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出会ったあいつは『箱入り』なヤツでした。  作者: かえる
【 箱入り娘をかく語りき。~は~ 】区切り(バトル)
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44 御子神①


              ※



 情報を整理するために、人は夢を見るという。

 俺は夢を見ていた……と思う。不思議なもので、見た気はするのだが、その内容は目覚めると忘れていた。

 仰向けで寝ている俺。だから、


「……知らない天井だ」


 ううん。知らなくはないが、知っているとも言えなかったので、とりあえず口にした。

 部屋の作り、感じからすると、桜子ん家にある部屋の一つだろう。


「スバル、起きたか」


「ああ……あれ? おま、お前大丈夫なのかっ」


 ゆるゆると回転し始めていた意識と思考が、フル稼働になった。

 上体を起こし傍らに座る桜子を、まじまじと見つめる。桜子は、きょとんとした態度である。

 そうしながら、状況を徐々に把握していく。どうやら俺は床へ置かれたマットレスの上に、寝かせられていたようだ。


「私は大丈夫だ。スバルの方が大丈夫ではない。包帯ぐるぐるだ」


 桜子に言われ、自分を見ては触る。

 頭には包帯が、体のあちこちにも……。体からは薬品の香りがした。


「ハハ、ボロボロだな俺……じゃなくて、俺よりお前だよ。桜子の方が刀に――」


 がばっと桜子を抱き寄せた。

 そこにあった銀髪の男の姿が、あの時、目に焼き付いた光景を蘇らせる。


「目が覚めたようだね。と、おやおや、私はお邪魔だったのかな」


「苦しい、苦しいのだスバル」


「悪い……」


 腕の中でもがく桜子に謝り、そっと離した。

 反射的に庇おうと、桜子を引き寄せてしまったが、周りを見回してその必要性がないことを理解した。

 部屋には、京華ちゃんや登城先輩もいたからだ。実際、桜子は元気そうだし……。


 そして、この人が何者かって話だ。

 ズボンのベルトとは別に、腰に巻いたベルトへ日本刀を差した、すらりと伸びた背格好の眼鏡男子。

 お洒落な眼鏡――と言っても、眼鏡に疎い俺には、お洒落なのかわからない。けれど、それを掛けている台座が良いのだろう。

 整った鼻、唇、奥にある目立ちは、はっきりとしているばかりでなく優しい感じだ。

 そんなパーツが集まった顔は、世間的にカッコいいと言われるものだと思う。

 更に、美麗な面立ちへ花を添えているのが、銀髪だ。

 髪型は俺と似たようなものだが、こうも違うものなんだな”色だけ”で。俺も黒髪じゃなかったら、きっと……うん、間違いない……はず。


「ええと、その……」


「初めまして、私は御子神獅童しどうだ」


 銀髪眼鏡男子さんは名乗る。

 その声音は、柔らかい毛布をふわっとかけられた、そんな声だった。


「あっはい、どうもです。俺は池上スバルです」


 俺は御子神獅童さんに名前を告げ――と、そうじゃなくってっ。

 桜子の肩をガシっと掴み、揺さぶり、


「あいつはあのリンネはどうなった!? それにセバ、瀬良さんはっ!? ここにいねーけどっ――――」


 食ってかかる。


「あうう、落ち着くくのだ。スバルるうう」


「――それにお前、あの時のアレはなんなんだよっ」


「スバルくんでよかったよね。あはは。桜姫が凄い事になってるよ。もうその辺で勘弁してやらないと、桜の首が取れかねないよ」


「……その、すみません」


 座り込む桜子にではなく、なぜか獅童さんの方に謝ってしまった。


「あらら。と、先に言っておくと何も心配要らないよ。瀬良っちは、大事を取って病院に行っているだけだし、後、あはは……どうやら私は、あの子猫ちゃんに嫌われているらしくってね。彼女は逃げてしまったよ」


 苦笑いをして、肩を竦めた獅童さん。

 俺にそんな気はないが……アレだ、美形な人ってのは、なんにしても絵になるよな。


「それと」


 獅童さんの口角が上がる。日本刀が腰の鞘から、しゃらーっと抜かれた。


「ちょっ獅童さん、な、何!?」


「兄様っ、何をなされているのです」


「あはは、京華、百聞は一見にしかずってやつだよ」


 きらりと光る刃を見せつけられ驚く俺を他所よそに、疑問を呈する京華ちゃんへ、答えになっていないようなことを返す獅童さんであるが……はて、百聞は一見にしかずって前も誰か言ってい――呼吸が、一時停止する。


 獅童さんの顔を見て、自分の胸の辺りを見る。また獅童さんの顔を見上げる、軽い笑みがあった。そして自分の……。

 何回目かの繰り返しを経て、やっと声が。


「――うおおっ」


「スバルくん、いいリアクションだね」


 獅童さんは呑気である。


「いやいや、こっちは褒めらている場合じゃないんスよっ」


 刺さってる。すこぶる刺さってる。俺の体を、ぶっすり日本刀が貫いてます。

 不意打ち過ぎた。あまりにいきなりだったので……もう、笑うしかない。


「どうだいスバルくん。これで、謎は解けたかな」


「ハハ、ええと……納得できました」


 刃は俺の胸から引き抜かれた。痛みも何も感じなかった。

 不思議なこと極まりないけれど、要はその刀、人を切れないってことだろう。だから、桜子はピンピンしていた訳だ。

 しかも、それ……俺は理解した。


「その刀、獅子王が”あてられ”なんですね」


 俺は刀身が光を帯びていたので、獅童さんが”アテラレ”だと思っていた。

 けれど、目の当たりにしたからなのか、鏡眼が教えてくれる。


 ”アテラレ”は日本刀の方であり、その名は――『獅子王』。



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