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3.11 俺のアイドル


 というわけでやってきましたサッカー観戦!

 去年はサッカー部が試合をすると運動場の全てを持っていかれてウゼェくらいにしか思っていなかったが、今日は違う!

 だって俺のヒーローが出るから!

 俺の、俺の翔太が出るから!

 いやっほぉぉぉっぉぉぉう!


「……ね、ねぇあそこのイケメン、なんかテンション高くない?」

「……試合に出るのかな? でも、ユニフォーム着てないよね?」


 え、ちょ、見ないでくださいよ。


「あれ? あ、純! 来てくれたんだ!」


 はっ!? このプリチーな声は!


「当然だろ。だって嬉しかったんだ。翔太が高校でもサッカー続けてるって知って」

「あはは。これくらいしか取り柄が無いからね」

「そんなことない。翔太なら、その気になれば何でも出来る」

「ありがと。それじゃ、アップの途中だから」


 軽く手を挙げて、翔太は運動上の中央に駆けて行った。

 ああ、この送り出す感じ。あれ、俺達もう付き合ってたっけ?


「……ね、ねぇさっきのイケメン、なんか嬉しそうじゃない?」

「……マネージャーか何かかな?」


 マネージャーは君達じゃないんですかねぇ……てかコッチ見んな!

 さておき、切り替えて翔太を見る。

 アップなんてサッカーを知らない俺からしたらボールを蹴りながら走り回っているようにしか見えないが、ちゃんと意味があるのだろう。

 贔屓目なしに、翔太は目立つ。

 他の多くの選手より一回り小さな美少年が、爽やかな笑顔で動き回っているのだから、これで注目されないという方がおかしい。


「……やっぱりマネージャーだよ。すごい真剣に見てるもん」


 だからテメェら俺じゃなくて翔太を見ろよ!

 かっこいいだろ翔太! 最高だろ翔太!

 翔太は本当にすごいんだよ。

 あいつ、身体はもちろん運動能力に恵まれたってわけでも無いのに、必死に考えて、努力して、中学時代は県を代表するような選手だった。きっと高校でも活躍していたに違いないっ!

 ……ただ、転校したばっかだし、試合出るかなぁ……。

 あ、あぁ!

 ちょ、なんだあいつ五番の男!

 なに翔太と仲良さそうに――



 果たして、翔太はスタメンにいなかった。

 まぁ、そりゃそうだよね。

 俺は特に興味の無いサッカーの試合に溜息を吐きながら、コートの外でリフティングしながら試合を見ている翔太を見ていた。


 ……え、すごくね?

 リフティングってボール見なくても出来るもんなの?


 わっ、また歓声……あーあ、これで三点目か。これはもう負けだな。

 ……あれ? 翔太が監督っぽい人に呼ばれて――


「高橋、交代!」


 キタァ――――――――――――ッ!!


「翔太ァ――――――ッ!!」


 大声で名前を呼ぶと、翔太はニコっとはにかんで俺に手を振った。


 やっべ、これやっべ、アイドルおっかけるファンの気持ちが超分かるっ!

 でも残り時間は二十分くらいだよな?

 なんだよあの監督、敗戦処理かよふざけんなよ。


 俺はハンカチを噛みながら、コートに目を戻した。

 審判のホイッスルで試合が再開する。

 翔太のポジションは真ん中あたり。

 開始早々、中央の丸いとこに居た人が翔太にパスを出した。


 ……なんかこれ見たな。

 確か交代する前の……たかはし?

 あいつは敵コートの端を狙ってドーンって蹴ってたっけ?

 そういう作戦なのかな?


 果たして翔太はボールに向かって走り、力強く軸足を踏み込んだ。

 このとき、俺には翔太の目が光ったように見えた。

 そして、翔太の蹴ったボールは低い弾道でコート右端へ突き進む。


「宮城、ダッシュ!」


 普段の翔太からは考えられないような鋭い声が運動場を突き抜ける。おそらく翔太が名前を呼んだ選手は、しかし呆れたような表情をしていた。それもそのはず、ボールは明らかにコートの外に出る勢いだ。みやぎ? はもちろん、相手の選手も真面目に走っていなかった。


 だが次の瞬間、おそらくこの場に居た全員が驚愕した。

 鋭く低い弾道を描いていたボールは、地面に接すると同時に急停止した。


「なにあれなにあれ」


 と、素人の俺もテンション上がりまくり。

 みやぎと相手選手は慌てて加速する。

 陸上部的にはありえないフォームだなと思いながら見守っていると、果たして先にボールに触れたのはみやぎだった。


「中、早く!」


 いつのまにかゴール前に居た翔太が、また鋭い支持を出す。

 翔太の近くに居たディフェンスと相手のゴールキーパーは警戒心たっぷりに腰を落とした。此方からは背中しか見えないが、それでも翔太を警戒しているのが伝わってくる。


 味方のみやぎも困惑した様子で、ほとんどヤケクソなパスを出した。

 その勢いはパスというよりシュートで、しかも翔太が居た位置とは大分ズレた場所に向かっている。

 だが、俺は見逃さなかった。

 みやぎが軸足を地面に付けた瞬間、翔太は動き出していた。


 まさに一瞬。


 翔太が未来を予知したかのようにボールに飛び込んだと思ったら、ボールはゴールネットに突き刺さっていた。

 まったく反応出来なかったキーパーは、呆然と振り返る。


「あはは、ナイスパス!」


 翔太は楽しそうな笑顔で、みやぎとハイタッチをする。


「おまえスゲェな!」


 みやぎは此処まで聞こえてくるような声で、翔太を称賛した。


「たまたま踵に当たっただけだよ」


 それから、翔太が入ったチームは全く別のチームになった。

 たった二十分で、いとも容易く逆転した。


 臨機応変に動く翔太。

 的確な指示を出す翔太。

 爽やかな笑顔を浮かべる翔太。


 ……やばい、翔太かっこいいやばい! やばいよぉ!


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