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出会ったあいつは『箱入り』なヤツでした。  作者: かえる
【 箱入り娘をかく語りき。~ろ~ 】
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24 アテラレの条件③




「”アテラレ”で透明になったと思うんだよ、だぶんだけどな。後、この話し、まだ登城先輩にしてないから」


「わかった。ユイちゃんに教えて相談してみる。透明になれる変態さんが、スバルの学校にいるのだな」


「そういうこった」


 俺の主観が強く反映されて桜子に伝わったみたいだが、怪盗Xに変態のレッテルを貼ったところで誰も避難しないだろう。


「んじゃ、俺帰るわ」


 後ろへ振り向くと、そこには自分の部屋が……感慨ひとおしである。

 無事、桜子の部屋と俺の部屋を繋げることができた俺は、悦びに満ち溢れていた。

 今では、桜子がうちにやって来た日に味わった絶望が、嘘のように思える。

 人は困難を乗り越えた時に、大きく成長するらしい。俺は今日だけで二つの危機的問題を打破し勝利した。これはもう、メダカがクジラの大きさになるぐらいの勢いで、成長したのではなかろうか。


「待つのだ、スバル」


「っと、なんだ?」


 自分を褒め称え、桜子の部屋から凱旋しようとしたら、呼び止められた。


「その……。服、この服」


 桜子は言葉と一緒に、小さな手で自分が纏っているだぼだぼジャージを掴み、強調してくる。


「ああ、ジャージか。そうだなあ……今じゃなくてもいいけど。最悪、連休明けまでに返してくれればいいかな」


「わかった。洗うから、明日か、明後日に返したい」


「お、おう。返したい時にそうしてくれ」


 妙に力強い返却日の指定に、たじろいだ。


「うん、そうする。だからスバル。明日か明後日、私はスバルのお家に行かなくてはいけない」


「ああ、そうなるな――ってならねーよ。桜子お前、ジャージを口実にして、俺ん家に来たいだけだろっ」


「否定はしない」


 なら、肯定しろよ。


「せっかく隠し通せたんだ。家に来るなんて駄目に決まってんだろ」


「……しょぼん」


「がっかり感はよく伝わるが、声に出して言うなよそれ」


 言葉通りな桜子を見ていると、俺が悪いような気がしてくる。だが、こればっかりは妥協できない。

 桜子が俺の家族に出会ってしまっても、”アテラレ”を知られてしまう危険性は回避できると思う。けれど、家族から……、か、彼女とか誤解されたりしたら、アレだし、アレなんだよ。


「駄目なもんは駄目なんだって。……だったら洗わなくていいから、そのジャージ今返せよ」


「駄目だ。服は洗って返す」


 自分の『駄目』と桜子の『駄目』。どちらに正当性があるのか議論したい。

 俺がジャージを剥ぎ取るとでも思ったのか、桜子は両手を自分の胸で交差させ、しゃがみ込んで、抵抗の意思表示。ちょ……それはあんまりだ。


「わかった、わかったよ。別にジャージを無理やり取ったりはしねーから、やめて、それやめて。なんか俺が圧倒的に悪いみたいだろ」


 けれど、だからといって桜子を家には呼ぶのは、承認しかねる。


「桜子さん、ほんとお願いします。家は勘弁して下さい。そん代わり、洗ったジャージは俺が取りに行くからさ。それで許してくれ。なっなっ」


「そうか。スバルが私のお家に来てくれるのだな。うん。いいぞ」


「ん? おう、納得してくれたか。あ、ありがとう」


「どう致しましてだ」


 俺の下手に出た態度が良かったのか? あっさり駄々を引っ込めた桜子は口角を上げていた。

 しゅんとしたり、愉快そうになったりと、忙しい少女である。


「んじゃ、返す時にでも電話してくれ。暇だったらそのまま取りにくっからさ」


 桜子に背を向け、手をひらひらと振る。

 四角い溝の模様や縁取るような線が、面に彫られてある桜子の部屋の扉。そのしっかりとした木目調のの扉が、自分の部屋に来てみたら、いつもの、ぬっぺらとした物へと変化していた。

 不思議なこって。

 ドアノブに手を掛け閉め――


「スバル。その、待つのだ」


「なんだよ。まだなんかあるのか?」


 いつシズクが帰ってくるかわからないし、そろそろ部屋を元に戻したいのだが。


「あ、あう……ス……」


「ス?」


 閉めかけたドアの隙間、顔一つ分のそこから見た桜子は、もじもじして、うつむき、言い淀む。

 林檎の次は”ス”イカか? と先読みしてみる。


「スバルは……スバルは私の友達か」


 顔をくいっと上げて言い放なった桜子の台詞は、俺の予測から――かけ離れたものでした。


「い、いきなり、何言ってんだよ」


「どうなのだ」


 どうって言われてもさあ……。

 真顔でそんなこと言われたら、照れくささが満開になるだろうが。


「し、知らねーよ」


 それだけ吐いて、俺はドアをぱたんと閉めた。

 桜子の台詞にあてられた俺の顔は……きっと赤かったと思う。それを悟られたくなかったのだ。


「恥かしいこと言いやがって」


 人生を揺るがし兼ねない問題を乗り越えて、ご機嫌だった俺。そんな俺の心に、ほんのちょっぴりだけ、嬉し恥ずかしの高揚感が加算された。




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