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4.7 桜、もう散っちゃったね


 ……朝だ。やっべ、寝てた。今何時だ?


「おはよ」


 顔を上げると、見慣れた笑顔があった。


「……おはよう」

「ジュン、約束、覚えてるよね?」


 さて、何か夢を見ていたような気がするが……。


「約束……?」

「もぉぉぉぉ! デートしてくれるって言ったじゃん!」

「冗談だ。あとで優紀にも話そう」


 すっかり元気になったモナを見たら、どうでもよくなった。


「ねぇジュン」

「なんだ、お腹が空いたのか?」

「うん、だから、あのね……」

「分かった。少し待ってろ」

「私が作る!」


 立ち上がろうとして、俺はとんでもない幻聴に動きを止めた。


「……私に、作らせて」


 とんでもない悪寒に、俺は背筋を凍らせた。


「冗談だろ」

「本気だよ」


 これあれだよ。絶対不味いパターンだよ。


「なにを企んでいる」

「ジュンに手料理を食べさせたい」


 素直に言えばいいと思ったら大間違いだぞ。


「なにが目的だ」

「ジュンにお弁当を作ってあげたい」


 いったい何が起こったんだ。例えるなら、朝起きたら突然ペットの猫が弁当をくわえて現れたみたいな、それくらいの衝撃だ。だが猫が持ってくるのは弁当ではなく何かの死骸である。


「……ダメ?」


 ふと、布団から飛び出た黒い尻尾が近くの壁をトントン叩いている事に気付いた。

 これは、脅迫ですか? 風穴開けるわよってことですか?


「……料理、出来るのか?」

「頑張る」


 ……まぁ、一回くらいならいいか。

 というわけで、制服にエプロンという装備でキッチンに立つモナの後ろ姿を見ながら、俺は冷や冷やしていた。楽しそうに揺れるモナの尻尾が、怖くて仕方なかった。


「なぁ、なんでいつも尻尾だけ出してるんだ?」

「こっちの方が落ち着くからだよ。あれ、前にも言わなかった?」

「そうだったな。その時も気になったんだが、落ち着くって何?」

「うーん、出してないと押さえつけられる感じで落ち着かないというか……ほら、純だってパンツ脱いでる方が落ち着くでしょ?」

「いや落ち着かねぇよ」

「えぇ!? お兄ちゃんは落ち着くって言ってたよ!?」

「淫魔情報じゃねぇか。一緒にするな」

「ぶー。だっていい例えが思い付かなかったんだもん」


 しょんぼりと、尻尾が垂れた。

 ……よし、あの位置なら大丈夫だ。


「ところで、押さえつけられるってことは感覚とかあんの?」

「うん、あるよ」

「どんな感じ?」

「手足と同じだよ」


 同じなの?

 え、こいつ床を貫いた時は気付いて無かったよね?


「ジュン、今日はモナちゃん研究日なの? 私のことが気になっちゃう?」


 俺が気になるのはモナの尻尾軌道上にある家具なのだが……。


「えへへ、ジュンが私に興味津々だぁ」


 ……まぁ、そういうことにしてやるか。


「あああっ! 焦げてる!」


 ……胃薬、あったかな。


「手を貸そうか?」

「ダメっ! 私が作らなきゃ意味ないの!」


 なんだか良く分からんが、頑張ってるのは伝わってくる。

 頑張れよ、と声をかけるのは無粋だろうか?

 ……とりあえず、邪魔はしないようにしよう。


 モナは時間ギリギリまで料理を続け、なんとか弁当を完成させた。

 当然、その間キッチンを占拠されていたわけで、朝ごはんを作ることは出来なかったわけで……。


「ご、ごめんね。でもこれっ、自信作だから」

「コンビニに寄るから気にしなくていい」

「ダメっ! 他のもの食べちゃダメ!」


 いつものように尻尾をしまったモナと並んで登校する。一年の頃、静かで落ち着ける時間として存在した登下校は、こいつが来てから騒がしいものになった。


「……桜、もう散っちゃったね」


 学校の方を見ながら、少し寂しそうに言った。

 花見に行った頃には、まだ少し残っていたような気がするが……あれからもう一週間か。


「また来年だな」

「……うん、そうだね」


 そういえば、花見の帰りにもこんな表情をしていたような気がする。


「桜が好きなのか?」

「ん? なんで?」

「そんな顔してる」

「……えへへ」


 なぜか微笑んで、寄り添うようにして近付いて来たモナを避ける。


「あー酷い。避けないでよ」

「いつも変だけど、今日はより変だな。実はまだ体調悪いんじゃないか?」

「ぶー、いつもこんな感じですー」


 人一人分くらい離れた位置で、モナが唇を尖らせる。

 こいつが来てから、あっという間の二週間だった。低血圧というか、低燃費な俺からしたら一年分くらいの体力を使ったんじゃないかと思う。だけど不満かと聞かれれば、そんなことはないわけで……いつかの不安も、とっくに安心に変わっている。慣れって怖い。

 だからこそ、俺は、ちょっとした違和感を覚え始めていた。

 その正体は分からなくて、なぜか考える気にもなれない。


「あ、ジュンが何か考えてる顔してる」


 考える気にもなれないって考えを読まれた。なんか悔しい。


「もしかして……私のことっ?」

「ああ、そうだよ」

「……そ、そうなんだ。どんなことだろ、えへへ」


 たまには、やり返す。

 効果は抜群で、学校に着くまでモナは静かだった。


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