表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出会ったあいつは『箱入り』なヤツでした。  作者: かえる
【 箱入り娘をかく語りき。~は~ 】区切り(バトル)
33/114

33 お縄を頂戴します①


             ※



 五月の連休。

 初日はミヤトレットにて、向島と可愛い女の子を鑑賞した。

 二日目は柳邸にて、美少女達に囲まれ談笑した。

 そして、本日三日目は、学校にてある人物と交渉する予定である。


 昨日、柳邸で行われた円卓会議の結果、怪盗Xと対話することに決まった。てか、京華ちゃんが決めた。

 そのための作戦が計画され、内容は怪盗Xを学校におびきき出す、というものになった。言うまでもなく、京華ちゃんが立案者である。

 唯一怪盗Xの顔を知る俺は、必然的にその作戦に参加する流れになったので、『マジっスか』と異を唱えてみたら、『我々に関わると云う事は、こういう事だ』と、箸にも棒にも掛けさせてもらえなかった。


「交渉の意味、知ってんのかな……。話し合うってことなんだが」


 学校の教室には、二箇所の出入り口がある。教壇がある前の方と、鞄などを置く棚がある後ろの方だ。その後ろの方にある戸を開け放つ、制服姿の京華ちゃんへ向けて、ぽそり呟く。

 彼女は紺色をした細長い帆布はんぷ、剣道部が持っているような竹刀袋を手にしていた。


「池上殿。どうか、なされたか」


「あ、いや、ここへ来る時から気にはなってたんですが、それって。どう考えても、怪盗Xを叩きのめす以外の用途が……思いつかないんだけど。ハハ」


 竹刀袋を指し、薄ら笑いを浮かべて聞いてみた。明らかに、武器だろうと。


「ああ、これか。叩きのめすとはまた、一方的な言い方だが、相手は乙女の着衣を盗むような、下衆げすで下劣下品、卑しく不埒な輩だ。用心に越したことはあるまいて」


「そ、そうっスね……」


 怪盗Xよ、なんかすまん。

 『あのあの男』に対して、同情が生まれた瞬間である。


「でも、京華さん。怪盗野郎の名前も住所もわかったんだし、直接家に行った方が良くないだろうか。そもそも、学校に来るかどうかもわかんないのに……」


「池上殿、戦いとは己に優位な場所で行うのが定石だ。相手の住処に出向くなど、愚者のする事だ」


 登城先輩の『京華ちゃんは、思いやりのある人ですから』を、最大限考慮するなら、怪盗Xの家族を巻き込まない配慮とも受け取れる。

 俺は彼女と知り合って間もないので、素直に、怪盗Xをコテンパンにする気満々なのだな、と受け取った。


「その、学校が京華さんにとって、有利なんですか?」


「この場所を選んだのには、幾つか理由がある。一つは相手の立場なら、馴染みのない所へは、警戒して来ぬだろうと考える」


「ああ、なるほど」


「一つは、生徒名簿の件があったのでな。合理的に考えた」


「これまた、なるほど」


 怪盗Xは、うちの学校指定の制服を着ていたので、ここの生徒である可能性が高い。

 それならば、と京華ちゃんの提案で、顔写真付きの生徒名簿を閲覧えつらんする運びとなっていたのである。


 現在俺は自分のクラス、二年C組の教室に居るが、小一時間程前は、違う場所、それも普段では決して立ち入らない所に居た――いや、忍び込んだ。

 登城先輩の持つ、なんでも開けちゃう鍵『マスターキー』を使い、先輩と一緒に校内にある、理事長室へ潜入した。

 個人情報保護法とやらは、どこ吹く風。厳重に保管されていた書類の中から、目当ての生徒名簿を見つけ、目を通すのであった。


 京華ちゃんの言う合理性は、ついでに怪盗Xの身元を調べることができる場所。それを指してのことだと思う。


「最後の一つは、池上殿の話を訊く限り、賊は盗品にえらく執着があるように思える。故に誘い出す為にも、此処が良いと判断した」


「ん? それって……吉野のユニフォームを、使ったってことですか」


「うむ。大まかに云えば、大切な盗品を返して欲しくば、此処へ来い。そのような内容を相手に知らしめる為、利用させてもらった」


 後ろに結った長い髪を揺らし、教室内をかつかつ歩く京華ちゃんの眼差しは、ある一つの席――吉野ハルカの机に注がれる。


「ユイ姉には、みやと新聞と、みやとテレビへの告知広告をお願いした。朝から宣伝車での呼び掛けも行われているはずだ」


「マジっすか、宣伝カーって……」


 スピーカー付きの車が街を練り歩く光景は、たまに目にする。けれど、個人への呼び掛けのみに使われるなんてのは、前代未聞ではなかろうか。


「私の方では、シャランに書き込みをしている。念の為に各種SNSを使い、情報を拡散させた。これだけ講じれば、相手にも伝わるだろう」


「ちょ、え、京華さんがSNS!? つーか、シャランって何っ」


「その反応は、心外であるな。大方、私のような人間はパソコンに縁遠い、とでも思われたのであろうな」


「あ、はい……」


 ”和”のイメージが強い京華ちゃん。そりゃ思いましたさ。


「別段、私がパソコンに長けている訳では無いのだが、ユイ姉に比べたら……失敬、失言だ。忘れて頂きたい。……私からすれば、池上殿がシャラン、『シャークランド掲示板』を知らない事が驚きだ」


「そうなんスか。初めて聞いたんだけど、シャーク……ああ、略してシャランね」


「如何にも。サイトの運営者が、みやと市の話題しか扱わない事もあり、この街の者しか利用していないようだが、その分、ローカルな情報で溢れかえっている。それが人気を博しているのだろう。貴方のような若者の利用者が多いと訊く」


 自分は違うみたいな言い草だが、あなたも若者ですから。

 しかし、面白い話を聞いた。今度、向島に教えてやるか。


「準備万端ってことで、了解です」


「うむ。手抜かりはない」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ