2.3 また同じクラスだね
新学期初日の学校というのは騒がしい。
普段より八割増しで悲鳴が聞こえてくる。
悲鳴というのは同じクラスになれたか否かに由来するものであり、我々にとってクラス編成が如何に重要かを表している。それは新入生も同様で、いやはや同じ高校に進学するような友人がいるなんて羨ましい限りだ。
さておき俺もクラス編成には多大な関心があった。
他クラスのイケメンを誘って花見をするよりも同じクラスのイケメンを誘うハードルの方が低いからだ。
ゲイを公言している俺だって、堂々と人を誘うのは少し照れる。
どうやって誘おうかな。
一昨日まではそんな事ばかり考えていたような気がする。
本当に、ワクワクしていたんだ。
なのに俺は、クラスを確認したあと教室に直行して、自分の席で頭を抱えている。
「……ママと心療内科。どっちが安いのかな」
「なに新学期早々バカなこと言ってんの?」
誰だよ独り言に返事するバカは……と思ったら優紀か。
「よっ、また同じクラスだね」
いつのまにか隣に座っていた優紀は、ひょいと片手を挙げ言った。
橘優紀。帆紅純。
我が校では座席を番号順、つまりあいうえお順に決める。
昨年はタとホの間に中村やら中島やらがいて優紀とは隣の席だった。
今年もそうらしい。
「久しぶり。また隣だな」
「……うん。まぁ」
思えば、去年のクラスで一番長く話したのはこいつだったかな?
なんというか、不思議な縁だ。
こいつとは卒業まで仲良く出来そうな気がする。
「……なんだよ。じろじろ見んなよ」
「髪が伸びたなと思って」
優紀といえばソフトボール部でたまに見るレベルの短髪ってイメージだったのに、肩の辺りまで髪が伸びている。
「……バイト忙しくて……変かな?」
「良く分からんけど、女の子っぽくなったんじゃね?」
「……なんだそれ」
正直違和感あるけど、嬉しそうなので言わないでおこう。
「いつのまに座ったんだ?」
「ちょっと前。なんか真剣な顔してるなーと思ったら……やれやれだよ」
言葉と一緒に、優紀は少し伸びた髪をアピールするようにして左右に振った。
「で、どうしたの?」
「心の病について考えていた」
「いまさらゲイがおかしいって思ったの?」
「それは違う。なんというか……怖い夢を見たんだ」
なにその驚いた顔。
「怖いものあったんだ……」
「そりゃ俺だって人間だ」
「意外。どんな夢?」
好奇心と心配が入り混じった表情で、彼女は少し体を近付けた。
話すべきか否か、一瞬だけ悩んでから口を開く。
「……空から、悪魔が降って来た」
「あくま……あくまかぁ」
予想通りの苦笑い。
「まぁ、それだけならいい。問題はこの後だ」
「問題?」
「今朝、俺はそいつと一緒にオムライスを食べた」
「……えっと、それは……」
どういう反応をしようか困っている様子。俺も同じ立場なら困ると思う。
「その悪魔は、どんな悪魔だったの?」
どんな、どんなか……。
「名前はリリエラ・アルブ・モナ。歳は俺と同じ十六歳で、角と翼と尻尾が生えていた。身長は百六十センチくらいで、長い黒髪をしている。目鼻立ちは整っていて、少し低めの声をしていたような気がする」
「ず、ずいぶん具体的だ」
「話せと言ったから説明したのに、なんだその反応は」
「だってキモかった。まさに心の病だ」
「だから悩んでる」
「なるほど」
とびきりの苦笑いをしながら優紀は斜め下に目線を向けた。
これは優紀が何かを考える時の癖だ。
たぶん、俺の悩みについて真剣に考えてくれている。
本当に良き友人だ。
「それって男?」
「いいや、多分それなら悩んでない」
「そっか、女の悪魔なんだ……へー」
なんだその意味深な態度。
「見なかったことにしたら?」
「そうしたいんだが、メッチャ絡んでくる」
「どんな風に?」
その質問は――君と恋をする――答え辛い。
妄想に告白されるとかヤバイ。
そもそも、あいつが俺の生み出した妄想なら女ってのはおかしい。
だが現実なんて可能性は考えたくない……いや待て、心の病か。
その線で考えれば、去年ずっと初対面の女に性的な要求をされ続けた俺のトラウマが淫魔という形で具現化したという可能性が高い。
「トラウマ……か」
「……また一人で納得してる」
いかん。どうにも頭で考えると無言になる癖がある。
相談したのは俺なのだから、自己解決するにしても過程をきちんと話すべきだ。
「まぁ、解決したならいいけど」
とか思っている間に優紀は納得してしまった。
リアルタイムって怖い。
一応お礼を言っておこう。
「ありがとう。少し楽に――」
「……なに、急に立ち上がって」
「なぁ優紀。運命って、信じるか?」
「……なに、運命って」




