4.8 恋、かな
今日の三時間目は体育だ。
種目は俺の本業、長距離。
体育教師は俺達に運動場を十周という指示を出した後、日陰にあるベンチに座ってニヤニヤしている。その笑顔に文句を言いながら走る級友達を見て、ふと青春だなと思った。
そして俺の青春も、ここにある。
「あはは、流石に純は余裕だね」
「そういう翔太も、倍は行けそうだな」
翔太と一緒に走る幸福感。俺はきっと、この為に生まれてきた。
「うーん、じゃあこっそり十五周くらい走る?」
「それいいな。ペースはこのままで大丈夫か?」
「うん。このペースなら、遅れている人達が終わる前には、終われると思うよ」
俺が心配したのは翔太の体力だったのだが……ふふ、流石は俺のヒーローだ。
「それにしても、ジュンはすごいね。もう五週は走ったのに、心拍数とか、変わってなさそう」
「翔太こそ。中学の頃は体力が無いって嘆いていたのに……」
「あはは、頑張ったからね」
ああ眩しいっ、なにその笑顔っ。
「そういえば、モナちゃんとはどうなの?」
「どうって、何が?」
「実はもう恋人だったりしないの?」
「ないない。俺はゲイなんだよ」
「じゃあ、僕と付き合う?」
……え?
「いや、それは、その、え、いや、え?」
「あはは、冗談だよ」
「だ、だよな。おいバカ、冗談やめろよ。めっちゃ呼吸乱れたじゃねぇかよ」
「あははは、普通はこれだけ走ったらそうなるよ」
おいおいおい今日の翔太どうしちゃったんだよ。まさか昨日ホモゲーでもやったのか?
「ね、純はいつまでゲイなの?」
……なんだ、唐突に。いつまでって、いつまでもだろ。
「モナちゃんと橘さん。あんなに素敵な子が、周りにいるんだよ」
まだまだ余裕を感じさせる笑顔で、翔太は言う。
「純、僕が中学生の君に言ったこと、覚えてるかな?」
もちろん、全部覚えてる。
「どの話?」
「分かってるくせに」
少しだけペースを上げた翔太を追いかける。
その途中で俺達は数人の生徒を追い抜いた。
また集団から外れて、二人になったところで翔太は再び口を開く。
「ね、純。僕はワクワクしてるんだよ」
その言葉の意味は、やはり俺には分からなかった。
「君達ならきっと、証明してくれるよね」
ペースを落とした翔太に合わせて、振り返る。
今度は俺を追いかける形になった翔太の表情は、流石に疲れたのか少しだけ苦しそうだった。
「……証明って、何を?」
問いかけると、翔太はまた爽やかな笑顔を浮かべて、言った。
「恋、かな」
その笑顔はやはり、俺には眩しかった。




