3.5 まだ気を許したわけじゃない
「おはよ」
朝だ。
明るい。
誰か居る。
誰?
……ああ、あいつか。
「……おはよう」
「えへへ、ジュン眠そうだね」
モナ。
一昨日、じゃなく三日前に空から降って来た悪魔。
最初は夢だと思って思考停止していた。
今は……どうだろ。
二度寝したいって思える程度には余裕があるけど……。
「……ふふ、寝顔かわいい」
「おはよう。今日も良い天気だね」
「うわっ、なにそれ。爽やか」
ダメだ、寝てなんていられない。
こいつを淫魔として差別するのは止める。
でも、まだ気を許したわけじゃない。
「目を覚ます為にやっただけだ。どいてくれ、顔洗ってくる」
「はーい。リビングで待ってるからね」
モナを見送って、ベッドを降りる。
ふと気になって、時計に目を向けた。
「……まだ五時じゃねぇか」
溜息ひとつ、洗面台へ。
顔を洗って、うがいをする。
それから歯を磨いて、やっと目が覚めた。
……今日は、水曜日だっけ?
火、木、土曜の週三回、洗濯機を回す。
昨日は火曜日だから、寝る前に回したはず。
「あれ、ふた開いてる」
やべ、モナのこと考えてたせいで忘れちゃったのか。
「……服が、無い」
おかしい。
風呂に入った記憶はある……泥棒か?
「こほんっ」
モナだ。
とぼけた顔でそっぽを見て、尻尾を振っている。
……ああ、家事を手伝うとか言ってたっけ。
「……」
すげぇ褒めて欲しそうな目で見てる。
どうしよ、なんか腹立つ。
「いいから壊したドア直せよ」
「ほめてよ!」
声でかい。
でも不思議とキーンと来ない。
こいつ、歌とか上手そうだな。
「服どこ?」
「ベランダに干してあるよっ」
「そうか……」
意外に有能だ。
絶対に褒めないけど。
「朝飯、軽め? 重め?」
「いっぱい食べる!」
朝からテンション高いなこいつ。
これで昨日は「嫌われてないかな……」とか言ってたんだから笑える。
四十分後、リビング。
白米に味噌汁、目玉焼き。
実に日本人らしい朝食を終えると、完全にやることが無くなった。
なんとなくテレビをつけて、ニュースを見る。
……へー、あの芸能人結婚したんだ。何ヶ月もつかな。
と思っていると、皿洗いを終えたモナが戻って来た。
「終わったよー」
「うん、ありがと」
今日の天気は晴れで、降水確率0%か……。
「えへへ、ありがとうって言われちゃった」
と、嬉しそうに座るモナ。
肩を寄せて俯き、尻尾を振っている。
本当に嬉しそう。
……なにこいつチョロい。
「そうだ! ジュン、私に聞きたいことない?」
「なんだ、とつぜん」
「私のこと、もっと知ってほしい」
と、相変わらず嬉しそうなモナ。
知ってほしいって――何か思えるほど、俺はモナのことを知らない――ああ、昨日の。
「じゃ、なんで尻尾だけ出してんの?」
「こっちの方が落ち着くから」
「角と翼は?」
「邪魔だし、出してると疲れるんだよ……」
なるほど、さっぱり分からん。
「その制服どうしたの?」
「作ったよ」
「いつ」
「ジュンが学校に行った後」
「待て、一時間も無かっただろ」
「……女の子の秘密だよっ」
ねぇよ。
「じゃ学校は? どうやって入学したんだ?」
「……女の子の秘密だよっ」
ふざけんなよ。
「あれか、悪魔的な力で教師を洗脳したのか」
「……してない」
「そうか」
「……」
すげぇ分かりやすい顔。
やっぱ洗脳とか出来るのか……。
「もぉぉぉぉ! もっと普通の質問して!」
逆ギレしやがった。
「他に聞きたいこと……特に無い」
「もういい! 私が質問する!」
「そうか。どうぞ」
「えっとね……ジュンは、どんな女の子が好き?」
「男の子が好き」
「そうだった。じゃ、どんな男の子が好き?」
「そういう下品な質問しない人が好き」
「下品じゃないよ!」
「いや下品だろ。下心見え見えじゃん」
「ジュンだって好きな人の好きな人って気になるでしょ?」
言った直後、ハっとした顔をして、
「べつに私がジュンのこと好きってわけじゃないからねっ! まだまだ友達くらいにしか思ってないからね! 勘違いしないでね!」
しねぇよ。あとうるさい。
「で、えっと、気になるでしょ?」
「いや、全然」
「なんで?」
少し考えて、
「相手の好みに合わせて演技して、それで両想いになれたとして、その相手が好きになったのは俺じゃないだろ。そんな無意味な事したくないし、するような奴を好きになれるとは思わない」
それなりに真剣に答えると、モナはポカンと口を開いたまま固まった。
地味に面白い表情だ。笑える。
失礼な事を考えながら見ていると、やがてモナの方が頬を緩めた。
「何かおかしかったか?」
「ううん、そうじゃなくて。嬉しかったの」
「何が?」
「私、ジュンに会えてよかった」
なに言ってんだこいつ。
「えっとね、じゃあ次の質問だよ!」
まだ続くのか……。
こんな具合に――ギリギリの時間まで会話が続いた。
基本的に質問に答えるだけだったが、あえて感想を言うなら……。
楽しそうに話す奴だなと思った。




