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出会ったあいつは『箱入り』なヤツでした。  作者: かえる
【 箱入り娘をかく語りき。~い~ 】
13/114

13 来訪者①



             ※



 みやと市には百捌石なるものの影響で、”アテラレ”を偶発的に宿す人が現れる。

 大昔から百捌石に関わってきたとされる『御子神』『柳』『登城』の各一族は、その不思議な力を日々追い求めているようだ。

 詳しい理由はわからないが、そのようなしきたりなのだろう。

 ここで大切なのは、登城先輩らのお家事情よりも俺が昨日、件の”アテラレ”にもくされてしまったってことだ。


「どうなんのかね、俺は」


「何がだ~」


 英語教師による子守唄のようなイングリッシュの授業が終わり、自分の席で大きく伸びをする。その時出たあくびに交えた俺の独り言。それに反応するツンツン頭の男がいた。


「なんでもねーよ」


「スバル~俺は悲しい、ああ、悲しい。親友だろっ、隠し事とか無しでいこ~ぜ」


「うっ。……アレだ、昨日の登城先輩のことを考えてたんだよ」


 向島、お前はいい性格してるよ。しかし、嘘はついていないが……心が痛む。

 先輩からは秘密にするように言われているからなあ……。

 しかしまあ、こいつに話したところで信じちゃくれんだろうし。うん、そういう訳だから気に病む必要はないな。


「だ~無理無理っ。スバルごときじゃ~あの登城ユイ様はオチね~って」


「……ごときで悪かったな。それに先輩を彼女にしたいとか……思うけど、そんなんじゃなくてだな」


「わかるよ~わかるっ、可愛かったもんな~。あんな子が彼女だったらって夢みちまうよな~。けどさ、あの人は俺達とは違~う世界の住人ってやつだ。だから早く現実に帰ってこ~い」


 もはや第二の専用椅子と化している、武田のそれにやおら腰掛ける向島。彼は俺の言葉を遮り、諭してくる。


「俺は現実見てるよ。先輩とは昨日…………」


「昨日、登城ユイ様とお近づきになれたのは~奇跡なのっ、そうまさにミラクル。俺達の日常にはね~スベシャルな青春の一ページってやつ。おお~今俺、カッコいいこと言ったな、言ったよな、惚れんなよっヒャハハ」


 自分に酔いしれた友はさておき、向島の言った、俺達の日常には。この言葉だけが胸に刺さる。

 特別な登城先輩。その先輩と俺を巡り会わせた”アテラレ”。

 それは違う世界――俺にとって非日常と呼べるところに、足を踏み入れてしまったことを意味するんだよな。……相変わらず、あてられた実感はないけれどさ。


「スベシャルな青春の一ページね……」


「おうよっ。スペシャルもスペシャルだっつーの。そんじょそこらのお嬢様じゃないからな~あの登城ユイ様は。スバルにわかりやすく説明すっとだな~」


「いや、説明せんでいいよ。俺は多少なりとも体感したからさ」


「この前貸してくれた映画の……なんとか~戦記に出てくる」


 女子の話になると熱心だな、向島よ。


「アウストラル戦記な」


「おおう、それそれっ。あれにお姫様出てくんだろ」


「フィアナ姫な」


 アウストラル戦記。大して有名な洋画でもないのだけれど、世界観が好きで去年円盤を購入した。

 よくある中世風のファンタジー映画で、架空の国、ヴァリクト帝国とエル・バレル共和国間にて繰り広げられる戦争が舞台。

 主人公の少年が争いの中で大きく傷つき、苦悩しつつも成長し、アウストラルの剣――人には余る程の力を秘めた一騎当千の武器を手に、戦いの終止符を打つため戦場へ降り立つという、なんとも胸熱な話なのだ。

 向島が言いたいのは、その物語に登場するヴァリクト帝国のお姫様だと思うが。


「登城ユイ様は、そのフィアナ姫クラ~スってことだ」


「向島、例えがわかりづれーよ」


「何~、スバルのためにわざわざ映画で当てはめてやったってのによっ。マ~ジでわかんねえの? 庶民じゃ眺めれただけでもラッキーってことだっつーの」


 いまいちだが、受け入れるとしよう。


「映画だと平民出身の主人が、フィアナ姫と恋仲になるんだけれどな」


「映画だったらなっ」


 向島はニタニタと俺をからかうように、そう強調した。

 友が言うところのお姫様級、登城ユイ様の電話番号を俺は知っているんだぜ、と話していたら、リアクションも違っただろうか……面倒臭いことになりそうだから、そんなことしないけれどさ。


「なあ~スバルっあれあれ」


 俺から視線を外した向島が、何かに気を取られている。

 彼の見ている方を追ってみると、そこには数名の女子達がざわざわと騒ぎ立てている様子があった。

 教室の廊下に面した角辺り――ここからだと向かい側に位置する。


「向島、気になるのか」


「おう、なんだろうな~って思ってよ」


 どうやら、騒ぎの中心になっているのは、吉野ハルカみたいだ。

 この吉野は、我がクラスのほとんど男子が推してる美少女で、どんな感じかと聞かれれば、アウトドアがとても似合いそうなスポーツ美少女というのがピッタリ、しっくりくる。


 そして、そんな彼女の周りになぜ友達が集まっているのか……。迷える探偵の俺には珍しく、すぐさまその謎が解けた。まあ、今朝登校途中で一緒になった、同級生の鮫嶋君が教えてくれた話のお陰なんだけどね。


「たぶんだけどな、アレ怪盗Xの話で騒いでるんだと思うぜ。吉野のやつ――――」


 ふふん、と得意気に語り始める俺。

 どうやら今回怪盗Xは、吉野ハルカが所属する陸上部のユニフォームを盗みやがったらしい。我らがクラスのアイドルに変態の魔の手を伸ばすとは、実にけしからん。さすがに怒りを覚える。

 しかし一方で、犯人の美少女を見る目は確かなものだと、感心していたりもしていた。





 放課後のことだった。


「昨日の人とは違った意味で、目立っているな……」


 俺が目にしたものは、校門付近にて燕尾服を着こなした老紳士が帰宅する女子生徒達から、パシャリパシャリと携帯のカメラで撮影されている光景だった。

 物珍しさからだろうか……まずまずの人気に見える。

 もしかして今日も連れ去らわれるのか俺、と不安を胸に人だかり目指して歩いて行く。


――ここ通らなきゃ帰れねーんだもんよ。


「スバル様、ご機嫌麗しゅうことと存じます」


 や、やっぱり俺っスよね……。

 伏目がちに来たが、無駄な努力に終わった。


「そ、そうですね、ごきげん、ええと元気です」

「それは良うございます。本日はスバル様へお渡ししたい物がございまして、お待ち申しておりました」


 洋館で会った時は思わなかったが、こうして外で見ると浮きまくりのセバスチャンさんである。

 そんな柳邸の執事さんは周りからの注視はなんのその、いつも通りの気品あふるる仕草で、懐からさっと四角い……封筒? を取り出した。


「これ……俺にっスか?」


「左様で。お嬢様からです」


 手渡されたのはやはり封筒のようで、淡いピンク色をしており、ひらりと返したそこには簡略化された可愛いクマがこま絵されていた。

 ラブレターを受け取っているとでも思われたんだろうな……周りから黄色い声が上がったのだが、俺の第六感的なものがそれは無いと告げる。

 なので、違いますからねを主張したい。

 後、念のために、これはセバスチャンさんからのラブレターではないよと。そこんとこも非常に大切。


「桜子からですか……なんの手紙なんですかね」


「それではスバル様。宜しくお願い致します」


 セバスチャンさんは年季の入った微笑みと俺の求めるものじゃない言葉を残し、エレガントにこの場を後にした。呆気にとられたい場面ではあるが、そうもしていられない。

 俺もそれに続けとばかりに、まとわり付く好奇の眼差しに耐えつつ、早足で校門をくぐるのであった。




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