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4.6 あなた、バカじゃないの?

 気が付くと、不思議な空間に居た。

 あたり一面真っ白で、だけど雪景色というわけではなくて、まるで雲の中にいるような感覚だった。立っているというより浮いているようで、三百六十度、距離感が分からない。

 夢を見ているらしい。

 いつの間に眠ったのだろう。


「……こんばんは」


 大きな羽音が聞こえて、振り返った。

 そこには、女がいた。

 そいつには角と尻尾と翼があって、まるで露出狂のような服を着ている。


「今宵は、楽しみましょう」


 俺は知っている。

 こいつと似たような姿をした悪魔を知っている。

 だけど、なにもかもが俺の知っている悪魔とは異なっていた。

 目の前にいる悪魔は、モナと出会う前に抱いていた淫魔のイメージにピタリと当てはまる。


「あら、まだ状況が理解出来ていないようね」


 言いながら、女は俺の下半身に触れた。

 驚く程の嫌悪感に思わず一歩下がる。


「あらあら、もしかして初めてなの? あらやだ、こんなに素敵な男が新品だなんて」


 考えるより先に身構えていた。

 だけど女は俺を見て、ただ楽しそうな表情を浮かべる。


「大丈夫、怖くないわよ。直ぐに気持ちよくなるから」


 舌で唇を舐めながら近寄って来る淫魔に合わせて後退しようとした脚が、しかし動かない。


「ほら、私に任せて」


 やめろ、その声すら出すことが出来ない。


「ダメぇぇぇぇぇぇ――――――っ!」


 とても聞き覚えのある声に、唯一自由な目を動かした。

 俺に迫っていた淫魔も、何事かと振り返る。

 その視線の先には、すっかり見慣れた悪魔の姿があった。


「ジュンには、手を出さないで」

「……あらあら、こんなところにいたの」


 なんだ、知り合いなのか?


「なるほど、なるほどなるほど」


 俺とモナを交互に見ながら、女は何度も頷く。


「あなた、バカじゃないの?」


 冷え切った声を聞いて、俺はどうしてか大声で叫びたいくらいに腹が立った。


「恋だの愛だの、そんなものありはしない。ただの幻想よ」


 ふざけるなと叫びたくて仕方がなかった。

 そんな俺の気持ちを代弁するかのように、モナは力強く言う。


「……違う。恋は、あるよ」

「あらそう。興味無いわ。じゃ、この子は美味しく――」

「ダメっ!」


 瞬間、背筋が震えた。聞いたことの無いような声で叫んだモナは、その瞳を紅く染め、周囲に紫電を纏っている。まさしく、創作の中にいる悪魔の姿だった。


「……あらあら、流石はアルブの血筋ね。分かったわ、この子には手を出さない」


 あまりにもあっさりと、女は身を引いた。


「でも貴女、いいの? このままだと――」


 何か、捨て台詞を残したような気がする。


「うん、だって――」


 思わず見惚れてしまうような表情で、何かを言い返していた気がする。

 だけど目を覚ました時には、何も覚えていなかった。


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