3.7 夢中になれることを探してるんだよ
「橘さん、おはよう」
「……おはようございます」
優紀が教室に入ると、彼女の前の席に座る翔太が挨拶した。
「あれ、何か良いことあったのかな?」
翔太の横を通る際に言われて、優紀は口元を引き締める。
「……何も、ありませんけど」
「あはは、手厳しい」
困ったように笑う翔太に目も向けず、優紀は机に鞄を置いて、席に座る。
「この前はごめんね」
「……この前?」
「あの変な告白のこと。純の反応が見たかったんだけど、迷惑だったよね」
純の反応? と優紀は内心首を傾ける。
「二人、仲良さそうだったから、もしかしてって思ったんだ」
その言葉の意図は、少し遅れて優紀に伝わった。
「純とは、友達なのでっ」
「あはは、そっか。ごめんね」
まったく悪いと思っていなそうな様子で翔太が笑う。
それを見て少しムッとしながら、優紀はふと浮かんだ疑問を口にした。
「……そういえば、純と同じ中学、なんですか?」
「タメ口でいいよ。僕もそうだから」
「……えっと、同じ中学だったの?」
「うん、そうだよ」
どうして? と翔太。
「……純がどうしてゲイなのか、心当たりがあるって言ってたから」
なるほど、と翔太は嬉しそうに頷く。
「純は、夢中になれることを探してるんだよ」
「……どういうこと?」
「ほら、純って何でも出来るでしょ?」
「……うん、すごいよね」
「そういうこと」
「……え、どういうこと?」
「あはは、あんまり言うと純に怒られちゃうからね」
そういえば、と言って翔太は話題を切り替える。
「高校での純って、どんな感じ?」
「……どんな」
少し考えて。
「……めんどくさい」
「あははは、よく分かるよ」
「……けど、気を使わなくていいから、楽」
「うん、それも分かる」
『わぁぁぁぁ!? ジュンっ! それラブレター!?』
どこからか聞こえてきた声に二人は会話を止め、同時に笑う。
「……あと、モテるよね」
「うん、かっこいいからね」
「……翔太君も、ゲイなの?」
「いやいや、僕はノーマルだよ」
と話を続けていたら、やがて騒がしい二人が教室に現れた。
「ユウキちゃん! 聞いてよジュンがっ、ジュンが!」
モナの後ろで、純はめんどくさそうに溜息を吐く。
そのまま自分の席へ歩いて来た純に向かって、翔太は声をかけた。
「おはよう、朝から賑やかだね」
「あいつが騒いでるだけだ」
「聞こえてるよ! だって大事件だよ!」
「うるさい、静かにしろ」
「しない! ジュンは、それ、えっと……どうするの!?」
純は手に持った手紙を机に入れて、翔太に目を向ける。
「翔太、次の土曜か日曜あいてる?」
「うん、あいてるよ」
「そうか……じゃ、暇だったらさ、花見とか……どう?」
「うん、僕で良かったら」
「もぉぉぉぉ! なんで無視するの!?」
眉をしかめて、純はモナに目を向ける。
「うるさい」
「それどうするのか答えたら静かにする」
「どうもしない」
「なんで?」
「興味ない。今年は無視するって決めた」
「今年ってどういうこと!? 去年はどうだったの!?」
「静かにするんじゃなかったのかよ……」
溜息を吐く純を見て、翔太は楽しそうに笑った。
それとは少し違う表情をして、優紀は授業開始ギリギリまで騒ぐ二人を見ていた。




