4.5 ジュンとデートしたい
優紀が去った後、俺とモナは少しの間無言だった。
「ユウキちゃん、やっぱり優しいな」
「ああ、俺にはもったいくらいの友人だよ」
「そうかな? お似合い、だと思うよ」
モナは、やはり体調が悪そうだった。
その笑顔は、どこかぎこちない。
「水を飲んで寝ろ、無理するな」
コップに入れた天然水を差し出す。
体を起こしたモナは両手でコップを受け取り、ゆっくり飲んだ。
「……あれ、あんまり美味しくない」
「体調が悪いとそんなもんだ。早く寝ろ」
「うん、分かった」
モナからコップを受け取って、それをお盆に乗せる。そのまま部屋を出ようとしたら背中を引っ張られた。
「……眠るまで、傍にいて」
相変わらず子供のようなヤツだ。となると、俺は父親か。なるほどしっくり来る。
「まったく、早く寝ろよ」
「……えへへ、やっぱりジュン優しい」
安心したように目を閉じたモナの呼吸は、しかし苦しそうだった。
少し広い部屋、今はモナの呼吸音しか聞こえない。
少し前まで当たり前だった静寂に、どうしてかムズムズする。
「……何かしてほしいことがあったら言えよ」
これくらいのサービスなら、してやってもいいかもしれない。
「じゃあ、手を握って」
「却下。次」
「えぇ、じゃあデートしたい」
「論外。次」
「やだ、ジュンとデートしたい」
「何度も言ってるだろ、俺はゲイなんだよ」
「デートくらいいいじゃん」
「俺は軽い男じゃないので。誇りあるゲイなので」
「……軽くないよ」
一瞬だけ、時間が止まった。
モナの言葉に、今迄聞いたことの無い響きがあった。だから俺は口を閉じて、真剣に次の言葉を待った。だけど続く言葉はいつまで待っても聞けなかった。
「モナ? ……寝たのか」
あのタイミングで寝るのか。
なんというか、すごいな。
……仕方ない、布団くらいはかけてやるか。
「ゆっくり休めよ」
めくれた布団を直そうと伸ばした手が、急に掴まれる。
「……えへへ、作戦成功」
「まったく……なんというか、全然悪魔っぽさが無いよな」
「悪魔っぽさ?」
きょとんとした声で言うモナ。
今の彼女には、角も尻尾も翼も無い。
「風邪とか無縁だと思ってた」
「最初に言ったよ、人間とあまり変わらないって」
「……そうだったな」
二週間一緒に居て、それを痛感した。
服装とか、味覚とか、そういう些細な違いがあるだけで、普通の人間とほとんど変わらない。
モナが最初に言ったように、モナはモナなんだ。
俺がゲイである前に純という一人の人間であるように、こいつも一人の悪魔なんだ。悪魔の数え方って人でいいのか? まぁいい。
人間に角は無い。翼も尻尾も無い。だけど同じ人間でも、背の高いやつと低いやつ、声の高いやつと低いやつ、運動や勉強の得手不得手、様々な違いがある。それと同じで、多分、今の俺にとってモナは……いや、少しだけ、特別な存在かもしれない。
それは他人とは違う。
優紀のような友達とも違う。
翔太とも違う……また別の存在。
それって、なんだ?
「ジュン、どうしたの?」
無垢な瞳が俺を映す。
……ああそうか、子供か。
俺はゲイだ。だけど女が嫌いなわけじゃない。どちらかと言えばバイ寄りのゲイだ。そして一口に女といっても、例えば優紀の様な女もいる。そして、モナのような子供もいる。幼女を相手に好きとか嫌いとか、そういうことを考えるのは無意味だ。幼い子供は皆かわいい。ロリコンとかそういう話ではなくて、きっと人は本能的に子供が好きなのだ。
だから子供が駄々をこねたら、困ってしまう。
「……デート、そんなに行きたいのか?」
「うん、行きたい」
この笑顔が見られるのなら、まぁいいかと思ってしまう。
「じゃあ明日、元気になったら優紀のバイト先に行こう」
「……………………ほ、ほんと?」
「ああ、だからもう寝ろ」
「うん。頑張って治す」
「頑張るな、安静にしてろ」
「はーい」
嬉しそうな顔で目を閉じるモナを見ながら、手を握られたままだと気付く。
……まったく、仕方ない。




