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出会ったあいつは『箱入り』なヤツでした。  作者: かえる
彼の者、かく語りき。~と~
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「備考枠・おまけ、など」




ここより、おまけ。


 【 ゴスロリを着た悪魔 08 】




 静寂を呼び戻した深夜のミヤトレッド。

 テナントショップが並ぶ暗い通りを、不規則なリズムの足音で駆けた。

 レンガ畳の上を走っては体の痛みが制動をかける。悶えてからまた走り出す。それを繰り返しつつ、俺は敵との距離を図る――、などと言えればいいが、戦略的一手でもなく、ただの逃げでしかないのだから情けない。


「ぐっ、……もう限界」


 その上、重い体を動かすことにほとほと疲れ、音を上げてしまうとは。

 俺は転がるようにしてテナントの影へと身を寄せ、タイル貼りの通路に足を投げ出す。

 寄り掛かるのは暗闇に落ちたショップのショーウィンド。目を向ければ、ぼうと浮かび上がるカボチャ達が、嘲笑うようにして俺を見てやがった。

 半月の夜の薄い月明かりの中にあって、ハロウィンのイルミネーションが不気味に光る。


「あの黒い方のゴスロリ、ナギとか言ったか。正真正銘のバケモノだな。……なろ、たまんねーな」


 獅童さん達からの助けも期待できない状況で、現状打つ手なしときたもんだ。

 お菓子でも持っておくべきだった。などとフザけたくなるくらいに、これからの見通しが悪い。

 俺は携帯を取り出しそうと、ごそごそっと服の上から太ももをまさぐる、が、直ぐにフリフリの赤いドレスには、ポケットがなかったことを思い出し、肩から下げていた小さなポーチへ手を伸ばす。

 すがるようにしてのぞいた携帯の場面は『23:26』を表示していた。


――あと、三十分ちょいもあんのか……。


 日付が変われば、”零式”を叩き込める。だがしかし、この三十分。ゴスロリ相手に凌

ぐ時間としては絶望的に長い。


「三回くらいは三途さんずの川へ行けるだろうな。……それ、でもっ」


――やるしかない。


 さっと立ち上がり気合いを入れ直す。

 今あのゴスロリ達に刃向かえるのは、俺しかいないのだから。

 そんで、人がなけなしの根性で自分を奮い立たせたばかりだというのに――早速だった。

 カツカツ、と硬い物を叩く音が近づいて来る。

 俺はショーウィンドを背に身構えた。

 姿は確認できない。俺の鼓動の早くなるにつれて、足音だけが大きくなる。


「どっから来――っ」


 バクン――と心臓が跳ね、呼吸が止まった。

 鼻先に人の影。上だっ、建物の上からだ。屋根から飛び降りそいつは現れていた。

 追ってくる黒いゴスロリじゃなかった分、幸いと捉えるべきだろうが、俺はかなり不幸に陥ったと断言できる。

 傾げる頭に三本の尻尾を垂れ、不機嫌以外何者でもない目つきの悪さで俺を睨む少女が一人。歩く厄介事が、なぜだか俺の前に居やがる。


「っんだよ、ムカつくな。サムライ女じゃねーのかよ。つーか、なんだあテメエ? ドーテーこじらせて、カマ野郎に鞍替えか。キモさ倍増してんじゃねーぞ、ああ?」


 登場して早々、リンネが問答無用で胸元のリボンごと俺をがっと掴み、引き寄せメンチを切る。

 コンチクショー。俺だって好きで女装してるんじゃない! と弁解したい。が、それよりも聞き捨てならない、こっちの方が先だ。


「サムライって京華ちゃんのことだよなっ。どうしてお前、なんでお前が京華ちゃんを探してんだよ」


「チッ。カマチェリーだけに頭ん中は空っぽか。このリンネ様が、直々にサムライ女をヤりに来てやったんだよ。クククッ。テメエはひたすらリンネ様に感謝しながら、人形遊びでもしてろっつーのっ」


 俺を押し離したリンネが愉快とばかりにほくそ笑み、見せつけるようにして右手を上向ける。

 薄暗闇に映える青白い閃光と、バリバリと空気を割る耳障りな音。右手の指先をかいして、電流がほとばしっていた。

 スタンガンのようなそれは――”アテラレ”『雷指』である。


「そういうことかよ。源濔の爺さん……」


 御子神家は、あっち(ゴスロリ)側についた京華ちゃんを切ったってことか。

 だから、ここへ”アテラレ”たリンネを寄越した……。


「聞いてくれリンネ。今はあっちについているけど、京華ちゃんは敵じゃない。話せばきっとわかってくれるんだ。だから、お前が京華ちゃんと戦う必要性なんて――」


「ああ、ウゼー。敵? 必要性? クククッ。っんだそれ。このダボカマチェリーがかったりーコトわめいてんじゃねーぞ、オレ様にはカンケーねー。コッチがヤレるときに、徹底的にあのクソ女をブチのめしてヤんだよっ」


 喜々として吠えたリンネが、大人しくケツでも掘られてろと一言吐き捨て、あらぬ方向へ歩き出してゆく。


「おい、待てよリンネっ。どこ行く気だよ。まだ話、てか、ここゴスロリ達もいんだよっ。俺追われっとて、がぶふう」


 こんな時なのに――。

 リンネを追いかけようとして足がもつれ、コケそうになった俺はとっさに目の前にあったリンネの背中へ抱きついてしまった。

 ただ、腕を回し掴まるくびれた腰が予想より細く、ずるりと下へ。

 なので、リンネの履くホットバンツが少しばかりズレて、柔らかいでん部に俺の顔がうずもれてしまった。

 これは不可抗力だ。決して嬉しくはない絶対的ハプニングだ。


「そんなにテメエは、リンネ様にシビれてーか、ああゴラッ」


 一つしかない俺の命が無駄に危機である。



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