4.9 お弁当作ったんだ
それなりにモヤモヤした出来事も、とりあえずは保留。
俺は、重大な問題に直面している。
「ほらジュン。はやくはやく」
お昼休み。
モナは尻尾を振る子犬のように目を輝かせている。
「……モナさん、お弁当作ったんだ」
「うん! 頑張ったよ!」
目の前にあるのは愛用している弁当箱。
しかし中身は俺の作ったものではない。
覚悟を決めて、ゆっくりと弁当箱を開く。
まず目に映ったのは白米だった。よし、白米に外れは無い。問題はこの先だ……これはキャベツと唐揚げ。よし、インスタントなら大丈夫だ。そして隣にはタコさんか。こいつも火を通すだけで外れは無い。なら問題は、その下にある玉子焼きか。こいつも火を通して丸めるだけなのだが、失敗出来る要素を持っている。
「どう? どう?」
弁当箱を開いた直後、モナが感想を求めた。
「……まぁ、見た目は普通だな」
「えー、もっと何かあるでしょ。こう、家庭的だね、とか。毎日作って、とか」
モナの戯言を無視して、俺は玉子に意識を向ける。
……ぱっと見た感じでは殻とか無さそうだが……大丈夫かなぁ。
「……純、玉子好きなの?」
玉子に注目していたからか、優紀が意外そうな声を出した。
「嫌いではない」
「へー……じゃあ、私のも、食べる?」
「優紀の? あれ、今日は弁当なのか」
今気付いたが、今日は優紀も弁当だった。珍しい。
「ユウキちゃん! 私もユウキちゃんの玉子焼き食べたい!」
「……うん、いいよ」
「ありがと! 私のと交換しよっ、あーん」
「え、うん……じゃあ」
モナが箸で刺した玉子を優紀の口に近付け、優紀は箸で挟んだ玉子をモナの口に近付ける。
そして玉子は同時に互いの口へ入った。
「いやぁ、眼福だね」
翔太が何か言っていたような気がするが、きっと幻聴だ。
「うぅん! ちょっぴり甘くて美味しいっ」
モナの反応は予想通り、問題は優紀だ。
「……うん。モナさん、料理も出来るんだ」
その反応は……大丈夫、なのか?
俺は震える箸で玉子を挟み、目の前に掲げる。
そして何度か深呼吸した後、目を閉じて勢いよく口に入れた。
まず舌触りは普通に玉子だ。玉子の舌触りって何だろう。とにかく普通だ。
……これを噛めば、味が口内に広がる。
視線を感じて目を開けると、モナのキラキラ輝く瞳が視界に入った。
その視線から逃れた先で、優紀と目が合う。なぜか逸らされた。
……落ち着け、大丈夫だ。
自分に言い聞かせた後、断腸の思いで咀嚼する……あ、普通の玉子だ。
「どう? どう?」
「……思ったよりは美味しい」
「やったぁ! ほらジュン、他のも食べて食べて」
他って料理要素皆無の物しかないだろ。
まぁ、これで安心して食べられるか。
「そうだ、優紀の……あれ?」
「……ごめん。もう食べちゃった」
何時の間にか弁当箱が片付けられていた。
中身とか見てないけど、小食なのかな。
「そうか。ところで、優紀は今日バイト?」
「……うん、なんで?」
「遊びに行くからサービスしてね!」
と、モナは優紀の腕に飛び付いた。
優紀は戸惑いながら、それを受け入れる。
……うむ、美しき友情だ。
「翔太も来るか?」
「え? ……あはは、遠慮しとくよ。部活があるからね」
「部活が終わって、一度家に帰ってから行く予定だが」
「行きたいけど、僕は家が遠いから……ごめん」
そうか……残念だ。
「なら、また機会があったら」
「ええと、うん。また誘ってね」
くっ、モナと優紀の関係は進展しているのに、俺と翔太は停滞したままだ……。
「ジュン聞いて! 優紀ちゃんがアイスをサービスしてくれるって!」
ぐぬぬ、俺が翔太に振られている間に……。
「優紀、そいつ暑苦しいだろ。振り払ってもいいんだぞ」
「なんで怒ってるの!?」
「……じゃあ、振り払っちゃおうかな」
「ユウキちゃん!?」
冗談、といって優紀が笑った。
今日も今日とて騒がしい昼休みが続く。
モナが来て、翔太と再会して……ふと、こんな日常がいつまでも続くような気がした。




