2.1 誰か夢だと言ってくれ
酷い夢を見た。
目を覚ますと辺りは明るくなっていて、俺は寝汗でグチョグチョだった。
いやこれ本当に寝汗か? 寝汗だよね? 寝汗だな。
と納得出来る程度に余裕を取り戻し、風呂場に直行してシャワーを浴びた。
ついでに歯も磨く。
髪やら体やらを乾かす間、自分の脱いだ服が放つ異臭に気付く。
そのツンとした独特の臭いは、まぁ異臭の中ではマシな部類なのだが、異臭であることには変わりない。ならば処理するのは義務だ。部活後どこかの店に直行する運動部とかテロ行為に等しい。俺は、あいつらのことを軽蔑する。これは清潔感というより倫理的な問題だと思う。
さて、倫理と聞けば多くの人がマナーとかそんな言葉に置き換えるのだろうが、俺の頭にはソフ倫という言葉が浮かぶ。ソフ倫というのは、倫理的にヤバいゲームを世に出さない為にあるルールのようなものだ。そして、倫理的な事を考慮しなきゃいけないジャンルのゲームというのは、つまりそういうゲームだ。
ソフ倫、シャワー。
これはもうラッキースケベの王道シチュエーションを連想せざるを得ない。
あれ見る度に思うんだけど、見ちゃった方は直ぐに扉を閉めろよ。
見られた方が硬直するのは分かるけど、逆はおかしいだろ絶対。
その点、人の心が一回だけ読めるあの人の反応は素晴らしい。
彼だからこそ遊園地を守ることが出来たのだろう……素敵だ。
「あれ、ジュン? いつの間に――なんで裸なのよバカ!」
おぉ、まさに今俺が考えていた反応だ。男女逆だけど……は?
え、なに今の? 誰、どちら様?
なんか見覚えあったけど……夢じゃなかったのか?
いやいや幻覚だよ。大丈夫だ。悪魔なんているわけない。
なら俺の目の前で破損したドアはなんだ?
どうして壊れた? ポルターガイストか?
「……あ、やっ、ごめん……壊しちゃった」
いや違うドアを壊したのは目の前にいる少女だ。幻覚なんかじゃない。
おいおい嘘だろどういうことだよ。
あれが夢じゃなくて、悪魔なんてのが本当にいて、しかもいきなり逆ラッキースケベで……これはもう、あいつには男の裸を見たら内なる本能が目覚めるという設定があり、俺の貞操が大ピンチなイベントに発展してもおかしくないっ!
「いいぃぃぃぃやぁぁぁぁ――――!」
「なんでジュンが叫ぶの!?」
帆紅純、十六歳。高校二年生。
俺には怖い物がひとつだけある。
欲望のままに男を蹂躙する淫魔が、なによりも怖い。
もちろん空想の産物でしかないと知っているが、怖いものは怖い。
……頼む、誰か夢だと言ってくれ。