1.2 彼女には、翼が生えていた
明日から新学期だ。春休みとは何だったのか。
ほんと短い。走り回った記憶しかない。
しっかし、マジで、あっという間に、二年生。
あぁ~、これで俺も先輩になるのかぁ。
どんな後輩が出来るのかなぁ。
いい男が入ってくるといいなぁ~。
「……泣けるっ! なんだよこのラストっ……卑怯だろ……」
ああ、やっぱり恋は良い。
特にこのゲームは素晴らしい。
全編を通してヒロインが主人公に直接「好き」と言ったのはラストシーンだけ。
だからこその破壊力っ!
そうだよ。
これが恋なんだよ。
好きです付き合ってくださいなんて言われたら、心の中で「いやっほぉぉぉお!」それが恋なんだよ!
だが、解せぬ。
身体から始まる恋愛は最悪とか言って俺の気を引いておきながら、結局きっかけは性欲とか……でも泣けるっ!
「……やっべ、何もやる気しねぇ」
神ゲーを終えた後のこの脱力感。
クセになっちゃう。
「やっぱホモゲーより美少女ゲームだな」
俺はゲイだが、ふえぇ女の子怖いよぉ! とか言いながら女の子を殴っちゃうくらい女性が嫌いなわけではない。
どちらかと言えばバイ寄りのゲイだ。
ゲイ寄りのバイじゃないところがポイントだ。
ちなみにバイというのはどっちもイケる野郎のこと。
いやホモゲーも悪くないんだけどね、なんかね、パターンがね。
その一、この気持ちは許されない。でも我慢できないっ!
その二、お前は俺の所有物だ。絶対に逃がさない。
その三、頭おかしい。
なぁんか、違うんだよなー。
俺は同性愛こそ真実の愛だと考えるけど、それは同性相手なら性欲とか関係ないと思うからなんだよ。
うっほいい筋肉、とか……思うけど。
それで興奮……するけど……やっべ。
げふんげふん。
とにかく違うんだよ。そういうのじゃないんだよ。
性欲とか関係なく、ほんと友達になるみたいな感覚で、その人のことを好きになる。
そういう感情が恋心だと思うんだ。
下心なんて一切ない。
同性愛って、そういう感じだろ?
あの人とエロイことしたいから好きになりました、とか、それはねぇよ。
だって性欲ってのは生まれる前から持ってる物だろ?
でも恋は違う。人は生まれた後に恋をする。
一緒にするんじゃねぇって話だよ。
ところで乙女ゲーも好きですが、数が少ないというか、当たりが少なくて……。
「……お腹空いた」
のそのそと、冷蔵庫に向かう。
親元を離れて学校の近くにあるアパートを借りて生活しているから、ご飯やら何やらは自分でやらなければならない。
「……マジかよ、何も入ってねぇ」
外に出ると、すっかり暗くなっていた。
よーし六時にゲーム始めたぞぉ!
ふぅ終わったぁ、あれぇまだ六時ぃ?
なんて良くあることだが、一人暮らしだと何かと辛いことがある。
まぁがっこうぐらしよりはマシだと思うけど。
あれに比べたら余裕だな、うん。
「……あぁ、買い物だりぃ。てかコンビニしか開いてなかったし」
部活で毎日なんキロも走っているのに、どうして十分程度の徒歩が辛いのか。
「……相変わらず星は見えねぇ……ん?」
ふと空を見上げて、違和感を覚えた。
なんか、ある?
なにあれ。なんか近付いてね?
近付いてるよな?
あーやっぱ近付いてる……は?
パサッ、と大きな羽音が聞こえた。
羽音、そう、翼が風を切った音だ。
そいつには――彼女には、翼が生えていた。
「こんばんは」
ついでに角と尻尾も生えていた。
「……こんばんは」
なにこれ夢? そう思いながら、とりあえず返事をした。
すると彼女は上品な笑みを浮かべて、こう言った。
「私はリリエラ・アルブ・モナ。悪魔です」