表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出会ったあいつは『箱入り』なヤツでした。  作者: かえる
【 箱入り娘をかく語りき。~は~ 】区切り(バトル)
41/114

41 リンネでパンク③



 それは、突然だった。

 京華ちゃんが俺達のいる紅茶を飲む部屋に来てから程なくして、ドンっと大きな音が邸に響いた。

 俺は、部屋を飛び出し――京華ちゃんを追う。


「さっきの音なんスか」


 前を行く背中は、応えてはくれない。長い髪を揺らして、ぐんぐん離れる。くっ早え。

 後ろを振り返ると、走る桜子が首を振る。……だろうな。誰もわからないから、急いでいるんだし。

 俺はステップを効かせ角を曲がり、駆け抜けた。

 向かった先は、エントランスホール――


「なっ――」


 目に飛び込んできた光景もそうだが、張り詰めた空気に言葉を飲み込まされる。

 たたずむ京華ちゃんは……既に臨戦態勢のようで、刀を抜き身にして構えていた。

 彼女が睨むその先には、あいつが、


――『あてられ狩り』こと、リンネがいた。


 リンネはにたにたと笑い、ふてぶてしい態度をみせている。


「池上殿。奴には近づくな」


 京華ちゃんは十歩程離れた距離にいる相手から、視線を逸らずに忠告してくる。言われるまでもなく、俺はあいつに近づく気などはない。ないが――

 リンネの後ろの方に見えるエントランスの扉は、壊され吹っ飛んでおり、その扉の下に横たわる人影があるのだ。


「瀬良爺っ」


「待て、桜子」


 俺に追いついた桜子が、扉の下敷きになっているセバスチャンさんの方へ、駆け寄ろうとした。とっさに桜子の腕を掴む。

 俺の手は、とても強い力で引っ張られる。けれども、離すわけにはいかない。

 リンネがやったのかわからない。けれど、この状況……あいつは相当にヤバい。


「桜子、気持ちはよくわかる。けど我慢してくれ。あいつ、あいつは危険だ」


「でも、スバルっ瀬良爺がっ」


「……わかってる。俺がセバスチャンさん、瀬良さんを見てくる。だから桜子は、ここに……離れた所に隠れてろ。そして、救急車を呼んでくれ。できるな」


 俺は、すうーと深く呼吸をした後、落ち着けと自分へ言い聞かせ、桜子に話す。

 走ったからだろう。心臓の鼓動はいつもより高く速く打ちつけ、鳴り止まなかった。


「っんだよ。さっきの葬式帰り野郎もいけスカねーしよ。執事は寝ちまってるし、せっかく、リンネ様が来てやったっつーのに。クククッもっとスマイルで、VIPにもてなせよな」


「黙れっ! 貴様など、此処へ招いた覚えはないっ」


 リンネの軽口に、京華ちゃんは過剰反応しているようだった。

 ピリピリしたものが広がる。空気が重く、息苦しい。

 京華ちゃんを止めるべきだろうか……いや違う、止めるどころの以前に、俺は戸惑っている。喧嘩とは別物だ。どうするべきか、判断がつかない。

 だから、今はやれることをやる。

 俺は彼女達を遠巻きに、セバスチャンさんの元へ駆け出す。


「はあ? おいおいてめえ、誰に黙れとか言ってんだ。あんまオレを怒らせんなよ。じゃねーとまた焼いちまうぞ、ゴラッ」


「リンネっ――!!」


「様をつけろよ! このサムライ女っ」


 怒号ともとに、エントランスホールには衝撃音が――見ると、日本刀を振り下ろしている京華ちゃん。その切っ先はリンネの眼前で停止していた。

 刃は切り返し、胴を薙ぐ。がしかし、衝撃音。またしても、空中で止まる。

 京華ちゃんはリンネへ連撃を繰り出す。すると一太刀、日本刀が振り抜けた。


「チッ」


 リンネは後ろ、後ろへスライドして行く!?

 まるでここが氷の上なのか、という具合に、スケートでもするかのごとく絨毯の上を滑る。

 その滑りながら高速移動するリンネを、超人的な素早さと動きで、追いすがる京華ちゃん。

 俺は思わず足を止めてしまう。ぞわぞわとした感覚に襲われ……震えた。

 本気だ。彼女は本気でリンネを切りつけている。

 目に映る光景は、本当に異常だ。それでも、


――これは、現実なのだ。


「ウゼえぇんだよっ」


 リンネが吠えた。日本刀の刃は空中にて止まっている。

 そして!? 紅蓮の炎が立ち昇り、熱風が吹き付けてきた。

 両腕を顔の前で交差させ、身構える。


「京華ちゃ――」


 火柱だ。吹き抜けのエントランスホールの天井へ届かんとするばかりの炎が、リンネを包み込んでいた。

 その火柱に、京華ちゃんが巻き込まれた。


「京華ちゃああああんっ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ