避できた京華ちゃんの眼光が、再び俺を刺す。

 黙っていると、今度は大人しくしていた桜子の方へ、”俺の体”が向いた。

 桜子は胸の前で腕を、がっしりクロスさせた。

 その目は、どこか冷ややかである。


「……スバルは、えっちなのだ」


「ちょ、待ってくれ桜子。京華ちゃんのアレは俺じゃなくて獅童さんの”アテラレ”で、俺の右手がだな。違うんだよっ俺じゃねーんだよ」


「桜、スバルくんの言う通り、京華を触った手は私が操ったものだよ。彼には獅子王の力を身を以て体験してもらいたくてね。触る相手は桜姫でも良かったけれど……桜、全然成長してないみたいだったしね」


 余計な台詞もあったが、俺の身の潔白を獅童さんが証言してくれた。けれども、一部嘘

がある。

 操った目的は、獅童さんが楽しいからに決まっている……。

 鏡眼が教えてくれた『獅子王』は、人や物を意のままに操る”あてられ”である。

 刀でありながら、切ることはできない。けれどその刃で、対象を一太刀切ることが操るための発動条件のようだ。

 鏡眼の情報は、この条件やらは教えてくれなかったので、今になってわかったことではある。


「獅童さん、ほんと勘弁して下さい」


「あはは、ごめんごめん。スバルくんが喜ぶと思ってやったことなんだ。許しておくれ」


 反省の色なんてものは、皆無に見える獅童さんであるが、一連のお戯れには満足したようで、桜子と京華ちゃんを連れ、部屋を片付けている登城先輩の方へ。

 この人……俺より全然年上で大人の雰囲気を感じるが、中身は子供である。


<私の持論だけれど、男の子は永遠の少年だったりするからね>


「なっ」


<と、スバルくん声を出してはいけないよ。なんの為に獅子王で切ったか、わからなくなるからね>


 マジか……頭の中に獅童さんの声が流れてきた。考えるな感じろ俺。

 ええと、つまりテレパシー的なもので、俺にこっそり話かけているってことだよな。


<その通り。話が早くて助かるよ>


 うおっ……。なるほど、こっちの考えていることは……勝手に伝わるんですね。


<そういうことになるね>


 なんだかな……てか、なんでもありな”アテアレ”だな。

 しかしながら、器用なものだ。

 獅童さんはというと、俺が見つめる先で美少女達と談笑していた。


「たしか、聖徳太子だったけな?」


 同時に複数の人と話せたとかのって……まさかの、アテラレ使い!?


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