表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/43

5.9 決めたよ

「あれ、純は?」


 数分後、優紀の声を聞いたモナは慌てて袖で目を擦って顔を上げた。


「帰っちゃった。あれ? ユウキちゃん学校の制服?」

「うん。店長があの席に突撃しろって言うから……」

「突撃?」

「……なんでもない」

「そっか」


 ぎこちない会話が途切れて、二人は店内を満たしている喧騒に包まれた。

 優紀はモナの様子を見て、直前に起こった出来事を何となく察した。すると余計に気が重くなって、それをごまかすかのような笑い混じりの声で言った。


「座ってもいい?」

「……いいよ。座って座って」


 返事を聞いた後、優紀はモナの隣に座って、少し緊張した様子で正面の何も無い所を見つめた。


「ええっと、なんで隣に?」

「……嫌だった?」

「ううん、嫌じゃないよ! えいっ」


 モナは明るい声で言って、優紀の肩に頭を預ける。優紀は突然の衝撃に少し驚きながら、耳元で聞こえた鼻をすする音に息を止めた。


「……」

「……」


 二人とも何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。

 優紀が肩に感じるモナの体重は驚く程に軽くて、今にも消えてしまいそうな儚さがあった。その理由を想像するのは容易くて、その原因に優紀は心当たりがある。

 優紀の目から見て、いやきっと誰が見ても今日の純は様子がおかしかった。今日の彼は、露骨にモナを避けていた。そうなったのは間違いなく自分のせいだ。

 ならきっと、話す義務がある。


「……昨日、あのあと、純に告白した」


 確かな緊張感とは裏腹に、その声は落ち着いていた。


「でも、返事も貰わずに逃げちゃった」

「……そっか」


 呟くように返事をしてモナはゆっくりと目を閉じた。そこに驚いたという様子を感じられないのは、きっと心の何処かで予想していたからかもしれない。


「……私は」


 決して簡単に話せる内容じゃない。それでも優紀は伝えてくれた。ならば自分も言わなければならない。


「……わたし、は」


 優紀と同じように、きっぱり言うつもりだった。なのに息が乱れて、いつまでも言葉が出てこない。


「……わたし」


 優紀は頭を傾けて、肩に感じる震えに寄り添った。

 彼女がしたのはそれだけで、だけどモナが言葉を紡ぐにはそれで十分だった。


「……わたし、迷惑って、言われちゃった……もう、話しかけるなって……言われちゃった」


 悲痛な声で、嗚咽混じりに言った。すると何かの枷が外れたかのように、モナから言葉が溢れ出す。


「知ってた……ジュンは嫌がってるって、分かってた……でも、好きなんだもん。こんなの、初めてだったんだもん。最初で、最後なんだもん……あきらめたくない。あきらめ、たくないよ……」


 その言葉の意味は決して優紀には伝わらない。

 だけどモナ気持ちは、痛いくらいに伝わった。


「ねぇモナさん」

「……」

「ごめんね。私、嘘吐いてた」

「……」

「私も、純が好き。モナさんと同じくらい……負けないくらい、好き」

「……うん、知ってたよ」

「そっか……だよね」


 優紀は明るい声で言って、モナの肩を押して自分から引き離した。

 それから前を見て言う。


「私は、決めたよ。もう迷わない」


 何を決めたのかとは言わなかった。言わないまま、モナに問う。


「モナさんは、どうするの?」


 とても簡単で、とても難しい問いだった。

 モナの答えは決まっていて、ひとつしか無い。

 だけど純の言葉を聞いた今、それを口にするのはとても難しいことだった。


「……いいじゃん、迷惑かけたって」


 モナが黙っていると、優紀が小さな声で言った。

 不思議そうな顔で、モナは優紀の横顔を見る。


「お互い様だよ。むしろ、困らせちゃえ」


 お互い様という言葉にモナは笑った。その通りだと思った。

 その様子を見て、優紀は表情を綻ばせる。


「それで、モナさんは、どうするの?」


 二度目の問い。

 モナは頷いて、両手で掴んだ袖を目に押し当てた。

 強く強く押し当てて、ゆっくりと離す。

 開いた目に映った視界は歪んでいて、モナは何度か瞬きを繰り返した。


「……私も、決めたよ」


 やがて物がハッキリ見えるようになった後、優紀に向かって宣言する。


「最期まで、絶対に諦めない」

「うん、そう言うと思ってた」


 そして、どちらからともなく笑う。

 ひとしきり笑った後、モナは思い切り背伸びしてから優紀に飛び付いた。


「ユウキちゃん大好き!」

「やめて、恥ずかしい」


 俯きながら、優紀は周りに目を配る。幸い、自分達を見ている客はどこにもいなかった。


「でも負けない! 負けないからね!」

「……なんだそれ」


 調子を取り戻したモナは、そのまま調子に乗って頬ずりした。

 

「よぉぉぉし! ラストスパートだよ!」

「……変なモナさん」


 優紀は少し頬を引きつらせて、余計なこと言ったかなと思う。


「……頑張ってね。私も、頑張るから」

「うん! 一緒に頑張ろう!」


 まるで酔っぱらっているかのように騒ぐモナの隣で、逆に優紀は小さくなっていった。

 単純に、恥ずかしかった。


「コーヒー冷めてるぅ!」

「モナさんっ、少し静かにして……!」


 騒がしい声。何事かと、周囲からチラチラと視線が集まり始める。

 モナは気にせず、騒ぎ続けた。


 やがて日が沈み、音も明かりも消えた頃、モナは純が住むマンションの前に一人で立っていた。


「……早く朝にならないかな」


 やっている事はストーカーと同じだ。純の迷惑にしかならないなんてこと分かっている。でも今さら気にしたって仕方ない。迷惑なら、出会った時からかけ続けている。だけど、その分だけ純に尽くしてきた。


 まったく、我ながら自己中心的な考え方だ。こんなのだから好きになって貰えないのかもしれない。


「でもいいよね。さいごなんだから」


 モナは、作戦を考えることにした。

 残された時間は五日間。それまでに両想いになる為の作戦を考えることにした。


 といっても、そんな方法が分かったら苦労しない。

 だからモナは、自分がどうして純を好きになったのか考えることにした。考え始めると、直ぐにいろんな言葉が浮かんでくる。短い時間で作った思い出が、浮かび上がってくる。

 きっと言葉にしようと考えたら恥ずかしくて何も言えない。でも頭の中で考えるだけなら、いくら時間があっても足りなかった。

 

 気が付けば、朝。

 耳に届いた足音に振り返ると、そこに大好きな人が居た。

 すごく驚いた顔で自分の事を見ていて、なんだか可愛い。


「おはよう。待ってたよ」

「……」


 純は何も言わずに、背中を向けた。

 モナは慌てて追いかけて、その肩を掴む。


「……ええと……制服! 取りに来たの!」


 純は振り返らずポケットに手を入れて、取り出した鍵を後ろに投げた。


「わわわっ、もう! 乱暴!」


 猫みたいな反応で鍵を取ったモナが不満を言うけれど、純は振り返る事すらなく学校へ向かって歩き始めた。その背中にギャーギャ文句を言った後、モナは純の部屋に入って制服に着替えた。脱いだ服をたたんで、どうしようか迷った末にいつもの場所に放置する事に決める。また純の部屋に入る為の口実だ。


 しっかり戸締りをして部屋から出た後、大きく深呼吸する。


「……よしっ、頑張ろう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ