33 お縄を頂戴します①
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五月の連休。
初日はミヤトレットにて、向島と可愛い女の子を鑑賞した。
二日目は柳邸にて、美少女達に囲まれ談笑した。
そして、本日三日目は、学校にてある人物と交渉する予定である。
昨日、柳邸で行われた円卓会議の結果、怪盗Xと対話することに決まった。てか、京華ちゃんが決めた。
そのための作戦が計画され、内容は怪盗Xを学校に誘き出す、というものになった。言うまでもなく、京華ちゃんが立案者である。
唯一怪盗Xの顔を知る俺は、必然的にその作戦に参加する流れになったので、『マジっスか』と異を唱えてみたら、『我々に関わると云う事は、こういう事だ』と、箸にも棒にも掛けさせてもらえなかった。
「交渉の意味、知ってんのかな……。話し合うってことなんだが」
学校の教室には、二箇所の出入り口がある。教壇がある前の方と、鞄などを置く棚がある後ろの方だ。その後ろの方にある戸を開け放つ、制服姿の京華ちゃんへ向けて、ぽそり呟く。
彼女は紺色をした細長い帆布、剣道部が持っているような竹刀袋を手にしていた。
「池上殿。どうか、なされたか」
「あ、いや、ここへ来る時から気にはなってたんですが、それって。どう考えても、怪盗Xを叩きのめす以外の用途が……思いつかないんだけど。ハハ」
竹刀袋を指し、薄ら笑いを浮かべて聞いてみた。明らかに、武器だろうと。
「ああ、これか。叩きのめすとはまた、一方的な言い方だが、相手は乙女の着衣を盗むような、下衆で下劣下品、卑しく不埒な輩だ。用心に越したことはあるまいて」
「そ、そうっスね……」
怪盗Xよ、なんかすまん。
『あのあの男』に対して、同情が生まれた瞬間である。
「でも、京華さん。怪盗野郎の名前も住所もわかったんだし、直接家に行った方が良くないだろうか。そもそも、学校に来るかどうかもわかんないのに……」
「池上殿、戦いとは己に優位な場所で行うのが定石だ。相手の住処に出向くなど、愚者のする事だ」
登城先輩の『京華ちゃんは、思いやりのある人ですから』を、最大限考慮するなら、怪盗Xの家族を巻き込まない配慮とも受け取れる。
俺は彼女と知り合って間もないので、素直に、怪盗Xをコテンパンにする気満々なのだな、と受け取った。
「その、学校が京華さんにとって、有利なんですか?」
「この場所を選んだのには、幾つか理由がある。一つは相手の立場なら、馴染みのない所へは、警戒して来ぬだろうと考える」
「ああ、なるほど」
「一つは、生徒名簿の件があったのでな。合理的に考えた」
「これまた、なるほど」
怪盗Xは、うちの学校指定の制服を着ていたので、ここの生徒である可能性が高い。
それならば、と京華ちゃんの提案で、顔写真付きの生徒名簿を閲覧する運びとなっていたのである。
現在俺は自分のクラス、二年C組の教室に居るが、小一時間程前は、違う場所、それも普段では決して立ち入らない所に居た――いや、忍び込んだ。
登城先輩の持つ、なんでも開けちゃう鍵『マスターキー』を使い、先輩と一緒に校内にある、理事長室へ潜入した。
個人情報保護法とやらは、どこ吹く風。厳重に保管されていた書類の中から、目当ての生徒名簿を見つけ、目を通すのであった。
京華ちゃんの言う合理性は、ついでに怪盗Xの身元を調べることができる場所。それを指してのことだと思う。
「最後の一つは、池上殿の話を訊く限り、賊は盗品にえらく執着があるように思える。故に誘い出す為にも、此処が良いと判断した」
「ん? それって……吉野のユニフォームを、使ったってことですか」
「うむ。大まかに云えば、大切な盗品を返して欲しくば、此処へ来い。そのような内容を相手に知らしめる為、利用させてもらった」
後ろに結った長い髪を揺らし、教室内をかつかつ歩く京華ちゃんの眼差しは、ある一つの席――吉野ハルカの机に注がれる。
「ユイ姉には、みやと新聞と、みやとテレビへの告知広告をお願いした。朝から宣伝車での呼び掛けも行われているはずだ」
「マジっすか、宣伝カーって……」
スピーカー付きの車が街を練り歩く光景は、たまに目にする。けれど、個人への呼び掛けのみに使われるなんてのは、前代未聞ではなかろうか。
「私の方では、シャランに書き込みをしている。念の為に各種SNSを使い、情報を拡散させた。これだけ講じれば、相手にも伝わるだろう」
「ちょ、え、京華さんがSNS!? つーか、シャランって何っ」
「その反応は、心外であるな。大方、私のような人間はパソコンに縁遠い、とでも思われたのであろうな」
「あ、はい……」
”和”のイメージが強い京華ちゃん。そりゃ思いましたさ。
「別段、私がパソコンに長けている訳では無いのだが、ユイ姉に比べたら……失敬、失言だ。忘れて頂きたい。……私からすれば、池上殿がシャラン、『シャークランド掲示板』を知らない事が驚きだ」
「そうなんスか。初めて聞いたんだけど、シャーク……ああ、略してシャランね」
「如何にも。サイトの運営者が、みやと市の話題しか扱わない事もあり、この街の者しか利用していないようだが、その分、ローカルな情報で溢れかえっている。それが人気を博しているのだろう。貴方のような若者の利用者が多いと訊く」
自分は違うみたいな言い草だが、あなたも若者ですから。
しかし、面白い話を聞いた。今度、向島に教えてやるか。
「準備万端ってことで、了解です」
「うむ。手抜かりはない」




