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出会ったあいつは『箱入り』なヤツでした。  作者: かえる
【 箱入り娘をかく語りき。~い~ 】
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10 館へ、いざ参らん④



 目に映るは、ふわりとした栗色の髪。

 時折、理性が吹っ飛びそうな香りを漂わせてくるから悩ましい。焦点をずらせば、油断すると魅かれてしまう漆黒の髪と瞳を持つ少女。

 俺はそのような美少女らと円卓を囲み、紅茶をすすっている。

 どうなんだろう? 傍から見れば、羨ましいティーブレイクに映っているだろうか。


「そうなのですね。フフ良かったですね、桜子ちゃん」


「うん。ごめん、と言われた。だから、私は気にしていないと言った」


 桜子さんその話は先輩にしなくても、いいんでないかい……。


「スバルさん、またのぞいたりしたらいけませんよ。フフ」


「ちょ、先輩、そんなことしませんって。それにさっき桜子には言いましたけれど、偶然たまたま”あてられ”が起きただけで、俺の意志ではないです」


「スバル。”アテラレ”を悪いことに使う。するときょうが怒る」


 京ってなんだ……。いや、それより俺が悪事を働くような言い草はやめてくれ。


「んなことに使ったりしないさ。大体”あてられ”をどうやって引き起こしたかもわからんのに、悪さのしようもないつーの。それにまだお前のしか見てなくて……違う違うっ、現象がって意味な」


 ”アテラレ”の話を聞いて、破廉恥なことは考えなかった、と言えば嘘になる。玄関開けたら、更衣室とか銭湯だったらな……と妄想したのは認めよう。


「フフ、スバルさんが良い人で助かりました。もし”あてられ”を使って、ドレッシングルームやバスルームをのぞいているような方でしたら、困っていました」


 先輩の言葉を聞き、俺は飲み干して中身が空のティーカップを口元に運び、飲んでるフリをした。


「それにしても桜子ちゃん、幸運でしたね。早速、”あてられた”方を見つけることができました」


「うん。はぅ、ユイちゃん、この”うん”はダジャレではないよ」


「フフ、大丈夫ですぅ」


 彼女らは通じ合っている様子なので、……そっとしておこう。


「京華ちゃんと違って、私達では判らないですから助かりましたね」


「こう言うの知ってる。棚からぼた餅だ。スバル餅だ」


 なぜか俺が餅になってる。


「お餅、美味しいですぅ。実は先日、フフ、桜子ちゃんには内緒で甘味処へ行っていました」


「ユイちゃん。喋ったら内緒にならない」


「あ、そうですね、フフそれでは秘密にしましょう」


 美少女のお二人は愉しそうでなりよりだ。……さらに、そっとしておこう。


 俺は俺で気持ちの整理をしたい。桜子や先輩の話を信じない訳ではないが、物事を受け入れるには多少なりともそういう時間が必要だ。登城先輩が桜子に言ったらしい責任なんたらは、一旦『新しいフォルダ』に移すとして――本音は触れたくないだけだが。

 まずは”アテラレ”をどうにかしたい。


 俺の人生がファンタジーへ移行するとは思わなかったが、現に部屋は繋がった。

 だから、自分が”あてられ”であることはいい。ただ、


「実感がない……」


 手の平を見つめながら、ぼそっと呟く。

 なんつーか、体のどっかに紋章が刻まれてるとか、謎の声が聞こえてくる、なんて見た目や感覚は皆無だ。高二にもなって厨二過ぎるか?


 それから、知りたいことが他にもあるんだよな……。

 登城先輩らは”あてられた”人を見つけてどうするつもりなのか、とか”アテラレ”ってのが具体的にどういったものだろうと……。何かしら人体に影響したりするのかね。


「スバルさん、百捌石はボーリングのボールぐらいの大きさなんですよ。でも、穴は空いていませんので、フフ、投げるには大変かもしれませんね」


 胸の前でぽんっと手を合わせた先輩が、話を振ってくる。

 たぶん、会話に参加していなかった俺への配慮なのだろう……と思うのだけれど、内容が……コメントし辛い。大した返しも思い浮かばず、


「あの登城先輩。先輩は俺みたいな”あてられ”を見つけてどうするんですか?」


 質問することにした。

 すみません先輩。俺がもっと大人の男なら、じゃあ今度ボーリングでも行きましょう、とデートに誘うような台詞の一つや二つ言えたのかもしれません。

 小生はまだまだ子供だったようです。


「そうですね、食べたりはしませんよフフ。”あてられた”方には私達に協力して頂きたいのですぅ。ですからお話をしました」


 やっぱり先輩の話は、肝心な部分が足りないな。


「その協力って……具体的にはどうすればいいんですかね」


「それはですね、”あてられ”を私達だけとの秘密にして下さい。一般の方には内緒ですよ」


 一般の方ってのは、柳家、登城家、御子神家以外の人達を指すのだろうか……。


「ええと、その一般の方に”あてられ”を教えたり、もしくはバレたとしたらどうなるんでしょうか?」


「それなのですが、フフ、どうなるんでしょうね。桜子ちゃんわかりますぅ?」


「京に聞かないとわかんない」


 美少女らは、互いに見つめ合いながら首を傾げる。あら可愛い――じゃなくて、大丈夫なのかな。

 説明された話を踏まえると、彼女ら名家は昔から”あてられ”に携わっている、言わば専門家のはずなんだが。不安になってくる。


「ごめんなさいスバルさん。本来”あてられた”方を探すお仕事は、御子神家の方が行っているので、私や桜子ちゃんはあまり詳しくないのですぅ。本当に申し訳ないですぅ」


「京は今、包帯ぐるぐるだ」


「そんな、いいですよ謝らなくても。ちょっと気になっただけですから。先輩にも事情があるでしょうし」


 察するに、各家でいろいろな役割があるってことか……。俺が踏み入るところではないな。

 てか、登城先輩が戻ってきてから桜子の奴がやたら元気だ。少女を見つめながら連想する。包帯ぐるぐるって……ミイラしか出てこねーよ。


「スバル、どうかしたか?」


「あ、その、どうもしないけれ……ど、アレだ。”あてられた”ら、今までとは何か違ったりするのか、後、俺の”アテラレ”ってなんだ」


 ふと尋ねてきた桜子に質問で返す。


「……? 変わらない。それと人それぞれ”あてられ”は違う。だから、スバルのはわからない。けれども、知ってるのもある」


「……………………」


 どうしてだろう、変な”間”が生じている。


「ええと、桜子さん? 話の流れ的にその”知ってるの”を教えてくれるんじゃないのかい?」


「聞きたいのか?」


 桜子は、質問した俺に尋ね返してきた。あれ?


「かなり、聞きたいな。俺の特別な力のイメージってのは、空飛んだり、水を操ったりとかしてんだけど、そういった感じなのか」


 参考になるかわからないが、情報は幾らでも欲しい。それによって俺の”アテラレ”を把握できるかもしれないからな。


「空は飛ばない。けれども、地面から浮く”アテラレ”は知っている」


「おお、それっぽいな」


「そうなのか? 浮くと言っても、地面からちょっとだ。足が着かないから、歩けない」


 アレだな……なんつーか残念だな、そいつ。


「それと。くしゃみをすると、お腹が痛くなる”アテラレ”も知っている」


 それ違うものがあたってんじゃないのか?


「液体の温度がわかるものがあるらしいのですが、とても素晴らしいと思うのですぅ」


 いつもより、トーンが高い声でこの話題にエントリーした登城先輩の手は、きゅっと握られており、その拳から疑いようもない熱意を感じる。


「お料理で、油の温度はとても大切なのですぅ! すごく役に立つと思うのですぅ!」


 今日見た先輩の中では、一番興奮されてるご様子なのであった。





 円卓の美少女らは、俺を尻目に”あてられ”の話題で盛り上がっている。

 そのきっかけを与えてしまった意識はあるが、そろそろ違う話題に移りたいところだ。

 確か”あてられ”に関することじゃなくて、疑問があったような……ああ、アレだ。


「なあ桜子。そういやお前、なんで学校に行ってな――」


 俺は喋っている途中で、はっと口をつぐむ。……やってしまった。

 ちょっと考えを巡らせればわかることなのに。

 きっと何かしらの理由があって通えてないんだ。もしそれが地雷、いやデリケートな問題だとしたら……。

 ああ俺って、デリカシーないよな。


 美少女らの眼差しはこちらに向けられている。

 愛らしく純朴な瞳は、どこか哀しげに。そして、吸い込まれそうな黒いそれも……って、あれ、哀しそう……には感じないな。はて、嬉しそうでいいのか?


「スバルは、私が学校に通えない理由。知りたいか」


「お、おう。特には……なんだけど、教えてくれるなら頼むよ」


 勿体ぶった言い方の桜子に、話題を持ち出した手前断れず、リクエストしてしまう。


「百聞は一見にしかずだ」


 桜子はぴょんと勢い良く椅子から起立すると、部屋の出口へ向かって歩いて行く。釣られるようにして登城先輩も席を外し、その後を追う。

 俺は彼女達がとった行動の意味がわからなくて円卓に着いたまま、様子を伺っていた。

 部屋の扉に手を掛けた桜子が、振り返える。


「スバルもあてられた。だから、教えることができる」


 なぜ俺の”あてられた”ことが、話に出てくるのかは意味不明だけれ――うん? 桜子の奴、今”スバルも”って言わなかったか。



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